第2巻 VSブラック部活~幼なじみが性奴隷にされる!?~1
昼休み。リュックを担いで屋上のドアを押し開ける。
先客がいないことを確かめて給水塔の陰に腰を下ろす。
リュックから取り出したのは黒色の二段重ねの弁当箱。穂香ちゃんが作ってくれた。
この前までは児童養護施設の残り物を自分で詰めてきた弁当だったことを思えば、驚異としか言いようのない進歩である。
残り物でも税金で賄われているものだ。教室で食べていると蔑まれるような視線を浴びるので、もっぱら屋上で食べた。
施設を出た今となっては、堂々と教室で食べればいいのだが、一緒に食べる友達もいないので屋上に来てしまう。
蓋を開ける。
一段目はおかずだ。鯖の塩焼き、筑前煮、卵焼き、キュウリの酢物といったヘルシーな和食がぎっしりと詰め込まれている。
二段目はキノコの炊き込みご飯だ。出汁の香りが鼻腔をくすぐる。
まずは卵焼きを口にする。
「うまい――」
誰もいないところで声を出してしまう。焼き具合といい、控えめな甘みといい、出汁の味わいといい、全てが絶妙。シンプルな料理は作り手の腕前を表す。
金があるからどんな店の御馳走でも食べられるけど、穂香ちゃんが僕の好みと健康を考えて作ってくれるのが一番だ。
こんなのが毎日食べられるなんて幸せだな。
半分ほど食べたところで、金属がきしむ音がする。
給水塔から少し顔を出して見ると、開いたドアから女子が一人入ってくる。
美沙だ。
夏服の白いセーラー服が、可愛い。
口の中の物を思わず飲み込んでしまいむせる。音を立てないように我慢した。
美沙も施設の残り物を弁当に詰めて登校しているが、友達が多い美沙は教室で食べていた。昼休みに屋上で美沙を見るのは初めてである。
美沙が何をしに来たのか固唾を飲んで見守る。
屋上の柵に美沙は腕を載せて遠くを見ている。横顔には元気がない感じだ。
もしかして僕が施設を出て行ったことで落ち込んでいるのかな。
美沙は僕がいることに気づいていない。
だったら出て行って喜ばせてやろう。
だが、違ったら恥ずかしい。もうちょっと様子を見よう。
美沙が落ち込むようなことといえばやはりバレー部だろう。
部活で上手くいかないことがあったのかな。
あれこれ想像しながら残りの弁当を口に運んでいると、美沙が右足を上げて柵を跨ぎ越そうとした。
え――
箸を落とす。美沙は右足を柵の向こうに下ろすと回転して、左半身も向こう側に行かせてしまう。
柵の向こうはほとんど足場がない。
飛び降りると直感した。
弁当を落として、駆け出す。
美沙の体が傾いていく。
――足がコンクリートから離れる寸前で美沙を羽交い締めにして引き戻す。
「早まんなっ」
叫んだ時、美沙がハッとしたように柵をつかんだ。
渾身の力で美沙を抱え上げる。
美沙が自分で体重を支えて、急に軽くなった。
「ゆっくり、ゆっくりでいい、こっちにこい」
ガクガク震えている美沙を落ち着かせる。
しっかりと美沙の腕をつかんで、柵のこっち側に引き込んだ。
柵を乗り越えた美沙はフラフラと倒れ込んだ。
両手と両膝をつき、肩で息をしている。
もう少しで死ぬ所だった恐怖を今頃感じている様子だ。
やがて美沙は顔を地面に擦り付けるようにうずくまると嗚咽を始める。
なんて声を掛けていいのかわからなくて黙っているしかない。
アホの子の美沙が死のうとするなんてよっぽどのことだ。
僕が施設を出たことでは死ぬほど悲しまないだろう。やはり部活のことで苦しんでいる。
もうすぐ昼休みが終わる頃、美沙は泣き止んだ。
顔を上げて袖で涙を拭く。
「ありがとう。虎児郎」
「助けるのは当たり前だ。どうしたんだよ」
ようやく会話をすることができた。
「なんでもない」
美沙はうつむく。
「はぁああ、んなわけないだろ、飛び降りようとしておいて。部活で悩んでるんだろ」
「言えない」
「何でだよ」
「他の部員に迷惑がかかるから」
こっちは美沙を見ているのに美沙は目を合わそうとしない。
「美沙が死ぬほど追い詰められるほど部活が大事か。おかしいだろ。目を覚ませよ」
「もう大丈夫だから」
美沙は僕の制止を振り切って去って行こうとする。
「全然大丈夫に見えないぞ」
「虎児郎にまた命を助けられちゃったね」
美沙はそう言って走って行ってしまう。
言われてみて、忘れていた記憶が蘇ってきた。
小学3年生の時、僕は美沙の命を救っていた。
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