32 男の戦い
3メートルくらいの高さから毒島めがけて飛び降りる。
たじろぐ毒島の顔がどんどん接近する。
毒島の上半身に馬乗りになる形で落下。
毒島は真後ろに転倒して、後頭部を強打し、白目を剥いた。
「虎児郎っ おめームカつくんだよ」
別の男が背後に迫ってくる。
僕はすぐに立ち上がって走る。
砂場目指して全力疾走。
ぴたり背後に一人追いかけてくるのを感じる。
砂場に着くとしゃがんで、砂を右手でつかむ。
振り返って、男の顔めがけて砂をぶつけた。
目を潰された相手が立ちすくんでいるところに、僕は頭からタックル。
みぞおちに突撃してやった相手は砂場にひっくり返った。
動かなくなった男を見下ろす。
やった。
これで2人倒した。
もう1人が近づいてくる気配がする。
僕はゾウの形をした滑り台のお腹の空洞に隠れる。
外を覗くと男が1人、周囲を見回している。
男が近づいてくるのをじっと待った。
男がすぐそこに来た。
反対側の穴から音を立てないようにして出る。
男の背後に回ると、両手を組み合わせて振りかぶる。
ハンマーのように思いっきり振り下ろす。
あまり背が高くない男だったので脳天を直撃。
脳震盪を起こしたようで、男は膝をついてから倒れ伏した。
これで3人目。
勝てる。
地形を知り尽くしたこの公園で、各個撃破していけば勝てるかもしれない。
美沙の見張りに1人は残しているはずだから、僕を探し回っているのはあと1人だろう。
そいつを山型遊具の斜面で待つ。
予想通り、男が1人、時々立ち止まって周囲を見渡しながら近づいてくる。
山型遊具の麓に来たところで、僕は頂点に立つ。
男はまだこっちに気付いていない。
今がチャンス。
思い切って駆け下りる。
小学生の時、美沙と一緒にこの山型遊具から駆け下りる遊びをよくやった。
また美沙との思い出が蘇る。
―美沙と競争だよ―
―今度は負けないからな、あっ―
美沙に勝ちたくて勢いをつけ過ぎた。
途中でつまづいて、激しく転ぶこともあった。
―あはははは私の勝ち―
振り返った美沙は屈託のない笑顔をしていた。
男は僕の足音に気付いて振り向き、とっさにバックしてかわそうとする。
僕は足を踏み込んで方向を変える。
今日はこけないっ
足が上手く回って、勢いをそのままに男にタックル――
左肩が男のみぞおちに突き刺さり、仰向けにひっくり返した。
小柄な僕だけど、遊具から走り降りたスピードがあるからラグビー選手並みの威力だ。
男は後頭部を打ち、目を剥いて倒れたままになった。
起き上がって、美沙の方に走って戻る。
作戦とはいえ美沙から離れてしまったのが心配だ。
まさか美沙が犯されていたらと思うと急に不安になる。
芝生地では残った1人が美沙の傍でつっ立っている。
美沙は服を着ており、無事だとわかる。
男は僕が現れたことに驚愕した。
「信じられないだろうけどな、僕が毒島たち4人を倒した。警察に通報したから、もうすぐパトカーが来るぜ」
自信に満ちた顔で宣告する。
警察に通報は嘘だ。
もう一人倒すのが大変なので、逃げてほしい。
僕がさらに近づくと男は後ずさる。
そして逃げていく。
はったりが効いて僕は胸を撫でおろした。
芋虫のような美沙の横にしゃがみ込んで、猿ぐつわを外してやる。
その間、美沙がうーうー唸って何かを訴えている気がするが、僕が助けに来たのがうれしいんだろうと思った。
「後ろ、虎児郎」
口が自由になった美沙が叫ぶ。
振り返ると目の前に何かが飛んできた。
衝撃が横顔から伝わった。
尻餅をつき、仰向けに転ぶ。
「コジロウ、殺す」
目を開けると、毒島が悪鬼のように涎を垂らして睨みつけている。
「いてえ」
口の中に血の味が広がる。思い切り蹴られたのだ。
元々、毒島とは体格差があるから、戦える相手じゃない。
やばい。
体の震えが止まらない。
しかも走り回って体力は限界だし、あちこちが痛すぎる。
でも、このまま横になってたら、毒島に本当に蹴り殺される。
僕が殺されたら、美沙は犯される。
動け、動け。
自分に言い聞かせる。
今、動かなきゃダメなんだ――
歯を食いしばって起き上がる。
「虎児郎は逃げてよ――」
美沙が叫ぶが、僕は戦う構えをする。
「美沙こそ、逃げられないのか」
毒島の方を向いたまま問いかける。
「無理。虎児郎だけでも逃げて」
先に猿ぐつわを外すんじゃなくて、手足の縄を解いてやればよかった。
毒島がポケットから光るものを取り出した。
刃渡り15センチくらいのナイフだとわかり、戦慄する。
「逃げるなよ。逃げたら美沙を殺す」
イカれた目付きの毒島は、本気で美沙を殺す気がする。
最悪だ。
美沙を人質に取られて、走り回って公園の遊具を使って戦う作戦が取れなくなった。
あと2話で2巻完結です。
今後もお読みいただきますと幸いです。




