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第二話 ~俺を置いて話を進めてない?~

玄関先で笑顔で睨み合う2人をウチの前で晒すのも、ご近所さんとの付き合いの意味で支障をきたしそうだったので、取り敢えず家に上がってもらい リビング机を挟んで座ってもらうことにした。


俺の横になぜか三咲が座り、その反対側の席に帽子を脱いだ宅配人のお兄さんが座っている。


「あのさ、俺には理解できないこと2人で繰り広げられても困るからさまずは理由を説明してくれない?」


「理由を説明したいのは山々なんだけど、そろそろ時間だと思うよ?」


「そうですね」


またもや俺を置いて2人は、揃ってリビングの壁にかけてある電波時計に目をやる。


 俺が時計に目をやると、デジタル表示の画面が、午後3時47分56秒を指していた。そして、ちょうど文字の表示が48分になった瞬間、玄関のチャイムが鳴った。


 椅子に座っている2人は何も言わず俺を見て頷く。


「啓介さんどうぞ玄関へ。そこに貴方の知りたい理由が待っているはずですから」


 三咲にそう促された俺は、渋々立ち上がると再び玄関に向かう。ドアを開けるとスーツ姿の若い女性が立っていた。


 歳はおそらく20代、会社員なのかもしれないが、若さの割にエリートさがにじみ出ている不思議な人物。


「槙原啓介さんですよね?」


 落ち着いた声で女性は俺に話しかける。


「はいそうですけど、どなたでしょうか?」


「私、()()()・リオーシュと申します。槙原さんのお祖父様から、とあるモノをお預かりたので、お渡しに来ました」


「えっと……。なんか長い話になりそうなので、とりあえず上がってください」



 新たに来た恵理菜さんを加えて、再び俺たちはリビングの机を挟んで座る。


「もっと色々な方がいると思っていたのですが、あちら側の人は2人しかいらっしゃらないのですね」


 恵理菜さんは俺の横に座っている三咲と自分の横に座っている金髪の青年を見てそう呟いた。


「ま、私の手で結界張っていますから」


「僕の威圧も加えているからね」


 のんきにそう言いながら湯飲みとティーカップに入ったお茶を2人は口にする。この人たち、本当は相当の力の持ち主なのだろうか? というか、宅配便のお兄さんも三咲と同じ側の人だったのか?


「では、仕事が楽に進められる内にこちらも話を進めましょうか。槙原さんのお祖父様、槙原(まきはら)団次郎(だんじろう)様に生前からお預かりしていた品と遺言があるのですよ」


「じっちゃんから?」


「はい、団次郎様が第2次世界大戦時に海軍に所属していたことはご存知ですよね?」


「はい。その手の話は、よく聞かされていましたから」


俺の祖父、槙原団次郎は俺が小学3年の時に病気で亡くなっている。生前の元気だった頃は俺のことをよく可愛がってくれたし、戦時中の体験、特に海軍にいた時の話はよく聞かせてくれた。


でも、じっちゃんから何か渡されるようなものなんて生前には聞いてことはなかった。


「じっちゃんから貰うものなんて、全く心あたりがないんですが……」


「そうですか。では、お預かりしたものを見ていただければ、何か思い出すかもしれませんし」


 恵理菜さんが足元においていたアタッシュケースを開けて俺の眼の前に差し出した。


 内装が赤い布のアタッシュケースの中には、手のひらに乗るほどの金属が置かれていた。


「鍵なのか?」


 金属を手に取りよく観察してみる。それは、かなり古いタイプの鍵でアンティークのようにすら見えてしまうほどのもの鍵。


 違和感があるとすれば、そのザラザラとした黒い表面の塗装のようなもの。


「それが例のものか……」


 組んだ手の上に顎を乗せて金髪の青年は意味ありげに呟いた。


「これを知っているんですか?」


「知っているも何も、この手の鍵は、霊界じゃ有名だからね」


「その鍵はこの世のもの鍵ではないのですよ」


 暑いお茶の入った湯呑みを置くと三咲はゆっくりと目を見開いた。


「それは、霊界で風魔の鍵と呼ばれているものです。霊力、妖力を開放できる恐ろしいシロモノです。詳しい話は申し上げられませんが、ハッキリと言えることは、この鍵はこの世に巣食う霊なら喉から手が出るほど欲しいモノということです」


「そんなにヤバイものなのかよ。俺はそんな物受け取れないぞ」


「鍵には選ばれちゃったみたいだけどね」


 どういうことだと思い、手元を見ると、さっきまで黒くザラザラとしていた古い鍵がいつも何かに銀色に輝く鍵になっていた。


 しかも、ご丁寧に首に下げてくれといわんばかりに赤い紐までついている。


「マジかよ……」


「しかも、呼んでもないお客まで来ちゃったみたいだね……」


 ティーカップを静かにおいた金髪の青年はそう呟いた。


「私が行きましょう」


 俺の横に座っていた三咲がゆっくりと立ち上がる。そして、何くわぬ顔で玄関に向かって歩いて行く。


「お、おい。どこに行くんだ?」


「ちょっと邪魔者に挨拶を」


 振り返らずにそう言い放つと玄関の扉を開ける。チラッと見えた外の景色に違和感を覚えた俺は、窓へと視線を向ける。


「な、なんだこれ!?」


 窓の外には空中で静止した一羽のスズメの姿があった。慌てて壁に掛けているデジタル時計を見ると、3時54分で停止したままだ。


 電池がないのならその画面に文字が表示されるはず。奇妙な光景に俺は次に紡ぐこと言葉が見つからないまま思考が停止しかけた。


「大丈夫。すぐに時間は元に戻るさ。それに、これぐらいで驚いていたら、この先生きていけないよ」


「な、何が起きているんだ?」


「意図的に時間軸を切り離した空間を作り出しているんですよ」


 席から立ち上がった恵理菜さんが窓の近くまで歩いて行く。


「始まったようですね」


「僕が行くほどじゃないけど、槙原くん。君は、これからのために慣れていた方がいい。少し外の様子を見に行くとしようか」


 異常な状況下で至って冷静な2人を見ていると、まるでここがいつも通りの俺の家のリビングではないだろうかと思えてくる。そう、ここが時間軸から切り離された世界だとは思えないほどに。


「鍵はいつでも身に着けておいた方がいいよ。その鍵自身が、君の身体能力を多少なりと上げてくれるし、いざ時の戦闘手段になるから。あ、そうそう、時間軸から切り離されているといってもものは動くし壊れるから注意しておいてね」


 赤い紐を首に通し、首から鍵をぶら下げた感じにした俺は、前にいる金髪の青年の後をついて玄関へと向かった。


 玄関に近づくに連れて異様な空気が濃くなっていくような気がする。


「さぁ、これが君に突きつけられている現実だ」


 玄関の外に広がっているのはいつも通りの景色。だが、いつも通りの景色に、人の姿は無い。


 いや、いつも通りの景色の中で、1人の少女と体長4メートルはあろう巨大なクモのようなバケモノが静かに睨み合っている。


「気配の正体はアイツだったみたいだね」


「あ、あれ大丈夫なのか?」


「ん~。普通の人間からすればヤバめの悪霊だけど、彼女なら大丈夫さ」


 いつも何かにワンピース姿から白い軍服のような制服姿になった三咲の右手にはギラリと輝く白銀の刃が握られている。


「如月さん、槙原君の前でカッコいいとこを見せないと意味ないと思うよ」


 金髪の青年の声に三咲が反応する。反応といってもこっちを振り向いたわけではなく、少し肩が動いた程度のものだった。


「危ないですからそこを動かないでくださいね」


 彼女はそう言うと、おもいっきり地面を蹴飛ばした。


 人間離れした加速力で一気にクモの化物との距離を縮めると、右手に持っていた刀を斜め方向に斬り上げる。


 居合の練習をしたとこを見たことがある俺には、その剣速は異常だった。

 じっちゃんの居合の剣速も相当だったが、それとは次元違う。刀の軌跡が見えるほどの動きの後、少し遅れて化物から緑色の体液のようなものが噴いた。


「小癪な! 貴様、ただの小娘ではないな!!」


 下手くそな合成音声みたいな声でバケモノがそう叫ぶと三咲との距離を一旦置いた。


「貴方に名乗る名前なんてありません」


 刀を両手に持ち、三咲は肩の高さあたりで刀を上段の構えをとる。


「ならば、鍵の主を食うのみ。鍵さえ手に入ればお前など取るに足らんわ!」


 三咲から俺にターゲットを変更した化物は、三咲を無視して一直線に向かって俺に突っ込んできた。

 

 恐ろしい速度で突っ込んでくる化物に立ちはだかるかのように、俺の前金髪の青年が立った。


「本当なら遊んであげたいけど、君の相手は槙原君でもなければ、僕でもない。そこにいる彼女だよ」

 

左手を突き出し、青年が呟く。間近まで迫っていた化物は見えない壁にぶつかるように目の前で停止した。


「じゃ、よろしくね、如月さん」


 左手の中指でデコピンするかのように青年が指を弾くと、化物は後ろに向かって吹き飛ばされる。


 そして、その先には目をつむって、刀を上段構えで待機していた三咲がいた。


「おかえり」


化物の影で三咲の姿が完全に消えた時だった。


1本の縦線が化物を横切る。刹那、その線から真っ二つになった化物は、強風に吹かれた砂のように何処かへ散り散りなって消えていった。



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