ゼン……ジェロイ=ヒラリスという漢
遅くなった理由は後書きで<(_ _)>
最後まで読むと良いことがあるか……も?
ジェロイ=ヒラリスを見てくれる者は少なかった。
ヒラリス家自体が貴族社会で忌避され。家族では祖母くらいなもので、その祖母も長期で家に戻らない事が多かった。
誰かに自分を見てもらいたくて幼少期は粗暴な行動を起こし、青年期には実力があれば能力を見てくれる騎士を目指した。
だが、暴れても軟禁されるだけで父は叱りに来てくれず。最低限の魔力しか持たなかったから騎士になるのも出来なかった。
誰も見てくれず。誰も興味を向けてくれないことに、歳を重ねても焦燥感は無くらない。
そんなある日、長い間屋敷を空けていた祖母が赤ん坊を抱えて帰ってきた。
「なんだその赤ん坊はっ!」
ジェロイの父、ヒラリス子爵は見知らぬ赤ん坊を連れてきたのを罵倒した。そして誰の子かを吐かない実の母に老朽化した別邸に住むことと、赤ん坊と母の生活費は出さないどころか赤ん坊の暮らしの為に今後払われるお金をよこすことで暮らすことを認めた。
「大丈夫よ。最近はもっと苦しい暮らしをしたから」
心配したジェロイに祖母は笑った。
「それよりこの子の顔を見てあげて」
祖母の言葉におそるおそるジェロイは赤子の顔を覗いた。
「あ~」
まだしっかりと見えていないだろうに赤ん坊はジェロイを見た。
小さな小さな手が求めるように持ち上がり何かを探すように動かす。何が不満なのかウーウー唸っている。
祖母に指を出してごらんなさいと促されて、彼は指を差しだした。
「あう~♪」
「っ!」
ギュッとジェロイの指は強い力で握られた。捕まえたことに喜んでいるのか、赤ん坊は彼にキャッキャッと笑った。
「お婆様。この子の名前は」
「リリアーヌよ。あまり呼ぶとあの息子にバレる可能性があるから、リリィと呼びましょうか」
「リリィ……」
この時はリリィが王女だなんて知らなかったジェロイ。
しかし、彼は決めたのだ。
「この子は将来苦労すると思うの。ジェロイは護ってくれるかしら」
祖母の言葉にジェロイは頷く。
笑いかけてくれた、自分を指を握りしめてくれたこの子の為に己の全てを使うと。
それからはジェロイにとって楽しい日々が続く。
なんにでも興味を示して暴れるリリィのおしめを替えるのは苦労し、動き回れるようになってからは何でも口に入れるのを止めることになった。
「ジェロイは嫌いーっ!」
初めて言われた時にはその日の晩御飯は喉を通らなくなり。
「ばば様好きー。ジェロイも少し好きー」
滲み出てくる涙を我慢する程ジェロイは嬉しかった。
リリィが第二王女と知らされても彼女を彼が護る事には変わらない。リリィの誕生日に第二王子と第一王女が贈り物をしていると知っても、自分以外にもリリィを大切にしてくれている人達がいると喜んだ。
ジェロイにとって初めての生きていると実感できた時間であった。
しかし、楽しい時は永遠には続かない。
高齢の祖母の体調が次第に悪くなっていくと、暮らし向きは悪くなっていく。
ジェロイの父で祖母の息子であるヒラリス子爵は薬代も出さずに、厄介者がいなくなると喜んだ。
「リリィが幸せになる機会が来たなら手放しなさい」
祖母は亡くなる間際にジェロイにそう言葉を遺す。
祖母がいたから劣悪なヒラリス子爵の家で暮らしていけた。それくらいは自分でも足りないとわかっているジェロイでも理解していた。
だから祖母が亡くなってしばらくして、王妃から彼女の身柄を安全な公爵家に預けるという手紙が届いた時に、リリィから離れる決意をした。
第二王女リリアーヌ様の権威を自分のものと勘違いする、愚かで間抜けで相手に不快な思いを与える貴族子息を演じ、リリィを保護してくれる貴族に嫌われ引き離されることを望んだのである。
演技はリリィが王女と知れば寄生虫の様に吸い付くであろう、ヒラリス子爵という父と長子の兄が良い参考になった。
ジェロイは愛おしい妹のリリィの為に、祖母がいなくなって害悪にしかならないヒラリス子爵家との縁を切ろうとしたのである。
その後は自身が野垂れ死んで終わりと考えていた。
「第二王女様の騎士としてなっていない礼儀作法を教育してあげましょう。ハイブルク公爵家を愚弄した様な行為の結果は、身をもって知りなさい」
ただジェロイの身内の愚かな真似をした演技が良過ぎたのか悪過ぎたのか、全裸に近い恰好で捕縛され、リリィが保護される貴族の屋敷で…
地獄があるならここだろうという体験を身をもって受けることになった。
◆◆◆◆◆◆◆◆
「ここにリリィが来ているだと……」
薄暗い地下牢で、鎖に繋がれていたジェロイは信じられないと眼を開いた。
目の前には彼の兄であるヒラリス子爵の長子が、ジェロイを汚いものを見る目をしながら教えたのだ。
「ああそうだ。お前のせいでな」
長子は下の下の性格をしている。ヒラリス子爵について王女のリリィと謁見するよりも、自分が人質になったせいで、王女を呼び寄せることになったことに落ち込むジェロイを見て楽しもうとしていた。
「本当か? ハイブルク公爵家の方は止めなかったのか」
だがジェロイは落ち込んだ様子はなかった。それどころか長子に答えさせるために詰め寄ろうと拘束する鎖を鳴らす。
「っ! このっ、動くなぁっ!」
長子は鳥の首を絞めた様な声を上げながら、懲罰用の鞭でジェロイを叩いた。
答える気が無いと思ったジェロイは思考に意識を向ける。たかがミミズ腫れになる程度、自分の骨がきしみながらゆっくりと折れる痛みに比べればなんてこともなかった。
ジェロイは残虐非道を平気で教育とのたまう屋敷で、祖母が亡くなってから元気の無かったリリィに笑顔が戻っていくのを見ていた。
「俺のせいか……」
リリィのいるハイブルク公爵邸から逃げて姿を消しておけばよかったと後悔する。
永遠にリリィと会えなくなっても構わないと決意したところに、地獄の教育を受けることになっても傍で彼女を見続ける機会を得たことに甘えてしまった。
王女としてリリィが城に行けば会えなくなる。その運よく出来た時間を噛みしめていた時に、父であるヒラリス子爵の手紙を女が渡してきた。
嫌な予感しかしない手紙は最悪最低なことしか書かれていなかった。
『誰にも知らせずに戻ってこい。でなければ、あの女を墓から起こして野犬にでも喰わせてやるぞ』
鬼畜の所業に眩暈がした。
いくら険悪で不仲だったとしても、死者となった己の母を辱めることはしない、とは言えなかった。
ヒラリス子爵は息子のジェロイから見ても、自分が良くなるなら己以外がどうなってもいいと考えているクズ野郎だからだ。
この頃には、ハイブルク公爵家がセルフィル=ハイブルクが、どんな所業を貴族に王家に王にしたかを知っていた。
そんな化け物がリリィの傍にいてくれることに安心し、ジェロイは実家のヒラリス家に戻る。
ジェロイには未来にヒラリス家は存在しないことは予想が付いていた。第二王女の養育費を掠め取っていた者達が生き残れるほど貴族は甘くない。
そして隠していても、いつかリリィはヒラリス家の実情を知ることになる。その時に育ての親の亡骸が非道の行為で辱められたのを聞けば、彼女の心は壊れてしまうと彼にはわかってしまった。
だからジェロイは脳の構造があまりにも違い過ぎて、唐突に考えなしで殺すかもしれないヒラリス家に、リリィの為に戻ったのだ。
リリィを誘い出すためにジェロイを人質にすることぐらい彼でもわかっていた。
しかし、ハイブルク公爵家に囲われたリリィを、木っ端な子爵の息子を助けに行かせるわけがない。
そう考えていたのにリリィは彼を助けにやった来た。
「長子様っ!」
「ハァハァハァ。な、何の用だ」
混乱しているジェロイを長子が懲罰していると、慌てた使用人が地下牢に入って来た。
使用人はジェロイに聞こえないように長子の耳に顔を近づける。
使用人の話を聞いた長子はニヤニヤと笑う。そしてジェロイの髪を掴み上に顔を向けさせた。
「おい聞け。間抜けな父が王女に出し抜かれて拘束されたらしい」
「は?」
ジェロイは聞いてすぐには意味が分からなかった。リリィが父のヒラリス子爵を拘束? まだ六歳だぞ? あぁ、でもハイブルク公爵邸で顔に鮮血を付けて獲物を〆て晩御飯がお肉なのじゃ♪ とか喜んでいるのを見たなぁ。と、軽く走馬灯に近いものに精神を飛ばすジェロイ。
だが、次の長子の言葉でその精神は現実に戻ってきた。
「間抜けな父だが、人質のお前の事は忘れていなかったようだ。自分の身の安全の確保の為にすぐに連れて来いとさ。よかったな役立たずのお前がヒラリス家の役に立つぞ」
ジェロイの顔から困惑というものが無くなる。長子はそれを絶望したのだと醜い笑みを深めた。
「おい。こいつの拘束を解け」
「え、しかし」
「これだけ痛めつけたんだ。歩くのもやっとだろう」
長子は乱暴にジェロイの髪を離して使用人に命令する。おずおずと使用人は手枷に付いている鎖を外し始めた。ジェロイは力なく俯き、外されていても抵抗も見せない。
「しかし、ガキに拘束されるとはなんと情けない父だ。よし、私が交渉を行って今後のヒラリス家の実権を握ろう。今までは唆して動かしていたのを直接出来るようになるだけだしな」
自分が賢いと思っている人は不用意な発言が多い。
「お前が……」
「ん?」
「お前がお婆様の墓を暴こうとしたのか」
俯いたジェロイの見えない口から、低く掠れた声が発せられる。
それを長子は弱っていると決めつけた。
「そうだ私の素晴らしい知恵を、あの愚鈍な父に授けてやったのだ。ババアも王女の存在を教えていればうまく使ってやったのに。まあ死んでも少しは役に立ったがな」
さかしら過ぎると、もう全てが手遅れで。
どうして誘拐はされたのか、その命令を下したのは第二王子マロッドだとジェロイは拷問中に聞いていた。
毎年リリィの誕生日に心のこもったプレゼントを贈ってくれた人物が、たった一度だけジェロイに祖母とリリィをお願いしますと手紙を送った人が、祖母にあんな残酷な行為をするはずがない。
何か裏がある。そこだけが気がかりで、操られているかもしれないという自分に流れる血への最後の情だった。
「早く立たせろ。こういう時はタイミングが大事なんだ。王女なんぞ私に逆らえないようにしてやる」
鎖を外されたジェロイは、使用人に脇に腕を差し込まれて立ち上がらせられる。
しかし、ヒラリス子爵と長子の拷問と長期間の監禁からくる衰弱のためかよろめいて上手く立ち上がれずに、前のめりのままよたよたと足を出した。
そう長子と使用人には見えた。
実際は立ち上がらせるために距離を空けた長子との距離を詰める為であり、前のめりになっているのは立っている二人から、勢いよく踏み込む足を見せないようにする為であった。
ダンッ! とジェロイは完全に死角になった足を勢いよく前に出す。
「ギャアッ!!」
足が向かった先は長子の足の上。
踵で踏まれた足の甲の骨は粉砕骨折し、長子は激痛で悲鳴を上げた。
さらにジェロイは踏み込んだ運動エネルギーを使って、破壊した足を支点に長子の身体をくるりと回転して背後に回り込む。
最後にやって来た腕をそのまま長子の顎の下に通して、もう片方の腕を掴み首を絞める寸前の状態に持ち込んだ。
「もうお前等に身内の情は無くなった。殺されたくなかったらリリィのいる場所を教えろ」
迷いのない憎しみと決意のこもる声でジェロイは長子を脅す。
しかし、長子からの返答はなく、のぞき込むと彼は泡を吹いて失神していた。
激痛を与えられた足をさらに抉りこまれた時点で彼の意識は現実の世界にいなかったのである。
「ちっ。おいそこのお前、リリィの居場所はどこだ」
「ヒイイィィッ」
ジェロイは舌打ちしてもう一人情報を持っている使用人に聞くけれども、一瞬で人が壊されたのを見て悲鳴を上げるだけになっていた。
「リリィーッ! どこにいるリリィー!」
時間を掛ける暇はないと判断したジェロイは叫びながら屋敷の中を探し始める。
叫び声に気づいて使用人達が現れるけれども、長子の首をチョークスリーパーで絞めて人質に取られて近づくことが出来なかった。
「どこだぁーっ! リリィーッ!」
「っ!! ここなのじゃーっ!」
何度も呼び掛けると、離れてそんなに経っていないのにジェロイには懐かしく感じる声が聞こえてきた。
その声が聞こえた方向に彼が向かうと扉の開きっぱなしの部屋の前に複数の使用人が慌てている。
そいつらを泡を吹いている長子で吹き飛ばし、部屋の内部を見た。
そこには己の命を全て消費してでも幸せになって欲しい妹、リリィの姿があった。
「リリィッ!」
「ジェロイッ!」
名前を呼ぶと涙を零しながらジェロイに飛びついてくる大切な妹。
迎え入れるのに彼は腕の中にある余分なモノは捨てる。
ああ、ごめんな。
俺は頭が良くないから泣かせてしまった。
【本日はボケがいないのでお休みです】
あ~、ようやくクズを書き終えました。真性のクズは理解不能なので困難な執筆でした(´Д`)
でも次は覇王様なんだ♪ストレスから解放されてニコニコ笑顔で書けます(*´∀`*)ノ
ゼンーラゴホゴホッ!えーと、メモ帳メモ帳……。今回はジェロイの回でした。不遇な人生に鬱屈しているときに赤ん坊が救いになった普通の人です。愚王、ヒラリス子爵が異常で、他は皆普通の人です。環境などの影響で人は変わると思っています。ゼ、ジェロイには幸せになってほしいですね(っ´ω`c)(他人事)
ゼ、ジェロイが長子使用した技はショタが前世で親友の魔王の彼女の一人(?)の実家で教えて貰ったものです。ええ、閑名流(´▽`)異世界でも蔓延るかぁ。
閑名流初技『死にかけの蝉』……やられたふりをして、前のめりに倒れ込みながら上半身で踏み込む足を隠す。その足で相手の足の甲を踏み潰し、そこを軸に身体を回転させて側頭か後頭部を肘打ちで破壊する。人質にする場合は後ろに回り込んでチョークスリーパー。
槍ジジイが道でひっくり返った蝉を、死んでいるか枝でつついたら大音量の鳴き声で驚かされた時に思いついた。本気の死にかけの演技がこの技の要らしい。
ちなみに閑名家に分家ズはそんなことしなくても強いので使用することは無い。
前書きで書きましたが、今回遅れた理由はヒラリス子爵家のせいで楽しい執筆がストレスばかりになって書きたくなくなっていました。
なのでストレス解消に短編を書いたのですヽ(´▽`*)ゝ
え、他のことでストレス解消? ハハハ、物語のストレスは物語でしかストレス解消しませんよ(´・ω・`)
というわけで短編【異性との間に友情は成立するか(ただし相手はTS幼馴染み)】です
https://book1.adouzi.eu.org/n3080jm/
お読みいただいて面白かったら評価、いいねを付けてもらえると筆者が喜びます。そちらも後書きまで読むと……。









