14 中二病
時刻は24時近い。上杉さんの部屋に押し掛けるのは非常識だな。
電話にするか。でも外見は子供だから、もう寝てそうだ。
怒られてもいいから、電話する。
「なーに、虎児郎くーん」
眠そうな声で応答がある。やっぱり寝てたか。
「すみません至急聞いてもらいたいことがあって」
「……ということなんですけど、どうしたらいいですかね」
僕は事情をかいつまんで上杉さんに説明した。
女子バレー部員は、裸の淫らな姿の写真を顧問に人質に取られている。
「そんなの、写真を消せばいいんだよー」
めんどくさそうな声が返ってくる。寝ぼけているのか。
「消したいですけど、どうやって消すんですか」
それを知りたいのだ。
「ハッキングだねー」
「へ?」
「鬼畜顧問のパソコンにハッキングすれば、写真とか全部消せるし、通信記録から友人も突き止められる。友人のパソコンもハッキングしてデータを消すんだねー」
上杉さんは寝ぼけている感じだったけど、僕の話を聞いているうちに目が覚めてきたみたい。
「すご。まさにそんな魔法みたいなことをしないといけないんです。さすが上杉さん、ハッキングの魔法を使えるんですね」
「……私がやれるわけじゃないよー」
電話の向こうで上杉さをは苦笑しているようだ。
「え、じゃあ誰が?」
「スーパーハッカー。私がいつも助けてもらっている人を紹介するよー」
なんかすごい人が仲間に加わってくれそうで、胸が弾む。
不可能に思えることでも、上杉さんは叶えてくれる。本当にドラ○もんだよ。
「やった! ええと、上杉さんが助けてもらってるって言うのは、一体何をやってもらってるんですか?」
「敵対的買収の情報収集。クリスタルとの戦いでもね、クリスタル本社にハッキングして相手が何を考えているのか探ってもらってたよー」
「おおお」
うめいてしまう。
上杉さんは僕の知らないところで動いていた。
相手の情報が上杉さんには筒抜けだったなら、勝てるよね。
本当に超絶魔法を駆使する魔法使いだ。
でも……上杉さんは100%合法のことしかしないと言ってたけど、ハッキングって明らかに非合法だよな。
きっと、バレない非合法活動はカウントしないってことなんだな。ハッキングはバレないって確信しているのだろう。
つまり上杉さんと組んでいるスーパーハッカーは超絶凄腕の人ということだ。
「お願いします、上杉さん、スーパーハッカーの人を紹介して下さい」
「オッケー 虎児郎君に連絡するよう伝えておくよー」
「日本人なんですか。アメリカ人だと、僕、英語できないけど」
「大丈夫だよー 多分、日本人だから」
「え、多分?」
「私も会ったことないんだ。正体不明。いつもオンラインでしかやり取りしてない。日本語使うから、日本人なんだと思うけどねー」
ハッカーらしく、謎に満ちた感じだ。
「良かった。じゃあスーパーハッカーさんから連絡が来るのを待っていればいいんですね」
僕はもうミッションが達成されたような浮かれた気分になる。
「うん。でもスーパーハッカーさんは虎児郎君が気に入ったら連絡するし、そうじゃなければ連絡はないと思うなー」
「えええ――」
一転して絶望に打ちひしがれる。
「気難しい人みたいだねー 自分が納得する仕事しか受けない」
「僕を気に入ったらって……僕と会わずにどうやって」
「よくわかんないけど、ネットで虎児郎君の情報を集めるんだと思う」
ううぅ。ロクな情報はないかも。
怖くて自分の名前でネット検索できないんだよね。
児童養護施設育ち、カス高生、巨額の遺産を相続。
出てくるのはそんな極端な情報ばかりな気がする。
金持ってるから、報酬をたっぷりせしめられそうと思ってくれればいいのだが。
すごく期待が高まったのが、少し萎んだ。
「あと、上杉さん、殺し屋を紹介してもらえませんか ゴ○ゴ13みたいな」
スーパーハッカーに気に入ってもらえなかった場合の策も考えておかないといけない。
いざとなれば蒲を殺してもらう。友人も突き止めて殺してもらわないと。
「……虎児郎君はバカだなー 殺し屋と付き合いがあるわけないじゃない」
上杉さんは引いている。さすがに無茶苦茶だった。
「ですよね。冗談です、あはは」
失礼なことを聞いたのを笑ってごまかす。
上杉さんとの電話を終える。
ソファーの方に戻ると、美沙と穂香ちゃんがうつむいている。
「写真とかは僕が必ず消してみせる」
二人に向かって宣言した。
美沙も穂香ちゃんも驚いて顔を上げる。
「虎児郎君、どうやって」
穂香ちゃんが尋ねてくる。
「スーパーハッカーを味方につけた」
本当はまだ味方になってくれると決まったわけじゃないけど。
時間がないから、先輩やOGへの説得をどんどん進めていかないといけない。
一刻も早く美沙と穂香ちゃんに立ち直ってもらう。
「何それ」
アホの子の美沙では何のことかわからないだろう。
「パソコンやネットの仕組みに超詳しい人が、蒲と友人のパソコンを壊して、写真とかを全部消しくれる」
「本当に!?」
みるみる美沙の目に光が戻ってきた。美沙でもわかるように噛み砕いて説明したつもりだけど、理解したのかな。まあ美沙は写真とかが消えるとわかってくれれば十分。
「ああ。だから、写真とかが流出するって心配するな。美沙と穂香ちゃんはもう一度先輩を説得してくれ。写真がなくなるなら、先輩は仲間になってくれるんじゃないか」
「う、うん。きっと地獄から逃げられるって感じるよ」
「先輩の電話番号はわかるか」
「部のみんなはLINEでつながってるから。電話も掛けられるよ」
「よし、夜だけど、電話で話してくれ」
「わかった!」
元気よく返事する美沙。
問題は、スーパーハッカーの人……
見切り発車でやっちゃって大丈夫なんだろうか。
上杉さんは連絡があるのを待っていればいい、と言っていたけど。
連絡はいつあるんだろう……
と、思ったら、スマホの着信音がする。
画面を見ると、見たことない番号だ。
スーパーハッカーの人か? もう連絡をくれた?
先輩と話している美沙を横目に、僕は寝室に移動する。
スマホの応答ボタンを押した。
「緒方虎児郎くんかな?」
女の子の声だ。
声の質からすると中学生くらいか。
ハッカーは、偏見かもしれないけど、部屋に引きこもっているオッサンをイメージしていた。
ちょっとびっくりしたが、オッサンより若い女性の方がうれしい。
「は、はい。あなたは上杉さんの仲間のスーパーハッカーの人ですね」
上杉さんは、スーパーハッカーは僕を気に入らなければ連絡しないと言っていた。短い時間で僕のことを調べて、気に入ってくれたのか。
「我の名はサユリ。もちろん、本名ではないがな。フフッ」
中二病っぽいしゃべり方だ。
お読みいただき、ありがとうございます。




