19 ツンロリと遊園地
翌日。上杉さんと朝から遊園地に来た。
上杉さんは水色のワンピース姿。かわゆい。
僕は白いワイシャツにジーンズという適当な格好。
上杉さんは深刻そうな僕の顔を見て、誘ってくれたっぽい。
僕は数日後に、蒲の部屋に忍び込むまではやることがないから、ちょうどいい気晴らしだ。
雲一つない晴天で気持ちがいいな。
ローカル線を降りて、駅からちょっと歩いたところに地元の潰れかけの遊園地がある。
「上杉さん、誘ってくれてありがとうございます。サユリさんを紹介してくれたことも」
「サユリには気に入られたみたいだね。虎児郎君はさすがだよ」
どういう意味だろう。僕が並のバカじゃないから、サユリさんは興味を持ったって言いたいのかな。
「遊園地は私が行きたかったからだよー 別に虎児郎君のためじゃないからねー」
「何ですか、そのツンデレっぽいセリフは」
「ふふ、力を貸している私に、今日は付き合いなさい」
「はい、喜んで」
今日は平日。カス高はサボり。
美沙も穂香ちゃんも学校に行っている。上杉さんと2人で過ごすのは誤解を招くかもしれないから黙っておこう。
まあ小学生みたいな上杉さんと一緒でも、デートとは思われなさそうだが。
遊園地の入場券売り場に到着。他に誰もいない。
やはり平日だし遊園地はガラガラに空いている。
「ええと入場券は……」
僕は1日フリーパスを上杉さんの分も買おうとして、あれっと思った。上杉さんは小学生みたいだけど小学生ではない。
「一般を買って」
迷っている僕を見て上杉さんが声を掛けてくる。
「あ、はい。一般1枚と高校生1枚下さい」
窓口のおばちゃんに告げる。
「え、妹さんは小学生でしょ」
おばちゃんが気を利かせて、言ってくる。
上杉さんはまあ僕の妹って感じだよね。でも余計な気を遣ってくれなくてよかったのに。
「むー」
上杉さんがむすっとしている。小学生の券を買った方が安いけど、上杉さんの遵法精神もプライドも許さないだろう。
「あ、いいんです。あちらのレディはああ見えて大人ですから」
「え、そうなの」
おばちゃんは口に手を当てて驚いている。
「ふう」
年齢が謎の上杉さんと一緒だと、入場する前からひと悶着だな。
「知らなかったわ。遊園地の料金に違いがあるなんて……」
入場してから上杉さんが呟く。
「そんなの当たり前ですけど」
「私、遊園地に来たの初めてだから」
「本当ですか!?」
児童養護施設育ちの僕でも遠足で遊園地に行ったことはある。
「私の親はねー 教育熱心だったから、休みの日も勉強ばっかりさせられてたのよねー」
上杉さんがため息まじりに話す。
「つらいっすね」
「まあ、私も勉強は好きだったけどねー やりすぎだったなー」
神のように頭がいい上杉さんでも後悔したりするんだな。
「私の親はねー 私が頭良すぎるって気づいて、アメリカに引っ越したんだ」
上杉さんの生い立ちは前に聞いたことがある。中学校でアメリカに行って、ハーバードロースクールを出たらしい。
「日本だと頭いい子はイジメられるからですよね」
実際、上杉さんはイジメられて日本が嫌いになったと言っていた。だから、頭良すぎ発言は自慢したいわけじゃないと思う。
「そう。それに日本だと高校以上にしか飛び級がない。頭のいい子も底辺の子と同じ授業を受けないといけないなんておかしいでしょー」
上杉さんは、日本の教育は僕みたいなバカ仕様だと言いたげだな。
「すみませんね、レベルが低くて」
「ほんと、日本の悪平等はおかしいよねー とにかく私は親の英才教育を受けてたからね。アメリカに引っ越したらすぐ大学に通うようになった」
「いきなり大学っすか」
すごいね、やっぱり。
みんな同じがいいという日本は、こうして優秀な人材を一人失ってたんだね。
じいちゃんが上杉さんを取り戻してくれて良かった。上杉さんがアメリカにいて、日本に攻撃を仕掛けてきたらと考えたら恐ろしい。
凡庸な日本人が数万人で束になっても上杉さんには勝てそうにない。毎年、兆円単位の国益を削られそうだ。
「でも飛び級はいいことばかりじゃない。周りはずっと年上の人ばかり……」
上杉さんは寂しげだ。
「友達にはなれなかったんですか」
「うん、全然。アメリカでも、私はもの珍しがられて、影では悪口を言われてたよ」
「嫌ですね……人間はどこの国でも変わらないんだな」
「だから、私はねー 虎児郎君と出会えて本当に良かったんだー」
上杉さんは僕の前でくるりと振り返り、笑顔を見せた。
「え、僕じゃ話が合わなくないですか」
「ううん、こんなに気を抜いていられる人は初めてだよー 一緒に遊びに来れるしねー」
上杉さんは激烈な競争を勝ち抜いてきた人だ。ねたみで上杉さんの容姿をバカにする人も多いだろう。ものすごいストレスがあったんだろな。
僕みたいな低レベル人間はむしろ安らぎを提供できる貴重な存在かもしれない。
ここは前向きに受け止めておこう。
「さて、何から乗りましょうね」
僕は色んな乗り物を見渡す。
「もちろんジェットコースターでしょー」
上杉さんが僕と手をつなぐ。
小さい手が僕を引っ張って行く。ずっと乗ってみたかったんだな。
「いきなりですか」
大丈夫かよと心配になるが。
「おお、先頭だ」
ジェットコースター乗り場もガラガラ。
先頭に乗ることになった。
「これは怖そうだねー」
上杉さんはワクワクしている。
この人、遊園地に来たことないから、どんだけ怖いかわかってない。
ジェットコースターが動き出す。
カラカラカラ。車輪が軋み、まずはゆっくり旋回。
そして頂点目指して登り始めた。
「ふんふーん、眺めが良くなって来たわねー」
「余裕こいてられるのは今のうちですよ」
僕は上杉さんが本気で心配になってきた。
ジェットコースターは高校生の僕でもかなり怖い。
少女の上杉さんが平気でいられるものか非常に疑問。しかも先頭だよ。
いよいよ頂点に達する。
「上杉さん、下見て」
僕は隣に声を掛ける。
「え……ひいいいいいいっ」
やっぱり下見て、引きつった声をあげる。100メートルくらいありそうだもんな。
ガタッ
コースターが下向きになる。
ガラガラガラガラララララララ
コースターはぐいぐい加速をつけて落下する。
うぐっすごいスピード
このまま地面に突き刺さりそう――
きゃあああああああああああああ
ぐおおおおお
僕でもこれは怖い。上杉さんは盛大に叫んでいる。
グイイイン
コースターは猛スピードでカーブ。
すごいGが来るっ
コースターはそのままギュインギュインと左右に揺れながら進む。
うええええええ
苦悶する上杉さんの声。
ようやくコースターはスピードを落とし始める。
降り場で停車した時、上杉さんを見るとシートにもたれかかって、放心状態だった。
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