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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
短編之弐『閑話 小話 無駄話』
67/267

ヴェローチェの休日

発行:まおうぐんつーしん編集部




 長く空を支配していた闇が終焉を見せ、徐々に夜が白み始める頃。

 荷馬車無き街道の脇にある大きな林の中に、一際太い木が二本あった。高さも相応にあり、てっぺんまで上ればきっとこの林を含む一帯を視界に納められるほどだろう。

 そう、その二つの木の天辺付近を繋ぐように、白い糸が見える。

 よく見ればあれは糸ではなく網だ。その上に人が横になっているところをみると、おそらくはハンモックであろう。魔獣の蔓延るこの街道の、さらに尋常ではない高さの場所に気持ちよさそうに眠っている、肝の据わった一人の少女。


 彼女こそ、ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィア。

 本日の主役となる少女である。


「ふわぁぅふ……」


 ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィアの朝は早い。一つ小さくあくびをしてから、その常に眠そうな目をとろんと開き、そして


「……おやすみなさぃ」


 ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィアの朝は終わる。もそりと寝返りを打って、気持ちよさそうに再度彼女は眠りについた。



【カンペ】番組が始まらないから誰か起こして。あの子起こして





 =TAKE2=


 長く空を支配していた闇が終焉を見せ、徐々に夜が白み始める頃。

 荷馬車無き街道の脇にある大きな林の中に、一際太い木が二本あった。高さも相応にあり、てっぺんまで上ればきっとこの林を含む一帯を視界に納められるほどだろう。

 そう、その二つの木の天辺付近を繋ぐように、白い糸が見える。

 よく見ればあれは糸ではなく網だ。その上に人が横になっているところをみると、おそらくはハンモックであろう。魔獣の蔓延るこの街道の、さらに尋常ではない高さの場所に気持ちよさそうに眠っている、肝の据わった一人の少女。


 彼女こそ、ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィア。

 本日の主役となる少女である。

 彼女は、とても良く眠る。人に優しく起こされるまで起きることはない、お姫さまなのだ。


 本日はヴェローチェ自身が野外での宿泊になるため、スタッフの一人が起こしにいくこととなっている。導師たるもの、そのあたりの高貴さがなければやっていけないのだ。スタッフの一人が駆けていき、彼女の居る木に触れた瞬間に蒸発した。


 あー……ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィア、流石は導師というべきか、身辺警護は万全を期しているようだ。



【カンペ】木に触れずに起こせ。グリフォンのスタッフが居たはずだ。



=TAKE3=


 長く空を支配していた闇が終焉を見せ、徐々に夜が白み始める頃。

 荷馬車無き街道の脇にある大きな林の中に、一際太い木が二本あった。高さも相応にあり、てっぺんまで上ればきっとこの林を含む一帯を視界に納められるほどだろう。

 そう、その二つの木の天辺付近を繋ぐように、白い糸が見える。

 よく見ればあれは糸ではなく網だ。その上に人が横になっているところをみると、おそらくはハンモックであろう。魔獣の蔓延るこの街道の、さらに尋常ではない高さの場所に気持ちよさそうに眠っている、肝の据わった一人の少女。


 彼女こそ、ヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィア。

 本日の主役となる少女である。

 彼女は、とても良く眠る。人に優しく起こされるまで起きることはない、お姫さまなのだ。


 本日はヴェローチェ自身が野外での宿泊になるため、スタッフの一人が起こしにいくこととなっている。導師たるもの、そのあたりの高貴さがなければやっていけないのだ。スタッフの一人であるグリフォンが、空からハンモックに近寄った瞬間プラズマで消し炭になった。


 あーっとこれは……ええっと……姫の眠りを上から妨げることなかれという、彼女なりの啓示であろう。さすが、導師という立場を理解している御仁である。



【カンペ】もういい、ヴェローチェが起きてからロケスタートで。これ以上スタッフの犠牲を増やすな。




=TAKE4=


 日が上り切る少し前の時間帯。

 空腹が我慢しきれなくなったスタッフが四人でパーティを組みモンスター狩人に出かけてからしばらくして。


 ボウガン担当が三回瀕死になってクエスト失敗して帰ってきた。


















【カンペ】だから!? ヴェローチェはどうしたの!?


 やー、なんか。いつの間にか居なくなってます。


【カンペ】十連肉焼きとかしてるからだろスタッフ全員で!! 探してこい馬鹿共が!!







=TAKE5=


 おやおや? 野生のヴェローチェが、木の上でスクロールをめくっているようです。


【カンペ】カットカットォ!!


 えっ。自分かみました?


【カンペ】これそういうドキュメンタリーじゃねぇから!! あと何だ野生のって!! そうじゃないのも居るんですかァ!?


 え、魔王軍のヴェローチェさんが居るじゃないですか


【カンペ】じゃあこいつ誰だよ!?


 いや、見つからなかったのでスタッフで代用を


【カンペ】さてはテメエ魔王軍通信舐めてんだろ!? ちゃんと探してこい!!






=TAKE6=


 ところで魔王軍の"車輪"ユリーカの朝は早くぺっ!?


【カンペ】今・日・は・ヴ・ェ・ロ・ー・チ・ェ・の・特・集・と・言・っ・た・は・ず・だ





=TAKE7=


 もうすぐ日が落ちる、日没直前のこの時間帯。

 スタッフはとうとう木の上でのんびりとスクロールをめくるヴェローチェ・ヴィエ・アトモスフィアとの接触に成功した。


Q:本日は何をされていましたか?

A:え、突然なんですかー。今日はお昼頃からお散歩していましたけどー


 趣味はお散歩のようである。

 魔王軍という殺伐とした環境に居ながらも、心は健やかでいようという心構えの現れであろうか。


Q:何か良いことはありましたか?

A:ちょっかいかけてきた奴消しとばしたことですかねー。前々から鬱陶しかったのでー


 訂正、より殺伐に満ちた散歩であった。やはり人間といえども魔王軍の導師という存在である以上は殺戮に脳内を支配されるものなのであろうか。


Q:このあとのスケジュールは?

A:そうですねー、おうち帰って研究の続きっすかねー


 魔王軍の導師たるもの、やはり魔導に関しての研究は怠っていないようであった。


【カンペ】ここ最近噂の妖鬼について聞いて


Q:ここ最近噂の妖鬼についてどう思いますか?

A:ここ最近……というとシュテンでしょうかー。次の四天王候補ということで目をつけていますー。あとは、そうですねー、個人的には……、あいえ、なんでもないですー


 感情の読みとりにくい彼女であるが、微妙に口角がつりあがったのはスタッフにもわかった。噂の妖鬼という存在は、魔界の面々にも負けず劣らずの実力を秘めているということだろうか。そして、彼女の言いかけた言葉の真意は、どこに。


【カンペ】そこもっと詳しく


A:ああでも、ブラウレメントたちと仲良くやれるかという問題はありますが

Q:そこもっと詳しく

A:え。いや、単純に相性が悪そうだなと思っただけの話ですがー、何か。

Q:や、何でかはわかりませんが詳しく

A:く、詳しく……? ブラウレメントは多少鼻にかけるところが多いというかプライドが高いのでー、あっけらかんとしつつも実力は間違いないシュテンが入ってくると不和の元になるのではないかとー。


 なるほど、人材同士の軋轢を生まないようにすることも、導師の仕事であるようだ。

 だてに魔王軍のナンバー3ではないということであろう。


【カンペ】違う! ブラウレメントなんざどうでもいい!!


Q:違う! ブラウレメントなんざどうでもいい!!

A:えっ。いや今きみが聞いてきたんじゃ……ああシュテンの話ってことですかー?


【カンペ】本人にカンペのまま伝えてどうすんだバカが! 「個人的には~」の後を聞けってんだよ!!


Q:個人的には、なんですか?

A:えっ。こ、個人的に? シュテンを?

Q:ええ、個人的にどうするんですか?

A:ど、どうするっていう質問もなんだか凄いと思うんですけどー


【カンペ】気付け!! テメエの発言セクハラになってんだよ!! 導師戸惑ってるだろうが!!


Q:セクハラにならない程度に教えてください

A:なんですかそのいかがわしい一歩手前を教えろみたいなー……え、もしかして色々魔界全体に誤解されてませんかー?

Q:誤解されるようなことをするんですか?

A:や、してないんですけどー


【カンペ】なんでそこぐいぐい行くんだよ!!


Q:ぐいぐい行ってます?

A:え、や、だからそういうんじゃ……


【カンペ】導師に聞き返したみたいになってんじゃねえか!! リポーターてめえマジぶっ殺すぞ!?


Q:殺されそうなんでお答えいただけると幸いです

A:え、なにきみ誰かに脅されていまこんなことしてるんですかーっ?

Q:お願いします。五人の妹が居るんです。まだ働ける歳じゃないんです

A:……うちで働きますー? たぶん給料いいっすよー?

Q:えっ、ほんとうですか?

A:ついでにそんなふざけたことする奴ぶっちめといてやりますよー

Q:ほんとですか。あんまり恨みはないんですけどストレス解消にはなるんでおなしゃす


【カンペ】え、なにこのながれ


A:わかりましたー。あの辺ですかねー


【カンペ】あ、ちょ、やめっ


A:えい


【カンペ】ぎぃやあああああああああああああああああああああああああああ!!


 ……。


 ……。


 ……。


Q:ところでさっきの質問なんですけど、その妖鬼のこと好きなんですか?

A:や、えっと……まー……多少気になっては……居るのかもわからないくらいっすねー


 煌々と燃える炎の中、彼女はいつものように無感情に口角だけをあげた。

 だが、記者には少しだけその頬が、赤らんでいたようにも見えるのだ。


 それが燃え盛る炎のせいなのか、それとも彼女の感情の発露なのか、それは誰にも、わからない。



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― 新着の感想 ―
[一言] 哀れカンペは爆発四散!
[一言] カンペぇぇぇぇぇぇぇ!
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