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【完結】アイギスの歌姫  作者: 星輪 慧


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舞台に輝く神の盾と星座の人形たち2

 ライブが始まってからいくつかの曲を歌い終わり、ライブもいよいよクライマックスといった時だった。突然なにかに反応したようにカナリアの動きが止まる。


「すまない、二人共。情報部から連絡だ」


 カナリアはそう言って通信機の相手と何かを話していた。


「なに?そうか……致し方ないな……」


 数十秒の通信の後、カナリアはそう言うと通信機をポケットにしまった。そして、しばらくとしないうちにカナリアは雫の元へ駆け寄った。


「……ってことなんだ。申し訳ないが………だな」


 葵は遠くて途切れ途切れにしか聞こえなかったが、雫の様子を見るにいい知らせではないのだろうと察した。


「みんな〜今日は本当にお疲れ様!名残惜しいが今日のライブはここまでだ!」


 その言葉を聞いて葵は驚く。


「えぇ!?ライブ終わっちゃうんですか!?まだまだ楽しめると思ったのに……」


「すまない、だが緊急事態なんだ分かってくれると嬉しい」


「もしかしてまたヴァーグですか?」


「いや、そうではないよ」


 カナリアの言葉に葵は困惑した。ヴァーグじゃないなら一体何が理由でライブを中止するのだろうか。


「みんな〜今日はこの後ここで別の催しをするから早く帰るんだぞ〜」


 雫の言葉にファンたちは名残惜しそうに会場を去りはじめた。


「それで?一体何が遭ったんです?ヴァーグじゃないみたいですし」


 舞台裏に移動した葵は雫になぜ中止したのかを聞いてみた。しかし雫もカナリアも多くは語らず、落ち込んだ…とまではいかないが残念そうな顔をしていた。いや、あるいは集中していたのかもしれない。


「……来るぞ」


 タブレットを見つめていたカナリアがそう言うと、先程まで葵達が歌ってたステージで爆発音がした。その音は瞬間的にとんでもない衝撃が走ったのが一瞬でわかるほど大きな音で、隕石が落ちてきたかの如き轟音だった。


「様子を見に行くぞ」


 どこか不安そうながらも、落ち着いた顔持ちで雫は葵達を引いてステージに向かった。



「なんだよ、もう終わっちまったんかよ」


「ここまで来たのに……無駄な時間だった……」


「何を言っているんですか?まだアイギスはいるでしょう。どれだけ脳が足りてないんですか、あなたたちは……」


 三人がステージにたどり着くと怪しい雰囲気を醸し出した女が三人佇んでいた。会話しているのは分かったが何を喋っていたのかは上手く聞きとることができなかった。


「何者だッ!」


「ここは立入禁止ですよ〜お出口はあちらで──ってうわぁぁっ!?」


 3人の女のうちの一人が葵に向けて何かを放ってきた。運良くそれは顔の横をギリギリで外れていったが、葵は突然のことで頭が回らなかった。


「ありゃ?外しちまったか。最近暴れてねぇからな、鈍ってるみたいだな」


 さっき葵に向けて何かを放ってきたワイルドな女は残念そうにそういった。もし仮にあれが顔面に直撃したらどうなるのだろうか。葵はそう考えると急激に恐怖が支配しようとしてきた。


「何者だといっているッ!話さないのであればこちらから行くぞッ」


 盛大にビビっている葵とは反対に雫は物怖じすることなく勇敢に立ち向かっていた。そしてやがて、返答がないのを確認した雫は殺気を放った。


「来い!マルコシアスッ!」


 そう叫ぶと雫の身をアイギスが包んだ。雫のマルコシアスは葵が初めてみたアイギスだ。その姿は葵にとって、自身を守ってくれたあの時と変わらず、勇敢でかっこいいものに見えた。


「私達も続くぞ」


 カナリアの言葉ではっとする。雫が勇敢に戦おうとしているのだ。


 ビビっていてどうする……もう守られるだけの存在じゃないんだと。


「来てっアロケル!」


 葵とカナリアはアイギスを纏い、カナリアはやる気のなさそうな女に、葵はメガネを掛けた女に突撃する。いくら敵といえど相手は人間だ。殺すわけにもいかないので、葵は剣を抜剣しその峰を思いっきり叩きつけようとした。


「んなっ!?」


 刃と女の首が激しい火花と金属同士がぶつかり合う音を立ててぶつかりあった。そう、”金属音”である。


「バレてしまいましたか……まあもとより隠すつもりなんてありませんが…」


 その言葉を聞き、一旦葵達は一箇所に集合した。

 

「なるほど、ただ丈夫な肉体だと思っていたが……まさか傀儡くぐつとはな」


 雫のその言葉にワイルドな女は不機嫌そうな顔をした。


「テメェ……よくも俺達をただの傀儡と……ッ」


 ワイルドな女に続いてメガネの女も口を開いた。


「まあライブラ。一回一つきましょう。……ここらで自己紹介でもしましょうか。私たちは"星座の乙女人形ゾディアック・メイデン傀儡などと侮らないでください」


「ゾディアック……」


 葵は考えた……ゾディアック・メイデン?星座の乙女人形?もしかして八舞の言っていた星座と関係があるのだろうか。


 人形……それは生きた肉体を持たない者。つまり人間はないのだろう。ならばためらう必要はないのだろうか、などと葵が考えているとカナリアが一歩前に出て3人の女に問いただした。


「貴様らの目的とその力について教えてもらおうか。でなければここで壊れてもらおう」


「目的なんてのはただ一つだ。母さんの夢を叶える……それだけだ」


「夢?その夢とは何だ?」


「そんなのテメェらに言うわけ無いだろ」


 その言葉を聞くと、その瞬間カナリアは殺気を再び放った。カナリアの殺気に思わず葵も冷や汗をかいてしまう。鉛のように思い空気が辺りを支配した。


「まるで答えになっていないな。であるならば……」


 カナリアは銃を構えて引き金を引くと同時にその弾と同じ速度で短剣に持ち換え、突撃した。


「へえ、おもしれぇ……久しぶりに楽しめそうだ!」


 ワイルドな女がにやりと笑うと短剣をまるで身を払い飛ばすように弾いた。


 カナリアはそれに対抗するように、弓を何発も連続で打ち込む。メロファージの集合体が矢の形になって放たれる。しかし矢はワイルドな女に華麗に弾かれてしまう。先程からまるでカナリアの攻撃が通じていない。

 私は絶望した。あんなに強いと思った…天井が見えないと思ったあの強さを女たちは当然のごとく上回っていたからだ。


 無数に放たれた矢の中に一本光り輝く矢が見えた。ワイルドな女は気がついていないのか、その矢を他の矢と同じように地面に払い落とした。


「……かかったな」


 カナリアが笑うと光り輝いた矢は爆発し、女を煙で包み隠した。


「スコーピアスッ!」


 メガネの掛けた女が叫ぶ。「安心しな」と煙の中からメガネを掛けた女にスコーピアスと呼ばれていた、ワイルドな女が出てきた。


「ほう、倒し切れないか…なかなか面白いじゃないか」


 カナリアが再び銃を構える。


「そこらでやめにしましょう」


 メガネの掛けた女の言葉に、私たちだけでなく、味方であるはずの女たちも呆気にとられていた。


「私達の目的は装者の殺害でもアイギスの破壊でもないでしょう。これ以上戦っていても時間の無駄でしょう」


「はあ?ざけんな!せっかく久しぶりにいい相手を見つけたってのによ」


「私はめんどくさい……帰れるなら早く帰りたい。でも言い出したのはライブラ自身……」


「チッ仕方ねぇな……」


 ワイルドな女は納得のいっていない顔をしながら渋々と脚をチャカチャカと鳴らした。

 それに続いて他の二人も力をため始めた。そしてためた力を開放するようにして、天高く飛び上がった。


「逃がしてなるものかッ」


 雫は逃げようとする人形たちを捕まえようと飛び上がる。雫の手が寸前まで近づく……が、しかし後数ミリというところで雫さんの落下が始まった。


「逃げられちゃった……」


 葵がぽつんとそう言うとカナリアは申し訳無さそうな顔で二人に謝った。


「ど、どうしてカナリア司令が謝るんですか!?」


「あそこで仕留めきれなかった私の落ち度だ」


「いや!私が弱かったからです……だから謝らないでくださいよ」


「そうだな……済まなかった」


「気にしないでください。そんなことよりも今から本部に行ってパーティーでもしましょうよ!」


 完全に忘れていたが今日はユニットの初ライブの記念日、つまりは祝うべき大切な日だ。パーティーをしない選択肢などないだろう。


「まったく、ウイング本部をなんだと思っているんだ……」


「司令、私はモンブランを所望します」


「おいおい、私が払うのか……」


「当たり前ですよ、リーダーなんですからっ!」


 カナリア司令は「そうか…そうだな……」と納得した様子だった。


 その後葵達はカナリア司令の奢りでケーキを買って帰るのだった。

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