21 ツンロリちゃんと観覧車で……
レストランを出て、すぐの頭上。
遊園地を取り囲むように2人乗りのサイクルモノレールの線路が宙に張られている。
線路は3メートルくらいの高さにあるけれど、多分あまり怖くなさそうだ。
「あれ乗ってみたい」
上杉さんが挑戦してみると言う。
親子で乗る仕様で、上杉さんは子供用のサドルが低い方で足がペダルに届いた。
乗り場から外に漕ぎ出す。
「下から見上げるよりも高く感じますね」
でも怖いというほどではない。
「眺めがいいよー」
上杉さんは遊園地を落ち着いて見渡せて機嫌がいい。子供用の方に乗ることに今さら不満はないようだ。
楽に漕げるから、上杉さんに話しかける。
「ところで、タワマンでは何をやってるんですか。仕事?」
隣の部屋で上杉さん一人でどう過ごしているのか不思議に思っている。
「ううん、仕事はあまりしない。ダラダラしてるー」
「ダラダラって?」
「YouTube見たり、Netflixでドラマ見たりー」
「へぇ意外に庶民的……バリバリ仕事してる人かと思ってました」
「本業が企業買収だからねー 仕事は年に数回あるかどうかってくらいだけ」
なんと1年のほとんどはニートっぽいってことだ。
「かっこいい。たまに働くだけで、ばっちり稼ぐなんて憧れます」
「超大金持ちの虎児郎君がよく言うよー 一生働かなくていいのにさー」
「まあそうですけど」
僕の場合は、じいちゃんの遺産をもらっただけだからな。
でも上杉さんはたまには超ハードな仕事をこなさないといけないので、僕がうらやましいようだ。
「ドラマも見尽くしちゃって、暇してたのよねー しょうがなく虎児郎君を誘ったわけー」
「またツンデレっぽい言い方ですね」
「ふふ、感謝しなさいよー」
上杉さんはオタク向けアニメも結構見てそうだ。親しみがわくな。
だんだん遊園地に慣れてきた上杉さんは、ちょっと激しめの乗り物も挑戦してみると言う。
ゴーカートでは2台で追いかけっこした。
無邪気に上杉さんの車両を追いかけて、僕も童心に帰った気分だった。
お化け屋敷を本気で怖がって、上杉さんが抱き着いてきたのは想定どおりだった。
上杉さんは今まで遊園地に来たことがないから、全く免疫がなくて面白い。
結局、ほぼ全部の乗り物を制覇することができた。
最初にジェットコースターで死にかけたことからすると、上杉さんはよく立ち直った。
時刻は5時ちょっと前。
名残惜しいが閉園が近づいてきた。
締めは、観覧車。
周りに客は全然いない。すぐに乗り込むことができた。
横に並んで座る。
ゆっくりと登っていく。
「虎児郎君は知ってる? この観覧車の都市伝説」
「え、知らないです」
「その日最後に、この観覧車に乗った人は死ぬんだって」
「マジで……」
僕は焦って振り返る。
後続には誰も乗っていない。
「やばいじゃないですか」
「あははー そりゃいつか死ぬよね、人間なんだから」
上杉さんがかぶりを振る。
「……なんだ。すぐに死ぬわけじゃないんですね」
一瞬引っかかった僕はやはり頭が悪いな。
「ふふ、せっかくだから来る前にこの遊園地のことをネットで調べたんだ。この観覧車には他にも都市伝説があってー」
「今度は何ですかねえ」
もう騙されないぞ、と僕は澄ました顔でいる。
しかし上杉さんともあろう人が、都市伝説なんかを気にするなんて。子供っぽいな。
「ふふん……実は……」
前を向いて聞き耳を立てる。
だんだん頂上に近づいてきた。
そこで、頬にチュッと何かが触れる。
「観覧車の頂上でキスした人は一生結ばれるんだって」
上杉さんの言葉にびっくりして振り向く。
ほっぺチューをされたちゃったの!?――上杉さんに。
「まったくベタな都市伝説よねー」
上杉さんはプイっと赤い顔を逸らした。
「キ、キスしたんですよね」
「勘違いしないでよね。私は虎児郎君がずっと私の依頼人でいてくれたらいいなって思っただけー あくまでビジネス上の関係。好きでもなんでもないんだからー」
また、なんというテンプレ発言。
「じゃあ僕も」
ちゅ
軽く上杉さんのほっぺにキスする。
さらに赤くなる上杉さんが面白い。
「勘違いしないで下さいね。僕はずっと上杉さんに相談に乗ってほしいだけなんですからね」
お互いに顔を背け合って腕組みをする。
観覧車は頂点を通り過ぎ、降り始めた。
「ふふっ これで一生の縁になっちゃったねー」
上杉さんがジト目で見てくる。
「お世話になります」
こんな僕につきあってくれて、上杉さんはちょっとツンツンしているけど優しい人だよ。
「記念に写真撮っとかない?……2人の……」
上杉さんが恥ずかしそうに申し出る。
「いいですね」
お互いに写真を撮りっこしたけど、2人のは撮ってなかった。
並んで座ったところで、上杉さんがスマホをかざす。
自撮りモードで、画面に僕たちが映る。
ぱち
笑顔を寄せあった姿がしっかりと写った。
上杉さんはスマホで写真を確認。
宝物を手に入れたかのように、とても嬉しそうにしみじみ見つめている。
……僕との写真なんかがそんなありがたいもんかね。
観覧車が終わる。
降り場に先に地面に立った僕は、上杉さんの手を取る。
「楽しかったよー」
上杉さんがすごくいい笑顔をしてくれる。
「僕もです」
出口に向かって歩く。
「また別のとこ行こうよー 水族館とか映画館とか」
「いいですね」
「やったー 虎児郎君と一緒だと、私の失われた青春を取り戻せそうだよー」
背伸びをして喜ぶ上杉さん。
「これからじゃないですか」
年を取らない上杉さんがうらやましい。
上杉さんは学校を飛び級しまくった人だから、同い年の友達がいなかった。
天才とバカは紙一重というが、僕みたいなバカの方が上杉さんと親しくできて友達になれるんだな。
本当に僕と友達になれたのがうれしいんだろうな。
まあ僕も友達があんまりいないし、上杉さんと友達になれてとてもうれしい。
しかも一生続くらしいし、やったね。
ツンロリちゃんのおかげで元気が出たぜ。
明日からまたブラック部活の討伐だ。
昨日からブックマーク、ご評価が急増しており、大変驚いています。
誠にありがとうございます。
ご評価いただけるのは本当にうれしいです。
社畜業と並行しながら、2巻完結目指して頑張ろうと気合が入りました。




