9 お酌
部屋に戻ってくつろいでいると、6時ちょっと前に中居さんがやってきた。
「お食事のご用意ができました。大広間にどうぞお越しください」
みんなでぞろぞろと大広間に行く。
広い座敷の真ん中にお膳が並べられている。
なぜか誕生日席があって、左右に2人ずつ。コの字型の配置だ。
「真ん中は虎児郎君ね」
穂香ちゃんに背中を押されて座らされる。
右手側は上杉さんと穂香ちゃん、左手側は志乃ちゃんと美沙が座る。
美女に取り囲まれて王様になった気分。
「すごいご馳走」
美沙が感動している。
特産のブリやホタルイカのお刺身の他に、伊勢海老のお造りやアワビのステーキ。
地元の和牛のステーキ、山菜の煮物などなど、どれも美味しそう。
「いっただきまーす」
僕は真っ先に箸を手に取って食べ始める。
サラリーマンの社員旅行じゃないから、挨拶とか乾杯とか堅苦しいことはなし。
「んん、うまいうまい」
夢中で食べる。
「はあーさすがに海の幸、山の幸がいっぱいだねー」
上杉さんも感心している。
「こんなご馳走、生まれて初めてだよ」
「私もだよぅ」
美沙も穂香ちゃんも涙目になっている。2人とも貧乏だったもんね。
夢中でお刺身を食べていると、
「虎児郎さん、お酌をさせてください」
志乃ちゃんが目の前に現れた。
正座して、ウーロン茶の瓶を手にしている。
「ど、どうも」
さすがは体育会系。作法が徹底しているな。
堅苦しいのは嫌いだが、無碍に断るのも感じ悪い。
素直にコップを差し出した。
志乃ちゃんは前屈みになって、ウーロン茶を注ぐ。
ぴろっと浴衣の胸元が開いた。
え――
志乃ちゃんの両方のおっぱいが目の前で見えてしまった。
トクトクトクトク
ゆっくりと志乃ちゃんが注いでいる間、僕の視線は釘付けだった。
ドキッドキッドキッドキッ
注ぎ終わった志乃ちゃんは、
「失礼しました」
と言いながら、小悪魔っぽい笑みを浮かべた。
志乃ちゃんは意識的に僕におっぱいを見せるつもりでお酌をしに来た!?
しっかり見ちゃったよ、目の前にあるんだもん。
見たことに気づかれているから、恥ずかしさでいっぱいになる。
志乃ちゃんは上杉さんと穂香ちゃんにも注いで回る。2人に対しては片手で胸元を押さえていた。僕に対してだけ見えるようにしていたわけだ。
志乃ちゃんはあらゆる機会を捉えて、僕に魅力を伝えようとしてくる。どんどん心を奪われていきそう。
お腹いっぱいになった後、みんなもう一度温泉に行く。
今度こそは女湯に間違えて入らないようにする。
美沙たちと暖簾の前で、お互いに指差し確認。
「虎児郎さん、一緒に入りましょうよ。私、泡泡にした体で洗いますから」
志乃ちゃんが耳元で色っぽく囁く。
「不純異性交遊は禁止ですっ」
穂香ちゃんが顔を真っ赤にして、割り込んでくる。
「私だけ男湯に行きましょうか。虎児郎さんしかいないんだから問題ないですよね」
しつこく志乃ちゃんが誘惑してくる。
「ダメです」
穂香ちゃんが志乃ちゃんの手を引いて、女湯に入っていく。
「ふう」
僕はさっきとは反対側の露天風呂につかる。
向きは逆だけど、形は同じだ。
まさか志乃ちゃんがこっそりと女湯を抜け出して入ってくることもあるまい。
ようやくホッとできる。
それにしても、志乃ちゃんがお酌をした時におっぱいが見えたのはびっくりしたな。
高校生男子には刺激が強すぎる代物だ。
志乃ちゃんて、大胆だよな。
経験豊富なのかな。
そう思って、すぐに違うなと思い直した。
女子バレー部は、鬼畜顧問の厳しい統制下に置かれていた。美沙の話では、男女交際は絶対禁止。
全員が顧問の性奴隷になりうるように育成されていた。
志乃ちゃんは餌食にされる寸前で解放された。だから志乃ちゃんは清らかな子。
僕を誘惑しまくってくるのは、ネットとかで調べた知識を使っているんだろう。
志乃ちゃんは体育会系だからな。きっとどんな命令にも絶対服従。言いなりでご奉仕してくれそうだ。ふふふ
いかん、いかん、そんな妄想をしていては。
僕は自分の頭を軽く叩く。
志乃ちゃんを性奴隷にするなんて、討伐した鬼畜顧問とやってることが変わらないじゃないか。
美沙や穂香ちゃんに嫌われないよう、さわやかにしていないといかん。
自分に固く言い聞かせる。
露天風呂はほどほどにして、シャワーで卓球でかいた汗を流す。
新しい浴衣に着替えてさっぱりした。
部屋に戻るとお布団が2枚と3枚、台形に隙間なく並べて敷かれていた。
女子は全員、まだ温泉のようだ。
堪能してくれるのは良いこと。
スマホゲームでもして、暇潰ししておく。
しかし、布団がくっついて敷かれているのは生々しい。僕だけが男だということを思い出させられる。
僕は誰にも手出しするつもりはないが、志乃ちゃんが夜中に布団に潜り込んで来たりしないだろうか。
誤解を招かないためにも、もう一部屋用意してもらって、そこで鍵閉めて寝た方がいいんじゃないかな。
「あーいい湯だったー」
上杉さんを先頭に女子が帰ってきた。
「お布団だ」
美沙がふかふかの布団に倒れ込む。
「あのさ、僕の分も敷いてあるんだけど、僕は別の部屋で寝るよ」
僕は当然だよねーといった感じで話す。
「え――――」
一斉に悲鳴が上がる。
「虎児郎さんと一緒に寝たいです」
志乃ちゃんの「寝たい」はエッチしたいと言っているように聞こえる。
「そうだよ、虎児郎と一緒がいい。美沙のお布団で寝ようよ」
「そ、それはダメだけど、同じ部屋で問題はないわよ。うん、このままにしなさい」
上杉さんまで顔を赤くしながら、僕に命令してくる。
「教師の私がついているから大丈夫よ」
穂香ちゃんが、わけのわからない理屈を口にする。女の教師が男子と寝るのはアウトでしょ。
猛反対されて、僕は出て行くことが許されないと悟った。
「虎児郎さんのお布団は真ん中ですね。みんなに平等ってことで」
志乃ちゃんが3枚並んでいる布団の真ん中を指差す。
「うう、端っこが良かったのだが」
「転がっていくからね、虎児郎」
美沙の明るい声に、僕の要望は掻き消された。
志乃ちゃんの策略はまだ続きます。




