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16 死霊術師

「ではターゲットについて詳しい話を聞かせてもらおうか」

 サユリさんが促す。


 僕は蒲について知っている限りのことを話した。

「……ということなんです。写真とか消せますか」


「ふっ造作もない」

 サユリさんの答えに胸が弾む。


「やった」

「すでに蒲のパソコンに私のウイルスが感染しているかもしれん。リストを調べてやろう」


 カタカタカタ、サユリさんがキーボードを打つ音が聞こえてくる。

 サユリさんはマイク付きのヘッドホンで電話しているのかな。


 暗い部屋で、パソコンの画面だけが光っている。メガネの美少女の顔が怪しく照らされ、ニヤリとする姿を想像してしまう。


「蒲のパソコンにもう感染ってどういうことですか」

 話しかけてみる。


 僕の依頼が来る前からどうして仕込みができたんだ。


「怪しいエロサイトを見た奴のパソコンにウイルスが感染するようにしているのさ。ふふふ、ウイルス感染したパソコンは私の言いなりで動くゾンビのようなもの。普段は何もさせないけど、いざという時はハッキングの踏み台にするのだっ」


「おお」

 よくわからないけど、サユリさんはゾンビ化させる魔法を使えるらしい。てことは、いわば死霊術師(ネクロマンサー)だ。


 これはいける。

 不可能に思えたが、人質に取られた美少女たちの淫らな写真消去をあっさりできてしまうのか。


「……ダメだね」

 小声が聞こえてきた。


「んん――?」

 どういうこと!?


「リストにない。蒲のパソコンは私のウイルスには感染していないということ。ははは残念」

 サユリさんは笑ってごまかそうとしている。


「間違いないんですか」

 僕を困らせて楽しむ冗談だと言ってほしい。今は時間がなくて焦っているのだ。


「ないな。蒲は私がウイルスを仕込んだエロサイトを見ていないのだ」

 生の女子バレー部員を食べられるんだったら、二次元に用はないのか。ますます怒りが湧いてくる。


「そんなぁ。あ、でも、すぐに別の方法でどうにかできるんですよね。サユリさんはスーパーハッカーだから」


「無茶を言わないで欲しい。マンガに出てくるスーパーハッカーのせいで、ペンタゴンだろうがクレムリンだろうが、どこにでもたやすく侵入できると思われているけど」


「違うんですか」


「現実のハッカーは、超地味なことをしているんだ。サイトのセキュリティホールを見つけるためにリンクを一個一個チェックしたり、ウイルス感染するのをじっと待つとか」


「あれ、クリスタルと戦った時は?」

 僕の思いつきで、大企業のクリスタルに突然ケンカを挑んだ。事前にクリスタル本社にウイルスを仕込む時間なんかなかったはずだ。


「上杉さんは何年も前からクリスタルと戦うことを想定していたよ。だから私は時間をかけてこっそりクリスタル本社のパソコンにウイルスを感染させて、時が来るのを待っていたのだ」


「――なんと、そうだったんですか!?」

 上杉さんは気軽に僕の思いつきに賛同してくれたと感じていた。だが、上杉さんは水面下で膨大な準備をやっていたのだ。


 誰かがクリスタルに戦いを挑み、上杉さんを雇うことになると予想していた。それがたまたま僕だったということ。全ては上杉さんの手の平の上だったのか。


 ……いや、今は上杉さんの神っぷりに感心している場合じゃない。


「じぁあ蒲はどうするんですか」

 サユリさんに問いかける。


 しばらく無言の間がある。

 キーボードをカタカタ叩く音だけがする。


 サユリさんが何か調べて、すごい策を考えてくれているのだと思いたい。


「……蒲がアクセスしそうなサイトにウイルス感染する罠を仕掛けることはできる」

 重い沈黙をサユリさんが破る。


「引っかかるのを待つしかないってことですか」

「その通り。一週間で引っかかるかはわからない」


「間に合わないじゃないですか」

 期待が落胆に変わっていく。


 サユリさんはあっという間に写真を消し去ってくれると思ったのに。


「仕方ない。強制的にウイルス感染させるしかないなぁ」

 サユリさんがヤレヤレ感を出している。


「え、方法があるんですか!?」

 最終奥義っぽい技を出してくれるんじゃないかと興奮する。


「蒲とやらの家に忍び込むのだ。ウイルスを仕込んだメモリースティックをパソコンに差し込めば必ず感染する」


「すごい! サユリさんが忍び込んでくれるんですね!?」

 さすがはスーパーハッカー。忍者みたいなこともやれるんだな。部屋に引きこもっている姿を想像して失礼だったな。


「私がやるんじゃないけど……」

「ハッカー仲間がやってくれるんですね」


「私に空き巣の仲間はいない。虎児郎くん、君がやるんだよ」


「は――」

 目が点になる。


 僕が蒲の家に忍び込まないといけない?

 失敗したら逮捕されるやんか。


「明日の午前中に、バイク便でウイルスを仕込んだメモリースティックを君の家に届けよう。パソコンの機種が何であれ、差し込むだけで必ず感染する優れものだからね」

 サユリさんは恩着せがましく説明する。


 すごいことのようですごくない。蒲の家に忍び込めなければ意味ないからだ。

「どうやって蒲の家に忍び込めばいいんですか」


「知らない。ググったら」

 サユリさんは冷たく突き放す。


 ググったら空き巣の仕方も調べられるんだろうけどさ。


 ほんとに僕が調べてやらないといけないのかよ。


「報酬が1千万円て取り過ぎじゃないですか」

 このポンコツ死霊術師め。


 僕は何もしなくてもいいと思ったから、ちょっと腹が立ってきた。

 1千万円くらい惜しくないけど、愚痴ってしまう。


「そう言うな。ウイルス感染さえさせれば、あとは任せろ。写真は完璧に消すし、蒲を徹底的に破滅させてやる」

「へ、他にも何かしてくれるんですか」


「ああ、ハッカーを舐めるなよ。虎児郎くんの期待以上に働いてやろうじゃないか」

 サユリさんは厳かに告げてくる。


 むう。なんかすごいことをおまけにやってくれるのか。


 仕方ない。蒲の部屋に忍び込んでウイルス感染させるのだけは僕が挑戦しよう。

お読みいただきありがとうございます。

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