ショタは万能でありませぬ
もうすぐ14万文字なのにまだ中盤が終わらない…(;´Д`)
「いや、君はリリィの日記を読んだよな」
「はい読みました。幼児ながらよく頑張った文章だと思いますよ」
心のオッサンの幼児の頃なんて『あ』と『お』は書いたら同じになるし、『め』と『ぬ』もだ。
それに比べてリリィは下手ではあるが、こちらの世界の文字をちゃんと書けている。
実はのじゃ姫はそこそこ優秀なのではなかろうか。
「う~ん、私は日記から幸せな日常、ばばさまと呼ばれる人の死、兄とも呼べる男の必死の彼女への献身が垣間見れて、少ししんみりしたんだが」
「僕もそうですね。リリィは愛されていたようで。日記後半の僕達に会ってからの、やたらと愚痴と恐怖と怒りと諦めが書かれているのにはう~んとなりますけど」
「……セルフィルの今回のミスとはいったい何なんだい?」
「え、実は全裸兜がリリィにとってかなり親しかった人物のようなので、ハイブルク家の使用人達に本気で拷問でもさせて白状させておけばよかったかなと」
「私はリリィと君が言う全裸兜、おそらくジェロイと兄妹のような関係に気付けなかったことだと思ったんだがなぁ。同じ部分に注目はしても、それに対しての感情は違うということか」
あれ?
何故かグリエダさんが呆れているの。
「い、いえいえ、僕もそう思ってますよっ!」
ただしんみりと感情が動く前に、ミスには対処方法を考える性格なのです。
前世のオッサンが心の中心で叫ぶのですよ『感じるな!考えろ!今日帰らなかったら一週間会社にいるようなことになるんだぞっ!』と。
魂に刻み込まれたブラックな社畜根性は、転生したぐらいでは消えないのだ。
困った、話の方向を変えないとグリエダさんからの好感度が下がっちゃう。
「えーコホン。まさかリリィ達の仲がこれほどいいとは思ってみませんでした。この屋敷に来てから二人が会うことは無かったし、相手の事を一度も聞かれませんでしたから」
「それは日記に書かれていた通り言い含められていたんだろうね」
よしグリエダさんものってきてくれた。
「同じ屋敷にいたからリリィも耐えられたんでしょう。もしかすると最初からいなければ寂しかったでしょうが、ここまで取り乱すことはなかったかもしれません」
彼女は自分の膝の上に乗っているリリィの髪を優しく梳く。
少し前に騎士を五人亡き者にした人物とは思えないほど、少女に向ける表情は慈しみに溢れていた。
「こんなにも小さいのに頑張っていたんだね」
「……」
学んでいる時以外は、ハイブルク家の使用人達やロンブル翁にかなりお菓子を貰ったり、遊びに出かけて可愛がられているのを伝えた方がいいのかなぁ。
あと本人から全裸兜のことを一度も聞かなかったけど、もしかして忘れて謳歌してた?
ま、六歳幼女ならそんなものか。
「で、どうしましょうかね。現状は完全に後手後手に回っていて、情報の把握からしないといけない状態です」
「君の情報網では今の状況はわからなかったのかい?」
グリエダさんはどうしてわからなかったのかという風ではなく、普通に疑問をぶつけてきた。
そうだよねー。
リリィを鍛えるためにちょっと周辺把握を頑張っていた俺の情報量は中世ファンタジーなこの世界ではありえないくらい凄いように見えただろう。
「全くです。少しの予兆も気づきませんでした」
肩をすくめるしかないほど今回のことはわからなかった。
「詳しく説明すると半日ほど情報の基本を講義することになるのですが」
「簡潔に」
ちょっと嫌そうな表情のグリエダさんは年相応で可愛い。
若い頃の勉強は異世界でも嫌われる運命らしい。
「僕の情報収集はどちらかというと長期的な出来事に対応しているんです」
「今朝、ランドリク伯爵が肉をメインにワインをがぶ飲みして咽て、使用人に当たり散らして顔をワインで汚したシャツと同じ真っ赤にしていたと、昼に笑顔で話していなかったかい?」
「……格好つけようとしたところに、出鼻への一撃ありがとうございます」
簡潔にと言われても少しぐらいならいいかなと考えたら、先に抑えられてしまった。
相手の素性、性格、行動パターンを知るのは商売の基本だ。
それに前世の商売の基本を教えたせいで今の時代的にはありえないくらい調べてくれる。
でも婚約者の好みは教えないで欲しい。少しずつ知っていく楽しみが減っちゃうの。
ふと結婚指輪はこの世界にもあったから婚約指輪もあっていいよね、と言ったらギランッと目が光ったから商人って怖いわー。
「で一度商人を間を挟んだ情報なので信用度は高いのですが、その分自分達で調べるより遅くなるんですよね」
おっと何か言いたそうですねグリエダさん。
でも少しお待ちください。
「なので指示が出来ないので即応性がないんです。おそらくですが今日の襲撃は急に決められたんでしょうね。準備もそこそこ、計画から実行まで殆ど時間はかかっていないんじゃないでしょうか」
「ああ、確かに街中で襲撃するのにちぐはぐだなと感じたね。軍で使用する装備を無理矢理軽装に仕立て上げたようだね」
「それはランドリク伯爵が最近購入したやつですね。大変儲けさせてもらったと武具商人が言ってました」
僕がしたのではないので呆れないでください。
不安を煽っていろいろと買わせればいいんじゃないのとはお話しはしたけど、これは秘密にしておこう。
「王都限定なら計画から実行までが一日もあればなんとか察知できたんですけど」
「うんおかしいからねそれ。普通はわからないまま襲撃されるのだからね」
「え、では世の中の恨まれている人はどうやって身を護るんですかっ!?」
「大体は護衛をつけて迎え撃つしかないよ」
「え」
信じられない。
日本の幕末なんて暗殺襲撃ありまくりのヒャッハー終末時代だよ?
主人公格でもあっさり殺されるから、普段は殆ど放置の商人情報網でもハイブルク家に敵意を抱く連中のことは伝えるようにしているのに。
長兄に三日後に暗殺されますよと教えるとお小遣いが貰えたので、いい稼ぎにもなってホクホクだったのに。
「えーと、というわけで大体はわかるのですが、少人数での行動や情報伝達を超える速度で動かれるとどうしようもないんです」
「……セルフィルは伝達の速度の常識を学んだ方がいい」
何故?
そういえばヘルママにも商人を使った情報ネットワークの仕組みを教えたら同じような事を言われて呆れられたな。
ダメなのかと勘違いして一定距離で置く密偵とか、江戸時代の米相場で使用されていた旗振り信号による長距離高速通信の有用性まで教えてしまったのは、ちょっとした失敗だった。
「なので一人で全裸兜が逃亡したのも理由はわかりません。彼が何を思っていたのか……」
いやはや困った困った。
「おそらくですが彼の逃亡と襲撃は関係しているんでしょう」
「このタイミングだからそうだろうね」
グリエダさんも頷いてくれる。
関わりがありそうな事がこんな立て続けに起こるなんて、もう誰かの陰謀でしかない。
「君が相手側ならこの後どうする?」
「そうですね。まともに思考出来る相手と想定すると、僕達の動きを操ろうとしますかね。」
「セルフィル様」
扉がノックされて侍女長が声を掛けてくる。
「なんです?」
「ランドリク伯爵家の者がセルフィル様へ手紙を一通持ってきました」
「う~ん、こちらの行動を読んでいたかのようですね」
入室の許可を出すと侍女長が入ってきた。
彼女は持っていたトレーを俺に差し出す。
俺にはこの時点で誰が書いた手紙かわかった。
グリエダさんも眉間に皴を寄せているので誰なのかわかったのだろう。
贈り物なのでトレーで運ばれる時は、その家よりも身分が高いか丁重に扱う相手である。
侍女長が敵対する家格の低いランドリク伯爵の手紙をトレーに乗せてくるような失敗はしない。
トレーの上から手紙を取る。
表には一度見たことがある美しい字でセルフィル=ハイブルクと書かれていた。
裏返す時には香を焚きしめられていたのかふわりと良い匂いが鼻腔をくすぐる。
むう、前世の死んだトイレの芳香剤に近くて複雑な気分だ。
エルセレウム王国で最も尊い家の一族だけが使える竜が一部に入った印璽で封蠟されている。
そして書かなくてもいいのに差出人の名前が書かれていた。
「首謀者はマロッド=エルセレウム第二王子ですね」
「よし少し待っててくれ。何も出来ないくらいにランドリク伯爵の屋敷を更地にしてくるから。ついでにアガタ公爵邸も古い部分を解体してこよう」
「待ってくださいぃぃっ!」
どうして名前が判明しただけで、敵側壊滅の危機になるのっ!?
エンジョイショタ「このタイミング、敵もわかっているなっ!」
侍女長「本気を出せば完全勝利できるでしょうに…」
覇王様「半日あれば屋敷ごと地面の下に埋め込んでくるよ」
パニックショタ「止めてー!一番楽だけど物語が覇王様マックスに変わっちゃうのぉぉっ!」
ショタは覇王様にまだまだ隠しごとがたくさんあります。
その殆どがその内伝えればいいかー、ぐらいの感覚なショタなのですが、チート級なのをいきなりぶっ込まれるグリエダはかなりの頻度で頭痛がします(´▽`)ノ
そして筆者も思い出したショタが転生者ということ覇王様に伝えてないこと…(゜ロ゜;)
アワワワ、どうすんべーっ!?((((゜д゜;))))
さて次回ぐらいから敵側の意図もわかり始めま…す?(´・ω・)
そろそろプロットぐらい書こうかな~(*´д`*)









