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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
『分岐 選択 並行世界』
231/267

エンディングフラグ:ヴェローチェ

五話連続投稿しています。こちら二話目です。



得票数 33票


 ――鎮めの樹海内部。戦場だった広場。



 豪快に口を開けて笑う鬼神が拳を突き出すと、爽やかな魔導師が軽く裏拳で応じた。


「ルノアールの動向が分からない以上、ここからは一緒に行動したい。その話をね、みんなにしてほしいんだ」

「にゃるほど、おっけー分かった」


 こつんとぶつかり合う手と手。お互いに楽しそうな雰囲気を隠そうともしない二人を、間近で見つめる少女が一人。


 ……仲良しですねー、この二人。


 眠たげな瞳をさらに薄く半眼のようにして、呆れたとばかりに見つめていれば。

 ようやっと自分を置いていっていることに気づいた祖父が、これはやってしまったとばかりに自らの額をぺちりと叩く。おっさんくさい。


「はぁ」

「おっとっとため息とはどうしたんだ我が孫娘。相談に乗ってあげよう、このボクがね!」

「遠慮しておきますー」


 ひらひらと手を振って断れば、シャノアールは顎に手を当てて――シュテンの方へと目をやった。


「さて、誰に話しかけようかな」

「ああ、そうだシュテンくん」

「んぁ?」

「まったく関係ない話をしていいかい?」

「まあ、別にくだらねえ話なら大歓迎だぜ」

「姉と妹どっちが好き?」

「おっと様子がおかしい」

「魔界で最近話題になっていることでもあってね。ほら、姉と妹だったらどっちが好みかーみたいな」

「魔界終わってんな。姉と妹だぁ? ……要はあれか? 引っ張ってくれるタイプか背中から押してくれるタイプか、みたいな?」

「色々あるだろうけれど、ぶっちゃけ年下派か年上派かじゃないかい?」

「ぶっちゃけすぎだろ。ええ……考えたこともなかったな……」


 キメ顔でシガレットをくわえはじめたシャノアールをよそに、真剣に考えだすシュテン。


 なんで自分が居るにも拘わらずこんな話をしているんだろう。

 なんだかいたたまれなくなってちらりとシャノアールを見れば、ばっちりヴェローチェと視線が合った。なんか、ウィンクかましてきた。今すぐ混沌冥月打ち込んでやりたい衝動をぐっとこらえ、仕方なくシュテンに声をかける。


「あのー」

「んぉっとヴェローチェか。改めておひさ。シャノアールが抱えてったから無事なのはわかってたが、まーなんつーか元気な姿が見れて良かったわ」

「あ、ありがとうございますー。あの人の残した呪縛に気づけなかったのは、わたくしの不徳のいたすところで。はい」

「なぁに、気にするない。喜びはすれど、文句も何もねえよ」


 ひらひらと手を振ってそんなことを言う。

 フラットな雰囲気で笑うシュテンの心には、つい先ほどシャノアールに振られた議題は残っているのだろうか。


「ちょっと、時間貰ってもいいですかー?」

「ん? でっかい話? シュテンさん基本暇だからいつでもどーぞ」

「いえ、ちっさい話ですー」

「そうか。んじゃ軽く聞こうかね」

「わたくしとシュテンの寿命の違いについて」

「でけえよ」


 いやでけえよ。

 二度見する勢いでツッコミを入れるシュテンに、小さくヴェローチェは微笑んだ。


「でけえって思って貰えるんですねー」

「そりゃそうだろお前、いや、だってあれよ? なんか急に寂しくなってきたよ俺ぁ。突然なによ。冷静に考えればそうだけども」

「いえ、ですのでー……まぁ、少し思うところがあったというか」

「思うところねー」

「はい」


 小さく頷く。

 軽く足元に転がっていた拳大の土くれをこつんと蹴って、言葉を探す。


 気づけば、シャノアールの姿は近くに無かった。おそらくは、ユリーカか――或いはアイゼンハルトとでも話しているのかもしれない。


 そう。シャノアールだ。


『――ヴェローチェは、どうしたい?』


 あの日。自分が共和国から脱出させて貰った日に、一つだけ問いかけられた言葉。

 その真意に気づけないほど、ヴェローチェとて抜けていない。


 共和国への旅は、楽しかった。あんな風に自由に、好き勝手に歩き回って、行く先々で迷惑をかけて、けらけら笑って。……そんなこと、初めてだったから。


 この人と一緒なら。

 そう思ったことも、一度や二度ではない。


 けれど。それを続けていくには、どうしても足りないものがあって。

 それは、どうしようもない現実で。


 だから。


「――共和国、一緒に旅した時楽しかったっすねー」

「いやー、楽しかったな!! 思い出いっぱいよ。これぞ旅の醍醐味ってーか、やべえ時もあったし楽しい出会いもあったし、ラストダンジョンと洒落こんだリンドバルマはまさしく突っ込め―! って感じで最高だったな」

「はいー。……でも、それも次で一段落ですー」

「あん?」


 寂しげな色を孕んだその声色に、シュテンの眉がぴくりと動いた。


 魔王城に乗り込む話を真っ先に聞いていたのは彼女だ。

 シャノアールと共に立てた計画であることに相違ない。

 であればこれは何だろう。


 まるで、魔王を倒したらそれでおしまいとでも言っているような。


「――良いじゃねえか。これで終わりでもねえんだし。魔王倒したらまた気ままな放浪の旅が待ってんよ」

「はい。なので、聞きたいのですがー」


 珍しい、緊張の色。

 何故だろうか、妙に紅潮させ強張った表情を帯びて、ゆっくりとシュテンを見上げるその瞳。小さく震える唇は、躊躇いや葛藤を感じさせる弱弱しいもので……ひどく彼女には似つかわしくない。


 何を聞こうとしているのかは分からないが、それでもおよそ彼女にとっては"でっけえ"ことに違いないと、シュテンは次の言葉をのんびり待っていた。別に、急ぐ用事もない。




「その旅に、わたくしは居ますか?」



 告げた彼女の言の葉は一言一句噛みしめるような語調。

 間延びした普段の言葉遣いとは一転した、恐る恐るといったその雰囲気。

 彼女の言葉の意味を、シュテンはしばらく吟味して。


 しかし、決意にも似た感情をにおわせた空気とは裏腹に、その言葉そのものには、シュテンが悩む理由は無かった。


「そりゃそうだろ。共和国での旅が楽しかったっつってくれてんなら、またヴェローチェさえ良ければ一緒に行くべ」


 旅の道連れはあった方が楽しいしな。

 そう快活に笑うシュテンに、ヴェローチェはどこか――助かった、とでも言いそうな安堵の表情だけで返した。


「……え、なに、来るなとか言うと思った的な?」

「いえ、そうでなく……ですねー。わたくしは、貴方とはずっと一緒に居られるわけではないのでー……」

「……さっきのでっけえ話か」


 あー、と耳をほじりながらシュテンは台詞を模索する。

 今となっては実感がない人間の寿命。それと一線を画す己の寿命。


 ただ。

 自分より先に仲間がいなくなってしまうことに関して、シュテンは重く受け止めてはいなかった。


『……一つ約束してちょうだい』

『15個の珠片は最終的に貴方が全部取り込むこと。そのあとでないと、死ぬことは許しません』


『……いいだろ、分かった。取り込んだ連中全員看取ってやるよ』


 シュテンという男は、こと"覚悟"というのはすんなり出来る鬼神だった。

 そういう風に、この旅がさせた。

 全身の皮を剥ぐような激痛も、己を犠牲に仲間を逃がす根性も、未知の世界へ飛び込む意志も。前の世界からこれまでの間で培った、大事な心。


 もう既に、仲間をいずれ失う覚悟は出来ている。


 だから、安心しろい。


「ヴェローチェさんが死ぬまで、俺はずっと隣に居るよ」

「っ……でも、そうしたら貴方は――」

「そりゃあもう寂しいだろうさ。ヴェローチェが居なくなった後は、お前の墓を拝む度にぎゃーぎゃー喚くだろうさ。お前のことを思い出してはアホ面さらしてぼけーっと感傷に浸るだろうさ。分かってる。もう会えない相手を偲んで泣くことは、覚悟してる」

「……」

「んなこと言われたらヴェローチェがどう思うかだってだいたい察してらぁ。けどよ、寿命なんてもんはどうしようもねえんだ。それに、ほら」


 戸惑いと、不安と。

 揺らぐ心と瞳に向けて、シュテンは笑う。


「お前さんから、一緒に来るって言ってくれたんだ。なら一生ずっと旅してまわるのも浪漫じゃねえの。その楽しみに比べたら、後の寂寥だって可愛いもんだ」

「シュテン……」

「そんな顔すんじゃねーよ」


 これから楽しい時間が待ってんだからよ。


 はにかむシュテンに、ヴェローチェは。応えるようにふんわりと微笑みを返して。


「じゃあお言葉に甘えて」


 ふっきれたように悪戯っぽくパゴダ傘を肩にかけ、先ほどと同じ言葉を告げた。


 また、別の意味を込めて。


「ちょっと、時間貰ってもいいですかー?」


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