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第四話 ~あいつの耳はどうなっているんだ?~

「啓介君? どうかしましたか?」


「いや、なんでもないよ。ところでさ、なんでいきなり君付け?」


「設定上彼女ですし、さん付けよりは君付けのほうがいいと思いまして」


 そんなものなのか? どっちかというと敬語じゃなくて、タメ口のほうがいいんじゃないかとも思えるが、まぁ黙っておくか。


「早くしないと唐揚げが冷えちゃいますよ?」


「ん、そうだな。」 


 急かされるままに、晩御飯を食べる。


「おっ、いつもと違った味でうまいな」


始め目の一口目に食べた唐揚げの旨さについ言葉が出てしまった。和風ぽい感じの味付けの唐揚げは、何故か懐かしさが出てくる味でとても美味しかった。


「啓ちゃんの彼女さんが作ったんだから、当たり前じゃない~」


「この唐揚げは、三咲が作ったのか?」


「はい、お醤油をベースにした味付けにしてみました」


 へぇ。ここまで料理が上手いとはな。ウチの母さんも結構料理が美味いが、そんな母さんに引けをとらないほどだ。


「お母さんも負けないようにもっと料理の勉強をしないといけないわね~」


「お母様の料理も美味しいですよ。お母様に料理を教えて欲しいほどです」


 笑顔で料理の話をする三咲と母さんは、まるで親子のように感じてしまう。実の息子がこの考えをするのもちょっとおかしいが、本当にそう思えてしまう。


そんなことを考えながら、やけに豪華な夕食を終え、俺は自室に戻ることにした。


 自室に戻ると、先にここに来ていたのか、窓際に茶々丸が座り込んでいた。


「おう旦那。帰ったか」


「どこに行ったかと思えば、こんなところにいたのか」


「旦那の部屋が一番外が見えるからな」


「外に何かいるのか?」


 茶々丸の横に行き、俺も窓から外を眺める。街の光が一望でき、いろいろな色の光が見える。


「そのわけの分からん鍵の影響で、変なのが集まってこないか見ていただけだ。今のところ、害の有りそうな輩はいないみたいだけどな」


茶々丸も俺と一緒に夜景を眺めながらそう呟いた。気に入ったのか、未だに爪楊枝を加えたままだ。


「そんなに爪楊枝が気に入ったのならいくらでもやるぞ?」


「うむ、なんだかこう、咥えていると落ち着く……」


 爪楊枝を咥える犬なんて珍しいなとふと思ったが、それ以前に喋っている時点で普通ではないよな。


 爪楊枝ぐらいなら、安くてたくさん手に入るものだから別に構わないしな。


「啓介さん? いらっしゃいますか?」


ふと、ドアの向こう側から三咲の声が聞こえてきた。


「ドアなら開いているぞ? 入ってこいよ」


「それでは失礼します」


 ドアを開けて、俺の部屋の中に入ってきた三咲は、部屋のちょうど中央にあるテーブルの前に正座する。そして、正座したまま、何も喋らず俺の方をじっと見つめてくる。 


「あの、三咲さん? 用があるならどうぞ?」


 正直、ただでさえ、見つめられるのは恥ずかしいのに、美人にジッと見つめられるとなおさら恥ずかしい。


「いえ、用はありません。お気になさらず」


「その、めっちゃ気になるんですけど」


 この状況下で気にせず居られるほど俺は図太い神経はしていない。気にしないようにしようと他のことを考えようとした時だった。


 ふと、一つ三咲をこの部屋から一時的だが追い出す策が思いついた。


「三咲、何なら先に風呂に入ってこいよ」


 策と言うよりは、思い出しただけなのだが。先に俺が入ってもいいがレディーファーストという言葉もある。一番きれいな一番風呂に入ってゆっくりとしてもらおう。


「なるほど……。そこで私の裸体を舐め回すように覗くということですね」


「覗かねぇよ。お前はどれだけ俺を変態に仕立てあげたいんだよ」


 母さんが居ないから本性見えやがったな。


「旦那は俺が見ているから、嬢ちゃんは行ってきな」


「ではお願いします」


 茶々丸の言葉であっさりと受け入れた三咲は立ち上がた。俺は疑うくせに茶々丸の言うことは鵜呑みかよ!


「では茶々丸さん。よろしくおねがいしますね」


「おう、任せとけ」


 ニコリと極上の笑顔を俺たちに向けた後、三咲は俺の部屋を去っていった。


「旦那。気を落とすなよ。何なら黙っておくから覗きに――」


「行かねぇよ」


「ふむ、健全な男子なら少しは悩んだほうがいいと思うが……」


ベッドの上に座った茶々丸は、心配そうに俺を見つめる。犬に心配されている俺って大丈夫なのか?

ちょっと落ち込みそうになっている俺を呼ぶかのように、机の上に置いてあった携帯が唸り声を上げる。


「ん? 祐一からの電話か。もしもし。どうした?」


「いやぁ、お前に今日の報告をしようと思ってな」


 電話の向こうから陽気な祐一の声が聞こえてくる。いつもの恒例の電話だが、この男は何故こう無駄な電話の使い方をするのだろう。


「全く、こんな電話をかけてくるのはお前だけだよ」


「全国の男子高校生なら普通だろ?」


「親友にナンパの報告するのはお前だけだから」


 そう、コイツの報告というのはその日のナンパの報告をわざわざ俺にしてくるのだ。


「で? 結構テンション高そうだな。上手くいったのか?」


 コイツは今までナンパしてきて上手く行った試しのない連敗男で有名だったがその不勝神話がついに敗れた時がきたのか。


「おお! よくぞ聞いてくれた友よッ! 実はな、今日も全敗だったよ~」


「なるほど、だからテンション高いのか…」


 それが、祐一らしいところでもあるんだがな。むしろナンパが成功した次の日には槍でも降るんじゃないかと思うほどだ。


「なんだか失礼なこと考えてないか?」


「考えてねぇよ。それじゃ切るぞ?」


「ちょっと待ってくれよ~。俺を慰めてくれよッ!」


「断わる」


「早ッ!!」


 チャポン……。


 祐一がそうツッコんだのとほぼ同時ぐらいに、風呂場で水の音がしたらしい。


「ん? 風呂にだれかいるな。女の子だろ しかもピチピチの10代。当たってるだろ?」


 恐ろしい聴力だな。女性が絡むとコイツの動体視力や頭脳が飛躍的に上昇するな。


 だが、面倒だし騙しておこう。バレたら一番厄介な男だからな。


「残念だったな。母さんだ。まだまだ修行が足りないな」


「あれ? おっかしいなぁ。ま、お前んちの母さん若く見えるからな~」


実際はバッチリあたってんだけどな。つくづく自分が男とで良かったと思えるよ。

こんなヤツにだけは絶対会いたくない。


「啓介君、御風呂あがりましたから次どうぞ?」


「あっ……」


 やっちまったな。よし切ろう。


「ちょ! 啓介ッ!」


 ブツッ。これ以上電話を繋いでおくと、大変なことになりそうな気がしたので電話を切り、ついでに携帯の電源も切った。


 携帯の電源を入れた時にどうなっていることやら……。


 考えたくもない。きっと凄まじい量の着信記録やメールやらが一気に届くだろう。


 明日から学校だが、早くも行きたくなくなってきたぞ。

 

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