魔法はわかる。でも呪文って何? あと悪魔降臨
夜に前話を投稿しています。
筆者が初めて本気で唱えた呪文は竜破斬(´▽`)ノ
もの凄い地響きと共に土塁の外側に土埃が大量に舞った。
ハッ! 何か悪口を言われたような気がしないでもない? どうせ宰相あたりが寝言で言っているんだろう。後で粉からしを胃薬に混ぜてやろうか。
「まあ地獄に落ちるといっても、土魔法で作った落とし穴に落とすだけなんだけどさ」
「紹介が遅れました。セルフィル=ハイブルク様がメイド、カルナ。拙い土魔法ですがいかがでしたでしょうか」
「自分の生死でいっぱいいっぱいで聞こえていないと思いますけど」
カルナは優雅にカーテシーで挨拶を大規模落とし穴に落下した敵に対してした。
俺のメイド達は下に見たらとことんこけにする悪い癖があるんだよな。まったく誰に似たのやら。
「盛り上げた分、どこからか持ってこないといけないよね。土塁の前を石畳だけ残してその下にある土を土塁となる場所の下に移動してと。石畳と表面に近い土は魔法で固定すれば、即席なのに完璧に出来上がるんですよ」
「ダッシュ様らが事前に掘り起こしていてくださったおかげで魔力の消費を少々ですが抑えることが出来ました。ありがとうございます」
俺の説明とカルナの感謝の言葉を、ダッシュ君は顎がカクーンと落ちて聞いていなかった。
ショタはウサギさんだから、スルーされると寂しくてイタズラしちゃうよ?
仕方ないからダッシュ君が再起動するまでしなきゃいけないことをやっておこう。
「カルナ階段。セイト」
「「はい」」
二人を呼ぶと土塁の俺達側が階段状に地面が盛り上がる。
その階段を待機していたアレスト家の家臣の爺さん達が上っていく。歴戦の戦士といえどご年配なので、無理をするとギックリ腰にならないよう配慮したのだ。
俺は婿入り先に気配り出来るのだ。
スナオ君も騎士団で上下関係を仕込まれたのか、爺さん達に促されてトボトボとついて行っている。
そして土塁の下に突き出される無数の槍。
「うーん、アレスト家の爺さん達はハイブルク公爵兵よりも動きがいいな。経験の差?」
「どうやら全員が魔力持ちの騎士のようですね」
「マジか~。グリエダさん過保護過ぎないかな」
一般兵士に魔力持ちはほとんどいないので、五十名全員が老いたとはいえ騎士というチート。地球なら、体力が少し落ちた世界大会で何回も上位に入った選手で揃えましたと言ったところか。
「セルフィル様ー! この槍変です! 黒いモヤが出てきて穂先を敵の下半身に向けるんですー!」
「儂の槍も妙にズレるのぅ」
「そりゃ老いから手元が震えとるんじゃろ」
「儂はまだ現役じゃー!」
スナオ君、それはGSに男嫌いの幽霊さんが憑いているからだね。必中効果(股)が付加されているから初心者向けだよ。
うーん、スナオ君は騎士団で盗賊の処理をしたのかな、仕留めるのに慣れている。
ランドン男爵、ゲイボウとは名付けたけど、それは俺も知りません。
「はいはいキリがいいところで撤収撤収。セイト号令出してください」
土塁の上で一方的に殺戮を繰り広げていた爺さん達がピタリとその手を止めて、先ほど作られた階段を下りてきた。
全員が下りると土の階段は地面に沈んでいって跡形も無くなる。
俺のメイドは大変優秀なので、細かく指示しなくても動いてくれるから楽だ。主の寝起きを覗き見たい変態達だけどね。
さーて、先陣が一瞬で崩壊したマロッド陣営はどんな顔をしているかな。
……うん、土埃でよく見えないから足元盛り上げてくれない? 決して土塁の高さが俺の身長とほぼ同じだから見えないわけじゃないよ!
程よく高さを上げてもらい見えたものは、ダッシュ君と同じ様に顎がカクーンと落ちた連中の顔が見えた。
あ、マロッドも啞然としている。
「少し間が空きましたね。ダッシュ君―、今質問しないと打ち切りますよー」
「はっ! いつの間に玉座に座っているんですかセルフィル様!」
「えぇー。最初に聞くのがそれなのぅ」
俺の声掛けに復帰したダッシュ君の第一声にガックリした。
カルナに見晴らしが良くなる土台を頼んだら、石畳製の玉座を作ってそこにちょこんと俺は座っているけどさ。
この世界で魔法使いが魔法を行使する時に必要な呪文をカルナは発することなく魔法を使ったのよ? そこが驚くところじゃないの?
俺が子供の頃、魔法という奇跡が中二病みたいな呪文で発動することに疑問を持った。
調べてみたらかなり昔の魔法使いが創り出したものとわかり、そこで無詠唱に応用性のある魔法が使えるかなと考えたのだ。
神様がポンと脳内に呪文を授けてくれたのならどうしようもなかったのだけど、人が創ったものならどうにかなってしまうものである。
呪文とは思い込みだった。
例えばファイヤーボールの魔法を使う呪文がある。それはファイヤーボールの魔法を唱えればファイヤーボールが放てると思い込まされていて、統一規格化されていたのだ。
それは希少な魔法使いを増やすのには昔は正しい方法だった。
だけど現在は呪文と相性のいい者しか才能が無いと言われる状況になっている。
ウチのメイドのカルナは魔力は一般の魔法使いよりもあるけど、出力である呪文ととことん相性が悪く、土の基本魔法アースバレット(石を生成飛ばす)で砂粒しか創り出せず飛ばすことも出来なかった。
だから、呪文を使うのを止めさせ、魔力から石を作り出す無駄をはぶかせ、飛ばすという風魔法の分野になる部分を諦めさせた。
そして、想像の手で土をこねくり回せ、創り出す前に大地も石の壁も使えるものはあるだろうと教え、穴に落とせ隆起させろと教え込んだ。ついでに覚えている物理も。
出来上がったのは通常の魔法使いでは追いつかないほどの速度で大地を大規模操作出来る変態なメイドの爆誕である。
ちなみにハイブルク公爵領で農地開拓に駆り出させたら死ぬほど嫌がっていた。
うーん、無詠唱と大規模落とし穴で少年心をくすぐるはずだったのに、生成玉座に驚かれるとは予想外。
中年の心のオッサンと世代の差なのかなぁ。
玄人なところで、どうして弓矢で遠距離しないの? とか聞いてくれたら、商人に無駄に重い武具防具を最新のトレンドとか、弓矢なんて弱者の武器ですから貴族様が使用するのは……とか言って売ったり売らなかったり、裏で俺が操作したとか自慢したかったのよ。
「ダッシュ君は、効率を求めた結果の果てに規格化に成功したが、技能と技術の同一視で起きた弊害について、そのうち半日かけて講義しましょうか」
「遠い目をしたと思ったら、何恐ろしいこと言うんですか」
期待値を上回るダッシュ君のボケに嫉妬なんかしてないからね!
さて敵陣営の動揺が止まらないので、計画の前倒しでもう少しかき乱しておくか。
「ま、それは横に置いといて、この玉座は土魔法で出来ています。で魔法属性はいくつあるでしょうか」
「え、あ、火水風土に希少な回復魔法などがあります」
「ちゃんと学園で勉強していますね。でもそれらは魔法使いの大多数がその四つを使うのと、人に有益だから体系化されているんです。文官を目指すなら少数も調べておきましょう」
「いえ、僕は魔法使いに関わるような仕事に就くつもりは」
「僕から離れても、長兄や宰相達が手放すとは思えないけどね」
ダッシュ君の未来は、決して下級文官で心穏やかな社畜にはなれないだろう。最低でも上級文官でがっつり裏情報を知る立場なんじゃないかな。心のオッサンが生暖かい眼差しで見ているよ。
「じゃあ次は少数側の魔法使いを見せてあげよう。まあ見れないけどさ」
「見れない?」
「セイト」
「はい」
待機していたカルナの横に、もう一人のメイドセイトが並ぶ。
「セルフィル=ハイブルク様がメイド、セイト。伝心というささやかな魔法使いでございます」
「伝心?」
「んー、自分が伝えたいという意思が相手にはっきりわかるだけの魔法です。ほら、ダッシュ君がミスした資料を持ってジーと訴えるように見るマトモハリー嬢とか」
「あいつは上から目線で嘲笑しながら僕の机に書類をハラハラ落とします。えーと、伝えたい内容は?」
どうしてそんなギスギスしているの、ダッシュ君とマトモハリー嬢。
「伝わらないですね。伝えたい気持ちだけです」
「顔さえ覚えれば王都ぐらいなら、私が何か伝えたいという気持ちは伝えられます」
フードコートの呼び出しアイテムみたいなもので、同じようにセイトから一歩通行。音の様なものが耳を通さず直接脳内に聞こえるのだ。
稀少でありながら役に立たないとされていたのが伝心魔法だ。名付けもされていなかったから俺が勝手に付けたんだけどね。
「役に立たない魔法かなという表情をしているね」
え、いやそんなことはないですよ、と言い訳をするダッシュ君。
じゃあ少しマジックを見せてあげよう。
魔法という才能と修練の極みを、地球の技術が繋げたコラボだ。
「セイト。前列の兵を怒鳴って動かそうとしている貴族」
俺はマロッド陣営を指差す。そこには先陣が一瞬で全滅したのをチャンスだと考えた次陣の馬鹿貴族が兵を突進させようとしていた。
「の、横で必死に止めようとしている騎士だけどいける?」
少しずらして馬鹿貴族の馬に自分の馬を寄せて説得している。冷静な判断をしていた騎士を指差す。
「大丈夫かと。事前に目視できる範囲で待機とジジイには伝えておりますので」
「じゃあ抑えようとしている貴族にわからないように肩にでも当てて落馬させて、もう一度ぐらい突撃させて数を減らさないとね。誰も気づかなかったら、僕特製五年物のお酒一本上げると付け加えて」
「わかりました。……二十秒後です」
俺の言葉に少し沈黙し、秒数を教えてくれるセイト。
「ダッシュ君、遅くなって意味が無いけど逃げなくてもいいですよ」
「え?」
「僕は防衛戦をするけどね」
土塁の後ろで一息いれていたアレスト家の爺さん達が槍を置いて、俺が融通した獲物を手に取る。
「別に守って耐えるつもりないんだよね」
馬鹿貴族に縋りついてまで止めようとした騎士が急に肩から落馬していった。
まるで重い何かが天から降って騎士の肩に当たり、衝撃で落ちたように俺達側から見えた。
馬鹿貴族は手柄を自分のものにできると前方しか見えておらず。その周囲も馬鹿貴族に従うしか騎士を心配する余裕はないようだ。
流石は年を重ねただけはあるジジイの腕は凄いね。
さあダッシュ君は見えないマジック擬きは見れたかな?
場が進んだので今は聞けないな。
馬鹿貴族の陣営が動けばその両隣の貴族もつられて動く。
冷静になれば落とし穴は一度使用されれば二度と使えないぐらいわかるだろう。
でもさ対策が無いわけないよね。
「セイト爺さん達に合図。カルナ持ち上げろ」
「「はい」」
目の前に低くても土塁があって定めにくいのに、爺さん達はソレに矢をつがえ引く。
だがこちらには大規模土木ができるカルナがいる。
バランスを崩さない速度で爺さん達の立つ場所が盛り上がっていった。あ、スナオ君は放置されてる。まあ爺さん達みたいにソレの技能は持っていないだろうからしょうがないか。
突撃してきた連中は、最悪の光景を見ることになった。
「やるのは殲滅戦だよダッシュ君」
自分が遠距離攻撃を持っていないから、相手も持っていないと思っていないよね。
土塁の高さまで上げられた五十名の爺さん達が構えているソレは、俺が刀剣槍を試作した時に作ったなんちゃってコンパウンドボウ。
年齢で体力が落ちたお爺ちゃん達には、引き切れば他の弓より保持力が軽くなる地球技術の弓は相性が良かった。
あと土魔法エレベーターで上下移動も完璧なので。
「「「ギャアアアアアアアッ!」」」
一射必中貫通の矢が降り注いでマロッド陣営第二陣の突撃は全滅した。
デストロイヤーショタ「ふはははは!雑魚共は殲滅じゃー!」
ダッシュ&スナオ「「誰か助けてー!」」
覇王様がいなくても暴走中なショタです(^^;)
切り札を何枚持っているのがショタで、長兄でさえ把握出来ないのが大量にあります。
ショタが覚えていないのも大量に(;´Д`)
外付けチート
切り札その一、メイドカルナ
大規模土木が出来る魔法使い。
切り札その二、メイドセイト
脳内に音と感じるもので相手に知らせる。着信音だけのスマホ?
おや?まだメイドいたし、変態執事は?(・ω・)
それはたぶん次回ですー(´▽`)ノ
キャラ紹介第三弾を活動報告に載せます。
あ、あと前世で力が足りないなら頭を使え!落とし穴なんかいいぞ!と悩んでいた小学生に教えたのは心のオッサンです。(バカップル後半参照?)









