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【完結】アイギスの歌姫  作者: 星輪 慧


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ウイング

 夏祭りの事件から1週間後。

 ヴァーグについて詳しく説明を受けた葵は今雫の所属している組織の本部に来ていた。


「いや〜まさか海上にこんなでかい建物があったなんてびっくりだよ」


「ああ、普段は小さい事務所で活動しているからな。私自身も本部に来るのは久しぶりだ」


 葵の隣にいる雫はそういった。葵はネットでしか見たことないが、雫の事務所もそれなりに大きかったはずだ。


「葵ったら海に浮いてるからって船酔いしちゃだめだからね」


「それは……まあ、リバースしないように頑張る!」


 もちろん琴音も隣で歩いている。今日はこの三人で本部に呼び出されていた。


「そう案ずるな。組織の科学者の開発した姿勢安定システムが守ってくれるからな」


「だったらいいですけど……もしそれが嘘だったらここの掃除が大変ですからね」


「頼むから吐かないでね……?」


 どう足掻いても自分の努力でどうなるものではない。葵はその姿勢安定システムとやらが優秀なのを信じるしかなかった。


 葵達はこんな感じで笑いながら歩いた。そう考えるとあの一件から随分立ち直ったものだ。

 

「そろそろ着くぞ」


 雫がそう言うと曲がり角の先に扉が見えた。


「この扉の先には司令官がいるからくれぐれも失礼のないようにな」


「「はいっ!」」


 扉を開くと奥に豪華な椅子に座る女性が居た。


「やあやあ二人とも!はじめましてだな!ようこそウイングへ!!」


 葵は司令官と聞いていたからてっきりゴツい男だと勝手に想像していたが、意外にも葵の前に座っているのは10代ほどに見える華奢な少女だった。まあ司令官というほどならば実際にはそれなりの年齢なのだろう。


「か、かわいい〜〜!」


「神崎!?失礼のないようにといっただろう!」


 葵はあまりの可愛さについ口に出てしまっていた。


「まあまあ雫、いいじゃないか。正直な人間は大好きだ!」


「しかし……」


「それに指揮官といえど正式な軍でもないんだからな。所詮ごっこ遊びのようなものだ」


 そういえばこの組織は一体何なのだろう。軍でもないのにこんな海上にあることを変だと思った。


「そういえば二人には挨拶がまだだったな。私の名前はカナリア・アルバドル。このウイングのリーダーだ。気軽にカナリア司令とでもよんでくれ!」


「私の名前は白川琴音です。今日からよろしくお願いします」


「私は神崎葵です、よろしくお願いします」


 挨拶が終わり、ふと葵は疑問に思う。この人って実際何歳なのだろうか、と。しかし女性に年齢を聞くのは失礼なので聞かないでおくのが吉だろう。


「………君たちに言い難い話がある、きっと辛い話だけど聞くかい?」


 突然カナリアが暗い顔をした。それに雫もなにか察したようにうなだれた。


「聞かせてください……」


 琴音が口を開く。葵もそれに続いた。

 葵達にとって辛いこと、葵にはそれは何となく察しがついていた。 


「君たちのいた幸兼高校のことについてだ」


「やっぱりあの学校に何かあったんですね……」


 夏祭りの事件の翌日から高校から休校のメールが届いていた。内容は事故等などと詳しく書かれていなかったが、きっとあの事件が関わっているというのは事件を知っている人からすれば、それは火を見るよりも明らかだ。


「正しく言えば、あの学校の生徒達に何かあったんだ」


(生徒たち?もしかしたらあの時………)


 葵は自分でも顔が青ざめていってるのが分かった。


「現在、幸兼高校の生徒の約八割が行方不明となっている」


 あぁ、やっぱりそうだ。冷静に考えればわかるじゃないか。

 地元の夏祭り、それは高校生にとっては夏休みの中で最も楽しみな行事の一つだ。つまり高校の生徒の八割が集まるのは必然的だ。


「そんな……」


「あの時現れたヴァーグについてラボに詳細を調べてもらったんだが、どうやら新種のようだったみたいなんだ」


「あぁ、私も今まで戦ってきて初めて見るやつだった。それにあの規模の破壊力……、今までのどのヴァーグとも比べられないものだ。正直恐怖だった」


 雫がどれだけ戦ってきたのかはわからないが少なくともあの戦いぶりからして相当数のヴァーグを倒してきたのだろう。そんな雫ですら恐怖するヴァーグ……。あんなのが大量に発生したら日本はどうなってしまうかは想像にもつかなかった。


「いろいろ思うところはあるかもしれないけどとりあえず二人はラボに向かってくるといい。ヴァーグについてはラボの人たちがよく知ってるだろう」


 そういうとカナリアは葵に一枚の地図を渡した。


「え……ちょっ…え?」


 見るとその地図はとんでもなく複雑な構造をしていた。道が複雑に入り組み、ところどころ部屋が被さっているように見える場所もある。


「今が司令室で……こっちからいけば…いけないなぁ?じゃあこっちか?違うなぁ?」


「司令、ここは私が案内しても良いでしょうか?」


 雫が救いの手を差し伸べる。そうして葵たちはラボに向かうのだった。



 ラボに向かってる途中、葵はあの日のことを思い出していた。

 克服したつもりだったが、どうやら葵の心はまだ認めるのを拒み続けてるようだ。今日の話を聞いて更に思うところが増えた。……やっぱり亡き人たちの魂を背負って生きるしかないのだろう。


「浮かない顔をしているな神崎。同級生の身を案じているのか?」


「あはは、そんな顔にでてました?」


「葵ってわかりやすいんだから」


「……そうだな、面白い話をしよう」


 面白い話、今までの流れ的に葵にはどんな内容か予想もできなかった。


「司令のことについてだ」


「カナリア司令ですか?なんだか物腰柔らかなひとって感じでしたけど」


 実際、喋り方に癖はあるのもののイントネーションや語気の節々にやさしさを感じれた。


「司令はああ見えてセイレンなんだ。あの人のアイギス裁きといったら、そりゃあもう感激だ」


「えぇ!?カナリア司令ってアイギス使えるんですか!?なんか意外だぁ……」


 カナリア司令のアイギス、あの美少女がアイギスを身にまとえばどれだけ可愛いのだろうか……5日は見てみたいな。


「どうだ?面白い話だろう」


「確かに、なんだか意外というか?……というかセイレンって大人でもなれるんですか?」


「雫さんってまだ二十歳前ですよね?」


「ああ、たしかに私は18だが……もしかしてなにか勘違いしてないか?」


 勘違い?一体何を勘違いしているのだろうか?


「司令はまだ16だぞ?」


「「え……?」」


 葵と琴音の声が重なる。


(いやいや待て待て、16歳!?それじゃあ同い年じゃん!?)


「アイギスよりも年齢のほうが衝撃……」


 そうこうしているうちにラボと書かれた部屋についた。


「失礼します」


 ラボに入るとそこには白衣を着ている人が3人居た。


「やあ天音さん、久しぶり。後ろの二人が例の二人ってことでいいかな?」


 葵たち声をかけてきたのは爽やかなイケメンだった。


「お久しぶりです、秀治さん」


「天音さんは元気そうで何よりです。はじめましてだね、神崎さんに白川さん。私はこのラボのリーダーをしている八舞秀治です」


 第一印象はとても良い人だった。だがそんなことはどうでもよかった。


 なぜかといえば、さっきから雫がやけにデレデレしているからだ。頬は軽く赤みがかってるし、口調もいつものとは異なっている。


「ほぉ〜ん?へぇ〜〜?」


「やめろ、こっちを見るな神崎ッ!」


 やはりそういうことなのだろう。かっこいい雫さんになかなか可愛いところもあるんだな、と思った。


「……?なんだかわからないけど、とりあえず話を始めようか」


 八舞が仕切り直すと雫は一瞬で真面目モードに戻った。


「アイギスについてのことなんだけど、難しい話だから何となくで聞き流してもいいからね」


 そう言い、八舞はアイギスについて話しだした。


「アイギスは隕石の力を利用したってのは聞いてるかな?セイレンという特殊な少女が歌を歌うことで発生する特殊なエネルギー波であるメロファージをアイギスを通して身に纏うことで身体能力を向上させる……簡単に言えばこんな仕組みかな?」


「何となく分かったんですけど、雫さんは一度も歌ってませんでしたよね?どうしてなんですか?」


 確かに琴音の言う通りあのときの雫は歌っていなかった。


「メロファージは体内に蓄積されるんだ。あのとき天音さんが変身できたのはそういうことだよ」


(なるほど?)


「スマホの充電に例えるとわかりやすいと思う。バッテリーがあるうちは起動できるけど、なくなると電源がつかなくなる」


「てことは充電しながら、つまり歌いながら戦えばずっと戦ってられるてことじゃないですか!我ながら私って天才!」


 スマホのバッテリーだって充電し続けてれば途切れることはない。もしかしなくとも本当に最強の戦術を思いついてしまったかもしれない、と葵は思う。


「神崎さん、スマホのバッテリーで考えてご覧。充電しながら使うとバッテリーが劣化するでしょう?歌いながらの戦闘は自分の身に高い負荷を与えてしまうんだ」


「うぅ、確かに?」


「でもいい着眼点だよ。もしかしたら負荷に耐えられるようになったらそんな未来もあるかもね」


 なるほど、と思った。なんだか難しいけどとにかく歌いながらはダメってことなんだな。


「さて、ここで神崎さんには聞きたいことがあるんだ」


「聞きたいこと?」


「神崎さんは自分のアイギスの名前を知っているかい?」


 自分のアイギスの名前。そういえばあの時に名前を叫んだような気がする。

 葵はなんとか思い出そうと頭を捻る。だが考えても名前は一向に出てこない。記憶力の問題なのだろうか?などと考えていると……


「アロケルって言ってたと思います」


 琴音がかわりに答えてくれた。あの状況で覚えていられるなんてさすがは琴音だった。


「そうか、アロケルか……」


「秀治さん?神崎のアイギスがどうしたんですか?」


 雫は問う。


「いや、別にどうってことはないんだけどね。ただ序列52位か……」


「序列?序列ってなんのことですか?」


「アイギスには明確なモチーフがあってね、ソロモンの悪魔というのがモチーフになっているんだけど……例えば天音さんのアイギスはマルコシアスで序列35位。司令のアイギスはバルバトスで序列は8位なんだ。もちろん身にまとっている者の身体能力や技術によって左右されるけども大体の強さはこの序列で決まっているんだ」


(……ってことは私は三人の中で一番弱いってこと!?)


「なんかショック……」


「気にするな神崎。アイギスの性能なんて己の実力でどうとでもなるものだ」


「そうだよ葵。私は例え葵が序列52位のクソザコアイギスでも応援し続けるよ」


(フォローになってないし棘がありすぎるよ…?)


「実際に35位の天音さんでも8位の司令と互角に渡り合えるくらいの実力差ですから。神崎さんも努力次第ではどうとでもなりますよ」


「だといいですけどぉ……」


 葵はウイングに所属してから、先の不安が募るばかりであった。

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Xから飛んできました。 どきどきですね・・宇宙人 歌の力で 続きゆっくり読ませていただきます。 よろしければ感想いただければ幸いです。 評価ブクマ入れておきました! 2期もあるんですね楽しみです。
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