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33 勝利。そして、はあれむ

 芝生地じゃ何も使える道具がない。


 毒島とは体格差がある上に、武器まで使われたら勝ち目はない。


 死ぬしかないと直感した。

 毒島が右手にナイフを持ってじりじりと間合いを詰めてくる。


「死ねやあ――」

 ナイフの刃先が(きら)めく。


 毒島の右手の動きにだけ意識を集中していた。


 両手で毒島の右手首をつかむ。

 刃先が胸に刺さる寸前で止めた。


 毒島が力任せに押し込んでくるのを押しとどめる。毒島は人を殺したらどうなるか後先(あとさき)考えていない。


「くああああコジロウぜってえ殺す」


 毒島の力が強すぎる。


 ナイフが胸に刺さる痛みに貫かれた。


 もうダメだ、死ぬ。


 毒島は僕の存在全てを否定するつもりだ。


 僕を殺した後、美沙を犯してから殺す。


 美沙――

 笑顔の美沙が思い浮かぶ。


 その時、僕の力が爆発した。


 毒島の右手を押し返して全力で捻る。


 毒島が左手で殴ってくるが痛みに耐えて、ひたすら毒島の右手を捩じり上げる。毒島の右手の筋が限界に達して、ナイフを落とす。


 毒島が左手で拾おうとするが、すかさずナイフを蹴り飛ばした。


 暗闇にナイフが転がっていく。


 ナイフが見えなくなることを願ったが、わずかな街頭の明かりで刃先が反射している。毒島は僕を振りほどくとナイフを追いかける。


「殺す殺す殺す殺す」

 毒島がうわ言を唱えながら、しゃがんでナイフを拾う。


 僕は追いかけながら両手をハンマーのように組み、毒島の頭に振り下ろした。


 後頭部を直撃して、毒島がよろめいたところに覆いかぶさり、無心で殴り続ける。

 殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る、殴る。


「もう止めて」

 美沙が声を掛けてきて、我に返った。


 毒島は動きを止めていた。

 殺しちゃったのかと思って、後ずさる。


 恐る恐る毒島の胸に手を当てると心臓は鼓動していた。

 息もしている。気絶しただけだとわかってホッとした。


 美沙の縄を外してやる。

 僕は力尽きて、地面に倒れ伏す。


 美沙が抱きついてきて、僕の頭を支えてくれる。

「ありがとうありがとう」


 ぺたんこ座りした美沙の大きな胸に、僕の顔が挟まれている。


 毒島との闘いの間、僕は獣になっていた。

 でも美沙には嫌われていないようだ。


「美沙みたいな可愛い子は、こんな暗いところで自主トレすんなよ」

 巨乳に挟まれて息が苦しいけど、話しかける。


 美沙はどれだけ僕に苦労をかけさせるんだと思う。

 けど、すぐにそれは違うと思い直した。


 毒島が恨んでいたのはこの僕で、美沙は巻き添えを食った形だ。


「だって、虎児郎との思い出の場所だもん」

「僕もだ」


 二人で遊んだこの公園以外では勝てなかった。 

 美沙も思い出も汚されずに守れて良かった。


 僕は美沙に支えられながら起き上がり、歩き出す。

 毒島らは転がっているが放置だ。


 胸の傷がいてえ――血がかなり出てるし、病院の夜間診療に行った方がいいな。

 美沙は恐怖が残っているみたいで震えている。


 しょうがない、病院の後は児童養護施設まで美沙を送ってから帰るか。

 

 美沙を一人にさせておくとまた毒島に襲われそうだから、タワマンで一緒に暮らしたい。

 いますぐ美沙と結婚したいな。


 幼い頃の「お嫁さんにしてね」は有効期限が過ぎているよな……

 

 結婚はしなくとも、絶対に美沙はタワマンに早急に引き取る。


 夜中に外で自主トレするのは危ない。タワマンにトレーニングマシンを揃えてやって、室内で運動させないといかん。


 どういう手続きで、僕が美沙の親代わりになって、そばに置いておけるようになるのかは全然見当もつかない。でも、僕のドラ〇もんである上杉さんに相談すれば、何とかしてくれるだろう。

 

 しかし……傷だらけになってしまったのを穂香ちゃんになんと言い訳しよう。

 一難去ってまた一難。


 散々苦労した割に、美沙は告白してくんない。

 成果は美沙を守り抜いたことだけ。徒労感が半端ない。

 

「あ、そうだ、虎児郎、はあれむって何なの!?」

 不意に美沙がすごく重大なことを思い出したように僕に尋ねる。


「は……」

「バレー部のみんなが、虎児郎のはあれむに入りたいって言っているんだ。何のことか虎児郎ならわかるよね」


「マジかよ……」

「ねえねえ何のことか教えてよ」


 美沙はハーレムを知らないのか。性の知識が未熟なのは結構なことだ。ググれカスとは言いにくい。


「美沙、女子バレー部員は何人いるんだ」

「私の他は30人だよ。みんな、虎児郎を大好きになってて、はあれむってのに入りたいんだって」


 女子バレー部は顧問だった性犯罪教師の蒲が顔審査をして、容姿に優れた子しか入部させないとささやかれていただけあって、全員レベルが高いんだよな。


 美沙とは違った魅力のある子達がそろっているのは、体育館を覗き見してチェック済みだ。


 僕は蒲を討伐し、女性の最高クラスの指導者に入れ替えてやった。

 専用体育館を建設する財力を見せつけているし、僕を大好きになるのは当然なのかもしれないな。


 女子バレー部員に僕はイジメられたことはないし、美沙が世話になっている人達だ。

 好感を持っててもらえるのはうれしいけど、しまったな。


 頑張りすぎた……


「ねえねえ、虎児郎、はあれむって何? 私も入れてよぉ」

「心配すんな。美沙は入れてやるから」


「やったー」

 無邪気に喜ぶ美沙。


 他の人はどうすればいいんだ……

 そんな何十人もの女性の人生に責任持たないといけないのは大変そうだ。


「ねえ虎児郎、仲良しの志乃ちゃんが、虎児郎を紹介しろってせがむんだよう。いいかな、志乃ちゃんに会ってもらって」

「……美沙はいいのか?」


「ん、何のこと? ねえ、志乃ちゃんに会ってくれる?」

「どうすっかね……会っちゃおうかな」

 ちょっと拗ね気味に答えておく。


「よかったぁ。志乃ちゃんが喜ぶよ」

 美沙は相変わらずアホの子だな……


 だが、それがたまらなく愛おしい。

 絶対に美沙は僕のそばに置いてやる。

次回で2巻完結です。


総合評価が900Pを超えました。

たくさんのブックマーク、ご評価ありがとうございます。

大変励まされましたおかげで、投稿を続けられました。

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