敗北の行軍、勝利の行軍(妄想と現実は異なるよね)
デブったのでダイエットを開始しました。
すると全く物語が浮かんでこない(;・д・)
チョコ○イファミリーセットを一気食いしたら二日で書けました。
物書きにはカロリー必須。でも脂肪装備したくない…(´;ω;`)
その日の午前、王都は二回に分けて二種類の緊迫感に包まれる。
早朝、綺麗に整列した集団が大通りを王都の外へと向かっていた。
掲げる旗は剣の周囲に紅い花が散りばめられている意匠の紋章と、受け皿に剣と心臓に置かれ心臓に傾いた天秤の意匠の二つ。
どちらの集団もがっしりとした身体をしており、シンプルで実用的な鎧をその上に着込んでいた。それは見事な行軍と合わさり歴戦の軍隊を彷彿とさせる。
その彼らが取り囲むようにして護るのは一台の馬車。
装飾は少ないが、馬車に使われている素材が最高級のものであつらえてある。二頭立ての馬も立派な体格をしていて、掲げられている紋章を見なくても目端が利く者なら高位の貴族というのはわかるだろう。
大通りを行進している彼等を一目見ようとする為に通りにでてきた群衆だが、事前に先触れなどなければ騒めきが起きておかしくないのに、誰一人、一言も言葉を発さず、身じろぎもせずに見ているだけだった。
なぜ彼らは棒立ちになっているのか。
それは馬車を先導する一騎の存在に目を奪われているからだ。
その馬は周囲の騎士が騎乗している馬より一回りは大きく、一点も染みの無い白毛を持ち、その巨大で見事な馬体に畏敬の念を持ってしまうぐらい素晴らしく見えた。
馬が目を引くなら騎乗している人物も目を引いた。
長い銀の髪を後ろに流した鎧姿の美丈夫、いや美女。その中性的な整った貌は男女問わず視線を惹き付ける。
白馬に騎乗した美しい姿は物語の騎士の様で、観衆の視線の殆どは彼女に向けられていた。
好奇心、羨望、嫉妬、情欲、値踏み。
彼女は普段から魔力使いという騎士であり、国で有数の上位貴族の辺境伯であり、美しい女性の美丈夫というのは様々な思惑の眼差しを受けている。
だが今日は違った。
畏怖。
彼女は目を閉じ、腕を組み、足を鐙から外した体勢で、けっして身構えているわけでない。
なのにその姿から恐れで彼女を見ることを止めることが出来ず、怖れで震える体を動かして逃げることもせず、畏れで心の底から己が喰われる側だと思い知らされる。
その中には王都で有数の商人達もいた。
商売で衝撃的な革命を起こし続けているある公子がいる。
情報の共有に高速化、分業制による主婦層の労働力の獲得、集積中継都市の提案、公子の領地で以前の数倍にも増産された布の生産など、実現可能レベルまで落とし込まれた未知の知識を惜しげもなく情報公開する公子は商人にとっての英雄にも近しい存在だ。
だが、人は妬む生き物だ。
特に競い合い蹴落とす世界に身を置く者は、自分よりも上に立つ者が許せない。
自分にだってそのくらい考えられる、己にだけに情報を教えれば莫大な利権を手に入れて、おこぼれぐらいの感謝は返してやるのに、そう思う商人達が行軍する中の馬車を見に来ていた。
今回、公子は情報収集の面で多くの借りを自分達に対して作ったと、観に来た商人らは思っている。
そして借りを作ったくせに、結局は情報を有効活用出来ずに後手後手に回ってしまい相手の言いなりにとなって王都から出ていく負け犬を嘲笑った。
今の王都では王子と王女の玉座の争奪戦が繰り広げられて、公子が王女側について圧倒的な不利な状況に陥っているぐらい、余裕で調べが付くことは彼らにとって造作もない。
だから王子側に情報を流し、物資も融通した。
義理人情を切り捨てて、冷静な判断で勝つ側に付いて利益を得るのが商人の常識と思っていた。
だから公子が敗北者となれば、自分達商人への干渉を控えさせて、その知識だけを己だけに教えるように仕向けようと謀をしようとしていた。
そして王都一、いや王国一の商人へと成り上がり。国さえも動かして世界にも進出することまで夢に見る。
公子側との関係が悪い方に傾いても、物資資材の流通を担っている自分達が少し出し渋れば、困窮してしまう相手側からすり寄ってくる。
権力者ではない物流を握っている者こそが勝者になる。
とそう思い込んでいた。
そんな浅はかな考えは、目の前の悠然と歩く巨馬に騎乗する存在によって打ち砕かれる。
彼女は特に威圧も攻撃的な行動もしていない。
なのにそこにいるだけで畏怖してしまうのだ。人の格ではなく生物としての格が違う事を想い知らされる。
もし彼女の意識がこちらに向いて、その牙を立てられたら、その爪が振るわれたら。
そんな彼女の婚約者を引き摺り下ろそうとしていた商人達はあっさりと冥府に旅立つだろう。
王女と公子による王都外に向けての行軍は王位継承権を巡る中での敗北である。
それが、今回の件で漁夫の利を得ようとした商人達の勝利ではないことをわからせられる。
きっとどんな未来になっても、彼等の未来は暗いものしかないだろう。
黙々と馬車を護衛しながら行軍するアレスト辺境伯家とハイブルク公爵家の軍。
それらを纏めるアレスト女辺境伯が王都から出ていくのを、民はどうして自分達は畏怖しながら観ているのかわからなかった。そしてしばらく経ってから、その怖さの原因は彼女が辺境の地を守護してくれている貴族だから力を持っている凄いお人だからだと、大半の人は意識をすり替えて好印象に転じた。
それはただ彼女の不機嫌が少し漏れ出た威圧にもならない気配だったので、不機嫌の対象でなかった一般人はギリギリ畏敬に収まったのである。
何かわからないけどこんな凄い人が、立派な兵士を引き連れて王都の外に向かうのは、きっと噂で頻発している盗賊を討伐に行くのだと勘違いしたのだ。
だが勘違いで終われないのは裏切ろうとした商人達。
見ただけで心の奥から呼び起こされる恐怖が何なのか理解してしまった彼らは、未来で貴族という権力者の力を味わうことになるかもしれないと思い込んでいる。
公子を理解していたなら、今の今まで放置されている時点で、公子の中では彼らの事はたいしたことと扱われておらず、ただ忘れているだけなのがわかるのだが。
王都の民は最後の方には、何かわからないがとにかく顔を赤くなるぐらいの声援を上げて見送り。
裏切る程度の情報しか得られない、時世も読めていない王都有数の商人達は顔を青くしながら店へと戻っていく。
これが早朝の大通りで起きた出来事。
王女は最強の騎士に護られながら王へと続く道から顔を逸らし、身内を助ける敗北者の道を行き始めた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
それから数時間後、太陽が真上に来るより少し早めの時間に、もう一つの緊迫感のある出来事が同じ大通りで起きる。
先程と同数規模の軍が午前中の間に再び行軍した。
ただし今度は王都の外ではなく王城に向かっている。
先頭には立派な鎧を纏い、悠然とした笑顔を浮かべた美しい青年が馬に騎乗して進み。
その彼の背後には一際体格が良い騎士と、鎧に槍などの全ての武具を同じ装飾で合わせた騎兵達、その後に歩兵達が続く。
自分達のこれからの勝利と今後の栄光に想いを馳せる彼等は軍勢全体の約半数にもわたり、恰好だけなら正規の軍のようにも見える。
残りの後続の軍勢は、各々の色彩豊かな家紋の旗をたなびかせ、一度も戦場に出陣したことがないと思われるギラギラと太陽光を反射し、華美を超えて下品に見える鎧姿で乗り慣れていない騎乗をする騎士モドキの貴族当主達。
その貴族に従軍する徒歩の兵士達は一部の少数を除いて、装備を急ぎで掻き集めたのか、取れない汚れがついていたり修繕されている鎧に、欠けが入ったり研ぎすぎて痩せた槍などを身に着けていた。
そんなちぐはぐな少数の連中が集まり後続の集団を作っている。
後続の中心にいるやけに豪華な馬具を装着された馬の上には一際センスの悪い派手で下品な鎧を、初めて着たかのように不格好に着こなした小太りの男がいた。
周囲をびくびくしながら見まわし、己の周囲に配置したローブ姿の男達に大声で命令をしている。
その上、後続の貴族の家臣は何も知らずに王子という勝ち馬に、自分達は乗ったと思い違いをして、隊列はバラバラ、酷い者は開店していた店に押し込み、観に来ていた婦女子を襲ったりして、行軍速度に支障をきたしていた。
先頭の王子の集団は速度を緩めるぐらいで、そういう馬鹿の処理は後続に投げていた。
優遇されている先頭の者達は、王子の配下につけたことで、当主であった貴族を見下し、後続の貴族はランドリク伯爵を通して王子から玉座の美酒の分け前を少しでも多く得ようと行軍に参加している。
二つの集団はいびつにマロッド王子という、か細い糸で絡まり合って体裁のとれる行軍をしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆
そんな奇跡の行軍をある建物から眺める者達がいる。
何代も掛けて地道に店を大きくした老商人に、一代でその地位を築き上げた武器商人、数年で多くの販路を作り上げた成り上がりの若手の商人。新進気鋭の服飾商人に夜の街を仕切る娼館の女主人……。
彼らはエルセレウム王国でも有数の商人達だ。
早朝の王都の外に向かう行軍を負け犬と勘違いして観に行った間抜けな自称有数の商人ではない本物の大商人達だ。
「お~お~、俺んとこに張り合おうとしていた奴の店が滅茶苦茶になってんな」
「あの建物はあまり壊してほしくないですね。武具のたぐいは処分に困りますから持って行ってもらいたいですが」
「購入するつもりですかな?」
「ふぉっふぉっふぉっ、貸店舗ならお安くしますぞ」
「いえいえ、本店を大通りに持ちたかったので購入でお願いします。現状のままでなら幾らか差し引いてくれませんか」
剣や槍の武具が店舗を破壊されながら盗まれていくのを見ながら話す彼ら。
略奪されている店は早朝の行軍を観に行った商人の一人の店である。
「あ!あの子、縫い方が上手かったから引き抜きたかったのに!仕立て屋がこんな日に働かせるんじゃないわよっ!」
「あらあら大丈夫よ。いたそうと裏道に入ったら私のところの若い衆が始末してくれるから」
「おうっ。こっちも血の気が多い奴らに声をかけたら、新しい武器の試し切りでヤる気に満ちてたぜ」
「まあ!感謝するわ!仕立てに来てくれたら優先的にしてあげちゃう」
「あらあらあら」
「抱きつくな抱きつくな。伸びてきている髭が地味に痛え」
若い女性が兵士に脇道に連れ込まれていくのに同情しない。
彼らは本日休業して集まっている。
従業員や知り合いにも家族と家ですごせと厳命しているから、今外出しているのは商売敵か、広めた噂を信じなかった愚か者と判断していた。
運よく裏道に連れ込まれた女性は、身ぐるみ剥がされて奴隷に落ちる兵士のついでに助けてもらえるぐらいだ。
彼らは商人。
情で動くことは殆どなく、利があることに興味が湧く生き物である。
たかだか今日の現状を読むのを外すような自称王都有数の商人達など、切り分けて配分されるケーキでしかない。
「そういえば貴方と長老は第二王女に会ったのでしたね。どんな印象かお聞きしても?」
「それは私も聞きたいですぞ」
「私のところにも来られましたわ。ロンブル翁が夜の街の見学も学ぶものがあるって言って。お怒りの侍女長様が」
「あ、ロンブルのジジイが解体処理用の子供用ナイフを買いに来たのは王女のヤツだったかぁ~。ちっ、連れてくれば見定めてやったのによ」
一人がふと思い出したかのように言葉をあげると、他の商人も数人王女に会ったと手を上げる。
その大半が悪所通いのジジイが連れて行った所ばかりで、事後報告を受けた王女の責任者は『なに?八代将軍様みたいに暴れん坊女王にでもしたいの?』と呆れ。
怒り心頭の侍女長は三人メイドに命令して、三人合体パ●スペシャルをロンブル翁に掛けさせ、しっかりと折っている。
「ではやはり一緒に見たお二方の評価を聞きましょう」
「私?う~ん、将来王族なら美しくなるでしょうから、飾り立てがいありそうな分だけプラス評価かしら」
それは現時点では何の評価も無いという事だ。
「ほら長老っ寝ないで起きなさい。まったく公子様が来ると、どこからともなく現れてお喋りするくせに、興味の無い話になるとすぐ寝ちゃうの止めさいよ」
「むにゃ、おおバアサンやもうメシかの?」
「私は男でババアでもあんたの奥さんでもないわっ!」
「儂も大体同じじゃよ。王女様は歳の割にはしっかりしておられたが、周りが何でも叶えてくれると思っておられるただの子供じゃな。価値を付ける以前の問題じゃったの。口調だけオネェの男は儂の嫁ではないのぉ」
「その口縫い付けてやるわよジジイ」
長老と呼ばれた老人が付けた評価に、実際に王女にあった商人達は同意するように頷いた。
「じゃあ賭けをするか!誰が次代の王になるのか。奴に彼女を奪われた男は数知れず。日陰者になるはずだった人生の中で、無駄になるかもしれなかったにもかかわらず研いでいた牙と爪が、祖父も貴族も生贄にして玉座に進行中の本命第二王子マロッド!」
「対するはナイフを与えられ、夜の街に賭場、さっき聞いたら郊外で鳥を捌いて焼いて喰っていたそうです。教育方針間違ってないですか?にわか野生児第二王女リリアーヌ」
「第一王女オーレッタはアガタ公爵によって誘拐されて公爵家領地に進行中ということになっていますので失格ですね」
「では表が王女、裏が王子で」
各々テーブルの上に用意した布の下に金貨を入れていく。
「よし全員入れたな。勝った奴等の総取りで開けるぞ」
そして取られた布の下にあった金貨は全て表。
「「「あぁ~」」」
全員がだよねーという感じの雰囲気になる。
彼らは王女に賭けてはいない。
「公子様が関わると賭けになんねよなぁ」
「もし賭けが成立したら、私達困る状況なんですよね」
「あら、それはそれで儲け時じゃないかしら」
彼らは王女が王子に負けると微塵も思っていない。
自分達が心服する公子が、自分達の協力を得て勝てないはずがないと信じているのだ。
「そんじゃ賭け不成立だから、掛け金は今日の飲み代だな。お~い店主、酒とつまみをくれや」
呼ばれた店主は店員と店の奥に行き、戻って来る時には大量の酒を持って来た。
テーブルの上に置かれていく瓶には雑に数字が書かれている。
「セルフィル様から今回の件でのお礼の一つで、お飲みになるようならお出しするように言われておりました」
「「「おおっ!」」
商人達がいる店は、どこかの公爵で苦労人の兄が婚約者と来店した喫茶店で、夜は会員制の飲み屋だったりする。
どこかの公子が前世の死亡原因【便器に頭部を突っ込んで溺死】を忘れてコネだけで作った店だ。
これこそ趣味の俺の店!とテンション爆上がりして、未成年で飲めねぇ……!と爆下がりした。
若作りジジイや料理長や使用人に侍女長、家宰のお爺ちゃん達の感想を聞くのにイラっとして昼の営業を喫茶店に変更する心が狭い公子だった。
ガックリしたのは昼間から酒を飲む若作りジジイだけだったが。
「『若作りジジイに盗み飲みされるぐらいなら価値がわかる人に飲んでもらいたいね』だそうです。試験的に作った一本一本作り方が違い、ワインの様に寝かせないといけないものあるので……つまり、今飲まなかったら数年飲めないものもあります」
自分達は先に全部飲みましたがね。と自慢気な店主と店員を無視して、大の大人の醜い奪い合いが始まった。
その間に王子達の行軍は店の前を通り過ぎようとしているが、彼らの意識からは完全に消失していた。
これから地獄に向かう者達から奪う準備は済んでここにいるのだ。
「あと事前に王女に会って、真っ先に潰れる予定の貴族の屋敷の土地転がしを始めた長老は、つまみぐらい奢るようにとお達しです。こちらも試験的に作られた山海の珍味だそうで一皿金貨一枚程の手間がかかっているそうですよ」
「フォッ!?」
「フハッ!人をからかうから天が罰が与えてくれたわ!」
長老が驚き、オネエ口調の男が爆笑する。
王都の経済を握る者達は日中から宴会を始めるのは集まった時点で決まっていた。
明日から忙しくなる予定なので、英気を養い早々に就寝するのだ。
敗北者の財産を毟り取るために。
「「「公子様にカンパーイ!!」」」
で、その公子はというと。
「フハハハハハッ!よく来たな逆賊どもよ!ここを通りたくば我が馬を倒していくがよい!特に右後ろのすぐ逃げるダッシュ君を!」
「なんで僕ぅっ!?」
城門前に道を塞ぐように大きく土を盛った上に、前に褐色の執事、後ろに中等部の少年二人で組んだ騎馬の上で、腕を組んで仁王立ちし、行軍してきたマロッド王子の集団に向かって叫んでいた。
チョビ髭を付けて。
チョビ髭ショタ「馬とは違うのだよ、馬とは!」
ダッシュ&スナオ「「だって人だもの」」
変態「ハアハア靴で手をグリッとされるのが良い!」
遅くなりましたm(__)m
人はカロリーを取らなければダメですね。ダイエット中は頭が全然回りませんでした(´Д`)
筆者に必要なのは米とチョコです。
ようやく後半行く行くサギから脱出できそうです。
のじゃ姫と馬車に乗っているショタが、なぜ城門前にいるのか!?
それは次回で~(´▽`)ノ
無駄設定は活動報告で投稿します( ^_^)
待たれる間にもう一つの拙作でもお読みいたたければ幸いです。
【釣り合う二人はバカップル】
ノクタ版
https://novel18.syosetu.com/n1277hy/
カクヨム版
https://kakuyomu.jp/works/16817139556484842815
ノクタ版はエチエチが入ります。ノーマル版はカクヨム版を。
ただのバカップルを書いていたのに、人前で読むと大変に危険物と化した物語です。
ショタの前世の親友、魔王様も少し出ます。
笑わずに読めたら是非ともご感想を!
君は雨乞いワールドから逃れられるか!(*´∀`*)ノ









