欲深き者よその罪の重さに沈め
おや? 小悪魔ショタが…。
マロッド側に動きがあったので現場指揮に戻ったランドン男爵。
ついでに武官(衛兵だっけ?)志望のスナオ君に実戦経験を積ませるために連れて行ってもらった。
スナオ君の武器はもちろんこちらで用意した男特効大の槍GSだ。
穂先から反射率ゼロの黒いナニカが滲み出ているのは気のせい気のせい。
うん、昨晩宰相と一緒に肉体労働したから少し疲れて錯覚しているんだって、そんなファンタジーでよくあるオーラなんて昔試したけどそう簡単に出ないって。
「ねえダッシュ君。人生って川を流れるみたいだね。強制的に流され、藻掻いて藻掻いてようやく自分の行きたい先に近づける」
「僕とスナオ君はセルフィル様のおかげで激流一直線ですけどね」
俺が何となく格好いいことを言ったら、社畜初期段階に突入したらしいダッシュ君はやさぐれた返事を返された。
でも俺の傍にピッタリといるのは寄らば大樹の影?
「セルフィル=ハイブルクは捕らえよ! 貴族を翻弄し、王さえ引き摺り落とす才を持つ者と諸君等にはその身をもって知っているだろう。その知恵を我らが使うのだ! そして婚約者は武勇優れるアレスト女辺境伯だ。捕らえれば必ずや人質として活用できるぞ」
マロッドは本当にいい仕事をしている。
自分に付くと過去の栄光を取り戻せるように誘い、泥沼に落とした俺を奴隷のように使えるチャンスを与えて、彼らの恐怖の象徴であるグリエダさんを封じ込める可能性を示した。
逃げ道をどんどん細くされているのに気づかないのかね。
「逃げちゃダメだよ」
速攻俺という大樹から距離を取ろうとするダッシュ君を引きとめる。
「え、だってセルフィル様を目標に攻めてきますよね。セルフィル様以外殺す目でこちらを見てますよ」
「僕以外みなごろしにするつもりでしょう。傍にいるダッシュ君は確実に殺される確殺ですか」
嫌だーっ! と頭を抱えるダッシュ君。
マロッドに誘導された何人かの貴族が配下の兵を引き連れて前に出てくる。
王子祖父のランドリク伯爵は……いない。マロッドの後方で自分をローブ姿の魔法使い達で囲んでいた。他の前に出ていない貴族も少ないながら魔法使いを傍に置いていた。
あーあ、これで俺に勝てる可能性は大幅に少なくなったぞ。
「さて、それでは軽くお勉強しましょうか」
「は?」
「スナオ君が実地で経験するならダッシュ君もしないと」
差別はいけない。苦労は平等に受けてこそ共同意識は生まれるものだよ。でないと後でスナオ君からGSを受けるダッシュ君を見ることになるからね。
「いやいや僕は非力で戦いでは何の役にも……」
「紙の上だけではわからない貴重な経験が出来て良かったね」
いや本当に貴重だよ。やってはいけない事をいくつも実行している敵なんてそうはいない。
んー何から教えようか。
あ、ちょうどいいタイミングで間抜けがいるな。
「では質問です。あそこで奇声で名乗りを上げてる連中はこの後何をしてどうなるでしょうか?」
「え、そりゃあこちらに突撃して低い防衛用の土塁を乗り越えてくるんじゃ……。ああぁぁ! 来ました! 突撃してきましたよ!」
ダッシュ君が答えている間に気がはやった兵士が駆け出してきた。
それに釣られて他の兵士達も動き出す。
一度動き出せば止まることが出来ないのが集団というものだ。どいつもこいつも欲にまみれて汚い顔で俺を見ている。ショタはオッサンにモテたくないのよ?
「うーん、騎士と貴族の動きが一歩、いや三歩ほど遅い。贅沢に浸り過ぎて鍛錬していなかったみたいだね」
「そんなことより逃げましょうよ!」
ハハハ、俺の袖を引っ張っても逃げるのには遅いかな。あ、吐く吐く。
「さっきダッシュ君は戦力比で聞いてきたね」
「さすがに千対一は嘘だってわかりますよ!」
「う~ん、嘘じゃないんだけど。そろそろ僕の口から虹色の何かがエロエロ出そうだから止めてほしいな」
「ほら! そんな貧弱で戦力になるはずないじゃないですか!」
俺はハイブルク公爵邸最下位の男の娘よ。外付けチートのグリエダさんがいなければ、のじゃ姫にも負けるけどさ。
でもね、外付けチートが一つだけとは限らないのよ。
「カルナ」
「はい」
後ろに控えていたメイドの一人、カルナが前に進み出る。
「昨晩、ダッシュ君達に石畳を一度取って下の土を柔らかくしてから、石を戻す作業を頼んでいたよね」
「あれですか。なんの拷問かと思いましたけど土塁を築くための前準備だったんですね。土属性の魔法使いに盛り上げさせやすいように」
「うんうん、僕のことをよくわかっているね。その土属性の魔法使いがウチのメイドのカルナだ」
カルナが手を胸の高さに上げた。
「では盛り上げた土はどこから持ってきたと思うかい?」
敵が土塁に到着する。
微妙な高さであっという間に乗り越えられそうだが、剣や槍を持ち重量のある鎧を纏えば登りにくく。己と同じショタを確保することで得られる名誉、富に憑かれた仲間に先を越されてはなるかと身体を掴まれたら、ズルズル滑り落ちていく。
後ろの貴族が怒声を上げるが聞いてもいない。
「答えは欲をかいた者が教えてくれるよ。落ちるんだ地獄に」
手をスッと横に切るようにカルナは動かした。
◆◆◆◆◆◆◆◆
『彼を捕らえた者には兵なら伯爵として登用しよう。それくらいの価値がセルフィル=ハイブルクにはあるからね』
第二王子マロッドの言葉は、貴族の下で好き勝手に横暴を振るってきた家臣達には、自分達が上に立つ欲を大いに刺激した。
十倍の兵数に勝利の確信をして図に乗ってしまったのかもしれない。
「くそっ! 引っ張んな!」
「俺があのガキを捕まえるんだ!」
なのに実際は罵声に身体を掴んでの妨げ、そんな状況では大した高さも無い土塁を越えることが出来なかった。
「この愚図な兵ども! さっさと突破してあの小僧を私に献上せんかぁっ!」
「うるせぇぞ!」
「今までくだらねえ命令でこき使ってくれたが、伯爵になったら家を潰してお前の見目麗しい嫁と娘は奴隷にしてやるぜ」
愚王の下でぬくぬくと暮らしていた貴族にまともな指揮が出来るはずがないのに、王子の言葉で先陣を切った貴族と兵の上下関係は崩壊してしまっている。
「やった! 俺が一番だ!」
指揮系統が無くなり足の引っ張り合いをしていても、いつかは事は進む。
一人が、体勢を崩した自分の前の兵の背中を土台にして駆け上がった。
その目に映ったのは二人の美人のメイドを従えた美貌の少年。
この時、彼は少年を捕まえメイド二人を自分のものにした伯爵になった自分を妄想してしまった。
その妄想の一瞬にメイドのカルナが手を横に振る。
もし妄想しなければ土塁を乗り越えていたかもしれない。
すぐ後ろで何かの轟音が鳴る。
同時に、彼の身体の初めて味わう浮遊感。視界が下から上に急速に流れて、理解する前に全身に衝撃と激痛が襲った。
「あ、ぐぅ……かは」
痛みで悲鳴も上げられず呻くだけで、いつの間にか体は横倒しになっていた。涙でぼやける目を開くと、土埃が大量に舞っており、その奥には彼と同じように呻く仲間の兵士達がいた。
その大多数が腕や脚があり得ない方向に曲がって折り重なっている。貴族なんて倒れた馬に潰されたらしく体の一部が見えるぐらいだ。まともな者など一人もいない。
訳が分からない。
さっきまで彼は、兵士達は、貴族は圧倒的に有利な状況だったのに、どうしてこうなったのか。
「動ける奴から片付けるんじゃ」
まともな言葉が上から降りかかる。
彼はノロノロと痛む首を動かし上を向こうとする。その間に隣の兵士や後方の生きていた貴族に、鈍く銀色に光る何かが突き刺さるのを頭は理解してくれない。
ようやく上を向くと、なぜか低い筈の土塁が手の届かない高さになっていた。
その土塁の上には年配のジジイ達が見事な槍を持って立っている。
その一人一人が正確に槍を突き出して彼の周囲でうめき声を上げて蠢く者達に止めを刺していたのだ。
「欲深すぎたの。まあ己で選んだ道じゃ」
背は低いが筋肉の塊のような老人が槍の穂先を彼に向けた。
自分が持っていた中古とは段違いの見事な槍に、彼は手を伸ばす。
寄越せ! 俺は伯爵になる男だぞ!
死の間際で混乱しているせいもあるだろうが、最後に残ったのが欲望だった。
「間際でも欲しがるか……。人として憐れよのぅ」
彼の最後の光景は、滑るように突き出された槍の穂先だった。
低スペックPCショタ「チートが欲しいなぁ」
外付けメイド「「「私達が!」」」
ショタの外付けチートの一部公開です(^^)
詳しくは次回ですが、手札が覇王様だけではないショタ。
改造人げ…ゲホゲホッ!はダッシュ君達が最初ではないということですね。
さすが前世に魔王様(俺の過去は不安定参照)が友人なだけはあります(*´∀`*)ノ
第一巻の発売まで約半月となりました。
旧Twitter(X)ではどんどん情報が出ています。筆者は十分に五回は見ていて、遅拙になっている一番の原因かも(;・д・)
…覇王様、登場はもう少しもう少しだけ我慢をば!(;´Д`)









