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グリモワール×リバース~転生鬼神浪漫譚~  作者: 藍藤 唯
巻之捌『叛逆 神蝕 片眼鏡』
205/267

第五話 西方の街ツァーリス 『グリモワール・リバース始動』


 王国は西部、港からほど近い中枢都市ツァーリス。

 巨大な石で形作られた、無骨な四角い街門をくぐり抜けたところで、一人の男が快哉の声をあげた。


「初めて来たぜ、王国によ!!」

「端っこっぽいけどねー」


 両手を振り上げて喜ぶこの男、妖鬼シュテン。

 おい、とばかりにひらりと隣からツッコミを入れられても特に気にした様子はなく。

 三度笠から見える瞳を笑わせてずんずんと、港湾と隣り合わせた大通りを歩いていた。


 王国――グランドガレア家が代々国王を擁立してきたこの国は、1500年ほど前から続く由緒正しき一大国家だ。しかしながら王国である以上多くの外戚を抱えており、それぞれの辺境には王家に続いて尊いとされる分家が爵位をいただいて街を統べている。


 王都を中心にして東西南北には最も大きな四つの都市が構えており、そのうちの一つが今シュテンたちの居る西方都市ツァーリスであった。


 ところで、王国は基本的に魔族と敵対する国家である。

 ゆえに角を簡単に隠せるシュテンはともかくとして、ヒイラギのような分かりやすい魔族ではすぐに通報されて攻撃される恐れがあった。そこでグリンドルが取った対策が、この西方都市ツァーリスから侵入することであった。


 ツァーリスの主は現在公爵家の一角を担う家がつとめているのだが、少々王都ないしは王家……もっと言えば王国議会との関係が悪化している。その原因が、狂化魔族に対する扱いであったのだ。

 強力な魔族を発見した、ということを伝えなければ無論背信行為につながるが、警戒が緩いという意味ではこの街から侵入するのが一番安全だった。


 そんなわけで帝国書院の力を使い、港から堂々とツァーリスへ侵入。

 まずは情報収集とばかりに散った面々の中で、今回同じチームになったのがシュテンと――魔導司書第八席ベネッタ・コルティナだ。


 久々に来たけど、変わってないっぽいなー。そう呟きながら街の様子を見て回る彼女について、シュテンも路地を練り歩いて動く。不思議だったのが、シュテンの普段の観光とは違うルート選びだった。


「なんでわざわざ路地を出たり入ったりして動いてんだ?」

「理由は色々あるっぽいけど、まー簡単に言えば"勘"っぽいー」

「魔導司書としての?」

「そそ。あたいだったらこの辺に監視を仕掛ける。帝都だったらこの辺に裏社会で生きる人たちの痕跡がある。帝国だったら、この辺に警邏をさせる。……なんていう経験則の積み重ねで、魔導を使う人間の癖っていうのかな。それを読みながら、あとは、そう。例えばここで戦いになった時にどこで罠を仕掛けるかとか、どう脱出するかとか、あとは地図を頭に叩き込むのも大事っぽい」

「へー。色々考えてんだなー」

「あたいたち魔導司書――特に戦闘を得手としてない下位の人間は戦う相手が格下とは限らないからね。チームで強敵に当たったり、あらゆるものを使って強敵を食い止めたり、そういうことしなきゃいけない。物理で殴れば最強って分かってるシュテンくんとはちょっと戦い方からして違うっぽい」

「常在戦場の心構えってヤツか。いや、俺も見習わなきゃいけねーな」


 観光はしたいが。

 何が起きても分からない人生を送っている身としては、それなりに身につまされる話ではあった。とはいえ、そんな話をされたところで。

 彼女のように"経験"が足りなければ一朝一夕にできるものでもなく。

 シュテンは隣のベネッタと同じように後頭部で腕を組みつつ、


「ま、頼りになる"仲間"が居るんだ。そういう小難しいことは任せて、俺は俺の仕事をするか。それこそ、物理で殴れば最強ってぇお前さんの評価通り、前線では思いっきり暴れてやればいいってことだろう?」

「あはは、そうしてくれると嬉しいっぽいー」

「ぽいだけかよ」

「ぽいぽい」

「ぽぽいぽい!」

「……な、なんか前もやったっぽいこのやり取り」


 たはは、と頬を掻くベネッタ。

 彼女ににやっと笑い返しつつ、道中を歩む。

 足元にはゴミ箱が転がり、上を見上げれば洗濯物が干されているような混とんとした空間。この辺の文化はあまり教国と変わらねえのかなあ、などとくるくる見回しながら、ついでに隣の女の子にちらりと目をやる。


 そこでふと、シュテンは気が付いた。

 以前はなかった、彼女の傷に。


「……なあおいベネッタ」

「んー?」

「そういやお前、その耳どうした?」


 ぁ。

 そう小さく彼女から声が漏れた気がした。

 さっと隠される彼女の耳たぶ。

 シュテンの隣をてくてく歩いていた彼女のミディアムカットの茶髪から、ちらほら見えていた耳。その一部……端の方ではあるが、明らかに切り飛ばされたか何かで欠損していた。

 シュテンの記憶が正しければ、少なくともラムの村(第七章第五話)で合流した時には無かった傷。


 イブキ山に来てくれる前か、その戦闘中か。それほど新しい傷には見えないが、治癒の魔導とて帝国ならば備えているだろう。明確に怪我した時間が読めないとはいえ、以前は無かった傷というのはどうしても気になるというもので。


 彼女はしかし、「あはは」と乾いた笑いとともに手を振って。


「え、いや――なんでもないっぽい」


 やだなーもー、とばかりに軽く済ませようとしているのが妙に気にかかるシュテンは、軽く眉根を寄せた。それでも、ベネッタは取り合うつもりがないらしく。


「このくらいの傷、戦士の常だよ。気にしないで」

「ぽいは?」

「どっちでもいいことじゃないから。ね、忘れよ?」


 そこまで言われてしまっては、深く踏み込む理由はない。

 女の子から根掘り葉掘り聞きだすのは、あまり気分の良いものでもないのだし。


 ――などというデリカシーがある男ではない。


「ばっかお前、親父さんにめちゃくちゃ心配されてんだろうが。今となっては一人娘ってぇ子が、顔に傷なんかもってみろ。あの人泣くぞ。せめて、そう、親父さんにちゃんと話せるようなことなんだろうな」

「……あー、どうだろ。あたいもさ、そりゃあ怪我はしたくないっぽいけど。でも、仕方ないじゃん? あたいだって、曲げたくない気持ちがある時はあるんだよ」

「……そ、か」


 どういった事情があったかは分からないが。

 ベネッタの透き通った瞳の奥には、何だか温かなものを感じた。

 "曲げたくない気持ち"。

 それはシュテンがもっとも尊ぶものであり、その意地で何かと向き合った時についた傷だというのであれば、シュテンが文句を言えるような立場ではない。


「……そこまで言うなら。でもなー。うーん」

「なにかー?」

「いや、やっぱりこう、性根ってヤツなんだろうな。女の子が傷つくと気になるところはあるというかなんというか」

「あはは」

「あん?」


 けらけらと、ベネッタは笑う。

 おかしそうに、楽しそうに。その意味が分からなくてきょとんとするシュテンだったが、その表情でさらにツボに入ったのか一頻り彼女は笑った後。

 涙をぬぐいながら、口を開いた。


「はーあ。シュテンくん、あたいは誰だと思う?」

「べねっち」

「アホっぽいからやめるっぽい! ……そうじゃなくてね。人口四千万強が存在する帝国で、たった五万人ほどしか手が届かない最高の武装機関。その中でも最高のエリートが集まる書陵部の……トップ十人のうちの一人。これでも、あたいって物凄いエリートなんだ」

「お、おう。言われてみればそうか」

「あはは。だーかーらー。そういう目で見るのが普通なの。なにさ、女の子が傷つくの心配って。おままごとやってるような年頃でもなければ、旦那様の帰りを待ってる奥さんでもないっぽい。戦う人間に心配は無用っぽい」


 ね? と指を振る彼女に、腕組みしたシュテンは無言で指を折り始めた。

 その仕草の意味が分からずに、ベネッタがぽかんとしていると。


「魔族のひしめく魔界地下帝国において武力最強と名高いナンバー2。百年の間、その危険性から封印されていた魔族。今となっちゃ導師の肩書あるわけじゃねえが、魔界最大数の古代呪法を操る魔導師。単独でダンジョン一つを制圧し、同族の大群相手に籠城決め込んだ吸血皇女。世界最強の戦闘集団においてナンバー3を張る太陽の権能を司る童女」

「……えーっと?」

「そんな、世界で0.00001%にも満たないバカみたいな強さを持った女の子がお前以外にも居るけどよ。俺はどーも、"自分より強いから平気"とか、戦えるからいいじゃんとか、そういう風にはお前らのことを考えられないらしい。単純に、心配なんだよ」

「あ、はは。何それ。正義の味方宣言?」

「んなわきゃねーだろ。お前に曲げられない思いがあんのと一緒で、俺だって曲げたくねえもんがあるってことよ。べねっちがどんなに強かろうと、俺にとっちゃ一人の友達で、一人の女の子だよ」

「……ぷっ」


 ベネッタが思いっきり吹き出した。

 恥ずかしさに頬を染めながら、それでもからかうようにシュテンを見やって笑う。


「なぁにそれ、口説きっぽい~?」

「ば、ばか、おっま、そんなんじゃねえよ!! っていうかなに口説きとか、俺あれだから、硬派で浪漫にあふれる男シュテンだから、そんなナンパなことするタイプのキャラじゃねえから。なめんなマジ」

「やーい照れてるっぽいー」

「誰のせいだコラ!」


 あ、あー。おほん。


「しっかしなんつーか」


 そこまで軽い話を続けて、シュテンは強引に話題を変えようと上から下までベネッタを見据える。軽い革製のブーツに、ひだのついた革のミニスカート。ソフトレザーの胸当てと、上から羽織るは妙に似合った帝国書院の黒コート。

 ベネッタはカチューシャリボンを揺らしながら、神妙なシュテンの目に首を傾げる。


「なにかあったっぽい?」

「いや、初期装備に黒コートが無駄に似合うなと」

「あーーー! また初期装備って言った! また初期装備って言った!」


 お父ちゃんがせっかく用意してくれたのに! と怒り心頭のベネッタを前に、シュテンはぼうっと思いを馳せる。こんなに表情豊かで元気な女の子であることを、そういえば自分は知らずにいたのだと。頼もしい味方であることはイブキ山で嫌というほど思い知らされたが、それ以外の記憶はない。考えてみれば、彼女とこうして真っ当な交流をしたのは、まだベネッタが敵か味方か分からない頃にテンパっていた公国までの見送りくらいのもの。


「いや、なに。まあなんつーか、宜しくな」

「改めて突然なに――……ねえ、シュテンくん」

「ん?」


 と、そこでベネッタは何かに思い至ったようだった。

「確かにあの時、初対面というか、変な反応されたし……」とぶつぶつ呟きつつ。


「……誰と重ねてるっぽい?」


 そう、問いかけてきた。

 誰と。その真意をシュテンはきっと知ることはない。

 なにせ、公国までシュテンを見送った後、ベネッタがアスタルテと何を話したのかなど知りえるはずもないのだから。


『ベネッタ第八席は、べつの世界線では妖鬼と敵対し交戦した記録がある』


 というようなことをアスタルテに言われて、なんのことだと首を傾げていたのだが。

 もし、シュテンが。アスタルテが最も警戒し、"運命の糸を変えてしまう"とまで言い放ったこの男が。本当に自分を、今の歴史に引っ張ってきたのだとしたら。


「誰と、ねえ。んー、強いて言うならお前自身」


 その答えに、何かを感じて。


「……そか」

「あん?」

「大丈夫だよシュテンくん。あたいは、人間も魔族も守るよ」


 そう、ベネッタは朗らかに笑った。彼女の笑顔は柔らかで、何の心配も要らないと思わせてくれる優しい表情で。シュテンも軽く口角を上げて、大きく伸びをした。


「ようし、そんなら安心だ。打倒、払暁の団!」

「おーう! ……あ、この街って海産物が有名っぽい」

「マジか、魚? 貝? 軟体生物?」

「サメ」

「サメかー! ……ん? 王国でサメ? ちょっと待ってそいつ集団系ボスじゃね? ひっきりなしに仲間呼ぶクソゲー野郎じゃね?」

「なんのことか分からないっぽい」


 打倒払暁の団の意気込みはどこへやら。

 改めて街中へと出てきた二人は、あっちへふらふらこっちへふらふら。

 石造りの建物の外壁を削って出来たようなくぼみに、いくつもの露店が立ち並ぶ。

 どこの国も港街は水産業でにぎわっているが、この街の活気もその例に漏れることはなかったようで、本来の目的をしばし忘れて二人は旅を楽しんでいた。


「買い食いサイコー!! サメ肉の揚げ物とかぜってー美味いヤツ! さあいただくぞ、無限増殖野郎散々食い散らかしてやる! テメエを船の上で倒したあと食料無くなるイベントあって、『じゃああいつら飯として保管すりゃ良かったじゃねえか!!』って画面の前で叫んだことを俺は一度として忘れたことはねえ!!」

「シュテンくん、病院の紹介状あげるっぽい」

「病気確定!? ていうか司書の紹介状で病院いけるってやべえなどんなシステムだ帝国! ……ていうか妖鬼の俺が帝国の病院で診療できるかー!」

「やだなー、魔導司書はエリートっぽいんだよ? 基本なにかしら専攻してる学問の一つや二つあるっぽい」

「待て待て待て待てお前その口ぶりだとノリと勢いで医学精通してらっしゃるの!?」

「医療と生物学、魔導生物学、あと魔素構造理論。後ろの二つはデジレ第二席の方が詳しいけど。まあ下位の魔導司書なんてこんなもんっぽい」

「ぐう優秀なブレイン担当で鬼いさんめちゃめちゃビビってるんだが」

「グリンドルなんかあれだよ、考古学と帝国歴史学と歴史民俗学と魔導経済理論、魔素構造理論と異相力学I類と地質学、最近じゃ天文学まで手ぇ出してる魔導司書ん中でも随一のインテリっぽい」

「鼻水噴き出すわ」

「ぎゃああああああ!!」


 ご丁寧に宣言してから鼻水を噴き出したシュテン。

 ぎゃーぎゃー汚い汚いと、目をバッテンにして騒ぐベネッタを横に鼻水垂れながら考える。

 そりゃあ、科挙と呼ばれる試験をパスして選ばれるような連中なのだ。

 エリート中のエリートともなれば、それはつまり帝国一の天才が集っているのだろう。


「あ、それで思い出したっぽいんだけど」


 気を取り直したらしきベネッタは、湾に入り込んでいる水路で顔を洗って海水痛いと騒ぐシュテンに対し軽く声をかけた。


「あん?」

「ルノー・R・アテリディア第七席は神秘学、魔法薬学、脳医学に関しては正直ずば抜けてるって話を聞いたことがあるっぽい。あやしー感じだったから正直拘わらずにいたんだけど……怪しいヤツが怪しいことし出したらもう止めなきゃだよねー」

「そりゃあな」

この前(第七章第九話)、あたいってば第七席について調べたんだけど。あいつが持ってった魔導具の名前は十巻抄だって。一応共有しておこうと思ってて、なんか買い物とか楽しくて忘れちゃってた」

「十巻抄ねえ」


 海水で洗った顔を袖で拭いてさらに痛みを発症しながら、ベネッタの言葉を特に考えもせず繰り返す。


 十巻抄。はて、どこかで聞いたことがあったが。


「……って。グリモワール・ランサーIで滅茶滅茶迷惑かかったヤツじゃねえか!!」

「グリモワール・ランサー? 元第二席がどうかしたっぽい?」

「いや、いやいやいや十巻抄ってあれだろ!? 神降ろしの秘術が書かれてるっていうとんでもない代物だろ!? 十体の神聖生物を召喚するとかいう!!」

「……なんで知ってるっぽい」

「印象に残ってるからな!」


 さて、ベネッタの白い目はおいて、十巻抄である。

 シュテンの記憶が正しければ、十巻抄というのはアイゼンハルト・K・ファンギーニを主人公に据えたRPG……グリモワール・ランサーIに登場するキーアイテムの一つである。

 十巻抄が暴走し、神を呼び起こしたという事件があり。

 一体の神を相手に、帝国の魔導司書アイゼンハルト、公国の冒険者(ブレイヴァ―)アレイア・フォン・ガリューシア、王国の聖剣使いカテジナ・アーデルハイド、共和国のハルバ―ディアであるヴォルフガング・ドルイドの四人で対抗し、シュテンは何とか突破したのだ。


 しかしそれは序章に過ぎず、残り九体の神が降臨。そこで突然、まだ味方になっていなかった教国の光の神子ランドルフ・ザナルカンドに視点が移り、彼一人で九体の神を倒さねばならないというミッションが開始される。死ぬほどつらかった。

 

「……でも突破出来ちゃったんだよなあ。なんなの先代光の神子……」


 暴君系エンシェントロード兼一人称僕系現人神兼ラスボス系光の神子という属性過多な、アイゼンハルト唯一の相棒を思い出して一人嘆息するシュテンであった。

 ついでに設定資料では教国の抱える武力組織、十字軍(クロスレギオン)の長でもあったという話だが……まとめ方が完全にヤンキーのソレだったとかなんとか。


「えっと?」

「十巻抄使って何する気だあいつ。神でも降臨させるのか。……ってかヤタノちゃん使って神の領域に至るみてえなことは言ってたな。ぶっちゃけ今回もそれ関連だとは思うが」

「一応、そっち系の情報収集はヤタノ第三席とヒイラギちゃんがやってくれてるだろうし、そろそろ戻るっぽい?」

「あ、そうだったな。グリンドルとフレアリールも、もう魔列車のチケット取ってくれてるだろうし」

「そういえば、あたいたちの役割ってなんだっけ」

「買い出し」

「した?」

「してなーい」


 でへへへへ、と二人で笑いあって。


 真顔に戻ってダッシュで商店街に向かったとかなんとか。




















「それで遅れたってほんとバカじゃないの。ねえバカなんじゃないの」

「あ、あはは、ごめんなさいっぽいー」

「そこはぽい付けない!」

「ひぇ」


 ヒイラギにベネッタが叱られている図というのは、いつぞやの帝国書院本部(第二章第十話)を思い出すと中々面白いものがある。そんな下らないことを考えながら、シュテンは集合場所にあった微妙なデザインの噴水を眺めていた。


 ライオンっぽくはあるんだが、微妙にだせえ。観光名所になってるとしたらがっかりだ。

 などと脳内で寸評を施しつつ、グリンドルとフレアリールを待つ。


「ところでヤタノちゃんはなんで落ち込んでるの」

「コートを身に着けているというのに子供扱いは心外です……」

「酒場で出禁でも食らった?」

「いえ……スツールに座れなくて困っていたら、こう、店員らしき者が後ろからこう、がばっと」

「うわ、俺だったら心折れるわ」

「ううう……!!」

「てゆか俺がやりたかったわ」

「ぅぅぅ……!!」


 両脇掴まれて持ち上げられたことを、和服で身振り手振りやるものだから袖がふぁさふぁさとあおられてさらに子供っぽいことに、本人は気づいていないのか。

 しょぼんと落ち込んだ様子の彼女の肩に、ぽんと手をやって。


「安心しろ」

「シュテン……」

「あの日の山頂より恥ずかしいことはもうきっとねえよ」

「あ、貴方励ますふりして余計に凹ませましたね!?」


 番傘でふさがっていない方の手で、ぴこぴこぴこぴことシュテンの腹の辺りを攻撃してくるヤタノ・フソウ・アークライト魔導司書第三席様。威厳はどこへ。

 おそらく胸の辺りを叩こうとしたのだろうが届いてないあたりが最高に童女。


 と、そんなやり取りをしていると、最後の二人組が戻ってきた。


「人数分のチケットを購入してきたよ。魔族がどうのと言っていたが、そこをなんとかと頼んだらOKしてくれた」

「当然だわ。私の術さえ決まれば人間など只の傀儡も同然」

「あ、それは僕がレジストしておいた。かわいそうだし」

「なぜですの!?」


 意外と仲も悪くなさそうなコンビになっていることに意外さを隠せない面々だったが、仲が良いにこしたことはないかとシュテンは軽く出迎える。


「おかえり。っつか王国税関それでいいのか。そこをなんとか、程度で。それこそフレアリールの術レジストできてなかったんじゃねえか?」

「そんなことはないさ。彼女と僕では致命的に相性が悪い。基本的に彼女の何かしらに負けるようなことは、ね」


 背後でフレアリールがハイライトの無い瞳で血の槍を生成していた。

 それをひょいとノールックで避けるグリンドル。見れば、白の球体がぷかぷかと浮かんでいる。……あれは、魔素をキャンセルする術式だったか。


「なるほど。軽くあしらえるからフレアリールも不満を垂らすしかできなくなるわけだ」

「貴方さまのフレアは、役立たずです……」

「グリンドル消されても困るからいいよ。あと誰かれ構わず攻撃するのやめなさい」

「うう……」


 しかし、そうなると肝心の、どうやって税関通れることになったのかは――


「あと、そう」


 グリンドルが指を立てた。


「この前知ったんだが、どうやら僕はイケメンらしい」

「うるせえ理解したわくたばれ」


 そこをなんとか、と頼み込んだグリンドルの顔に、税関の女性がやられたという死ぬほどどうでもいいオチだった。

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