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12 社畜たちの猛攻

 夜、穂香ちゃんの家で、僕はテレビを食い入るように見ている。

 どのチャンネルでも、タイガーチャイルドファンド叩きが始まった。


 若い女性キャスターが、60歳くらいの経済評論家の男に問いかける。

「タイガーチャイルドファンドが、クリスタルは下請けイジメを止めろ言っています。下請けイジメはあるんでしょうか」


「下請けが安く部品を作ってくれなければグローバル競争に負けてしまいます。当たり前のことをやっているだけです。タイガーチャイルドファンドが言っていることは子供じみています。はっきり言ってバカですね」


 経済評論家は偉そうにのたまう。

 僕はバカと言われて、ムッとした。


 下請けイジメは当たり前って言ってやがる。

 バカは貴様だ。お前が下請けで働いてみろ。


「なるほど。クリスタルは下請けと力を合わせてグローバル競争を勝ち抜いているところ、とんだ邪魔が入った形ですね」

「自動車生産がストップすれば、下請けもみんな大打撃を受けます」


「一体どんなことになるんでしょう?」

 女性キャスターが心配そうにする。


「何万人もの労働者の給料が下がったり、解雇されたりします」

「た、大変なことですねぇ」

 わざとらしく大げさに驚いてみせる女性キャスター。


「クリスタルが傾けば、この隙に韓国などの自動車メーカーが進出してきて、日本の基幹産業である自動車産業が他国に奪われてしまいますっ」

 経済評論家の言葉に、女性キャスターは大きくうなずいてから


「被害は自動車産業だけで済むんでしょうか?」

と問い返す。


「自動車産業は化学、機械、鉄鋼産業などから幅広く部品を買ってますからね。それらが軒なみダメになってしまいますっ」

「ものすごい悪影響があるんですね」


「ええ、モノづくり国家日本の崩壊です。タイガーチャイルドファンドは日本を破壊するテロリストと言ってさしつかえない」

 はああ、僕がテロリスト!?


 日本を破壊しているのはヴォルフの方だろうがっ


「ファンドの金の出所は、中国か韓国という噂があるようですが」

「絶対にそうでしょう。日本人のやることではありません。日本人だとすれば非国民、反日左翼です」


「これだけの大騒ぎを引き起こしながら、ファンドのオーナーは正体を現わしていません。怪しいですね」

「表に出て来れないのは後ろ暗いことがあるからですな」


「顔を見せて、ちゃんと説明しないといけませんよね」

「やい、極悪人の卑怯者め。姿を現せっ」


 経済評論家はカメラに指を突き出して、怒鳴った。

 ジジイがうっせーよ。


 しかし……急に暗雲が漂ってきた。


 穂香ちゃんが渋い顔でリモコンを操作する。

 別のチャンネルのテロップには「クリスタルの自動車生産がストップ!? 絶対許せない!」とある。


 女性のリポーターが、煤で汚れた町工場の前に立ってマイクを構えている。

「クリスタルに自動車のネジを納入しているという町工場です」


 工場の中の様子が映る。工場の人たちは暗い表情で、うつむいて作業をしている。


「ここでは家族で朝から晩まで働いてネジを作っています。社長の話では、クリスタルにネジを売ることができなくなれば、首を吊るしかなくなるそうです。タイガーチャイルドファンドは、こちらの町工場で働く人たちのことを考えているのでしょうか?」


 穂香ちゃんがリモコンボタンを連打する。

 社長が首吊り自殺に追い込まれるなんていう話を僕に聞かせたくないようだ。

 

 画面が切り替わり、今度はクリスタルの工場で働く人達のデモ行進の様子が映された。 


 横断幕には『タイガーチャイルドファンドは敵対的買収を取り下げろ』とある。

 プラカードは『日本から出ていけ』とか『反日から日本の雇用を守れ』とある。


 リポーターがデモの参加者達にマイクを向ける。

「工場の生産がストップすれば残業代がもらえなくなります」


「家のローンに子供の教育費が払えませんよ」

「クリスタルが私たちを守ってくれて、老後になんとかやっていけると思っていたのに」


「タイガーなんとかのせいで、めちゃくちゃだ」

「警察はタイガーの首謀者を早く逮捕してほしい」


 全員が悲壮感を漂わせて、怒りをぶちまける。

 矛先が僕に向かっているとわかるのでいたたたまれなくなる。


 なぜ、怒りはヴォルフに向かわず、僕に向かって来るんだよ……

 何百億円もの報酬を取っているヴォルフに当たれよ。みんな社畜すぎだろ。


「ひどい言われようだね……」

 穂香ちゃんがため息をつく。


 床には新聞がいくつも散らばっている。

 どの1面もタイガーチャイルドファンド叩きで、日本で一番の話題になってしまった。


 突然これほどの反響を呼ぶとは思っていなかった。


「出る杭は打たれる……日本では秩序を乱す奴は、悪い奴っていうルールがありますので、悪者扱いされるのは仕方ないかもしれませんが、これはひどい……」

 お父さんもうめく。


 悪いのはクリスタルなのに、いつの間にか悪いのは僕ってことになっている。

 

 穂香ちゃんもお父さんも僕に同情的だけど、僕自身は困惑している。


「……クリスタルで働いている人たちが巻き添えになるのは本当だよな。こんなことして良かったのかな」

 自分がしたことながら頭を抱える。


 ヴォルフに仕返ししてやりたいという短絡的な感情で始めたことだから、あまり考えていなかったといえばそれまでだ。


 今になって、大勢の人生を狂わせることだったと気づかされた。

 町工場の社長が首吊り自殺すると、敵対的買収に勝っても喜べない。


 元来、僕は気弱で、イジメられっ子なのだ。

 みんなから攻撃されると自分が悪者だと感じてしまう。


 画面が切り替わり、クリスタル社員の五味田という糸目の男が出てきた。

 五味田はヴォルフ社長のメッセージを読み上げる。


「クリスタルはタイガーチャイルドファンドに対して、裁判に訴える用意がある。正当性はクリスタルにある。他にもありとあらゆる防衛策を発動する。5兆円の資産を有するクリスタルにファンド風情が勝てると思わないことだ」


 言葉に威圧されて、部屋が静まり返る。

 

 当初おとなしかったクリスタルは、ここにきて牙を剥いてきた。


 テレビで叩かれまくることに加えて、クリスタルが猛反撃してくると、たじろいでしまう。


 上杉さんは簡単に勝てる相手ではないと言ってたけど、状況は厳しくなっていると感じる。


 僕は金持ちになって、毒島やブラックバイトをやっつけたし、穂香ちゃんやお父さんの会社を救った。

 それで調子に乗っていたようだ。クリスタルはこれまでの敵とは次元が違う相手なのだ。


 どうすんだよ、上杉さん……

作者も社畜なので、気持ちはよくわかります。

しかし、主人公を勝たせます。

今後もお読みいただきますと大変ありがたく存じます。

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