6 露天風呂
「ふう、すばらしいな」
虎児郎は露天風呂でくつろいでいた。
お湯につかって、のぼせてきては縁に腰掛けて涼んでいる。
広い温泉を独り占めできるのはいい。
日頃の忙しさを忘れさせてくれるぜ。この旅館、買って良かったな。
すっかり気に入った。時々、貸切にして穂香ちゃん達と来よう。
「ん?」
浴室の方で音がした。
ガラス戸の向こうに美沙、それに上杉さんがいる。ガラスが曇っててよく見えないが、裸だ。
「は、なんで!?」
女子が男湯に入ってくるんだよ――
もしかして僕が間違えて女湯に入った――!?
心臓がバクバクする。穂香ちゃんも志乃ちゃんもいる。向こうはまだこっちに気づいていない。
美沙はともかく、上杉さんに見つかったらヤバい。消される。
セクハラ痴漢罪で逮捕、死刑になりそうだし、全財産没収もされかねない。
逃れろ。垣根を乗り越えて逃げるんだ。
露天風呂から出ようとした時――
背後で戸の開く音がする。
「わー素敵な露天風呂」
穂香ちゃんの声。
とっさに温泉に潜って身を隠す。
そのまま泳いで奥の方に行く。
露天風呂は真ん中に島のように大きな岩が突き出ている。岩の周囲はドーナツ状になっているから反対側に潜むんだ。
泳ぎきって顔だけを水面に出す。
ぷはっ
酸素だ。
「わーいい湯だね。お肌がつるつるになりそう」
志乃ちゃんが喜んでいる。
「ふん、ちょうどいい温度ねー」
上杉さんも満足そうだが、一番怖い人がすぐそこにいるとわかって震える。
「上杉さんはお肌つるつる。さすがですね」
志乃ちゃんが褒めている。
でも上杉さんは容姿にコンプレックス抱えているから、うかつなことは言わない方がいいんだけど。
「女狐は何を言いたいのかな」
上杉さんはケンカを売られているように受け止めている。
女狐って……志乃ちゃんのことを悪役扱いかよ。
「若く見えるって本当にうらやましいです。あそこもつるつるですしね」
なんだと――
そうなんだ……
上杉さんて、つくづく体つきか小学3年生のスペックなんだ。
不純な想像を掻き立てられる。
「バ、バカにしないでよね、私は大人なんだから」
「バカになんかしてませんよう。美沙から上杉さんが超頭いい人って聞いてます。しかもこんなロリ体型だなんて反則です」
「虎児郎君はロリコンじゃないよー」
「あれ、なんで虎児郎さんが出てくるんですか」
志乃ちゃんが珍しく冷静さを欠いている上杉さんを追及。
「べ、別に、虎児郎君は人を外見で判断したりしないもん」
「はあ、美沙といい穂香ちゃんも上杉さんも反則ですよ。それに引き換え、私はフツーだから」
「そっか、志乃ちゃんもおっぱいがおっきいのがいいんだね。揉み揉みしたらおっきくなるかもね」
「ひゃあ止めて美沙」
「うりうり、さっきの仕返しだよぅ」
美沙が志乃ちゃんの胸を揉んでいるっぽい。
至近距離でものすごくエロいことをされている。聞いているだけで刺激的すぎる。
ヤバい 股間が自然と。
こんな状態が見つかったらさらに大変なことになる。
何とか逃げ出さないと。
「この奥はどうなってるのかなー」
上杉さんの声。
ひいいっ潜れっ――
お湯は乳色だから、僕が沈んでいるのは見えないはず。
しかし息を吐くと気泡が浮いてしまう。息を殺すんだ。
ああ、苦しい。酸素が欲しい。
水中で目を開けてもほとんど見えない。だけどぼんやり上杉さんらしい人が動いていくのが見える。
上杉さんは島の周りを一周して向こうへ行ってしまった。
ほう――
水面から顔だけ出して呼吸。
あと少しで死ぬところだった。
「こんな広いお風呂が貸切なんてすごいや」
「これが温泉なんだね、こんなに広くて、お外にあるんだねえ。お湯に色があるのも不思議」
穂香ちゃんと美沙が感心している。
じっくり堪能しそうな雰囲気だ。早く出て行って欲しいのに。
見つからないようにするのもしんどいのに、熱くてのぼせてくる。
「いいわね。日頃の疲れが取れる」
上杉さんがパシャパシャと肌にお湯をかけている。
「うーん、最高。美沙に頼んで混ぜてもらってよかったあ」
「へへ、志乃ちゃん、泳ごうよ」
美沙がパシャパシャと動き始めた。
「子供だなあ。温泉で泳ぐのはマナー違反なんだぞ」
志乃ちゃんが美沙をたしなめる。そうだ、止めろ。泳がれたら見つかる。
「でもまあいっか、私たちしかいないもんね」
志乃ちゃんまで泳ぎ始める。
ヤバ
僕は隅っこに移動。
できるだけ息を止めて、限界が来た時、口だけ水面に出して呼吸。
美沙と志乃ちゃんがそばを泳いでいく。
「はは、たのしー」
「まてまて美沙、そのけしからんおっぱいを揉み揉みしてやるぜー」
エロ親父のように志乃ちゃんが美沙に追いすがる。
「ひゃあああああ、くすぐったいよお」
「んん、これがええんやろう」
「やめてー」
美沙は、胸を鷲づかみにした志乃ちゃんの手を振り解いてバシャバシャと駆ける。
そして僕にぶつかった。
「えええっ」
そこに何かあると思わなかった美沙は転倒。
水飛沫を上げながら、しゃがんでいた僕に覆い被さってきた。
僕も裸だから、美沙の柔らかい感触がダイレクトに伝わってきくる。
だが味わっている場合じゃない。もうダメだ、バレた。
「けほっけほっ」
お湯に頭を突っ込んだ美沙はむせまくりながら、僕の体に手を置いて起き上がる。
「けほっな、何これ!?」
美沙は僕の肩の辺りを撫でる。
「え、人!?」
志乃ちゃんが寄ってきてギョッとしている。
見つかった……
僕は観念して、美沙たちに背を向けて、頭を水面に出す。
「ひえええええ」
びっくりした美沙の奇声が響く。
「不審者よっ 離れなさいっ」
上杉さんも怒鳴る。
「こ、虎児郎くーん、助けてー」
穂香ちゃんが男湯に向かって叫んでいる。
「あ、あの、虎児郎です」
みんなに背を向けたまま白状した。
人生終了……
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