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15 とんでもない報酬額

「サユリさん、お願いしたいことは」

 息せき切って話そうとする。


「依頼内容は上杉さんから大まかに聞いているんだけど」

 サユリさんは僕の話を遮る。


「引き受けてくれますか」

 ドキドキしながら確認する。


「ふはは、虎児郎くんのことは調べたよ。緒方銀行や緒方証券の口座に1兆2千億円の現金や株券を持っているね」


「な――」

 僕の口座の中身までもう調べたのか――


 ググっただけじゃわからない情報だろ。どうやって、それを!?

 銀行とかにハッキングしたってことか。本当にスーパーハッカーなんだな……


「報酬は君の全財産の1兆2千億円だ。構わないかな?」

 サユリさんの問いかけに、心臓が飛び出そうになる。


 全財産。


 せっかく超大金持ちになったというのに、全部取られちゃう!?


「……」

 さすがに即答できない。


「私がクリックを何回かすれば、虎児郎くんの1兆2千億円は私の秘密の口座に送られ、取り返すことは不可能。銀行口座は一日に振り込みできる金額の上限が決まっているけど、破るのは造作もないことでね。全部いただいちゃうっていうのは嘘じゃないからねっ」

 サユリさんが説明を続ける。


 僕はパニック状態だ。

 1兆2千億円って高過ぎだろ。


 全財産かけてまで、美沙の仲間を守ってやることないんじゃない?


 しかし、もう美沙には写真のことは僕に任せておけって言っちゃったから、今さら無理と言いにくい。

 サユリさん以外にスーパーハッカーのあてもないし、探している時間もない。


 困った。どうしうよう。


 …………

 ん……なんかおかしい?


 サユリさんの説明に違和感を覚える。何だろう。


 あ、そうか。


「サユリさん、僕の口座からお金を奪っちゃうことができるなら、なんで僕に言わずにやっちゃわないんですか」


 僕の依頼をやりとげて、1兆2千億円の報酬をゲットするなんていう面倒くさいことはしなくていいはずだ。

 これは僕がどんな人間かサユリさんに試されているんじゃないか。


「泥棒をやると、上杉さんに怒られるからね。虎児郎くんの了解を得ておきたいんだよ」


 む……

 試されているわけじゃないのか……


 サユリさんは上杉さんの顔を潰すことはしたくないらしい。

 上杉さんの戦友みたいな人なんだろうな。


 だったら、上杉さんの紹介割引ってことで、報酬を安くしてほしいんだけど。

 しかし、値引き交渉なんかしようものなら、この話はなかったことにされそうだ。


 どうする。どうする。


 …………

 答えは決まってる。


「報酬は僕の全財産で構いません」

 堂々と言い放った。


 美沙は同じ児童養護施設で育ち、一緒にいろんな苦しみを乗り越えてきた。

 実の兄妹よりも深いつながりだ。


 美沙の仲間を助けるのは美沙を助けるっていうこと。

 迷うことなんてなかったんだ。


「やった。交渉成立だな」

 サユリさんはうれしそうだ。


 うううぅぅ

 でもやっぱり1兆2千億円失うのは痛い。


 お金で何でも買えるのが、もうできなくなっちゃう。


 仕方ない。諦めるんだ。

 慣れ親しんだ貧乏暮らしに戻るだけ。


 きっと美沙は僕に感謝して、そばにいてくれるだろう。

 穂香ちゃんだって、貧乏には慣れているから、僕を見捨てない。


 すばらしい2人の女性と一緒なら人生やっていける。


「合格」


 ん……

 サユリさんが呟いている。


「ど、どういうことですか」

「報酬は、1千万円で結構だ」


「え――!?」

 耳を疑う。


 1兆2千億円が1千万円に。値引きすぎやろ。


 1千万円が高いのか安いのか全然わからないけど、1兆2千億円と比べたら、超安く感じてしまう。

 試されている気がしていたけど、やっぱりそうだったのか。


「仲間を助けるために、全財産を投げうつなんて、普通できることじゃないですね。虎児郎くんのことが私、好きになってしまいました。特別に安くしてあげるからねっ」

 サユリさんの声はちょっと上気している。


 上杉さんはサユリさんを気難しい人だと言っていた。自分が納得しないと仕事を引き受けない。

 僕が助ける価値のある人間か見極めようとして、僕は合格した……


 ほっとして、ベッドにへたりこむ。

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