表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

101/171

14 マウンティング

 翌日の教室。

 最後の授業前の休み時間。


 翔が机の上に座って、そばに立つダチと大声で話していた。


「俺さあ、今月の小遣いもらったばっかなんだよな。50万だぜ」

 薄い札束をヒラヒラする翔。


「まじかよ」

 ダチが驚いてる。


 毎月その額をもらっているとは信じ難い額だ。

 父親に無理言って出してもらったのを自慢したくて、周りに聞こえるように話しているのだろう。


「放課後に豪遊しようと思っててさぁ、カラオケ行こうぜ」

「いいねえ」


「行きたい奴、全員におごってやるぜ、ははっ」

 翔は得意げにぶち上げる。


「よっしゃー」

「ゴチになるぜ、翔」


 取り巻きのダチから歓声が起こる。


「すっげえ、カラオケ貸切にできんじゃん」

「持つべきものは上級国民様の友達だよなあ」


 騒いでいるのは男子ばかりだ。


 翔は周りに視線を走らせていた。


 表情には不安が混じっている。

 翔は女子の反応を気にしている。

 手を挙げる女子は出てこない。

 

 僕は耳を澄ましていた。

 女子の声が耳に入って来る。


「どうする、翔とカラオケ行く?」

「行こっかな……」


「でもさぁ翔に付いてったら、虎児郎様が気を悪くするかもよ」

 最近のクラスの女子は、僕と翔を天秤(てんびん)に掛けている状況のようだ。


「どうせ虎児郎様は相手にしてくれないしね」

「彩音もウザすぎだし。マジで彩音なんかのどこがいいんだろ」

「行っちゃおっか、翔とカラオケ」


 ふむ。上級国民風情(ふぜい)が調子乗ってるのは腹立たしいな。

 ちょっと格の違いを見せつけておくか。


 クラスの連中は僕が、女子バレー部専用体育館を寄付したり、温泉旅館のオーナーになったことを聞いている。

 

 かなりの金持ちになったとはわかっているが、1兆2千億円も持っているとは思わない。

 翔は50万程度で張り合えると思ったとは愚かなことだ。


 僕は彩音の席の方まで歩いて行く。

 翔はすぐ後ろの机に腰掛けて、緊張の面持ちを向けている。


「彩音」

「なあに、虎児郎♡」

 彩音は語尾にハートマークを付けてくれる。


「今日の放課後付き合ってくれよ」

「部活ない日だからいいよ。どこ行くの?」


「そうだな。ヘリコプターに乗って、伊勢湾にでも行って来るか。アワビとかイセエビを食って来ようぜ」


「ふえぇ」

 彩音があんぐりした。


 ヘリコプターで外食のプランは、穂香ちゃんといつか行こうと思ってたんだよね。

 穂香ちゃんには悪いけど、翔にマウンティングするのに使わせてもらう。穂香ちゃんとはまた今度、神戸牛でも食べに行こう。


「嫌かな。それとも高い所、苦手?」

 僕が確認すると、彩音は首を振る。


「もちろん行くよ。虎児郎って、さすがよね」

「よし、じゃあヘリを予約しとく」


 僕は自分の席に戻る。


 着席して、耳を澄ます。

 女子の(ささや)きが聞こえてきた。


「やっぱ、翔とカラオケに行くのやめとく」

「だよね」

「虎児郎様すごすぎ」


「翔なんかで諦めたらダメだべ」

「あたし、虎児郎様が彩音と別れるのを待ってよっと」

 

 翔に目をやると、翔はがっくりと首を垂れていた。


「まあまあ、俺たちが行ってやっからよ」

 ダチが翔の肩に手を置いて慰めている。


「俺らはずっと心の友だぜ」

「女子の分までゴチになってやっからよ」


 翔は、たかられているだけな感じ。哀れだな。


 僕は男子におごってやる気は全くないからね。

 翔はせいぜい男子の人気者になるがいい。


 ふふ、次元の違いを見せつけてやったぜ。


 僕はスマホを取り出して、緒方銀行の木下支店長に電話する。


「お電話ありがとうございます。今日はどういった御用でございますか」

 猿顔の支店長はいつもどおり慇懃(いんぎん)な応答。


「ああ、支店長、放課後にヘリに乗って外食に行きたいんだ」

「は……」


 銀行はヘリコプター屋じゃないことは僕も知っている。

 いきなりの話で、支店長は目が点になっていることだろう。


「カス高のグラウンドにヘリを呼んでくれるかい、あと45分くらいでね」


「ひえええ」

 うめかせてしまった。


「行先は伊勢湾なんだけど、ダメかなあ。ダメなら他の銀行に相談するけど、ふふ」

 僕は意地悪く笑う。


「い、いえ、か、必ず、なんとかいたしますので。電話を切らせていただきますっ」

 支店長は半ばパニック状態で電話を終える。

 

 急きょ翔にマウンティングするためとは言え、かなりの無茶振りをしちゃったな。

 ハラスメントの一種かもしれん。

 

 そういえば僕はコンビニでバイトしていた時、カスタマーハラスメントする客が大嫌いだった。

 モンスターカスタマーのジジイはボコってやったがな。

 

 僕自身がカスハラをやっちゃいかんな。支店長を苦しめるのは今回だけにしておこう。

 

 周りを見渡せば、クラス中の人間が僕を驚異の眼差しで見つめている。

 電話の相手は銀行の支店長だとわからなかっただろうけど、(あご)で使った感じだったからな。

 

 最後の授業が終わる。

 チャイムが鳴り響く中、ヘリコプターの爆音が近づいてくる。


「マジでこっちに向かって来るよ」

 天使が窓から身を乗り出して指さしている。


 木下支店長、グッジョブ。

 短い時間でよくぞヘリの手配をしてくれた。やってくれないと僕が恥を掻くところだったからな。

 

 白い機体のヘリがグラウンドに着陸して来る。

 めちゃくちゃうるさい。


 何事かとグラウンドの周りに、人だかりができ始めている。

「さ、行こう、彩音」


「うん」

 彩音と僕はリュックを背負って、教室を出て行こうとする。


「虎児郎様、私も連れてってください」

 桃らギャル達が出口の前に立ち塞がる。


「翔とカラオケに行ったらいいだろ」

「やだなあ、虎児郎様、翔なんかどうでもいいですよぅ」


「あんたたち、どきなさい」

 彩音はギャルどもの中に突進して掻き分ける。僕は彩音に続く。


 もみくちゃにされながらも、何とか教室の脱出に成功。

 

 廊下を走る。

 振り返ると、ギャルどもが追いかけてくる。


「待ってください、虎児郎様」

「あたしもヘリに乗せてー」


「しつこいな、ついてくんなっ」

 僕は後ろに向かって叫ぶ。


「まったくもう、せっかく私が頑張って、あいつらが寄って来ないようにしてるのにさ」

 左横を走る彩音が苦笑する。


「すまん……そこまで頭が回らなかった」

 僕は、翔にマウンティングしたくてヘリを呼んだ。


 しかし、ギャルどもは僕がものすごい金持ちだと再認識。

 諦めかけていた僕のハーレム加入願望を燃え上がらせてしまったようだ。

お読みいただきありがとうございました。


宜しければブクマやご評価をよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ