表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之玖『         』
260/267

エピローグ 女神の聖域 『匂坂天童』

本日二話更新しております。


四年間、長々とかかりましたが今まで応援本当にありがとうございました!

後日談を除けば、本編はこれで完結です!


本はあとがきまで読む方だという方は、活動報告に掲載しております。

是非、ご覧くださいませ。





――同時刻、帝国書院書陵部。




アスタルテは来るべき未来に薄く微笑み、来年の仕事に手をつけた。




――同時刻、イブキ山頂上。



イブキは杯を片手に空を見上げた。そろそろ朝焼けを肴に飲めるはずだ。




――同時刻、世界各地。



何かが終わったことに気が付くことなく、世界は今日も回っている。












エピローグ『匂坂天童』













「えっ。魔王を倒すのにテツとクレインくんが最高のコンビネーションアタックってマ?」



 シュテンは一人絶望の中に居た。


 アホな妖鬼を囲むように、グリモワール・リバースの面々は戦いの余韻に浸っている。


 魔神との戦いを終えて、力尽きるように倒れたシャノアール。

 そんな彼を介抱するタリーズと、そしてなけなしの魔導で治癒の応急処置を施したヤタノ。


 けれど、それでも。

 死者が一人も出ないまま全てを終えられた安堵に、皆がしばしの休息を得ていた。


 というか、動けなかった。

 魔界六丁目跡から熱の気配は無くなり、今はただ荒れた廃墟の群れがあるだけのこの場所は、もう居る意味がない。


 だというのに、この場に居る多くの仲間が最早立ち上がる気力も無くなっていて。


 レックルスは「送りましょうか」と気を利かせていたが、なんとなく、皆がそれを断った。


 ぼんやりと見上げれば、天井をぶちぬいた遥か先に美しい朝焼けの日差しが差し込んでいる。


 払暁の団が暴れた結果、こうして夜が払われ暁を得たというとどこか皮肉な話だが。


 しかしそんな風情に、本来一番浸っていてもおかしくない男は、わなわなと震える指先で――まずそばかすの少女を指さした。


「そんな浪漫なやり取りで、テツと仲良くなった、と?」

「仲良くなったっぽい? そうでもないっぽい」


 少女――ベネッタは小首を傾げ、とぼけたようにそう言った。


「仲良くなってない、と言われると流石に少々傷つくじゃああらんせんか!?」

「ま、でも。明日が晴れて良かったっぽい」

「それはまあ、確かに」


 ほっとしたように空を見上げるベネッタを、シュテンは愕然とした表情で見送って。ついで、 


「からの、魔王城でその吸血皇女の嬢ちゃんと、シャノアールがカッコいい大立ち回り?」

「かっこいいってほどではないよー」


 ひらひらと、面倒臭そうに手を振る吸血皇女――ミランダ・D・ボルカ。

 綺麗なドレスを身に纏っているというのに、地面に転がって突っ伏している。

 その時点でシュテンは「こいつなんか面白そうだな」とは思っているのだが、かなしいかな今は色々なショックでそれどころではなかった。


「でもまぁ……あの時のシャノアールは、かっこよかったと認めてもいいかなー……」

「が、ぐぅ、ぐぎぎ」

「なにこのひとめっちゃおもろい……」


 名状しがたいポーズを取って苦しむシュテンは、そのまま隣に目をやった。


「それで……弁解を聞こうじゃないかリュディウス君……」

「弁解をするようなことは何もないが。……いやそんな目で見るな。ただ、クレインがどんな時でも先陣を切り、そして俺もその一助になれたというだけだ」

「リュディったら、『この俺を見ろ、魔王!! 光の神子だけが脅威だと思ってんじゃねえぞ!!』だって。かっこよかったよ、ちょっと」

「うが、ぐぎ。げげげげご」

「え、ちょ、せんぱい!? 大丈夫!?」


 ハルナ は ヒール・ブレス を となえた!

 なにも こうか は ないようだ!


「……」

「そんな、死んだ魚のような目で見られてもぼかぁ何も面白いことはあらあせんが?」

「ほ、ほんとうか……?」

「……強いて言うなら、ミネリナの為にもここで死ぬわけにはってぇだけの話で。

『わたしは誰よりもきみを待っているよ』なんて言われたら」

「わ、わー!! ちょ、テツ! 公衆の面前でどうしてこう、恥じらいはどこに置いてきたんだい!?」

「恥じらいなんて、事務所を下着でうろついてる吸血皇女にもあらんせんが」

「ちょっ、ゆ、許さないから――ってああ!? シュテンが真っ白に!?」


 真っ白に燃え尽きた男は、ふと視界に入った少年に顔を上げた。


「テツさん、カッコ良かったです!」


 燃え尽きた男は息が止まった。


「僕が何をしたいのか、全部分かってるって感じで! テツさんの鎗をお借りして、魔王を倒すことが出来たんです!!」

「――」


 男を横目に見たモノクルの青年が、ニヒルな笑みを見せる。


「心臓の鼓動が止まったか」

「嬉しそうに言わないであげてよデジレ……」


「あ、主さま……!?」

「おお……フレアリール、か……お前は、何もなかった、よな……?」

「はい、何もありませんでした! 主さまに心配を掛けぬよう、おじ様を守護し、あの童女たちも守り切り、何事もなく全てを終えましたわ!!」

「かはっ」

「主さまああああああ!?」


 頼みの綱の吸血皇女にもトドメとばかりに話を貰い、シュテンはとうとう朽ち果てる。


 なぜ、なぜ、と譫言のように呟く彼の言葉の意味を、しかしフレアリールは理解していない。曇り切った曇りなき眼は、シュテンが何者かの魔導に侵されているのではないかと必死で解析を掛けるが、無意味である。


「……もうこれ、放っておいたほうが良いのでは?」

「ヤタノちゃん……どこに行くつもりだ」

「ひっ」


 何かを察してその場を離れようとした金髪の童女の着物の裾を、太い指がぐわしと掴む。どこにそんな力が残っているのかとツッコミたいヤタノだったが、そうは鬼神が卸さない。


「いえ、あの。まあ、絶命覚悟で踏み込んだら、案外何とかなりましたとだけ。もう無茶はしないと、約束させられちゃいました」

「あばばばばば」

「どこかで聞いたような発狂台詞ですね」


 あらあら、と袖を口元に当てるヤタノ。しかし、その口角が引きつっているのは誰が見ても分かった。


「……むしろ、これは全部伝えてあげた方がよさそうっすねー」

「……ぁぁぁ……」

「虫の息ですねー。うける」


 死ぬことはないだろう、と高を括って、ゴシックドレスの少女は笑った。


「まあほら、わたくし街の守備に当たっていたのですが、中々に住民が元気でして。守ってやるって言ってんのに、中々不満げでしてー。でもお爺様のモノマネをしたらイチコロでしたー」


 ぴーす、と無気力に指を二本立てた少女に、シュテンの首が落ちた。――ような幻覚を覚えた。


 そして、その隣に居た桃色の少女が口を開く。


「パパとママに会えたよ」


 シュテンは死んだ。


「……もう、意識は無かったけどね。だから、乗り越えられたっていうのかな。うん、頑張れた。全部、シュテンのおかげだよ。ありがと、シュテン」

「おーおー、我が姉ながら、むごいことをしますねー」

「あんたが全部言えって言ったんでしょ!?」


 仲睦まじい姉妹喧嘩が目の前で展開されているというのに、シュテンには最早天使がお迎えに来たようにしか見えず。


「ま、まあまあユリーカちゃん、ヴェローチェの嬢ちゃんも落ち着いてください。シュテンの目が虚ろです」

「……ばぁ、がぁ、やぁ」

「誰がバーガー屋だてめえおいコラこの野郎!! 意識朦朧でもこれかよ!!」

「レックルス。シュテンは、お前は何かないのかって言ってるのよきっと」

「言語の壁!?」


 嘘だろ、と目を丸くするレックルスだが、別に隠すようなことでもないかと嘆息する。これで仮にシュテンが倒れようが、自分だけの責任ではないのだし。


「俺が避難誘導したらよ、みんな、帰れることを心配してねえってさ。後で、迎えに行ってやらねえとな。導師が倒れてる間、介抱してやらなきゃならねえし」


 へへ、と鼻の下をこするバーガー屋。

 シュテンは白目をむいた。


「……シュテン、大丈夫?」


 ぺしぺし、と割と容赦なく頬を叩く、同じ妖鬼の少女。

 シャノアールの容態も良くなって、しかし今度はシュテンが死にかけと聞いて来てみればこの始末。

 まあ、死にはしないだろう。そんなことを思ってはたいてみれば、虚ろな瞳がタリーズに向けられる。


「タリーズの活躍が聞きたいって」

「……わたしの? んー」


 姉貴分のユリーカにそう言われては、答えるしかないだろう。

 口元に指を当てて考えること数秒。シャノアールをちらりと見てから、笑って言う。


「……わたしもできたよ、恩返し」

「アッ……」


 シュテンの呼吸がまた止まった。

 その顔面は蒼白であり、何故か頬がこけているようにすら見える。


 最後まで締まらないヤツだなと鼻で笑うデジレを見て、ジュスタは何かを閃いたようにシュテンの元にやってきた。


「ねえねえ聞いてよシュテン。デジレもね、カッコ良かったんだよ! 危ないところに現れて、その時ね、こう、ばさばさって背中のIIが見えてね、だから、その、ほら! 同じ仲間だよ! ね!?」

「いやそれは違う」

「なんでこのタイミングで息を吹き返すの!?」

「モノクルハゲは殺す」

「なんか魔導人形みたいになってるし!?」


 しかしその活力も長くは続かず、ふにゃふにゃになっていくシュテン。


 その背中に、ようやくパン、と手を叩く少女の姿。


「はいはい、もうその辺にしときなさい。仕方ないでしょ、見れなかったもんは見れなかったもんで」

「……だしっぽ」

「ヒイラギって呼びなさいよそこは!!!!」

「……」

「はあ……私もなの? ……べつに大したことはないわよ。必死に戦って、みんな頑張って、あんたが来て全部終わった。それで、幕引き。良い大団円よ」


 それでいいでしょ?

 そう、軽く鼻を鳴らすヒイラギに、シュテンは小さく息を吐いた。


「……さよか。まあ、そうか。仕方ねえか」

「すまねえ、兄貴」

「お前のせいだけじゃねえよ、親父」


 ぽん、と互いの肩を叩く妖鬼と豪鬼。


 一瞬、その場に居た全員が、シュテンが何を言っているのか分からず。


 一息置いて、魔界六丁目に響き渡った。





『親父いいいいいいいいいいいいいい!?』





「え、ちょ、お、お義父様って呼んだ方が……」

「なにをそわそわしてるんですかねうちの姉」

「ていうかそもそも親父と兄貴って呼び合い成立しないでしょ!?」

「? 親父と兄貴なんだろう?」

「黙ってるっぽいド天然」


 やいのやいの。


 うるさいくらいに騒ぎ立てるグリモワール・リバースの面々という喧しい目覚まし時計に、さしもの導師も目が覚める。


 そうして視界の先に見た、陽気な妖鬼を囲んだ愉快な仲間たちの大騒ぎを見届けて。ボロボロなみんなの笑顔に、勝利を確信したシャノアールは、シガレットを一つ咥えると。


「……全部、終わったね」


 立ち上る紫煙を見つめて、やり切った笑みを見せた。


 全ての舞台を整えて、魔界の全てに幕を引いた。

 やり切った。やり切ったのだ。

 だから、ようやく眠れると、目を閉じようとしたシャノアールの耳に響く声。


「終わったらまた何かが始まるよな!!」


 見れば、シュテンを中心にみんながシャノアールの方を見ていた。


 ああ、なるほど。どうやらまだ、眠らせてはくれないようだ。


「そうだね、幾らでもお膳立てしよう、このボクがね」

「最高だぜ。さて、次は何をしようか。今回置いてかれた分も、派手なことをしねえとな!!」


 拳を突き上げるシュテンはどうやら完全に復活した様子。

 その背中に、どうにもまた楽しいことが起きそうだと、シャノアールも思わず笑う。


 眠らせてくれない。眠るわけにはいかない。


 彼の浪漫譚は、まだ始まったばかりなのだから。












 グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~






 Epilogue



















――数百年後。女神の聖域にて。



「それで?」


『祝』の一文字が描かれたTシャツ一枚。

 女神は対面に座る男と共に、ぬくぬくこたつに入って言葉を交わしていた。


「ああ、人生楽しかったよ。いや、鬼生か。けどまあお前と最後に会った時が、一番クライマックスには相応しかったかねえ」

「あれ私というか、私じゃないから……」

「一緒だろ」

「……いや、まあ、はい。ご迷惑おかけしました」

「あんなに綺麗に、草薙渡して別れたのにな」

「煽るな!! ぶっ飛ばしたくなるでしょう!?」

「やーいやーい!」

「ああああああああああああああ!!!」

「お、あの時の叫び声。似てる」

「本人ですからねえ!?」


 はあ、と一息。

 この男には何を言っても無駄だと、分かっていたというのに。


「ま、そのクライマックスが良い思い出になっているなら、それも良いけれど」

「思いのほか優しい台詞じゃねえか。珠片の件はもう良いのかよ」

「回収まで全部あんたがやってくれたでしょうが」

「……なるほど、水に流してくれるってか」

「まあね」


 はぐはぐ、とオレンジを咀嚼しながら女神は頷く。


「死に際も中々だったとは思うけど、やっぱりアレが最高潮だったのね」

「あっちはもう、転生鬼神の浪漫譚じゃあねえからな。だからまあ、あそこがクライマックスだ。でも最高の鬼生だったぜ。後悔はしてねえよ」

「未練も?」

「ない」


 真っ直ぐに向けられた瞳を、逆に覗き込むように女神は見返した。

 どうやら嘘はないようで、女神は素直に感心する。

 波乱万丈な人生だった。

 ぽつぽつと櫛が欠けるように、友達と呼べるような人々は殆どが死に絶えた。

 けれどこの男に後悔も未練もないという。


 本当に、前を向くのが上手い男だ。


「そ、なら鬼神シュテン。……匂坂天童(さけさかてんどう)。お疲れ様」


 これが、人生の終わり。

 また新たな人生があるかもしれないけれど、彼の、彼としての人生は今度こそ本当に終わり。電車に轢かれて、この世界にやってきて、色んなことがあって、また死んだ。もう、コンティニューはない。


 そんな意味を込めての言葉を、彼が分からないはずがないというのに。

 納得したように手を打って、シュテン――匂坂天童は頷いた。


「……そうか。そうだったな、俺の名前」

「そうよ。貴方の、魂の名」

「まあでも、なんだ」

「ん?」


 小首を傾げて頬杖をつく女神に、彼は笑って言う。


「別に、シュテンって名前も仮じゃねえよ。……きちんとオカンが付けてくれた名前だったからな」

「そう。気に入ったのね」


 そっか。そうねえ。そうよねえ。世界線変えちゃったもんねえ。


 しばらく考えるそぶりを見せていた女神に、彼は目を瞬かせる。

 今のやり取りのどこかに、何か一考するようなことがあっただろうかと。


 その疑問が氷解するのは、女神クルネーアが覚悟を決めたような笑みを見せた時だった。


「なら魂の名前は、二つ。珍しいけれど、まあ構わないわ。そのくらいは、きちんと通してあげる。上の神さまに何を言われても、貫いてあげるわ」

「……魂の名前ってのは、そんなに重要なもんなのか」

「ちゃんと刻んであげないと、貴方がこの先――天国に行くか転生するかは分からないけれど……思い出せなくなってしまうから」

「それを両方、か。……へえ、やさしいじゃねえの」

「あんたに返す恩は、そのくらいしかないからね」


 ぱん、と女神が手を叩くと、こたつが綺麗に消滅する。


 おしまいか、と匂坂天童(シュテン)は笑った。


「じゃあ、匂坂天童……いえ、シュテン」


 ぺこりと、女神が頭を下げる。



 "女神が頭を下げる"という重さを、シュテンはきっとこれまでもこれからも知らないけれど。

 でも、それでいい。それでこそ、いい。



「楽しい鬼神の浪漫譚、お疲れさまでした」


「おう」


 だって、その方が――







陽気な妖鬼の生きざまは、こうして静かに幕を下ろした。


彼の生きたこの世界はこれからも続いていくけれど。


ひとまず、この物語はおしまい。



さあ、それじゃあ。


浪漫の旅路を、軌跡にしよう。








GAME OVER



浪漫の旅路を、軌跡に残しますか?



【YES】 NO





セーブしています。しばらくお待ちください。








■■■■■■■■■■■■■■■■■

■お疲れ様でした。           ■

■このまま電源をお切りください。   ■

■■■■■■■■■■■■■■■■■

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] まさしく一つの長編ゲームが終わったような最高の物語でした!ありがとう
[一言] お疲れ様でした。 しっかり保存しました。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ