突然の訪問者
「陛下。こちらまでお越しいただき、申し訳ございません」
お父様が小物感を漂わせながら、王サマにゴマすりをする。
「ちょうどすべての容疑者の固有魔法の閲覧がすんだところ、か」
「はい、陛下のおっしゃる通りです」
お父様の返答を聞きながら、どこか異様な空気感を感じる。念のため防衛魔法を展開する。あたしにしか感知できない、この部屋を守っている古代魔法の防御壁を少し真似させてもらった。防御魔法を展開しながら、ふと違和感を覚えた。
(なんで王サマは、黒真珠のアクセサリーを身に着けた三人を容疑者として絞ることができたのか……? そこまでわかっているのならば、なぜあたしたちに捜査を依頼したのか……)
ふと、お母様を見ると、お母様も王サマや宰相サマに見えないように防御魔法を展開しようと準備していた。
あたしの心の声を聴いたお父様の表情も曇っている。
「拘束魔法」
突如杖を取り出した宰相が、あたしたち一家に拘束魔法をかけようとした。宰相以前にお母様が防御魔法を展開し、拘束魔法をはじいた。ふふん、うちのお母様の防御魔法の展開の速さは、我が領地のナンバーワンなんだっつーの! あたし? 圧倒的魔力量だけど、防御魔法以外なら展開も早いよ?
「……スターナー伯爵夫人は魔法の展開が早いな」
何事もなかったかのように、王サマがそう語る。無言の宰相サマ、何考えているのかわからなくてキモ。
「恐れ入りますわ。……羽虫が飛んでいたので、つい防御魔法を展開してしまいましたわ。わたくし、虫が苦手ですの」
おっとりとした笑みを浮かべながら、今の宰相サマの攻撃をなかったことにするお母様。まじこええ。お父様に至っては、顔が死んでいる。お父様、ちゃんと家族を守ろうとしろよ?
「では、私もそなたたちの杖を折らせてもらおうとするか」
そう言って、宰相サマの横に立った王サマ。二人が杖を構える……あれって、杖を動かなくしたら、もしかして攻撃できなくなるタイプ? あたしは杖がなくてもいけるクチだけど……。
(ねぇ、お父様。あの杖を動かなくしたら、不敬?)
(……今は不敬とか言っている場合じゃない! いっけー! ミシェル!)
テイムした魔物を使うテイマーのように意気揚々としているお父様の許可を得たので、杖を魔力の糸で絡み取り、動かなくする。……え? もちろん無唱魔法だし、無杖魔法だけど?
「……攻撃魔法……杖が動かぬ?」
「陛下。私の杖も動きません」
目を見合わせた二人と目がばっちりと合った。
「……ミシェル嬢。そなたの仕業か?」
「……」
ご指名を受けたあたしは、自由に発言する許可を得ていない。
「申し訳ございませんが、わたくし……」(悲痛な顔)
仕方がないので、お父様に視線を向けた。
「お父様。お願いしますわ」
淑女らしい微笑みを向けると、お父様はあたふたとして、お母様に助けを求めた。
「フライア……」
泣きそうな顔をしたお父様に名前を呼ばれたお母様は、一歩前に出て、言葉を引き取った。
「僭越ながら、陛下。わたくしが、夫と娘に代わって推論をお話させていただいてもよろしいでしょうか?」
(お父様、セリフ追加していい?)
(今や不敬など関係ないから、許す!)
new! 「お母様。お願いしますわ」
「お母様。お願いしますわ」
あたしもお母様に負けじと淑女の笑みを浮かべた。攻撃? されてないしなかったことに! 我が家は長いものに巻かれるタイプだからね!




