18 金持ちの僕に這いつくばれ
駅前の不動産屋に入る。
年配の男の店主に話しかける。
「――マンションに空き室はない?」
蒲のマンションの空き室があれば、そこを拠点にする。金持ちらしい解決方法だ。
店主はパソコンを検索して答える。
「空き室は5部屋あるけど」
大きなマンションだから、存外多くの空き室があってほくそ笑む。
「全部の部屋、見せてよ」
「はあぁ……君が住むの?」
店主は貧相な高校生の僕を怪訝な目で見る。
金を持っているようには見えないのだろう。
「そうだよ。お金なら持っているからご心配なく」
「空き部屋はどれも売り物件だよ。借りるんじゃないよ」
「ふうん。いくら」
売り物だろうが、借り物だろうが、僕にとって違いはないのだが。
「安いので4千万もするよ」
そんな金持ってないだろう、さっさと帰れという空気を店主は放つ。
僕はスマホを取り出して、緒方銀行の木下支店長に電話する。
「あ、支店長。今すぐ来てほしいんだけど、場所は……。現金を1億くらい持って来てくれる?」
やりとりを聞いていた店主は目を丸くしている。
「金ならじきに到着するから、早く部屋を見せてくれるかい」
店主を見下してやる。
「は、はい、直ちに」
店主は作り笑いで揉み手をした。
不動産屋の車で再び蒲のマンションに到着。
店主はマンションのカードキーを持っているので、正面から中に入る。
エントランスにマンションの部屋の地図が掲示されているので、空き部屋の位置を確認する。
304号室――
蒲と同じ3階の部屋だ。
まずはここを確認。
店主が304号室の鍵を開けて、玄関にスリッパを置く。
僕は部屋の中に飛び込んだ。
真っ先にベランダに向かう。
ガラス戸を開けて見える景色は、マンションの裏側。さきほどいた公園に向かい合っている。
やはり蒲の部屋と同じ側だ。
ベランダの手すりから頭を突き出して、左側を見る。
間違いない。蒲の部屋は隣の隣だ。
ここからベランダの手すりにつかまってスライドしていけばいい。
ベランダ経由で数分あれば、蒲の部屋にたどり着ける。
どのルートよりも簡単で、僕でもできそうだ。
ベランダから見下ろす。結構高い。
でも3階だから、落ちても最悪死ぬことはないだろう。
振り返ると店主がきょとんとしている。
部屋の中をロクに見ずに、ベランダを確認したのはちょっと不自然だったか。
「いい部屋だ。とても気に入った。でも他の部屋も見せてよ」
愛想笑いでごまかす。
もっといい位置の部屋があるかもしれないから、念のため確認だ。
空き部屋全部を見て回った結果、やはり最初の304号室がベスト。
「ここを買うことに決めたよ。いくら?」
「ははっ4500万円でございます」
這いつくばるようにぺこぺこする店主。
「ふっ安いな」
木下支店長もマンションに到着。
部下の若い男の銀行員が二人、それぞれアタッシュケースを持つ。
1億円て結構な量になるんだな。
「支店長、マンションの部屋を買う手続きを代わりにやっといて下さい。今すぐ僕が部屋に入居できるようにしてね」
面倒な手続きは木下支店長にお任せ。
「かしこまりました」
銀行員たちがぺこぺこ頭を下げる。
金持ちは楽ちんでいいな。
◆◇◆
僕はさっそく304号室に行って、さらなる調査を行う。
鍵を手に入れたので、マンションの正面から入れるようになった。
そこで、部屋の鍵についてネットで調べたらピッキングがとても難しいタイプだとわかる。
蒲の部屋の鍵をこじ開けて、表から入っていくのはやはり不可能。
ベランダから窓を切り裂いて侵入しないといけない。
となると肝心なのは、隣の部屋の住人。
そいつが留守のうちにベランダを通り抜けていく。
隣の住人の生活パターンを探っておこう。
今は無人のようだ。仕事に行っているのだろう。
何もない部屋で、スマホをいじって夜まで過ごす。
隣の住人は20時に帰ってきた。
ふむふむ。蒲は部活で21時くらいまで帰ってこない。
暗くなる18時くらいから20時までの間なら、隣の住人にも、他の人間にも見つからずに侵入できる。
問題はいつ決行するかだ。
早く実行しすぎたら、ガラスを割った痕跡を蒲に気づかれる。
ガラスの割れ目は目立たないように補修して立ち去ろう。数日くらいなら見つからずに済むんじゃないかな。
やるなら直前だな。
他にやるべきことは……
窓ガラスを切る道具を買いそろえよう。
あと、いきなり本番だと上手くやれるかわからないな。
部屋のガラスと同じ材質のを買ってきて、切る練習もしておくか。
それに黒い服に、目出し帽、滑り止め付きの手袋も買おう。
本格的に空き巣っぽくなってきたな。
1兆2千億円持ってて、空き巣をやらないといけないことに非常に違和感があるけどね。
シリアスな話が続いたので、次回は息抜きに美少女とデートに行こうと思います




