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23 いろいろ想定外だが

 夜19時ちょっと前。蒲のマンションの隣の隣の部屋。


 僕は真っ黒の服に着替えた。トランシーバーのヘッドセットを装着してから目出し帽を被る。

 指紋を残さないよう手袋。手袋には滑り止めがついている。


 穂香ちゃんに地上で見張りをしてもらって、僕が部屋に忍び込む。

 ベランダから見下ろすと、穂香ちゃんは歩道に立ってキョロキョロしている。


 僕がベランダを飛び移っているところをパトロール中のお巡りさんに見つからないようにしたい。


 サユリさんからもらったメモリースティックやガラスカッターなどの小道具をジャンバーのポケットに入れて、チャックを締める。


「これでよしと」

 気持ちを落ちつかせようとするけど、ドキドキは止まりそうにない。


「本当に大丈夫なの? 虎児郎君」

 穂香ちゃんがとても心配そうな声を伝えてくる。


「やるしかない。もし僕が誰かに追いかけられたり、落っこちて動けなくなったら、僕に構わず穂香ちゃんだけ逃げて」

「そんな、虎児郎君を見捨てるなんて」


「3階だから落ちても死ぬことはないのが救いだよ。穂香ちゃんが共犯だとバレたら逮捕されて、学校をクビになっちゃうし」

 僕は未成年だから、少年Aが空き巣に失敗で済む。少年院に送られるくらいだろう。


 しかし少年院ではイジメられそうだから行きたくはない。


「うう、気をつけてね」

 泣きそうな穂香ちゃん。


 蒲は部活で21時過ぎまで帰って来ない。隣りの部屋も明かりがついていないから、住人はいないはずだ。

 蒲の部屋のベランダにさえたどり着いてしまえば、後はゆっくり作業して大丈夫。


「行くよ。いいかい?」


「うん、周りに人はいないよ」

 穂香ちゃんが応答する。


 ベランダの手すりによじ登って、またぎ超える。ベランダは僕がもたれかかってもびくともしない。

 横歩きで隣の部屋のベランダの手すりにつかまる。


 穂香ちゃんはハラハラしてるだろうけど、案外行けるぞ。

 左右の手をちょっとずつスライドさせて、横に動いていく。


 隣の部屋のベランダを通り抜けて、蒲の部屋のベランダに向かう。

 蒲の部屋のベランダに到達。手すりをまたぎ越して、ベランダに降り立った。


「ふう。着いたよ」

 無事を穂香ちゃんに知らせておく。


「よかったあぁ」

 心底安堵している穂香ちゃん。


 次はガラス破りだ。

 空き巣は侵入したことがバレてもいいので、手っ取り早くガラスを叩き割るものらしい。


 だが数日間は蒲に気づかれないようにする必要がある。


 クレセント錠の近くに小さい穴を開けるため、ポケットからガラスカッターを取り出す。

 手先が通る大きさで、四角形に切り目を入れていく。刃先を何回も上下左右に動かせば溝が深くなっていく。


 なるべく綺麗に四角形を切り出すつもりだ。後で嵌め直して透明テープで留めておく。


 自分の部屋にガラスを買ってきて何度も練習しておいた。

 窓の下の方にしゃがんで、よく目を凝らさない限り、見つからないくらい綺麗にやれる。


 やがてガラスカッターが向こう側に突き抜けた。粘着テープをくっつけて、手前に折る。

 ピキッと小さな音を立てて、四角形のガラスを切り出すことに成功。


 ガラスをそっとベランダに置く。

 指を入れてクレセント錠を外す。


 よし、外れた。


「虎児郎君、大変」

 穂香ちゃんの慌てた声が耳に入ってくる。


「どうしたの?」

「美沙ちゃんから連絡があった。蒲がこっちに向かってる」


「なんで!?」

 仰天する。蒲は部活中のはず。


「OGが稽古をつけに来くれて、蒲と一緒に帰って行ったんだって。部員には紅白戦をやっとけって言って。美沙ちゃんは抜けられなくて連絡が遅れたの。もう蒲が着く頃かもって」


「なんと!?」

 部屋で鉢合わせしたらヤバい。


 急いで済ませないと。

 ガラス戸を開けて、カーテンをまくって、リビングの中に靴下で入る。部屋の中は暗い。


 ポケットから懐中電灯を出してスイッチを入れる。


 テーブルの上にパソコンがあるはず――

 あった。


 サユリさんに教わったとおり、駆け寄ってパソコンの電源を入れる。

 メモリースティックを差し込んだ。


 ウイルスに感染したら、勝手に電源が落ちるという。


 ガチャ

 ドアの鍵が開く音がする。


 げっ蒲が帰ってきた!?


「虎児郎君、隣りの部屋に明かりがついた」

 穂香ちゃんの声。


 なんだ、隣か。


 ホッとするけど、隣の住人がいつもより早く帰りやがった。帰りに隣りのベランダを通れなくなったぞ。

 どうしよう。飛び降りるか。


 蒲も帰ってきそうだ。早く早く早く感染しろ。

 パソコンには何の変化もない。


 ガチャ

 またしてもドアの鍵が開く音。さっきより大きい。今度こそ蒲だ――――


「さあ、入れっ」

 蒲が大きな声で命令する。OGと一緒らしい。


 ヤバい。もうここに来る――――

 懐中電灯を消す。


 パソコンの画面がシューンと消えて真っ黒になる。

 やっと感染した。急いでメモリースティックを引き抜く。


 でも、間に合わない――今にも蒲がリビングのドアを開けて来そうで心臓が止まりそう。


 ガラッ

 ドアの開く音。


 とっさにしゃがむっ


 が、蒲が入っては来ない。

 隣の部屋のドアが開く音だったのか。


「先生、シャワーを浴びさせて下さい」

 女の声が聞こえてくる。


「いらんっ俺はレイプっぽいのが好きだって知っているだろうがっ」

 蒲の荒々しい息遣いも聞こえてくる。


 寝室に行ったのか!?


 今のうちに。

 カーテンをまくって、ベランダに出て、ガラス戸を締める。


 ガラス片を嵌め込んで透明テープで留める。


「痛い!」

 寝室では蒲がOGを押し倒している。


「新幹線で今晩中に帰るって言うからなあ。指定席に間に合うように済ませてやるんだ。感謝しろよっはははっ」

 レイプっぽいじゃなくて、レイプそのものじゃないか。


 このOGは蒲に心酔しているタイプではなさそうだ。

 蒲に呼び出されて、嫌々連れて来られたのだ。


 ガラス片をしっかり固定できたのを確認する。落とし物もしていない。


「こんなの止めて下さいっ」

 OGの悲鳴が聞こえる。


 蒲は一体何をやっているんだ。


「ふふ、恥ずかしい姿だな。しっかり録画されているからな」

 ビデオに撮っているのか。


 くっ――このまま逃げたら後味が悪い。何とかOGを助けられないか。

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