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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
『分岐 選択 並行世界』
234/267

エンディングフラグ:白面面白九尾

五話連続投稿しています。こちら五話目です。

※こいつだけ18:00予約になっていたので慌てて投稿。ほんともうこいつ……



得票数 105票 ……うそでしょ。




 ――鎮めの樹海内部。戦場跡地と化した広場の中。



「さて、誰に話しかけようかな」

「あのね。私の顔をまっすぐ見つめながら誰にも何もないでしょうが」

「何言ってんだお前込みで十人はいるだろ」

「これ尻尾!! 顔じゃねえから!!! なんなの!? ここにはヒイラギ一人ですぅ!」

「お前がいなくても尻尾が居ればヒイラキまでは残るだろ」

「この身体において私の存在価値って濁点程度!?」


 なんだってのよいったい。

 ぷんすこお怒りになる相棒に対し、シュテンはけらけらと楽しげに笑う。


「なによ」

「いや。……今回もなんとかなったなって思ってよ」

「それがなんで私に突っかかることにつながるんですかねぇ!?」

「なんでだろうな。正直、俺にもよくわからん」

「大迷惑の権化!!」


 いつまでたってもこの男のスタンスは変わらない。

 思えば本当に、最初の頃からずっとそうだ。

 もうそろそろ、一年前……或いは、もう少し前になるだろうか。

 出会ってからの記憶をたどれば、確かにいつも何とかなる度に遊びに来ていたような気がする。はた迷惑この上ないことだが、でも不思議と。


「……許せちゃうから嫌になる」


 押しも押されぬ白面九尾。傾国の美少女とまで謳われた自分がこうも弄ばれて、苛立たないかと言えば嘘だ。もっと相応の扱いがあるだろうし、まして相手はただの妖鬼だった男。

 幾ら手違いで眷属にされているとはいえ、本来の力関係で言ったら無礼千万。


 でも、いつの間にか鬼神になっているし。

 知らない仲間もやたらと増えて。


 周囲を見渡せば、皆が皆この迷惑の塊と縁を繋ぐ面々。


「まあ一番気楽なんだろうな」

「なんの話よ」

「いや、俺がまずお前で遊ぼうとする心理の話」

「わー全然嬉しくなーい!!!」

「なんで喜ばせなきゃいけねえんだ駄尻尾が」

「こんの駄鬼があああああ!!」


 ああもう。

 頭を抱えてヒイラギはしゃがみ込んだ。

 もっとこう、あるじゃない。


 フレアリールやシュテンから、「一番」だと言われても全然納得がいかない。

 だってそれは、私を――


「で、だ。これから俺たちは魔王討伐のためにここに居るメンツで一丸となってかちこむことになる。一応報告」

「なにそれ。ついてこいってこと?」

「……え、ダメなん?」


 その表情はあまりにも間抜けで。

 ついてきて当然だと思っていた、とでも言いたげな。


 そりゃあ、自分は眷属だ。

 世界中を、あんたを探して回ってきた。今度は絶対離さないとも言った。


 でも。


「なんか用事でもあった? 魔界はアウト的なサムシング?」

「別に」

「……んー。まあでも、乗り気じゃないならしゃーねえか」


 がしがしと頭を掻いて、シュテンは諦めたように「あー」と口を開けて思案に暮れる。


 思ったよりも食い下がってこないというか、あっさりとしたその返答に、逆にヒイラギが顔を上げるくらいには――シュテンの態度は軽かった。


「えっと。シュテン?」

「ん? まあお前が行きたくねえっつうなら仕方ねえべ。遊びに行くわけじゃねえし、このまま突っ込んでもあんまり良いことが起きる気もしないからなあ」


 そうじゃない。


 行きたくないんじゃない。

 私は――。


 ……私は、違う。「一番」って言われても。それが、あんたにとって何の一番なのか分かっちゃってるから、嫌なんだ。

 ――ただの、眷属でしょう。ただの、話し相手……ううん、それにすらなれない玩具だとでも思ってるんでしょう。だから、今もそんなに自然に、私に了承なんて求めなくて。


「んじゃシャノアールに伝えてくるわ。俺とヒイラギは別行動って」

「あ、待っ……へ? あんたも?」

「え、なに、違うの? ……はぁ!? お前まさか俺と一緒が嫌なの!? 嘘でしょ!?」

「ち、違う違う違うから!! そういうのじゃ、ないから」

「なんだお前駄尻尾の癖に」

「うるっさいわねえ!! って違う! どういうつもりなのよ!」

「どういうって……お前が集団行動苦手だって言うから別行動にしようかなと」

「誰がそんなコミュニケーション出来ない子みたいなこと言ったかしらねえ!?」


 なんだこいつ。とばかりに呆れた様子でシュテンがヒイラギを見つめる。


 まるで会話がかみ合ってない。普段のおふざけとは全然違う、寂しくなるようなすれ違い。


「……違うの」

「な、なんで泣く!? え、いや、なんかそんな要素あった今!?」


 気づけば、自然とこぼれていたらしい涙が頬を伝う。

 ……別にこんなに弱くなったつもりは無かったのだけれど。


「泣いてない」

「嘘下手とかいうレベルじゃねえな!!!」

「……あのさ。シュテンにとって、私ってなに」

「大事な眷属だよ。前も言ったろ」

「その眷属って……」


 ――どのくらい、大事なの。

 なんて。そんな嫌なことは聞けなくて、一瞬ヒイラギは口ごもった。


 いったい何をしているのだろう。こんなアホ面引っ提げた男を相手に。


「ううん。何でもない」

「なんでもないってレベルの空気じゃなかったろおい」

「私は、着いてきてって言って欲しかっただけよ。……あんたのことだから、もう離れてやらないって言ったのを信じてくれてたのかもしれないけど」

「……そんなことか、たあ言えねえ空気だが」

「私は、眷属だけど。あんたにとって大事な眷属かもしれないけど、でも」


 その前に。


 ヒイラギはここで、言おうか、言うまいか悩んだ。

 以前から、心のうちに秘めては居たこと。いつか、口にすることがあるかもしれない。けれどできれば言いたくはなかったこと。だって、それで関係が崩れてしまうかもしれないから。この人はどう見ても、まるで意識なんてしていないから。


 でも。


「……言ってみれ」


 仕方がなさそうに。優しく、ご主人(バカ)はそう言った。


「……その前に、一応、私だって」


 ヒイラギはゆっくりと、それでいてまっすぐにシュテンを見つめて。


「女の子、なのよ。知らなかったかもしれないけれど」


 その言葉に、シュテンの反応は無かった。

 ただ見つめ返される瞳の色は、以前と変わらぬまま。

 せめて何か一つ言い返しなさいよとばかりにヒイラギの瞳が半眼になるのと、シュテンが嘆息を漏らすのとでは、ほぼ同時の出来事だった。


「なにそのため息」

「いや。お前にゃ悪いが――」


 なんだろう、きゅっと胸が締め付けられる感覚。

 何もかもを失いそうな恐怖、とでもいうのだろうか。思わず小さく震えた唇から、ごまかしの言葉がいくつも浮かぶ。「冗談よ冗談」「私たちはいつも通りでいいでしょ」「本気にしちゃってバカみたい」……でも、そのどれもが喉から外に出てくれない。息苦しい。


「――気づかねえように、してたんだけどなあ」

「へ?」

「本人に言われちゃ仕方ねえか。分かってる。お前が眷属である前に、一人の女の子だってことは。けど、意識しちまうと俺ってばわたわたしちまうからな。悪いけど、もうお前を面と向かって『大事な眷属だ』なんて言えねえわ」

「ええ!?」

「恥ずかしいだろ、女の子相手に」

「反応があんまりすぎる!!!」


 だってしょうがねえだろ。とシュテンは唇を尖らせて、子供のように文句をつけた。


「ゲームやってる時は仲間に女の子が居たら華やかでいいなーくらいに思ってたけど、お前マジあれだからね? 普段から一緒に居る時の色々やばいからね?」

「それで私は『大事な眷属』ってことでスルーしてたってわけ!? 人の気もしらないで!」

「うるせえお前もじゃボケ!! おま、四六時中一緒に女の子いるってお前、どれだけ人の精神削ると思ってんだ!!」


 うがー! と両角を自ら掴んで暴れるシュテン。

 そんな彼を眺めているヒイラギの心中は、ぎゃいのぎゃいのと叫びながらも穏やかだった。

 だって、別に良い。

 男が女と一緒に居て精神削る理由くらい、分かってる。ダテに魅了の呪いがついていたわけではないのだから。


「削らなくていいわ」

「は? お前削らなくていいって別に俺は好きで削るわけじゃ――え?」

「だ、から。削らなくていいっつってんの」

「……お前それ」


 くる、と背中を向ける。

 これ以上は、真顔で正面切って言えることではないから。


「……この後、魔王を倒すっていうのが最後の目標でしょう?」

「ああ、そうだが」

「この戦いが終わったら、話したいことがあるの」







「あ、それダメ」


「はあ!?」



 ぶぶー、と両手をクロスさせたシュテンに、ヒイラギは今度こそ食ってかかる。

 なんでこういう時にまで!! 空気! 空気考えて!!


「や、だってお前それダメだよ。死ぬヤツだよ。今言え、ほら」

「……あんたってヤツはほんとどこまで。もう、知らない。私が女って意識した瞬間にまともじゃなくなるようなヘタレが、まともにこの言葉を受け入れられると思えないけれど」

「……」

「なんで身構えてんのよアホ!!」


 はあ。

 呆れた、と肩を崩して空を仰ぐ。


「なーんでこんなヤツ、好きになったかなー」

「……は?」


 フリーズしたシュテンに、いたずらっぽく舌を出して。

 久々にこっちからからかってやるのだ。


「ほらね?」


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