第3巻 VSスクールカースト~ブラックな同級生に無双する~1
4月中旬、僕はまだド底辺だった。
体育の時間、男子はグラウンドでサッカーの試合をやっていた。
女子は体育館でバスケのはずが、抜け出してグラウンドの周りに立つ者が多数。
特にギャルぽい子が体操服姿で声援を送っている。
お目当ては、無駄金 翔。
サッカー部期待の新人にして、イケメン。
しかも、翔の父親は会社の社長をしているという、カス高では珍しい上級国民。
実際、翔は高級感のあるスパイクシューズを履いている。
翔は茶髪を右手で掻き分けた。
「きゃああああー」
黄色い声がうるさい。
女子が翔の一挙手一投足にしびれている。
グラウンド中央から、ゴール前にいる翔にバスが飛ぶ。
ボールを足で止めた翔。華麗なドリブルで、襲ってきたディフェンダー2人をかわす。
「あっまた抜いたっ」
「かっこよすぎ」
女子の盛り上がりもヒートアップしていく。
翔はゴール前にノーマークで躍り出る。
キーパーは僕だった。
僕が他のポジションだと逃げるからという理由で、キーパーにされていた。
点を取られても、翔を止められなかったディフェンダーのせいだよね。
僕をイジメるのは勘弁してほしいけど、やっぱりイジメられるのかな。
ここで、もし僕が翔のシュートを止めたどうなるのかな。
フフ……女子からは大ブーイングだけど、味方からはヒーロー扱いで、僕のことを見直してくれたりして。
そんなことを思いながら、大の字で立ち塞がった。
来るなら来いっ
翔がシュートしようと右足を引く。
右か――
左か――
どっちに来ても全力で跳んでやる――
翔が蹴った。
ボールが来る――
――真正面に――
え
速すぎて動けなかった。
顔面を直撃
鼻が折れたような激痛――
ぐはあああぁぁっ
血の味が口の中に広がる。
僕は真後ろにゆっくり倒れていった。
ボールは僕を弾き飛ばして、ネットに達した。
「ゴオオオオオール」
翔の雄たけびが響く中、僕は地面に転がった。
「やったー翔がシュートを決めたわよ」
「さすがねっ」
女子の声は全て翔を讃えるもので、僕を心配するものは皆無だ。
「だっせーな、虎児郎。真正面くらい止めろよな」
「顔面ブロックもできねーのかよ」
僕にかけられるのは同じチームの男子の嘲笑ばかりだ。
「へへっ虎児郎の顔面を狙ってやったんだよね」
翔の話し声も聞こえてきた。
「マジ神シュートじゃん」
ダチが命中させたことに驚いている。
僕が左右に跳ぶと予想して、真正面に蹴ったわけじゃなくて、翔は元より僕にぶつけるつもりだったのか。
「虎児郎の顔見てるだけで、なんかムカついてくるからな」
「わかるわかる。社会のお荷物だからな」
「虎児郎ボコんの、マジ気持ちいーぜ」
翔は女子にモテモテであるだけに飽き足らないなんて。
自らが勝ち組であると知りながら、なおかつ負け組の僕を虐げて優越感に浸る。
どんだけ強欲なんだよ。
「おら、いつまで寝てんだよ。再開するぞ、早く起きろ」
同じチームの奴が怒鳴ってくる。
僕が倒れてもまだキーパーをさせられる。
嫌がることをさせ続けるのはイジメだよ。
よろよろと起き上がる。鼻血が垂れてきたので袖で拭った。
同じチームのボールで試合再開。
しばらくは敵陣で戦いが繰り広げられる。
僕は眩暈がした。脳震盪だ、きっと。
保健室行くべきだろ。
でも行かしてくんないよな。行ったら、後でイジメられる。
こうなったら、残りの時間は身を守ることに専念しよう。
また翔は僕の顔面を狙ってくる。腕を盾にして顔面を守ろう。
左右にボールを蹴られても無視。キーパーの役目は放棄する。
僕を仲間と思ってない奴らのために頑張ることはない。
作戦を考えているうち、再びボールが近づいてくる。
翔にパスが渡る。
またしても流麗なドリブルでゴール前に迫る。
僕は両腕を顔の前で構えて、隙間から翔を窺う。
翔はやはり左右に見向きもせず、僕を狙っている。
右足を引いて、シュート!
来る――
真っ直ぐ僕に向かって来るボールは、顔面ではなく、腹に突き刺さる。
ぐふっ――
僕は、くの字に曲がった。
ボールはゴール前を転々とする。そこに翔が駆け込んできた。
再びシュート!
腹を抱えている僕の顔面めがけて、至近距離で蹴られたボール――
ノーガードの顔面にぶち当たって僕を吹っ飛ばした。
激痛と宙を浮いている感覚――
翔は僕が顔面をブロックしてるから、腹にぶつけて守りを解除させてから顔面にぶつけやがった……
「ゴオオオオオオオオオォォル」
翔が絶叫する中、僕は地面に落下して、後頭部を打ち付けた。
その後は意識を失って覚えていない。
後で聞いたのだが、ぶっ倒れている僕を誰も介抱しなかった。
ゴールの中で転がっているままにされたわけだ。
時折、翔がシュートを決めて、ボールが僕に当たっても、みんな笑っていただけだったという。
ひどすぎだろ。お前らの血は何色だよ?
「こじろー」
ん……
「しっかりして、こじろー」
女の優しい声が聞こえてくる気がした。
僕……死んだのか。天国に来たのか……
何だがふわふわする。
やわらかいものが僕の体を支えているような……
うっすらと目を開ける。
「よかった、虎児郎。気が付いたんだね」
すぐ近くに顔がある。
「美沙」
「虎児郎が死ぬかと思ったよぅ」
美沙が僕の上半身を抱き起こしていた。美沙は体操服姿。
隣のクラスの美沙とは体育が合同だ。体育館から抜け出して来てくれたのか。
「うううぅよかったよう」
涙声で僕の頭を抱きしめる。
むぎゅううううう
美沙の巨乳にプレスされて息ができない。
だが、これはいい。このまま死んでしまおう――
最低な人生からついにおさらばできると思った瞬間、美沙は僕を離した。
「無念……」
僕のつぶやきに美沙は首を傾げている。
「大丈夫? どっか痛い?」
「頭がグラクラする……」
本当に眩暈がした。
「大変。保健室に連れてくよ」
美沙が僕と肩組して立ち上がらせようとしてくれる。
僕は自分でも立とうとする。
足がもつれたけど、地面を踏みしめることができた。
起き上がってみれば、まだゴールの中にいた。
サッカーの試合はハーフタイムなのか中断されていた。
男子はパスやリフティングに興じている。僕の心配をしている者は皆無だ。
「体育館に戻ってきた女子が、虎児郎が倒れてるって笑ってるから、走ってきたんだ。みんなひどすぎるよ、虎児郎を助けないなんて」
美沙は本気で怒っている。
「……美沙だけだよ。僕にやさしくしてくれるのは」
「当たり前だよー」
美沙が言ってくれることに僕は潤んでしまう。
他の女子にとったら、僕なんてグラウンドに生えている雑草よりも価値がないんだ。
翔の引き立て役としてのみ存在を許されると言っていいだろう。
美沙はゆっくり一歩ずつ僕を支えて歩いてくれる。
「待てよ、虎児郎。後半が始まるぞ」
横からぶっきらぼうな男の声。顔を向けると翔だった。
「虎児郎は保健室に連れて行きます」
美沙がきっぱりと答えてくれる。
「ふん」
翔は鼻を鳴らした。
美沙は翔に構わずまた歩き始める。
僕だけだったら、翔に言われるがままキーパーを続けさせられている。
またボコボコにシュートを受けるはめになるはずだ。美沙のおかげで逃げられる。
「君が美沙ちゃんだろ。マジで校内一いい女だよな。なあ、虎児郎なんかほっとけよ」
翔がなれなれしく話しながら、立ち塞がる。
「俺さあ、君ならつきあってやってもいいぜ」
いきなりの上から目線の告白。
「……」
美沙は口を結ぶ。
「めっちゃうれしいよなぁ。みんな、俺の女にしてもらいたくてしょうがない子ばっかりだからさぁ」
翔は得意げに言いながら、髪を掻き分ける。
「どいてほしいです」
「はぁ?」
「どいて」
美沙に気圧されて、翔は顔をしかめながら左にスライドする。
「俺がせっかく告ってやってんだ。そのうち返事は聞かせてくれよ。もちろんOKだろうがな」
「お断りです」
美沙は即答した。
「なに……」
「あんたなんか最低。世界一大嫌いっ」
美沙は、翔がボールを僕にぶつけまくった恨みを叩きつけてくれていた。
ツン、と美沙は顔を翔から背けて、また歩き出す。
「ま、待て、俺が声を掛けてやったんだぞ。虎児郎なんかどうでもいいだろ、なあ」
翔が美沙の肩に手を伸ばして食い下がる。
口調からは、動揺がありありで、いつものも自信たっぷりなキレがない。
「触らないで。虎児郎はね、世界一かっこいいんだっ あんたなんか、どっかいけっ」
美沙は翔の手を振り払った。
さすがに翔はもう追いかけて来なかった。
振り返ると、茫然とつっ立っていた。
僕は美沙に引きずられながら涙を浮かべていた。
美沙以外の全ての女が僕を嫌いでも、美沙がいいと言ってくれるから僕は幸せだ。
たとえ世界が反転して、世界中の美女が僕のものになるとしても、僕は美沙一人を選ぶ。
それくらい僕は美沙に感謝した。
総合評価1300Pを超えました。
2巻完結と温泉旅行編をご評価いただき、ありがとうございました。
非リア充作者は中学・高校のスクールカーストで底辺でした。
虎児郎のようにボールをぶつけられたこともあります。あの頃を思い出しながら冒頭を書きました。
不快な気分にさせたら申し訳ございません。カースト上位への恨みは何百倍にもして返してやります。
とはいえスクールカーストは「ククク…奴は四天王の中でも最弱」です。
コメディーな感じでボコってやりますので、お気軽にお読みいただければと存じます。




