23 先生は僕を好きすぎる
三限目の後の休み時間に穂香ちゃんのスマホに連絡を入れる。
<今日のお昼いい?>
すぐに穂香ちゃんからは
(๑>◡<๑)
という返事がある。
恥ずかしいけど嬉しいんだな。
僕も恥ずかしさでいっぱいだ。
だけどこの恥ずかしさを乗り越えていくのが大人になるってことだよね。
待ちに待った昼休み。ご飯は後回しで、静かに教室を抜け出す。
待ち合わせ場所は三階の非常口。
時々後ろを振り返って誰も付けていないことを確認しながら階段を登っていく。
三階は理科準備室とか社会準備室とか、物置きになっている部屋ばかりで人気はない。廊下の奥に進んでいく。
壁に背をもたれて、穂香ちゃんが待っていた。
「さ、先に来てたんだね」
ドキドキしながら声を掛ける。穂香ちゃんは顔を赤くして、
「ちょっとでも虎児郎君といたいんだもん」
と呟く。可愛すぎる。
穂香ちゃんは水色のワンピースに白のカーディガン。ゆったりとした服で隠しているけど、やはり胸がおっきい。
「こっちに来て」
穂香ちゃんが非常口のノブを回す。ドアが軋む音を立てながら開いた。
「ふふん、非常口を開けても通報されない仕組みだって確認してあるんだ」
穂香ちゃんは得意げだ。教師の権限で事前に入念な調査をしているらしい。
外は鉄製の非常用階段。
校舎の裏手で校庭の外れだから静かである。
周りは樹木ばかり。樹の影になってここは下から見えなさそうだ。
「ここなら人目につかないでしょ」
「確かに」
柵越しに周囲を見渡して納得する。
振り返ると穂香ちゃんがおずおずとすり寄って来る。
「虎児郎君……寂しかったよ」
ゆっくり抱きつかれる。僕も腕を穂香ちゃんの背中に回して撫で撫でする。
「なかなかお召しがないから嫌われたと思ったよ」
「そ、そんな訳ないじゃん」
甘えるつもりなのに穂香ちゃんが甘えてくる感じだ。まあ悪い気はしないけど。
「よかったぁ」
穂香ちゃんはぎゅーと抱きしめてきた。
胸が当たって、マシュマロみたいな感触が伝わってくる。
柔らかいなあ。なんで女の人ってこんなに柔らかいんだ。
「先生になって良かったなぁ。虎児郎君と毎日学校で一緒だもん」
穂香ちゃんはしみじみしている。僕はもう平静を保てなくなってきているというのに。
「あのね……」
穂香ちゃんは顔を真っ赤にする。
「なに穂香ちゃん」
「わ、私のファーストキス……虎児郎君にしてもらえませんか」
穂香ちゃんが顔を少し上げて唇をすぼめる。
そして目を閉じた。
僕にキスされるのを待っている。
どうしよう。
ここでキスしないのはおかしい雰囲気だ。
正直、僕もしたいでしょ。
僕は衝動を理性で抑えきることができず、穂香ちゃんとのキスに踏み切ることにする。
「で、では」
ゆっくり顔を近づけていく。
ずっと覚えていられるようファーストキスは長い時間をかけて味わいたい。
カン カン カン カン カン カン
耳に金属音が入ってくる。
何の音かわからないけど出所は遠くない気がする。
カン カン カン カン
あれ、音が近づいてない?
真下から聞こえてくる。
誰かが非常階段を駆け上ってきている音?
穂香ちゃんの頭越しに階段の下の方を覗き込む。
人の後頭部、髪の毛が見える。
ポニーテールだ。女の子がすぐそこまで来ている。
慌てて穂香ちゃんを突き飛ばすようにして離れる。
穂香ちゃんもびっくりして後ろを向く。
階段を踏み鳴らしてきた女の子は走って僕たちのいる踊り場までやってきた。
体操服姿で大きな胸を揺らしながら。
ポニーテールに見覚えがある気がしたけど、美沙だ。
まずい所で出くわした。
「あれ、虎児郎、こんなとこで何やってんの? 穂香ちゃんも一緒?」
美沙は軽く足踏みしたまま、首を傾げている。
「み、美沙こそ」
とっさに言い返す。
穂香ちゃんと抱き合っていたところは見られていないと思いたい。
「私は自主トレだよ」
美沙は事もなげに答える。
「え、えらいな」
「この階段のアップダウンがいいのよね。虎児郎たちは何してるとこ?」
美沙と口を利くのは久しぶり。最近、クリスタルのことで頭がいっぱいだったからな。美沙のことを忘れてしまっていた。
偶然にして、不幸な事故だ。
まさか非常用階段が美沙の自主トレ場所だとは。
穂香ちゃんの下調べが甘かったと言わざるを得ない。穂香ちゃんを横目で見ると、しょぼーんとしている。
「そ、それは」
上手い言い訳を思いつかず口ごもる。
「あ、あのね、先生は非常口の点検をしなくちゃいけなくて、一人じゃ見落としがあるといけないから虎児郎君に手伝ってもらってたの」
穂香ちゃんも何か言わないとヤバいと感じたのだろう。しかしその言い訳は苦しい。
「なんで虎児郎と?」
美沙は当然の追求をしてくる。
「こ、虎児郎君は優しいからお願いしたら快く引き受けてくれて。他の生徒はちょっとあれだから」
穂香ちゃんは引き攣った笑顔で言い繕う。カス高の生徒は北○の拳のザコキャラみたいのばかりで手伝いなんかしてくれないと言いたいのだろう。あながち間違いではないが。
「他の先生に頼めばいいんじゃ?」
「あははー 他の先生は手が空いてなくてね」
笑ってごまかそうとする穂香ちゃん。
マズい。非常にマズい。
普段、人がいない非常口にいただけで密会してたことはバレバレだ。
えっちなことしてたでしょう――美沙にジト目で追及されそうでドキドキする。
「うん、この階の扉は異常なし」
穂香ちゃんはわざとらしく扉を指差し確認する。
「は、はい、確かに大丈夫ですね」
苦しくても穂香ちゃんに合わせるしかない。軽く確認のふりをしておく。
しかしこれはかえって怪しまれる。
「つ、次の階に行こ、虎児郎君」
穂香ちゃんは逃げ出すように焦った感じで美沙の横をすり抜けていく。
「じゃあな美沙」
軽く別れの挨拶をして、穂香ちゃんを追いかけようとする。
生徒と付き合ってるのがバレたら先生はクビだよね――そう言われかねなくて、心臓が止まりそうだ。
美沙が口を開く。一体何を言われるかと思いきや――
「大変だねー」
口調には疑っている様子が全くない。
美沙は昔から聞いたまんまを信じる、ぶっちゃけアホの子だ。
相変わらずで、心底ほっとする。
美沙は追求することもなく、ジョギングを再開。折り返して階段を降っていく。
「た、助かった」
僕も穂香ちゃんも胸を撫でおろした。
途中の階で、「異常なし!」と猿芝居をしながら降りていく。
美沙は黙々と階段のアップダウンを繰り返しているので、何度もすれちがった。
やっぱりバレるんじゃないかと、めっちゃドキドキ。作り笑いがしんどい。
校庭に降りて、木の陰に隠れる。
穂香ちゃんと深呼吸する。
「虎児郎君、ごめんね、私の下調べが甘くて。次こそは」
穂香ちゃんは再挑戦したいようだ。
「もう止めようよ、学校でイチャイチャするのは」
僕がそう言うと穂香ちゃんはこの世の終わりのような顔をした。
「ぐすん」
「学校はさすがに危なすぎる」
見つかったのが美沙で助かった。他の生徒や教師だったら即アウトだ。
このスリル感がたまらないっていう人もいるんだろうけど、小心者の僕はとてもじゃないが楽しめないとわかった。
幸運は二度続かない。諦めるのが賢明だろう。
「私って虎児郎君の何の役にも立てないダメな子。捨てられちゃうんだ」
「そ、そんなことないよ」
「本当?」
「別の機会に、どこか別の場所でってことで」
曖昧に答えておく。
「う、うん……わかった」
穂香ちゃんは残念そうだけど、またチャンスがあるとわかって納得したようだ。
「それじゃあ、僕は昼飯食べるから」
逃げるようにして、教室の方へ早足で向かっていく。
さて、どうしたもんかね。穂香ちゃんとの関係は……
学校だと誰かに見られる心配があるから、せいぜいキスまでだ。
だが穂香ちゃんの部屋で密会すると最後まで行ってしまいかねない。そして穂香ちゃんの今後の人生に責任を取らないといけなくなりそうだ。
だが、ここは前向きに考えるよう。
穂香ちゃんはお嫁さんになれたらもちろん喜んでくれるだろうし、奴隷にされても嫌ってわけでもなさそうだから。
決める権利を持っているのは僕。
どっちに転んでも、楽しそうだと思って、一人でニヤニヤしてしまった。
さあ、どうしようかな。
もっとエッチな描写をしていたのですが、「なろう」では規制が厳しいようなので、泣く泣く割愛しました。
エッチに頼らずとも、面白くできますよう精進して参りたいと存じます。
たくさんのブックマークやご評価をいただき、ありがとうございます。心の支えとなっておりますので、今後も投稿を続けたいと存じます。




