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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之捌『叛逆 神蝕 片眼鏡』
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第十五話 王都デルカールV 『まさかの更なる邂逅』



「そういやシュテンくん。きみは帝国書院のメンバーと一緒に居るんで?」

「その辺含めてまー色々話はあるんだが……そういやバーガー屋とは会った?」


 大通りを歩く、シュテンとテツ。彼らの友人そのもののやり取りを、ミネリナは一歩下がってにこにこ微笑みながら見守っていた。


 テツミナカンパニーの営業として仕事をしている都合上、取引先やら諸々の知り合いは居ても本当の意味でテツを知っている対等な友達なんていうのは殆どいない。

 シュテンという妖鬼はそういった意味で貴重な存在であった。


 証拠に、ほら。本来であれば今はそんな顔をしている場合ではないはずなのに、フラットな表情でシュテンと会話することが出来ている。思いつめる性質の彼にとって、よほどシュテンの存在――というよりも友達の存在は大きいに違いない。


「バーガー屋……?」

「ほら、あのハンバーガーみたいな見た目の」

「ああ。秤の。随分と気さくな四天王で、ぼかぁ少々驚きましたわ」

「そうか、会えたか。……なら、良かった」


 もしも、忍の孤児院が危機に陥ったらゲートを使ってテツを呼びに行けと言った手前、その策が成功しているかどうかはシュテンとしても気になるところではあった。

 まあ、危機そのものが来なければシュテンがカッコつけた代償に赤っ恥をかくだけで済むこと。そう思って聞いたのだが、案の定"危機"そのものは起きたらしい。


「ちなみに俺の連れは今外で待ってるよ。ヤタノちゃんはじめ魔導司書組に報告するためだけに戻ったようなもんだからな、今は」

「さいで。連れってえと、あの吸血皇女の?」

「フレアリールもいるぜ。あとミネリナに軽く捜索頼んでた九尾もこっちで見つけた。さんきゅーな」

「そうか、自力で見つけたか。良いことだね」

「なんかめっちゃご機嫌だなミネリナ」


 今から吸血皇女量産してるアジトに行くってのに。

 とまでは言わず、シュテンはにこにこしたミネリナから目を離した。


「それはそうとシュテンくん。その壊れた鬼殺し、まだ使ってるんで?」

「んぁ? ああ、これか」


 するりと背中から抜いたのは、柄の部分しか残っていない斧。一見ただの棒にしか見えない代物だが、流石に斧という巨大な頭をのせていたせいかひどく頑丈だ。


 一度はもう使えないと思って山においていったものの、ルノアール戦での窮地を救われて以来またこうして愛用している。


 棒術の心得など欠片も無いが、それは斧に関しても同じこと。

 そう考えれば大した問題でもなく、元気に振るっていた。


 今のところ、山を出てから使う機会がないのは良いことなのか悪いことなのか。


 テツはその棒を眺めて、「手に取っても?」と問いかけた。

 無論、それを拒否する理由はシュテンには無い。


 テツは街道を歩きながら鬼殺し棒をくるくる回したり軽く投げてみたりと色々試していたようだが、最終的に一つ頷いた。


「槍は良いもんです」

「ここまでタメといてお前の推し武器プレゼン!?」

「や、そうじゃあらんせん。単純にこの棒使うってぇことでしたら穂先に槍付けた方がいいって話で」

「あー、斧じゃなくて?」

「……まぁ、これは棒術用の棒じゃないんで、得物として使うなら刃を付けた方がと」

「やっぱり槍のプレゼンじゃねえか!」

「そう言わんでくださいシュテンくん。実際、棒術用の棒じゃあないってぇのは事実でさぁ。身体のバランスがおかしくなって、武術に乱れが出るのはちょお上手くない」

「まあ、そういわれると確かにな」


 斧を新しく付けて貰おうにも当てはない。

 とはいえ、変な癖がついて戦いに支障が出るとまで聞いてはシュテンとしても一考する必要があった。それも、指摘してきたのは神域の武者ときたのだから猶更だ。


「時間がある時にでも工房に寄るかなあ」

「そうしたほうがいいと思いますわ」

 

 うんうん、と頷くテツが、これ見よがしに二本の槍をくるくる回していた。














「へえ、ここが……」

「警戒は厳重だが、だからと言って警報やら罠やらが仕掛けられている様子はなかったな」


 テツとミネリナを伴い外まで戻ってきたシュテンは、待たせてしまっていたフレアリールとヒイラギと合流して地下施設の場所にまで戻ってきていた。


 合流時にまたしても一悶着あったのだがそこは割愛。

 

 魔鋼で構築されたダンジョンともいうべき地下施設の扉を前にして、シュテンは一息ついた。


「一応、案内することにゃ案内したが、どうする? お兄さん着いていこうか? 嫌な予感もするし」

「テツを相手にそんなこと言えるのは今の世の中シュテンくらいだよ……」

「主さまなれば世界で唯一も当然のこと」

「いや誇る部分ではないと思うが」


 困惑気味の目線を向けるミネリナ。自慢気なフレアリールはさておき、シュテンの言葉の真意を測りかねたのか、テツも問いたげにシュテンを見る。


「単純な話で、ミネリナの護衛は要りませんかってこった。ダンジョンの中で人一人守りながら、対人戦力が戦うのは結構しんどかろうと」

「や、シュテンくんが来てくれるならそら願ったり叶ったりっちゃそうですが。シュテンくんにも用事があるんじゃ?」

「まーそうなんだが。かと言って俺としても気になることほっぽるのもなあと。ほら、俺の仲間は頼りになるし。ここに居るのも、向こうに居るのも」

「……仲間、か」


 仲間とはつまり、あの魔導司書たちのことだろうか。

 魔族と敵対する帝国書院書陵部の人間を、妖鬼が"頼れる仲間"と呼ぶ状況。

 それが少しおかしくて、テツは少々口角を上げた。


「そういうことでしたら、世話んなります。ありがとうシュテンくん」

「礼には及ばねえよ、友達だろ」

「ははっ。まったくまったく」


 けらけらと肩を叩いて笑いあう男二人を前に、女性陣は比較的置いてけぼりだ。

 空気に割って入るのも躊躇われるというか、どう話を進めていいかミネリナが考えている中。ヒイラギがあっさりと口にする。


「じゃ、ここの見張りは私に任せなさい。吸血皇女と一緒に向かった方が都合がいいでしょう」

「お、良いのかヒイラギ。悪ぃな」

「そりゃあね。あんたが楽しそうにしてるところに、水を差されるわけにもいかないでしょ。軽く魔素たどって連絡入れられるようにしてるから、気を配っておきなさい」

「なるほど、携帯電話をオンにしておけと」

「ごめん何言ってんのあんた」


 ま、訳が分からないのはいつものことか。

 軽く手をひらひら振って、ヒイラギは地下へと続く扉を開いた。


「さくっと調べてきなさい。フレヴァディール・クロイスだとか、吸血皇女の量産だとか。分からないことだらけではあるけれど、今回もあんたがだいたい何とかするんでしょ?」

「そのつもりだぜっ!!」


 ぐ、とサムズアップするシュテンをヒイラギが鼻で笑う。

 シュテンの「ちゃっちゃと入れー」という声に従って、テツを先頭にミネリナ、フレアリール、シュテンの順番で降りていき、ゆっくりと扉は閉じられた。


「やー、しかしシュテンくん。いい眷属の子ぉで」

「悪いがやるつもりはない」

「あっはっは、あれだけぴったりの息を見せられたらそらあまあ」


 軽口をたたきながらも、周囲の警戒は怠らない。

 先ほど一度シュテンたちが侵入した時の形跡が殆どないところを見ると、一度目の侵入は露見していると見て間違いないだろう。


 前回と同じ道をたどりつつ、進む。

 シュテンにかかればダンジョンのリアルタイムマッピングなどお手の物だ。


「んで、最後にここを曲がれば――」

「シュテンくん、止まれ」

「おぉ?」


 つんのめるように急停止。

 ポッドが大量に並んでいた最奥の部屋までもう少し。

 そこまで迫ったところで、テツが軽く目を開いてシュテンを呼び止めた。


「――二人ほど、笑えない力を持った相手が居る」

「……さっきまで居なかったんだが。やっぱりバレたか」


 テツの真剣な雰囲気にのまれて、フレアリールとミネリナも無言だ。

 軽く壁際に耳を寄せて盗み聞きと興じれば、確かに二人の会話らしきものが聞こえてくる……が、何やら魔導的な迷彩でもあるのか、まったく聞き取れない。


「相手は魔導師か」

「それも凄腕の、で。ぼくの仲間のアレイア・フォン・ガリューシアに匹敵する化け物級が一人。それには及ばないまでもかなりの腕を持った魔導師が一人。……ちょお、このメンツで突っ込むのは――」

「おいおい洒落んならねえぞ。"五英雄"アレイアと同格って、完全に大陸最強格じゃねえか」

「……ま、でも、そこまでの実力ならぼくの知ってるヤツでさぁ」


 右手に青虹、左に偉天。二つの槍を握りしめ、テツはもうしばらく息をひそめる。


 そして、ふと。


「―――は、失礼しますー」


 と、声がぎりぎり聞こえたかと思ったと同時。


 テツの感覚が、一人――二人のうちでは力の低い方が居なくなったのを感知。


「あと一人なら、ぼくとシュテンくんで戦える」

「アレイア級なんですよねえ!?」

「なあに。シュテンくんは、自分で思ってるより強い。心配は無用でさぁ」

「おいおい、そこまで言われちゃ仕方ねえ。フレアリール、ミネリナを頼んだぜ」

「御意」

「よし、行くか!」


 シュテンの気合一喝、壁際から通路に飛び出す。

 ポッドがいくつも並んだ研究室の最奥、フレヴァディール・クロイスのポッドの前に、こちらに背を向けて立つ一人の男。


 背を向けていても分かるその威圧感。

 目の前に居るのが同じ人間だと分かっていても感じるその圧倒的な覇気。


 魔導の最高峰、その一角。


 彼もこちらの気配を感じ取ったのか、振り返ることなく歌うように声を上げる。 


「――この研究は余人の手に余るものだよ。何用で現れたのかは知らないが、とてもではないが見せるわけにはいかないな」


「ははっ……こんなところで再会するたぁ思っちゃおりませんでしたが……久しぶりで。この研究施設を使って、何をするつもりで?」


「ふむ、その声はしばらくぶりに聞くね。けれど、結局また(・・)尻尾を撒いて逃げるのだろう?」

「冗談を。あの時ぁ守らなきゃならないものがあった。今は、違う」

「守るものを失えば強くなれるとでも?」

「いいや? ……ぼくなんざが守らなくても、頼れる仲間がいる」

「ほう! それはそれは、四人のお仲間を失った英雄には甚だ驚きの答えだ。良いだろう、相手になろうじゃないか――」



 テツとその男が、まるで物語最後の戦いのような問答をする中。

 シュテンはアホ面だった。


 なにせ。その振り返った男は。



「――このボクがね!! ってシュテンくんじゃないか!! 久しぶり!!」

「シュテンくんとお知り合いで!?」


 

「なにやってんだよ。シャノアール」















「しかし、あのアイゼンハルト・K・ファンギーニとシュテンくんが"まだ"一緒に行動していたとはねえ」

「あん? ネグリ山廃坑のことは知ってんのか?」

「ああ、まおうぐんつーしんに書いてあったからね」

「あの情報誌意外と侮れねえな」


 予期せぬ再会からしばらく。やれ五英雄と導師の因縁だとか、そういった諸々の話から始まって最近の魔王軍がどうのとくだらぬ座談会になりかけていた頃。


「そろそろ本題に入ろうぜ。シャノアール、お前こんなところで何してたんだ」

「当初の目的は、狂化魔族の解放さ」

「ほー」


 焦げ茶色の髪を掻き上げながらはにかむ彼は、ポッドのコンソールに手を翳しながらこともなげにそう語る。

 曰く、シャノアールはそもそも狂化魔族を救い魔王軍で抱えるためにここまで来ていたらしい。魔王軍としてとらえられた者もいれば、そうでない者もいる。


 共和国領での一件があってから、王国の魔狼部隊を本格的に調べ上げる必要が出てきたと考えた彼は、その流れで"魔族を救出する"という名目を使って王国に潜入。

 狂化魔族を救う傍ら、ルノアールら払暁の団を調べていたそうな。


「……ずいぶんと良心的じゃあらんせんか」

「魔族は身内だからね。このボクにとってはね!」

「人間と袂を別った魔王軍最高の大魔導。……何がお前さんに愛想を尽かせたのかはよう知りませんが……狂化魔族をどうにかしたいってぇ意志だけは本物のようで安心しましたわ」


 テツはポッドに入った吸血皇女たち――ミネリナと同じ姿をした少女たちを眺めながら、つぶやくようにそう言った。

 何度もぶつかり合った相手が、気づかぬうちに共闘相手。そんな境遇が若干複雑なのもある。だが、魔王軍が一枚岩ではないことには気づいていたし――立場上言えなかったとはいえ、彼が人間とあまり変わらぬ感性を持っていたことも知っていた。


「……ランドルフのヤツも、『導師のアホは悪いヤツじゃねえ』とかなんとか言ってました。ぼかぁ半信半疑だったんですが、実際その通りだったようで」

「先代光の神子かい。あの不良には散々苦労させられたよ、このボクもね!」

「お互いさまで」


 ランドルフとシャノアールは、アイゼンハルトのあずかり知らぬところでも何度か戦っていたとの話があった。ランドルフから何度も愚痴られたから覚えている。そんな記憶をたどりながらぽつぽつと進む会話。


「昔を懐かしむのもいいが、結局これは何なんだい?」

「意外と冷静だね……ミネリナと言ったかな。ここはグラスパーアイとルノアールが作った場所。なんとなれば、きみの生まれた場所でもある」

「っ……」


 ここ、が。

 声を失い、周囲を見やる。

 来た時も思ったが、生命の息吹のようなものは殆ど感じられないような場所だ。こんなところで、自分は。


「大丈夫です、ミネリナ嬢。どんな生まれだろうと、きみは今ここに居る」

「ええ。貴女はあの時、私と共に命を勝ち取った。むしろそれをこそ誇るべきよ」

「……ありがとう」


 テツの励ましと、フレアリールの不器用な激励。

 そうだ、今自分はちゃんと生きている。

 再確認して、ミネリナは小さく頷いた。


「ここだけの話、嫌な予感がするんだ。このボクはね」

「ってーと?」

「ルノアールは帝国魔導に手を付けている。しかも壁越えした力を使っているはずだ。神蝕現象の中でも限られた者だけが使える、それ。あいつの魔導は出力こそ大したことはないだろうが、その技術は着々と進んでいると思っていい」


 まあもっとも……ルノアール・ヴィエ・アトモスフィアが殺されるとは思ってなかっただろうけれども。と締めくくってシャノアールはコンソールを見上げた。


 実際、フレヴァディール・クロイスが何者なのかについてはベネッタのみが知っているようだったからいまいち話は分からないが。あとで聞きに行けばいい、と思っていたのは失敗だったかもしれない。


「それでもあの男の本体はまだ別に居るのだろう?」

「その通り……ルノーさえ所詮は本体じゃあないだろう。息子は本当に、魔神に魅せられてしまったのかもしれないな」


 遠い目をしながら、シャノアールは呟いた。


 魔神。

 中々聞かないその言葉に、シュテンの耳がぴくりと動く。


「魔神ってのはまたけったいな。なんか関係あんのか?」

「払暁の団についても、狂化魔族を調べる過程で色々調査していたんだが。奴らの目的はおそらく……いや、確信を得ないまま言うべきではないか」


 口元に手を当てて、躊躇うように首を振るシャノアール。

 に、たいしてシュテンは突っ込んだ。


「いや言えよ」

「じゃあ言うよ」

「言うんですかい」


 最後のテツのツッコミは聞かなかったことにされたらしく。

 シャノアールは、コンソールを見上げながら口を開いた。


「何故"払暁の団"なのか。地下に逃げるしかなかった魔界の完全復活。魔界の日の出。そして魔王の完全復活をもくろんでいるからではないかと、思っているよ。このボクはね」

「それが本当なら――洒落にならねえな」


 魔王の完全復活。

 ランドルフ、アレイア、アイゼンハルトという国家最高クラスの人材が命を燃やして相打ちに持ち込んだような相手の復活が待ち受けているのだとしたら。


 それは、とてもではないが受け入れられることではない。


 これは魔導司書たちと相談かなあ、とシュテンが後頭部を掻いたところで、ちょうどよく眷属からの通信が入ったのだった。



『魔導司書共が戻ってきたけど?』

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