私の相方は三倍速い(体力はさらに)
ヒラリス親子の最後です。
「さて準備は出来たな」
「のじゃぁ……」
グリエダの軽い口調に、のじゃが小さくなるほど不安になっているリリィ。
王都に彼女らは馬上の人となっていた。
「では、そちらは頼むぞ」
グリエダはちらりと自分よりも低い位置にいる二人を見た。
「まあ、すでに終わっていますので何もすることはございませんが」
辺境の地で前辺境伯と共に戦場を駆け抜けていた老齢のエイプ子爵は肩をすくめてこたえる。
「どうかリリィを王女様をよろしくお願いします」
ジェロイは深々と頭を下げる。体がボロボロでついて行くことは出来ない今の彼には大切な妹を信頼して預けるしか出来なかった。
ちなみにメイドのアリーは『メイドですから』と、その二人の後方に待機している。
グリエダは軽く頷いて了承した。
右手には体格が良い騎士が持ちそうな大槍を軽々と持ち、幅も厚みもある剣を佩くその鎧姿は、胸の膨らみ部分がなければ、いや女とわかっても女性達は見とれてしまうだろう。
リリィはグリエダの前に騎乗していて、その顔色はあまり良くない。
なぜかというと、彼女らが騎乗している馬の高さにあった。
グリエダの愛馬、白王は周囲にいる騎士が乗った馬の馬体より一回り、いや二回り以上大きく、その体高はかなりの高さになっている。
『そこに登るべき馬がいるのじゃ』と言って登頂させてくれた白王は、厩舎で大人しく子供を傷つけないようにしてくれていた。
「ブルルッ」
しかし、今の白王は血管が幾筋も浮かぶほど筋肉が盛り上がり、前脚で地面をガツガツと蹴って、気が高ぶっている。
闘争を求める軍馬の気配は幼女にはかなりの恐怖だったようである。
「リリィは魔力を身体強化に使えるようになっているな」
「? ジジーが教えてくれたのじゃ。変態から逃げるには絶対必要じゃったのじゃ」
リリィは奇抜な子供用らしき服を両手に持って無表情でハァハァ興奮しながら内股で疾走してくる変態執事を思い出し、遠い目になる。
「なら全力で鞍にしがみついておけ。身体を押さえてはやるが、万が一はあるからな」
「ちょっ!? 待っ」
リリィが止める間もなく、グリエダは白王に全力疾走の合図を送る。
ドガラッ!!
地面が爆発した。
いや駆け始めた白王の蹄が道を一瞬で掘り起こした音であった。
「つのじゃああぁぁぁぁ……」
リリィの声がドップラー効果が小さくなっていくほどの速さで小さくなっていくグリエダ達が乗る白王。
近くにいたせいで耕された様になっている道の舞った土を全身に受けたジェロイと、わかっていたのかその後ろにエイプ子爵、更に後ろにアリーがジェロイを防壁にした。
「さてゼンーラ」
「さっきから言っているそれは俺のことを言っているのか」
完全に白王が見えなくなり、土埃も収まるとアリーがゼ、ジェロイに近づく。
「左手を出しなさい」
「……」
そうアリーに促されて、今まで隠していた左手を出した。
左の指は五本とも逆に折れているか、関節が増えている個所もある。ヒラリス親子の拷問は甘くなかったようであった。
「よくリリィ様に気づかれないようにしましたね。貴方は使用人としては不合格でしたが、リリィ様の兄としては合格点をあげましょう」
「っ!」
アリーがグシャグシャの指に手をかざす。
「ほほう、治癒魔法ですか」
それを興味本位で覗き込んだエイプ子爵が驚いた。
アリーの手から淡い光が降り注ぎ、ジェロイの指がゆっくりと修復されていっていた。
「魔力が乏しいので今は骨を繋ぐのと、血の流れを正常に戻すのを重点的にするくらいしか出来ませんが」
「それでも礼を……」
「貴方は最後まで私達使用人に敬語を使用しませんでしたね。それを直せば侍女長から合格を得たでしょうに。はい終わりです。これ以上は私が疲れます」
ペシッと左手を叩かれたジェロイは顔をしかめるだけですむ。炎症で腫れたりしてはいるが指は元通りになっていた。
そのタイミングでジェロイは体をふらつかせる。
「私の魔力の代わりに貴方の血と肉を使わせてもらい回復させました。他の身体の軽傷は直していませんし、体力は底を尽いたでしょう」
急激に眠気が襲ってきたジェロイはアリーが呼んだ兵に抱えられる。
「子供がいなくなれば、大人の時間です。縁を切ったとはいえ見ない方がいいです。ゆっくり眠りなさい。一応、死にはしませんよ死には」
ジェロイの瞼が完全に落ちる寸前に、アリーが楽しそうに笑みを浮かべているのが見えた。訓練と称して骨を折り治癒魔法を施した悪魔の一人だが、彼の知る限り約束は守る。
眠る寸前、彼が思ったのは、『少しは地獄を味わえクソ親子が』だった。
ジェロイが完全に眠りについたのを確認したアリーはある方向を向いた。
そこには横一列に並ぶアガタ公爵家の使用人達と、猿ぐつわをされ拘束されて芋虫の様に這いずるヒラリス親子の姿があった。
「これからは元になるヒラリス子爵様とその長子様にただただ苦痛を与える時間が始まります。アガタ公爵家の使用人の皆さんはしっかりと記憶に刻み込んで、ハイブルク公爵家に歯向かうのは愚か者がする行為だと喧伝してくださいね」
「ほほう。情報を取り出すのではなく、今後の歯向かう者を無くす拷問をするのですかな?」
「はい。『クズは反省出来ないから後悔と恐怖だけはきっちりと刻め』が、セルフィル様の方針なので」
うんうんと満足そう頷くエイプ子爵。
「その容赦の無さは辺境の地に合いそうですな。どれ、私も騎馬民族でこなした技術を披露してもよろしいかな? こちらの子爵はアレストの兵を無駄に動かせた罪もあるので多少は気晴らしをしたいのですよ」
「ほほう。それは興味ありますね。道具は必要でしょうか? いろいろと常備しておりますし、多少の傷なら時間をかければ治癒出来ます」
「ほほう、ほほう」
アリーはメイド服の袖から様々な器具を取り出し、それを見たエイプ子爵は目を輝かせる。
「「さて、お二人は最初にどれを使って欲しいですか」」
クルリと首だけ向けた二人の顔を見たヒラリス親子は、生まれて初めて後悔した。
◆◆◆◆◆◆◆◆
その少し後、王都の街道を耕しながら白王は爆走していた。
「のじゃああぁぁぁっ!」
「まだ叫ぶ余裕があるな。もう少し速度を上げよう」
「ンムッんんんーっ!?」
その白王の馬上では幼女の体力の限界を測る大会が繰り広げられていた。
「すでにセルフィルが騎乗していた時の倍の速度は出ているんだが、これはリリィの方が身体強化は上手いという事か?」
「んんーっ!」
リリィはセルフィルの為の特注の鞍に持ち手がなかったら吹っ飛んでいた。
急なカーブでは横倒しになって木を蹴り折って曲がり、曲がりくねる坂は無視して直線に下りていった。
まともに道を走るのは直線の時だけという、そろそろ幼女の中から何かが溢れてきそうな激走をしていたのである。
「この先は遠回りで橋を渡らないといけないな。……よし」
「何をするつもりなのじゃっ!?」
少し速度を緩められて喋る余裕が出来たリリィが聞く。彼女はこの猶予の時が絶望へのカウントダウンという事を知っているのだ
その通り白王は川に向かって走り出した。
「そっちは大きい川なのじゃ。溺れちゃうのじゃーっ!」
近くで牛を洗っていた農家の男性がその光景を見ていた。
巨大な馬が空を飛翔し、『のじゃああぁぁぁぁぁ』と可愛く悲哀の声が聞こえたと、村の仲間に話し、疲れているんだなと酒を奢られることになる。
覇王様「ハハハハハハ、楽しいなっ!」
のじゃ姫「……」ただの幼女の屍のようだ。
エイプ爺&メイド1「「楽しいー♪」」
筆者はクズを許しません。
ショタの方針は前世の友人魔王様と話し合って作られました。魔王様の場合は死ぬまで金稼いで償えが追加されています。
エイプ子爵は捕虜になった騎馬民族から情報を聞き出すお仕事をしていました。
アリーは治癒魔法で盗賊から情報聞き出すお仕事をしていました。つまり相性抜群の二人に弄ばれるヒラリス親子……少し可哀想だ(;´Д`)
ようやくっ!ようやくっ!グリエダの相棒白王をちゃんと出せましたー!ヽ(´▽`*)
覇王様の馬はやはり黒●、●風クラスなのです!姪っ子を心配する伯父さん馬はやる気が漲っています。おかげで姪っ子リリィはエロエロ限界領域を彷徨っています(´▽`)ノ
さあ次回はお久しぶりのショタ!久しぶりで書けるかな(;´Д`)
ただいま「このライトノベルがすごい!2025」が開催されています。
小悪魔ショタに投票しなければ筆者を宰相の下で、24時間監視で仕事をさせると、担当様に脅されています(ノД`)(大嘘)
●投票先
https://questant.jp/q/konorano2025
物書きならすみっこに載ってみたいです。投票よろしくお願いします<(_ _)>









