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2 ド底辺の幼なじみ

 今はスポーツ少女の美沙だが、昔は違った。


 僕は2歳くらいで施設に預けられたが、美沙は9歳だった。

 親と一緒にいられた時間は長い方がいいのかはケースバイケースだ。


 美沙は僕よりもはるかに辛い目にあってやってきた。

 美沙が施設に来た時、目が死んでいた。


 9歳児といえば、友達と無邪気にはしゃぎ回っているものである。

 僕とか男子は無茶苦茶な遊びをして職員さんを困らせてばかりいた。


 だが、美沙は何度誘っても一緒に遊ぼうとせず、隅っこで虚空を見つめているだけだった。

 みんな美沙を無視するようになった。


 美沙はご飯もあまり食べない。施設の食事はお残し禁止だから、自分が食べられる分だけ自分でよそうのが決まりだ。


 美沙は職員さんがいっぱい食べるようにいくら指示しても、ご飯もおかずもほんのちょっとしかよそわない。

 手足は小枝のようになっていた。


 美沙が施設にやってきた理由については噂が(ささや)かれていた。


 美沙の母親は弟の育児を美沙に押し付けて、男と遊び歩いていた。

 弟は餓死して、母親は逮捕されたという。


 そして美沙は弟が死んだのを自分のせいだと思い込んでいるらしい。


 親戚の家に引き取られたが、自分を責めさいなんでいる美沙は持て余されて、施設に回ってきたそうだ。

 美沙の様子を見る限り、本当っぽい。


 しかし施設の職員さんだって、美沙の心を開く秘術を使えるわけじゃない。


 このままだと美沙は衰弱死するように思える。僕は美沙がかわいそうでほうっておけなかった。


 僕なりに美沙が元気のない理由と解決策を考えてみた。

 美沙は自分が弟を殺したと思っているが、僕はそんなはずはないと思う。悪いのは母親だ。


 母親が悪かったと認めて、美沙は悪くないと言ってくれれば、美沙は自分の思い込みを解除できるんじゃないか。

 美沙と母親を会わせよう、そんなことを計画し始めた。


 まずは美沙の母親がどこにいるか知る必要がある。

 施設の職員室には児童の親族の連絡先をまとめたファイルがあると言われていた。


 僕みたいに全く身寄りのない孤児じゃなくて、親はいるけど児童虐待がひどいせいで預けられている子もいた。

 ひどい親でも親は親だから、子供の進学とかの重要イベントの時は職員さんが親に連絡を取っている。

 

 美沙の母親は日本のどこかには生きているから、職員室のファイルを探せば所在をつかめるはずである。

 

 僕は職員室に用事で入った時に、こっそりと窓の鍵を外しておいた。

 

 夜の1時。

 僕は昼寝をたっぷりしておいたおかげで起きていた。


 周りの2段ベッドからは寝息やらイビキが盛大に聞こえてくる。全員熟睡しているな。

 隠しておいた懐中電灯を手にしてベッドから降りる。


 パジャマのまま窓から外に出て、置いておいたサンダルを履く。

 塀の間の狭い道を通って、職員室の窓にたどりつく。


 窓の鍵は外れたままになっていて小躍りする。そっと窓を開けてよじ登る。


 職員室の中は真っ暗で静かだ。


 誰も見回りに来たりはしないだろうけど、早く見つけるに越したことはない。

 怪しいのは院長の机だろう。


 院長の机の上にはファイルやノートは置かれていない。

 長机の引き出しを開ける。ハンコ、電卓、文房具はあるが書類はない。


 横の小さい引き出しを開けようとしたが、引っ張れない。

 げ、鍵か――しまった。


 どうして大事なものをしまってあるところに鍵がかかってないと思わなかったのか。 

 自分のバカさに呆れる。


 どうしよう。無理やり、こじ開けようか。

 木製の机だから、どうにか破壊する方法はあるかもしれない。


 でも音を立てたら職員が起きてしまうし、破壊の後が残れば忍び込んだことがバレてしまう。

 鍵だ。鍵がどっかにあるはずだ。


 だんだん落ち着いてきた。怪しいのは長机の引き出しだ。

 この中に鍵を隠しているんじゃないか。


 長机の文房具の間を探ってみると、銀色の小さい鍵があった。

 横の引き出しの一番上の段に鍵を差し込む。


 カチャリという音がした。

 引き出しを引っ張ることに成功。


 懐中電灯で照らすと、「児童関係者連絡先」という、まさに求めているラベルの赤いファイルがあった。


 いったん我に返って、出入口の方に視線を向ける。

 人の気配はない。


 ファイルを手に取って開ける。

 タックシールに児童の名前が五十音順で書かれている。目当ては美沙のページだけ。


 他の人の情報も気になるけど、見ないことに決めていた。美沙のページをめくる。


 望月美沙 母親 望月陽子 33歳

 住所 〇×県△市――〇×女子刑務所

 備考 遺棄致死罪で懲役十四年 服役中


 住所が刑務所であることにショックを受ける。


 噂は本当だった。


 知ってはいけないことを知ったような気がして心臓がバクバクする。


 刑務所の名前だけ憶えておけばいい気はしたが、一応メモしとこう。胸ポケットに入れておいた紙きれに、院長の机にあった鉛筆で、美沙の母親の情報を書き写した。


 書き終えて胸ポケットに紙を戻す。


 ファイルにはもしかすると自分の親族についての情報があるかもしれないと思う。


 見ようかと迷ったが、知りたくないことが書いてあるかもしれないから止めることにした。


 ファイルを引き出しにしまって鍵をかける。鍵も戻して、できるだけ元の状態を復元するようにした。


 また窓から降りて、部屋に戻る。


 部屋は何も変わっていない。ベッドに潜り込んで、無事にやり遂げることができた。

重い展開ですみません。

でも、幼なじみが絶対に幸せになるラブコメを目指したいと思います。

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