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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之捌『叛逆 神蝕 片眼鏡』
214/267

第十四話 王都デルカールIV 『エンカウントV』



 ――いつかのどこか。ある、小さな街。


 その白い街は、その日も穏やかな時間と共にあった。

 あくる日も、あくる日も。あきれ返るほどに優しい日々。

 時折訪ねてくる冒険者(ブレイヴァー)が居る程度で、この街に大きな変化はない。


 されどそれでも長く日の経てば、やはり見えてくる相違というのは出てくるもので。


「じゃあ、きみは出ていかないの?」

「出ていくも何も、そもそも外出許可が出るのかってんだよ」


 噴水広場で話していた小さな子供たちも、いつの間にか背が伸びて。歳の頃は既に10を超えたあたりだろうか。丸みを帯びていた頬は少しずつ細まって、徐々に大人びて。


 少年の方は野暮ったい眼鏡はやめたのか、代わりとばかりに片眼鏡(モノクル)を耳からかけていた。

 少女の方はばっさりと切ったざんばらの紫髪を軽く払いながら、薙刀を片手に朗らかに笑っている。こちらの屈託のなさは、今も昔も変わっていなかった。


「外出許可なら、ボクが出せるようになりますっ!」

「……ああ、そういやお前は。そうだったか」

「えへへ。ダテにお嬢様じゃないんだよ? ボクって」


 この街において強く権力を握っている家が幾つかある。

 彼女はそのうちの一つの家の一人娘で、成人の儀を超えればある程度の独自裁量権が与えられることになっていた。それは、つまり。基本的にこの街から出ることを許されない町人の中にあって、外を自由に歩き回れることを示していて。


「だから、一緒に冒険者(ブレイヴァー)になろうよ!」

「殊更無理だろうが。お前が相応の立場になった日には、むしろ束縛が強くなる。この街で、お前の家でやらなきゃならん仕事も増える。冒険者(ブレイヴァー)なんざしてる暇は、お前にはねえはずだろうが」

「ふふ」


 力。特に権力と呼ばれる類の力を持つ者は、それ相応の義務が発生する。

 少年にしてみれば当然の話だが、少女にとってはまた違ったようだった。


 小さく口角をあげた彼女に、少年は嫌な予感がして片眉をぴくりと動かした。

 このお転婆少女は、事あるごとにしょうもないことを思いついては少年に迷惑をかけていたのだ。その勘が騒ぐ。ああ今回もろくなことじゃない、と。


「許可を出したら、明日に向かって逃げるのだ!」

「世界中を同胞に追われる旅なら一人でやれ」

「なんでぇ。……デジレは、そんなに外出るの嫌?」


 ふてくされたように薙刀を振るいながら、彼女は少年――デジレに問いかける。

 その表情を見ないように目を逸らしながら、小さく「そうだな」とだけ呟いた。


 目の前の少女は、先にデジレが言ったようにこの街から出ることなど叶わないだろう。

 そして、デジレ自身に大きな制約はない。それこそ、許可を取れば少しの間外出するくらいは造作もないことだ。


 けれど、だからこそ。デジレが外に出たいなどと言えば、彼女はどう思うだろう。


 一緒に出たがるまでは良い。だが、出られるかどうかという話になれば土台無理な話だ。

 彼女の家は、この街において重大な要の一角を背負う家。その一人娘に課せられる使命というのは、子供の癇癪でどうこうできるような安いものではないのだから。


「……まあ、別に、外に出なくとも研究くらいなら進められる」

「もー、デジレの根性なし! ヘタレ! 頭でっかち!」

「好きに言え。オレは外に出る気はない」

「怖いの?」

「……さてな」


 魔獣、魔族。その存在は確かに恐ろしいが、言ってしまえば"自分たち"は魔族や魔獣にとっての天敵に等しい。ハーフの混ざり血であるデジレだとしても、その力があれば殆どの魔族は恐れる必要のない障害物程度だ。

 目の前の少女にとっては、さらに大したことのない路傍の石だろう。


 それが分かっているからこそ、デジレに向かってヘタレだのなんだのと言ってくるのだ。


 少女は、軽くあしらわれたのが気に入らないのか。それとも、怖いの? という問いに対して毅然とした答えが返ってこなかったのが面白いのか。デジレの隣にどかっと腰かけると、挑戦的な笑みを浮かべて顔を突く。


「じゃあボクはきみがこの街を出る決心がつくまで待ってるよ!」

「何故そこまでする」


 別に、彼女を置いてまで出て行く理由はないのに。


「怖くないよ! 出られるよ! 魔族の襲撃さえ気を付ければ。ほら、ボクらってば魔族の天敵だし!」


 大手を振ってアピールする彼女を見て、笑う。こうして軽く話している間は、きっと彼女も外に出たい欲求を、誰かに話すことで発散出来ているのだと思うから。


「混ざり血の俺は大した意味ねえと思うが?」

「そんなことないよ、ボクが魔族の天敵なんだから、デジレもそう」

「はっ、理論的じゃねえな」


 鼻で笑うと、少女はふくれっ面を隠そうともせず抗議の声をあげる。

 そんなことないとか、デジレは凄いんだから、とか。

 先ほどまでヘタレだなんだと言っていたのはどうした。そう問うと、つまらなそうに足元の小石を蹴って拗ねる。


「ほら、もし怖いなら、人間の護衛とか雇えばいいじゃん。ボクの力で祝福を与えれば、すっごく強い護衛になるんだからさ」

「そうだな。そいつらに真っ当な覚悟と力量があればな」

「もちろんそれはそうだけど。あ、デジレはやっちゃだめだよ! これはボクだけの特権なのです」

「やらねーよ。自殺の趣味はねえ」


 祝福。それこそ、笑えない話だ。

 彼女の生まれが"それ"を司る家だからこそ、そうそう外に出られないというのに。

 それを旅の道具に使おうという、お嬢様らしからぬ発想には苦笑するほかない。


「だから、いつか。いい? 行くんだからね! デジレはボクが守るから!」

「ああ、はいはい」

「ちゃんと聞いてよー!」

「お前がオレの講義を寝ずに受けられるようになったらな」

「無理だー!」


 こうして彼女と他愛もない話をしながら。自分は研究だけに打ち込んで、いつの日かこの街を一緒に盛り立てていくのだと。


 その時は、そう思っていた。

















「じゃあ、またあとで合流しよ。ボク、ちょっとフードマーケットの方に行ってくるからさ」

「……ああ」


 朝のうちから情報収集と称して酒場やらなにやらを回っていたジュスタだが、これと言って上質な情報を掴むことが出来ずにいた。


 ルノー・R・アテリディアに関して。狂化魔族に関して。王族の動向。


 当然ながら情報難易度の高いものではあるので、そう簡単につかめるはずもないのだが。

 それと心情とは別ということもある。ジュスタは自分の足で探せる範囲の情報源はあらかた洗って、それでもダメだったことに少々落ち込んでいた。


 昼過ぎに一度落ち合ったところ、デジレの方は少し進展がありそうだったこともあり。

 ジュスタは一度彼に情報を任せて、自分は今後の買い出しのために動くことにしたのだった。


「ある程度頑張ったけどこれ以上は王城に忍び込む準備しないとダメそうだし」

「強硬策に出るのは少し待て。まだ裏がありそうだ。どうにも、狂化魔族以外にも何かが動いているらしい」

「……何か?」

「ああ。聞いた話じゃ、南東の鎮めの樹海に魔族の討伐隊が向かっただの、東の街に魔族が出現しただのと随分物騒なことになりつつあるとかなんとか。何かが動く気配がしやがる」

「……」

「それに、王都での研究施設とやらはどうも狂化魔族の他にも変なもん作ろうとしてるみてえだ。クソみてえな話だが、もしかしたらそれが関連してる可能性もある」

「分かった。ひとまずそっちはデジレに任せるよ」

「元から、お前に任されるまでもない」


 そうだったね。とジュスタは笑う。


「十巻抄についてはある程度メタが張れそうだが……ヤツが何をやろうとしているのかについてはまだだな。また神の類でも降ろそうとしてるのは確かだが。クソ妖鬼にやられて懲りてねえのか」

「魔導具、だったよね。神降ろしって相当まずいことなんじゃ」

「程度による。低位の神ならそれこそ地の神として崇められてる鬼神だったり鬼子母神だったりが居る訳だ。その程度で済むのならまだいいが……ルノーのことだ、そう簡単にはいかないだろう」

「……そっか」

「問題は儀式場だ。どこで十巻抄を使うつもりなのか、それさえ分かればな」


 その辺ももう少し探るしかねえか、と独り言ちるデジレに頷くと。

 ジュスタは、「それじゃいってきまーす」と手を上げて、王都の雑踏の中に消えていった。


 それから、しばらくして。


「あら? 貴女は……」

「へっ?」


 どこかで聞いたことのある声色。しかし、それほど記憶に残っているわけでもなく。

 誰だろうと振り向けば、金糸のような髪と王国には珍しい和装に身を包んだ童女の姿。


 彼女は、確か。

 周囲を取り巻く雰囲気こそぽやんとしているが、その内包する魔素の強烈さを感じ取れないほど、もうジュスタは弱くない。一瞬鳴らされる警鐘に、しかし首を振って身構える。

 べつに、敵ではない、はず。何故なら、彼女は。

 帝国書院にて、デジレの元上司に当たる――


「デジレが拐かしたロリですね」

「あんたにロリ言われたくないけど!?」


 身構えるもクソもなかった。

 もっと言えば身も蓋も無かった。


「初対面に限りなく近いよね? 初対面に限りなく近いよね? 突然のロリ呼ばわりにはボクとしても抗議の声をあげたいんだけど」


 憤懣やるかたないといった様子でジュスタが彼女を睨むと、彼女は「ああ」と思いついたように手を打って。


「『くるっぽー』、と?」

「誰がそんな声あげるんですかねえ!?」

「どうでもいいことは措いてですね、貴女は今もデジレのところに?」

「どうでもいいことをどうでもよくしてくれないのがあんたなんだけど! まあそうだよ、デジレのところに――」

「監禁されていると」

「――閉じ込められてたら今ここに居ねーけど!?」

「流石シノビ汚い」

「逃げてきたわけでもないんだけどねえ!?」


 あらあら、元気ですね。とほんわかとした笑顔を浮かべる、デジレ曰くクソロリ。

 なるほどこれは確かにクソロリだ、と呼吸を整える。


 ……しかしなんだろう。クソガキとクソロリだったらまだクソロリの方がマシなのでは。

 納得がいかない。


「あれ? そこに居るっぽいのは確かヤタノが言ってた――」

「第五席に誘拐されたロリではないか?」

「まだ言うか!!」


 がるる、と背後からした声に振り向いて、ついでジュスタは「ひっ」と情けない声をあげた。

 軽そうなレザー装備に身を包んだ芋臭い田舎娘と、昼から外に居るのはなんか間違っている気がしなくもない白Yシャツのホストのようなコンビ。

 これだけ見れば騙された新米冒険者がホストクラブに金を貢ぎまくる前兆にしか見えないが、ジュスタの曇りなき瞳は彼らの本質を見抜いている。


「え、あ、え? ……ボク、なんか悪いことした……?」


 気が付いたら"あの"帝国書院の中でも最高峰のメンバーに取り囲まれているのだ。

 外国のお巡りさん、それも最高幹部三人に囲まれていると思えばそのやばさは底知れない。


「ふむ、悪いことか。強いて言うならやらかしたのは第五席か?」

「こーんな可愛い子を誘拐してるとか、ちょっとヤバい人だったっぽい? ……確かに研究院じゃ薬品ににやにやしてるとこばっか見てたから若干イメージ出来ちゃうっぽいけど」

「あら、この二人本当にデジレが誘拐した話信じてたのですか」

「全部あんたのせいかクソロリが!!!」


 思わずデジレの口調が移る勢いでツッコミを入れるジュスタ。


 ぎゃいのぎゃいのと公衆の面前で叫んでいるのは本来非常に目立つはずなのだが、フードマーケットの内部だからか喧騒に掻き消されて衆人環視のど真ん中であっても特に咎められるようなことはなく。それが本人にとっていいのか悪いのかは知らないが。


 なんでこんなことになっているんだろう。

 さっさとあしらってデジレのところに戻ろう。


 脳内で早くも現実逃避を開始していた不憫なジュスタであったが、残念ながらまだまだ不幸は始まったばかりだった。


「ジュスタっ、ちゃああああああああああああああああああん!! 見いいつけたああああああ!!」

「ハルナッ!?」


 ジュスタの進行方向側から、きらっきらに目を輝かせて飛び込んできた少女が一人。

 靡くような銀髪はクラスチェンジの影響か、そして以前よりも上等そうな修道服に身を包んだ彼女は、敬虔で清らかなシスターらしからぬ突撃っぷりでジュスタに抱きついてきた。


「ちょ、離せってば、なんでこんなところに」

「探してたんだよおおおお!!」


 だうー、と滂沱の涙を流しつつハルナは言う。

 虚を突かれたジュスタはその言葉に返す何かが見当たらず、ぼんやりとした視界にさらにもう二人少年の姿が目に入る。


 困ったようにはにかむ光の神子と、腕を組んで少女二人を見つめるフードの男。おそらくは、身バレを嫌った王国の王子。


「ジュスタ……久しぶり」

「……」


「っ……」


 突然の再会に言葉が出ない。

 

 なんで。なんで彼らは――一度は決別したはずの、自分に。


「いいねえ。感動の再会ってやつはさ。そう思うんだけど、きみはどう思うんだい、テツ。……いいや、この場に限ってはアイゼンハルトと呼ぶべきかな」

「からかわんでくださいミネリナ嬢。ぼかぁ、感動の再会を果たした彼らとは違って……もう仲間じゃああらんせん」


 さらに。どういう因果か、クレイン、リュディウスの背後から呑気に歩いてくるのはジャポネの時に世話になった二人組だった。テツミナカンパニーと名乗る小さな商会。しかし、そんな看板とは無関係に、今ここに彼らの他に居るのは。


「……生きていた、とは聞いていましたが。会うのは久しぶりになりますね」

「そういうお前さんは変わっとりゃしませんなあ、ヤタノ嬢。けれど、それは見た目だけみたいで。ずいぶん、持った雰囲気が変わったというか。少なくとも、第八席や第十席とそんなに仲良くしているさまを見るのは、ぼかあ初めてで」

「……アイゼンハルト、第二席。こんなプライベートで話すのは初めてっぽいけど、気の抜けたコーラみたいな人っぽいね」

「どちらかというと白いアスパラガスと呼ばれているよ、彼は」

「あの、会議程度でしか面識なくてほぼほぼ初対面に近いのにその扱いはどういう……」


 困り顔で眉根を下げるアイゼンハルトに、なんだかジュスタは親近感を覚えた。

 この三、八、十のトリオ、ちょっと初対面に容赦ないぞ? みたいな。

 とはいえ、ハルナにもみくしゃにされているジュスタができるフォローなんぞ一つとしてないのだが。


「しかし、ずいぶんと偶然だね。このメンバーが揃うなんていうことは」

「どうでしょう。偶然だとしたらわたしも嬉しいのですけれど……でも、きっと違うのでしょう?」

「っ……随分と意味ありげなことを言うね。ヤタノ・フソウ・アークライト」

「いえ、単純な話です。この短期間に王都で集った。そうなれば、目的はだいたい見えてくるというだけですから」

「なるほど……ルノーの……」

「ちょうどお花が見ごろですし」

「わたしたちは花見をしにきたわけではないのだが!?」

「あー、ミネリナ嬢。ヤタノ嬢の発言は軽く聞き流しておくに限りまさあ」

「あらひどい」


 袖を口元に寄せてくすくすと微笑むヤタノを見て、テツは「相変わらずな」と目を細める。

 そんなのんびりとした関係を、グリンドルとベネッタは物珍しそうに眺めていた。


 ヤタノを相手に帝国書院の人間がああもフラットに接しているのは、正直アスタルテをおいて他に居ないのだから。


 あんなひょろっとした人間が、それでもやはりあの"第二席"なのだと。

 再確認した瞬間だった。


「てゆか、いつの間にか凄い勢いで人が集まってるの本当に何事って感じなんだけど」


 気づけばおいていかれていた、とばかりにジュスタが呟く。

 偶然居合わせた帝国書院の人間に絡まれたと思ったら、見知った顔が続々と。


 これは、まだもう一波乱くらい残っているのではないか?

 いや、流石にもう無いか。あったとしても大したことはないはずだ。

 そうとも、これだけの人間が集っただけでも珍しいのだから――。


「祭りの会場はこぉこかああああああ!! いやぁっほおおおおう!! なんで!? なんでクレインくんたちが!? なんでジュスタが!? なぁんでお前がいるんだよぅ、テツぅ!!」

「で、でたあああああああああ!! 迷惑の塊いいいい!!」


 ジュスタは発狂した。


「あ、シュテンさん!! お久しぶりです!!」

「……お前まで居るのか」

「せんぱいだー! わーい、せんぱーい! いえーい!!」


 クレインたちはテンションが上がっていた。現れた迷惑の塊はハルナのVサインに対してエビぞりながらノリノリで「いええええええええええええええええええええええええい!!!!!!」と叫んで。


「あ、相変わらずだなきみは……」


 とドン引きしたミネリナの横で。


「やあシュテンくん。しばらくぶり」

「おうよ!!」


 平常運転で手を挙げるテツに、視認できない速度でハイタッチをぶちかますシュテン。


 嵐の到来だった。


「なんだよなんだよ勢ぞろいしやがって、王都になんの用があるんだよお前ら!」


 うきうきしながら表情を緩ませ、なれなれしくもテンションを上げて絡んでいくスタイル。いつものことではあるが、いつも以上にご機嫌なのはきっと、昔ともに旅した仲間との思わぬ再会によるところだろう。


 ヤタノがそそっとシュテンに寄って耳打ちする。


「この時期の王都ですから。決まってるじゃありませんか」

「花見か!!」

「いえすっ」


 ピースするヤタノさん。後ろでミネリナが「ノオオオオオオオオ!」と叫んでいるが気にしない。


「そうかそうかあ、花見かあ。みんなでやりたいとこだが……」


 真剣に悩みだしたシュテンに、やだよ。とジュスタは白い目を向けた。


 しかし、彼女を含めた軽いノリは、次のシュテンの言葉で鎮められることになる。


「――まあちょっとタイミングが悪い」


 顔をあげたシュテンの表情は硬く、ヤタノに向けたその発言は、周囲に居る全員と無関係とはいえないレベルの情報だった。


「さっき俺ァ王都の外の妙ちくりんな施設に突撃してきたんだがよ」

「シュテン……お前というヤツは本当にいつもいつもどうして俺たちの先を行っている……」

「おっとりゅ……ってこの場でお前の名前出すのはまずいか。あとで迷子放送する悪戯は確定として、今は剣士Aな」

「そんなことしてみろ騎士団の指名手配にかけて王城出禁にしてやる」

「や、やめろよぉ!! そんなことしたら観光出来ねえじゃねえか!!!」

「なんでそんな弱気になる……で? その妙ちくりんな施設とは何だ」

「ああ、そうそう」


 改めてヤタノの方を向いたシュテンは、少し考えてから、


「ヤタノちゃん、フレヴァディール・クロイスって人知ってる?」

「……さて。書院に居たかもしれませんが」

「あ、あたい知ってるっぽい」

「マジかよくやったべねっち!」

「べねっちってなんかアホっぽい!! ……でも、そのフレヴァディールがどうかした?」


 ベネッタは知っていた。この場にあって、彼女だけは。

 思い返すのはあの時(第七章十四話)、アスタルテとの会話。


 本来であれば、第七席はルノー・R・アテリディアではなく、フレヴァディール・クロイスという男であったという情報。


「そいつが生体ポッドにぶち込まれてて……その、なんだ、テツ」

「ん?」

「……吸血皇女の計画みてえなのが、そこで行われてるみたいだったぜ」

「っ……はは、シュテンくん。きみは本当に頼れる人ですなぁ」


 だろう? などと普段ならおちゃらけるシュテンを想像したその場の全員。

 しかし、シュテンは表情を崩さない。いや、崩せていなかった。


「……案内してくれ、シュテンくん」

「……お前の頼みとあっちゃ、断れねえよ」


 はっ、と二人で笑いあって、シュテンはベネッタに向き直った。


「そんなわけで、悪い。ちょっとテツの方付き合ってくるわ。情報諸々はそのあとに」

「あ、じゃああたいからも先に話しとく」

「ん?」

「……払暁の団と思しき連中が、鎮めの樹海の方に行ったっぽい。怪しいローブの集団としか聞いてないけど、たぶんそれっぽい」

「……そうか、さんきゅ。それはまたあとで」

「ん、ちゃんと帰ってくるっぽい」


 ひらひらと手を振るベネッタ。

 

 と、そこでジュスタがテツを呼んだ。


「あ、ちょっと」

「……ジュスタ嬢?」

「……いや、あとでいい。でも、あとで話があるんだ」

「分かりました。またあとで」

「うん」


 シュテンの「それではご一行ご案内ー」という声に連れられて、テツとミネリナが去っていく。


「ちぇ。せんぱいと遊びたかったなー」

「まあ、テツさんの事情が絡むなら仕方ないよ」

 

 唇を尖らせる少女が、その背後に居たとか居なかったとか。


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