12 反撃開始
「虎児郎だってカス高は最低だと思ってるでしょ」
「ああ、僕もカス高生であることが恥ずかしい。でもよ、バレー部の人たちは全国優勝するようなすごい才能を持ってんだ。カス高から抜け出したいって必死に努力した人たちなんだよ」
僕はずっと猛練習に耐えるバレー部員を尊敬の眼差しで見ていた。
決して美沙の胸だけ見てたわけじゃない。
美沙がわかってないようだから力説する。
「顧問が蒲じゃなくて、まともな教師だったら、実力でスポーツ推薦を得られたし、体を貪られることもなかった。蒲に食い物にされたことは、死ぬほど悔しくてたまらなかったはずなんだ」
僕は男だけど、昔からイジメられてばかりだった。されたくないことをされた女子の気持ちはちょっとは想像できる。
「蒲に従ったことを後悔してないかOGや先輩一人一人に確認しよう。一人でも反対だったら訴えるのは諦める」
一人でも秘密が明るみに出ることを望まなければ、無理強いするわけにはいかないと思う。だけど、全員が反対するはずっていう先入観に囚われるべきじゃない。
「え、OG全員? すごい数だよ」
美沙がポカンとする。
「全員じゃくてもいいだろう。蒲の食い物にされた人だけだ。早慶大にスポーツ推薦の人たちが怪しい。推薦されるのは毎年何人くらい?」
「一人だけだよ」
「じゃあ蒲が顧問になってから十年だから十人くらいだろう。それぐらいなら一週間あれば連絡がつくんじゃないかな。連絡先はわかるか」
「OG会の名簿があるよ。でもさ、面識のない人ばっかりだよ。いきなり話をしても怪しまれるだけだと思う」
「全員と話す必要はない。美沙は今いる2、3年生のスポーツ推薦を受ける先輩と話すんだ。んで、先輩を説得できたら、先輩からOGに話してもらう。一緒に部活をやってたんだからお互いよく知っている。んで、先輩の先輩って感じで一つ上の学年にどんどん繋げていくんだ」
「そっか、虎児郎、頭いいね」
美沙は感心するけど、早慶大以外の大学にスポーツ推薦を受けた先輩とか、他にも蒲のセクハラを受けた人はいっぱいいるだろう。
スポーツ推薦を受けた先輩達の縦のつながりをクリアした後は、先輩の同期に横に広げていってもらわないといけない。
ものすごく大がかりな話になる。全員が協力してくれるかどうかは心もとない。
とにかく、今の2、3年生と話してみてダメならそこで終了で仕方ないから、やってみることだと思う。
「やってくれるか、先輩と話すの。言っとくけど、僕は一緒に話せない」
「え、虎児郎が付いててくれないの?」
訴えるという言い出しっぺがいないのでは美沙が困った顔をする。
「僕は部外者だし、男だ。僕がいたら先輩は話をしてくれないだろう」
「私だけじゃ絶対に無理だよ。私自身、迷ってるから」
もともと美沙だけでやれるとは思っていない。
だから考えていたことを口にする。
「穂香ちゃんにも一緒にいてもらおう」
「え、穂香ちゃんて、山岸先生? なんで」
突然、穂香ちゃんの名前を出すから、わけがわからないだろう。
「蒲のセクハラは生徒だけで解決できることじゃない。まともな大人に入ってもらわないといけないと思う」
「そうだけど。なんで穂香ちゃんなの」
美沙は穂香ちゃんと僕の関係を疑っているのか。
話の持って行き方が不自然だったか。
「穂香ちゃんがカス高で唯一まともな先生だからだよ。女性だから話しやすいだろうし。穂香ちゃんなら先輩の話をよく聞いて、どうしたらいいか一緒に考えてくれると思う」
「確かに他の先生は当てにならないけど……」
「僕がイジメられていたのを助けてくれたのは穂香ちゃんだけだ。穂香ちゃんだけは力になってくれるって僕は信じているんだ」
言葉を並べて、なんとかごまかしたい。
「そうなんだ。じゃあ、穂香ちゃんに助けてもらうことにするよ」
美沙が素直に穂香ちゃんの助けを受け入れてくれる。
基本的に僕の言うことを信じてくれるアホの子で良かった。
穂香ちゃんには今日は遅く帰って来てくれるようお願いしているけど、いきなり帰ってきたりしないよな……
美沙は部屋の中に視線を走らせている。
「でも何か変だな……部屋がキレイに片付いてるし。女性の匂いがするんだよね。穂香ちゃんの匂いの気がする」
美沙は犬か。アホの子ゆえに五感は鋭い。
「ち、違う。部屋が片付いているのは、ハウスクリーニングの人に来てもらっているからだよ」
内心で焦りまくる。
美沙がジト目で僕を見つめて、「虎児郎こそ先生と、いけないことをしてない?」と問い詰めてくるんじゃないか。
だがあいにく穂香ちゃんとエッチなことはしていない。やましいことは何もないのだ。
咳払いしてから言い聞かせる。
「とにかく明日、穂香ちゃんと話そう。その後で先輩と話すんだ。穂香ちゃんと一緒にやってくれるか」
「……わかった」
美沙はまだ腑に落ちていないようだけど、うなずく。美沙は力不足だが、穂香ちゃんがメインで話せば大丈夫だろう。
「僕はさ、蒲をクビにした後の新しい顧問を探すよ」
バレー部の問題を根本的に解決するには顧問を入れ替える必要がある。バレー部が弱くなったらいけない。蒲以上に優れた指導者を連れてきてやる。
「え、虎児郎が?」
「ああ、美沙たちに頑張らせて、僕が何もしないってのは悪いからな」
「でも虎児郎はバレーを知らないじゃん」
「オリンピックとかでメダルもらった女性の選手が何をしているのかネットで調べるよ。で、スポーツ推薦で、大学に部員を送り込めるような力がある人がいいな。何人か見繕っておくから、バレー部の人が相談して決めればいい」
「そんなすごい人がカス高に来てくれるの!?」
「金をいっぱい積めば来てくれるだろ。ぶっちゃけ金で解決できることは簡単に解決できるんだよね。難しいのは美沙やバレー部の人たちの気持ちなんだよな……」
1兆2千億円もあれば、部活のコーチにすごい人を連れてくることぐらい簡単すぎると思える。
だからこそ、金ではどうにもならないこと……蒲によって傷つけられた女の子たちを救うことは不可能なくらい難しく感じる。
「虎児郎はそこまで考えてくれてたんだね。バレー部が生まれ変わるかもって気がしてきた。私、がんばるよ」
美沙の目に光が戻ってきた。
性奴隷にされたバレー部の美少女たちを救う戦いが幕を開けた。
だがこの時点ではまだ僕はわかっていなかった、ブラック部活の闇がどれだけ深いかを。
お読みいただきありがとうございます。
投稿開始3週間で5万PVに達するとは思いもよりませんでした。
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