255の世界で9999のバグの人と馬
視点がころころ変わります。
城から離れた王都の端、朝の行軍が嘘だったかのように平民達は普段の日常を送っていた。
そこにドガラッと音を立てて白い巨躯が立つ。
「ふぅ、さすがに無理したかいがあって早めに着いたな」
一息ついた鎧姿のグリエダが太陽の高さから、どのくらいで到着したか計った。
馬車と兵を連れての行軍で、日が昇る朝方から出発して昼近くに着いた土地から、アスファルトで舗装された道路を車が走行するよりも、グリエダとその愛馬白王は早く王都まで戻って来たのである。
「ブルルッ」
「ふふっ、お前は無理はしてないか」
グリエダは、嘶き蹄で石畳を砕いて不満をあらわにする白王の首筋を軽く叩いて宥める。
「うぅっ。おかしいのじゃ……道じゃないところを飛んで降りるのは無茶なのじゃ。お馬さんは横になって壁を走らないのじゃ」
まだまだ余裕な彼女と馬とは違い、その間で呻くリリィ。
崖を飛び降り、途中の村の家の壁を走って方向転換し、盗賊紛いになっていた愚王派の貴族の集団を斬り殺し踏み潰して蹂躙して駆けたのは大したことではないとのたまう一人と一頭に、幼女はひとこと言いたかったようだ。
「? そんなのは当たり前だろう」
「……のじゃ?」
「私の愛馬が特別なだけだ。なぁ白王」
「ヒヒンッ」
真に特別な存在は、特別であることを自覚していた。
グリエダは馬首を王都の中心、城に向ける。
「さて、休憩も終わりだ」
「ま、待つのじゃ。わらわまだお腹がキューとなってお口がオエッとなりそうなのじゃぁ」
ウルウルと訴えるリリィ。本当かどうかともかく、その媚びは侍女長に怒られる小悪魔を見て学んだものだ。
「待ってもいいが。その間に全てが終わっていても、私は知らないぞ」
「うぬぅ」
ただし、可愛いもので慣れてしまっているグリエダには効果が薄かった。
「う、にゅ、い、行くのじゃぁーっ!」
「ハハッ、それでこそ国の頂点を獲ろうとする気概だ」
「ヒヒーン」
グリエダに媚びが通じなかった困惑、悩み、そして覚悟を決めたリリィは前のめりになって城を指差し叫んだ。自棄になったともいう。
だが、その自棄はグリエダの機嫌を良くし、移動手段の白王は言葉がわかったかのように首を振ってやる気を示す。
「ここから大通りで城まで一直線だ。道も荒れていないし、辺境の全力の走りを見せてやろう」
「のじゃっ!? いいい、今までのは本気じゃなかったのじゃっ!?」
「曲がりくねったり上下に動くと速度は出ないだろう?」
「ブルルルッ!」
「はくおー止まるのじゃっ! わらわはオエーになるの、じゃあああぁぁぁ」
リリィの訴えは聞き入れられずに白王は進み出した。(だって馬だもの言葉わかんないの)
白王が通ってきた道は王都への続くメインの街道として整備されている。だが、白王のパワーを受け止めきれずに耕されたばかりの畑の様になっていた。
王都の主道路の殆どは石畳になっている。丁度いい硬さの地面は白王にとって走りやすかった。
爆破の音を鳴らしながらどんどん加速していく白王、悲鳴がドップラー効果と力が無くなって小さくなるのじゃ姫の悲鳴。
そんな巨馬が爆走した後に残っていたのは、粉砕された石畳だった。
後に小悪魔が耕された街道と蹄の形に穴の開いた家の壁と一緒に弁償することになってシクシク泣くことになる。
◆◆◆◆◆◆◆◆
アレハンドロは変態である。
訂正、ショタの主が好きな変態で執事で元暗殺者である。
そんな彼は暇を持て余していた。
マロッドが兵を纏め始めたせいで、後方に逃げようとしていた貴族達は槍で前線に追い立てられて、逃亡する者を排除する役目を担った彼の下に来なくなったのだ。
持ち場を離れることが出来ず、己が殺害した死体を数か所に集めて妨害用の小山を作っていた。
その彼の耳に遠くから馬蹄が轟かせる足音が聞こえてきた。
普段はショタの主を称賛することしか考えていないアレハンドロのピンク色の脳が珍しく閃く。
「ふむ」
彼は死体の配置を調節し、その上に落ちていた盾を置き始める。きれいに並べられた盾はマロッド陣営とは反対の方向に斜めに下っていた。
そこに音を出していた存在、グリエダ達を騎乗させた白王がやって来る。
アレハンドロはクイッと顎で自分が作った即席のジャンプ台を指した。
距離はまだ遠く常人では見えないのに、グリエダはフンと鼻を鳴らして白王のスピードを更に上げる。
そして連なった盾の上を駆け上がり大きく跳躍した。
小悪魔の所業で減少したとはいえ、大通りから城門前の広場の入り口付近を占拠するマロッド陣営の遥か頭上を飛翔する姿を見て、アレハンドロは主の為にいい仕事をしたと満足気に頷いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
セルフィルがポカンと口を開けて私を見ている。
うん。愛おしい婚約者の初めて見る表情はいい。だが、もう少し近くで見たい。
それにはあと数秒ほど空を飛んでいなければならないのがもどかしい。
空いた時間で下を睥睨すると、防壁の中にいるセルフィル達が防戦を強いられているように見えた。
アレストのジジイ共は側面の防壁に殺到する歩兵を弓と槍で上手く処理をしていたが、正面に殆ど人数を割いていない。
あの生まれた時から戦っていた爺共が、敵に釣られて防衛に素人みたいな穴を開けるわけがないから、きっとセルフィルが何かしようとしたのだろう。中途半端に彼が手を振り上げているからきっとそうだ。
もしかするとセルフィルは私のせいでタイミングがズレて危機に陥っているのかもしれない。
これはさすがにいけない。だが空を飛んでいる今は、取れる手段が限定されている。
どこかに敵の進攻を一時的にでも止めるものは……、ああ丁度良さそうなのがいた。
持っていた槍を逆手に持ち替える。
右上半身を後ろに捻じり穂先を目標の的に狙いを定め、投げた。
ああ、自分のミスで槍を投擲することになろうとは。途中の盗賊モドキをスパスパ切れて、刃こぼれも柄が折れもしない良い槍だったのに。
またセルフィルは槍をくれないかな。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ヒャッハハハーッ! 貴族ごと魔法を打ち込んでいいとは嬉しいのぅっ!」
とち狂った奇声を上げながら巨大な火球を作り出しているのは私の師匠だ。
農民の私を慰み者にするために家族を殺して連れ去ったら、魔法使いになれるだけの魔力を持っていた私を奴隷兼弟子にした魔法使いの師匠。
そんな畜生より遥かに劣る師匠だが魔法だけは凄かった。
今も横並びにいる魔法使いの中で一番大きい火球を、振り上げた両手の先に作り出していた。
きっと火球は貴族達を飲み込み、相手側に甚大な被害を与えてしまうだろう。
そしてそうしない内に討ち取られる。
農民だった私でさえ、ランドリク伯爵についた者に先がないぐらいわかるのに。一度堕ちたら這い上がるのは困難なのに、元から狂った師匠達は王子様に付けば過去の傲慢な生活を取り戻せると信じていた。
私もこいつらの狂気から逃れられない。
だったら畜生の師匠が死ぬ瞬間を見たい。両親を祖母を兄を妹を、好きだった隣のあの子を炎で焼き尽くした憎き仇が死ぬ姿を。
今までスキを見せなかった畜生が集団の狂奔に呑まれている今、自分の魔法をはなっても体当たりで魔法の制御を暴走させても復讐出来た。
動き出そうとした時、見なければよかった。
私が動くなんてお見通しだとばかりに下品で傲慢な目がこちらを見ていた。
一瞥だけで動けなくなった私に畜生は声を掛けようと口を開けボヒュ
「「?」」
風が耳を叩く音が一度だけ鳴った。
畜生も聞こえたようで、鳴った自分の身体を見る。そこには大きな穴がぽっかりと開いていた。
畜生は穴と私を何度も往復して見て、目を見開いたまま死んだ。
身体は前のめりに倒れていって、まっすぐに飛ぶはずだった両手の先にあった巨大な火球は前を行く貴族達の足元に落ちていく。
このままだと火球の威力は土塁の防壁を超えず、こちらに全て返ってくるだろう。他の魔法使いの魔法も、その衝撃で暴発して二次被害が出るはずだ。私もただでは済まない。
だが私は笑っていた。
家族があの子が死んでから誰も助けてくれなかった。でも、最後に神様が畜生に天罰を与えてくれた。
私はそれだけで満足だった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「あ、槍を投げた」
白王に跨って飛翔しているグリエダさんが槍を投擲した。
山なりじゃなく、レーザービームのように一直線に飛んだ槍は、でっかいファイヤーボールをノリノリで掲げていた魔法使いのジジイにクリティカル貫通。そしてそのまま石畳を粉砕して地面に刺さった。
柄の半分まで埋まってない? 対物ライフルの威力を超えてませんか?
魔法使いのジジイは風穴を開いた身体を確認してキョロキョロ回りを見たあと死んだようだ。でもそのファイヤーボールは健在で、前に倒れたジジイと同じ軌跡を描いて、突撃中の貴族の斜め上から落ちていた。
貴族達が壁になって爆発の影響はないだろうけど、念のためカルナに土塁の高さを上げさせる。
指示を出したところで、白王が俺達の陣地内に降ってきた。
たぶん戦車の砲弾が近くに落ちたらこんなだろうなという爆風付きの轟音が鳴る。
大量の土煙が収まり始めると、その中心には我が終生のライバル白王が気迫に満ちた状態で存在し、その馬上には胸の膨らみ部分が無ければ鎧姿の貴公子にしか見えないグリエダさんがいた。
「ただいま。我が儘な王女様が王都に戻りたいと駄々をこねたから護衛しながら戻って来たよ」
うわ。超さわやかスマイルで絶対に建前なことを言うグリエダさん。
そしてちょうどいいタイミングでグリエダさんの背後、防壁の向こう側で巨大ファイヤーボールが爆発した。
日曜朝の戦隊モノの爆発登場シーンかな? あ~他の魔法が誘爆してるなあれは。
覇王様「手加減はしたんだ。城壁を破壊するぐらいで投げるとコントロールがあまり効かないから、セルフィルに当たる可能性があったからね」
驚愕ショタ「ヤバい。僕の婚約者、前世の魔王の恋人の雌虎より遥かに上だった」
覇王様降臨~♪ヽ(´▽`*)ゝ
これによりマロッド陣営の奇跡も無くなりました(´д`)
ちょっと脳が続きを構築しているので後書きはこれまでで<(_ _)>









