10 セクハラの傷痕
タワマンで美沙の話を聞き終えた後、上杉さんの部屋に行った。
ちょうど上杉さんがタワマンに遊びに来ているから気軽に相談ができて助かる。
上杉さんの部屋は僕の部屋の隣。
ベランダに立てば、互いの部屋の声が聞こえる近さだ。
なんかストーキングされているような気がする。
上杉さんの部屋の呼び鈴を押す。
ドアを開けた上杉さんはフリルのついた白いドレスのような服を着ている。
上杉さんの私服姿は初めて見る。
子供服のモデルのようでめちゃくちゃ可愛い。
視線に気づいたようで、上杉さんは顔を赤くする。
「こ、子供用の服しか売ってないから仕方ないでしょ。笑うなら、入れてあげないよー」
「い、いえ、笑ってません。可愛さに悶絶しそうになってました」
「ふんっ 私の家に入れてあげるのは虎児郎君だけなんだからねっ でも変なことしたら、警察につき出すよー」
プイっと横を向きながらも、ドアを引いて招き入れてくれる。
上杉さんがツンロリババアで、きゅーんとくるわー
でも、いくら可愛いからって気安くなでなでしたら、魔法で消される……
「あれ、でも上杉さんはいつもスーツ姿ですよね。あのスーツはどこで売ってるんですか」
ビジネスウーマンが着てるような形のスーツだよね。子供サイズだけど。
「特別に仕立ててもらっているんだ……」
上杉さんの声には悲哀がこもっている。出費がかさみそうだね。
リビングはソファーの上に、大きなぬいぐるみがいくつも置いてある。子供ぽくって微笑ましい。
「表情からすると、ビジネスの話みたいね。仕事部屋に行きましょ」
上杉さんは相変わらず、僕の顔から考えていることを読み取る術にたけている。
ドアを開けて入った部屋には、壁際に机が置いてある。
小学生女子が使うような白い学習机だ。ここが仕事部屋!?
僕がぽかーんとしているのに、上杉さんが気づいた。
「わ、私に合う机って、こういうのになっちゃうのよ。誰も来ないし、虎児郎君だけなんだからっ」
顔を真っ赤にして、言い訳する。
「いえ、ますます可愛いなと思いました」
「……そ、そう、ほんとに?」
「ええ。入れてもらえてうれしいです」
「ふん、座ったら」
言われて、僕は部屋の真ん中のクッションであぐらをかく。
上杉さんは学習机の椅子に座って僕の方に回転する。仕事部屋というより子供部屋だね。
美沙には秘密にすると約束したけど、弁護士なら守秘義務ってのがあるから秘密は保たれる。
美沙の名前は出さずに、友達が部活で酷い目にあっていると、かいつまんで話す。
「虎児郎君の次の敵はブラック部活なんだねー」
上杉さんは僕の話を聞き終えるなり、一言で要約する。
「……上杉さんの専門じゃないでしょうけど、どうしたらいいかわかりませんかね」
「穏便な方法と徹底的にやっつける方法があるけど、どっちがいい?」
さすが。専門外のことでも、すぐに策を思いついてくれる。
「もちろん徹底的にやっつける方で」
期待に胸が弾む。
「集団訴訟!!」
ノリノリで上杉さんが必殺技っぽいのを唱える。
「何すか、それ」
「バレー部で被害にあった女子みんなで顧問を訴えてやるんだー」
……やっぱり上杉さんに相談すると、ルーン文字じゃなくて、法律で書かれた魔法を使うことになるんだな。さすがは現実世界最強クラスの魔法使い……
「それはでも……女子はみんな秘密にしておきたいみたいなんですけど。訴えた人の名前がバレるんじゃ」
「訴えた人の名前がわからないようにできるよー」
「む……新聞とかに名前は出ないってことですかね……でも新聞記事にはなっちゃうんじゃないですか」
「まあねー マスゴミは加害者の名前は秘密にするくせに、被害者の名前を出すからねー なにが知る権利だって感じ。視聴率を稼ぎたいだけだろうが。今回は被害者の名前は出ないけど、記事にはなるんだなー」
「てことはカス高関係者はバレー部女子が被害にあったってわかります。すぐに誰それがっていう話が広まっちゃいますよ」
「それは避けられないねー」
他人事だと思って、上杉さんは気軽に言っている。
「……悔しいですけど、訴えようっていう女子はいないと思います」
そもそも一般人は上杉さんと違って、裁判と縁がない。
蒲を徹底的にやっつけられても、こっちのダメージもでかい。
なんで被害者がまたつらい思いをしないといけないんだ。
おかしな話だが、反動は避けられないから女子は諦めるはずだ。
「そんなことないよー バレてもいいっていう人は結構いるよー」
上杉さんは思いがけないことを言う。
「そんなことあるんですか!?」
「学校でのセクハラは昭和の時代、何十年も前から行われてきたんだなー まあ昭和はセクハラという言葉さえない最悪の時代だから当然だけど」
「よく知ってますね。上杉さんて昭和生まれなんですか」
僕はさりげなく上杉さんの年を聞き出そうとする。
「違うよー」
嘘はついてない感じの返事。ということは平成生まれか。33歳以下ではあるんだな。
「すみません。話を逸らしてしまいました」
「黙って聞いてよねー 何十年経ってもセクハラ被害者の女性の心には傷が残る。誰にも話せず自分は苦しんでいるのに、加害者の教師がのうのうと暮らしていて、もうすぐ定年退職して何千万ていう退職金を受け取る。そんなの絶対許せないって訴えるケースが最近とても増えているんだよー」
「へえぇ」
意外である。
よくあることなんだ。それで上杉さんはブラック部活の倒し方を知っていたんだな。
でも、被害者の女性の身になってみれば立ち上がって当然なのかもしれない。こんなにムカつくことはないもんな。
「たいていの場合、すごくいい先生だって評判なんだ。高校生なんてまだ子供だから打ち明けても、あんないい先生が悪いことをするはずがないって、みんなに信じてはもらえないと思い込む。高校生の時にはじっと我慢しているしかなかったらしいね」
小学生みたいな上杉さんが、高校生を子供扱いするのはとても違和感がある。が、その点はスルーする。
「確かにうちのバレー部顧問は絶大な実績を誇っていますね」
「そう。だから泣き寝入りしようとしている子たちを説得してみたらどうかなー いずれ絶対に訴えたくなる。どうせやるなら、思い切って今すぐ訴えた方がいいよーって」
「……むうう」
「裁判の結果、多額の慰謝料を請求されるし、懲戒免職で退職金はなしになる。いい先生だったという名声も地に落ちる。ついでに警察にも言ったら逮捕されて、刑務所にブチ込める。当然の報いだねー」
「僕はそうしてやりたいです。でも友達が乗るかどうか……穏便な方法も教えてもらえますか」
もう一つの方法でも解決できるならそっちでもいいのだが。
「顧問と交渉して示談てのをするの。今までのことを謝罪させて、もうしないって誓わせる。慰謝料もちょっとは取れるかもねー」
「顧問をクビにはできない?」
「できないなー」
「うーん。穏便な方法では物足りないな。顧問は殺しやりたいくらいだから」
「被害者は虎児郎君以上に加害者を許せない。やっぱり徹底的にやっつける集団訴訟を話し合ってみたら」
訴える方法を詳しく聞いてから、僕は上杉さんの部屋を出る。
今日は急いでいるので、上杉さんの部屋でくつろぐのはまた今度だ。
訴える費用は、いくらかかろうが僕が出すから問題ではない。
だが、美沙に訴えろと言ったら、びっくりするだろう。
そして絶対に拒否する。
美沙一人を説得するのも難しいのに、他のバレー部の被害者の賛同を集めるのは不可能なように思える。
しかし、神だと思っている天才の上杉さんの言うことだからな。案外これが正解なんだろう。
蒲はカス校生の知能の低さをきっと舐め切っている。バレー部員が逆らって来るなんて思いもせず、存分に性を搾取してやがる。
いっちょやってやるか。やってやったら超びびるだろうな。
上杉さん仕込みの必殺技を食らわせてやった上で、他にもあらゆる手段を見舞ってやろう。
蒲をボコボコにして、破滅させてやる。ククク
上杉鏡子の挿絵は
4 ツインテール美少女が1兆円を渡しに来た【挿絵付き】
https://book1.adouzi.eu.org/n1855gy/4/
で掲載しております。
どんなキャラだったかなという方は、あわせてご覧いただきますと幸いです。




