セルフィルもミスはする。だって男の娘だもの
遅くなりました。
セルフィルの王子達が家を乗っ取ったという言葉に、私はそうだろうなと思った。
愚王の夜会で没落の憂き目にあうことになっているランドリク伯爵とアガタ公爵。
その時に槍で次は無いと、その心中に恐怖を刻み込んでいる。
アレスト辺境伯軍の部隊長達が、反抗心が高い新兵をおとなしくさせるために剣や槍で脅して聞き分けをよくする方法を、私なりに解釈した方法でだが。
寄子のランドン男爵達に見せたら、本気の全力は戦場以外ではやってはいけないと言われていた。
人は自分よりも大型の獣を見るだけで絶望すると追加で言われたのは意味がわからない。
私は獣ではないからな。
「王子達が伯爵達の権力を握った根拠ですが、僕が愚王についていた連中の行動を大体ですが把握しているのは教えましたよね」
「そうだね」
セルフィルはか細い声を出す。
抱きかかえるその小柄な体の首筋は普段の白を超えた青ざめた肌の色になっていた。
うっすらと汗もかき、必死に白王にしがみつく力も徐々に弱くなっているのが身体越しにわかる。
私がその小柄な体躯を包むようにして抑え込んでも、そう長い間は騎乗は無理だろう。
「特に暗殺や襲撃をしそうな貴族には偽の情報を流して混乱させて、ちょっと宰相にお手紙書いて不正貴族へプレゼント(騎士団投入)とかして、動きを止めていてたんですよ」
愚王派閥の貴族に仕掛けていたのは知っていた。
「一番暴走しそうなランドリク伯爵とアガタ公爵には念入りに疑心暗鬼になって何も行動出来ない状態になってもらって、派閥の手足である貴族が切り落とされていく恐怖を味わってもらい。最後は反乱を起こして『ほ~ら、人を蹴落とすことしかしてこなかった実力が無い貴族の断末魔は心地いいでしょう?』と、逆賊として騎士団に磨り潰されていくのをリリィに見せて、無能は争いに向かないのを覚えさせる為に…まあそんな感じで順調に進んでいたのですが」
子供の教育にはどうかと思うけど。
まとめず考えている事がそのままセルフィルの口から吐き出されているのは、そうしないと意識が飛んで体に力が入らなくなるのを無意識に防ぐ為だろう。
身体で優しく抱きしめると、一瞬震えて虚ろ気味だった声に意志がこもるようになった。
「成長に意欲的な子供の教育に夢中になって情報の収集を怠りました。愚王と側妃の子マロッドとオーレッタですが。今は詳しく話せる状況ではないので端折りますけど、僕達の敵になる。王位を狙うような二人ではなかったはずなんです」
「は?」
「オーレッタがグリエダさんを怒らせたのは演技と思いたいですが、少なくともマロッドは自分達に勝ち筋はほとんどないと理解していたと僕は考えていたんです。なにせ自分の女性遍歴を話しながら彼女への手紙を十数通を書き、その中に妹を心配する暗号文を含ませるようなことが出来る人物が現状を把握できないとは思えなかったんですよ」
馬体の動きではないもので彼の身体が規則的に震える。
「兄妹関係がいいから、勝ち目が無いから、そんな行動を取るはずがないと裏を取ることもしないなんてとんだお間抜けになったものだ僕は」
それはクックックッと笑うセルフィルの苦笑だった。
「僕が安易にランドリク伯爵とアガタ公爵を追い詰めたせいですかね?考える頭を持たない貴族の権力を奪える機会を与えてしまった?そのせいで王位を狙う?」
『バカダナァ。ワルイホウコウニムカワセタノハオレノセイジャナイカ』
最後の呟きは何と言ったのかわからない。
だけどその前の言葉でわかる。
愚王の権力が地に落ちた今、身の安全の為にだけに保護されている側妃の子というだけでは敵にもならないのだ。
だがその王子や王女が自ら先頭に立てば?
敗者になる未来しかない者達はその傘下に入るだろう。
王妃や宰相がじっくりと解体しようしていた貴族達が、自分達が助かるために一つにまとまってしまったのだ。
そして後がない者の取る行動は力しかない。
今後は王都に多くの血の雨が降ることになるだろう。
「セルフィル。君のせいじゃない。決定権のあった大人達の責任だよ。私だって賛成した一人だ」
「そうですね。王妃様や宰相達のせいですね。リリィの教育のついでに、一応最小限の犠牲で済むようにしていたんですよ。それをマロッド達にダメにされて」
「セルフィル」
「あーどうしようかな。もう大人達に全て投げますか?うん、それがいいっ!リリィも王城に連れて行けば過保護な王妃様やヘルママがいる限り大丈夫でしょうし。頑張れ大人っ!」
「セルフィル」
「その為には今の状況からの脱出ですねっ!もう少し我慢できますから僕達の味方の貴族の屋敷にでも逃げ込みましょうっ!ここからなら宰相の屋敷ですか?ギリギリで逃げ込んで矢を射かけさせましょう。それで宰相率いる貴族派もリリィの味方になるのは確実です。いいお土産ですね」
「もういいんだセルフィル」
「は?何を言っているんですグリエダさん。これから責任を大人達に特に宰相に任せて、僕は自由に」
「策略だけで済む時間は終わったよ」
「…まだ終わっていません」
「いいや終わったんだ。相手が暴力をぶつけてきたんだから、こちらも暴力でやり返す戦場に移行したんだよ」
ぐずる彼に言い聞かせる。
きっと自分が失策を犯したと考えているだろう。
でも誰でも失敗はするし、彼はまだ十三歳。
子供らしくて可愛、おっと子供っぽくて可愛いセルフィルだ。
周囲に自分の体形を平気で活用して、子供女の子と言われるのを当然と受け入れるのに、私に子供扱いされると不満そうな顔をする。
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「あの子に頼られる存在になってねアレスト女辺境伯様」
週に数回、私にアリシア、ベラ嬢は前公爵夫人ヘルミーナ様に王城に呼ばれてお茶をしていた。
表向きはハイブルクの男に相応しいかの見極めと妻としての教育というものだったが、アリシア、ベラ嬢はすんなりと合格してヘルミーナ様と時々やって来る王妃のお相手係と化していた。
そして私だけがどちらとも合格できずにいた。
まあ貴族当主になる私に妻としてというより夫人教育は役割が違うので辞退させてもらった。
問題はもう一つの方、セルフィルに相応しいか。
「頼られるとは支えるということでしょうか」
「違うわ。セルフィルには支えてくれる存在は山ほどいるもの。あの子にお願いという命令をされたら喜んで動いてくれる人達が。そうね今の貴方もそうよね」
ヘルミーナ様は私を指した。
とても成人の男性が子供にいるとは思えない美貌をしならせて笑みを造られる。
「信用も信頼もするわ。でも本当に頼りたい時はあの子自分一人で責任を負う形で解決しようとするの」
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貴方はセルフィルに頼ってもらえるかしら?
そう最後に言われたのには胸に刺さった。
そして私は頼ってもらえるわよと付け加えて言われたのにはイラっとしたが。
「セルフィル。私を頼って」
彼をきつく抱きしめ耳元に囁きかける。
襲撃者達とは馬の差で少しばかり余裕ができた。
そして愛馬の白王は気遣いのできる馬なのでその余裕を速度を落として、私達二人の時間を作ってくれる。
「愛している人に頼られないのは寂しいよ。私は辺境伯で民を優先しなければいけない立場だけど、それ以外の魔力使いで騎士で女の全ては君に捧げているのに」
「えーと、それ男の僕が言うことではないのですか?」
「今現在の状況を自分で打開できたなら、後で聞いてあげよう」
綺麗な金の髪に顔を埋める。
うん良い匂いだ。
これは誰にも渡したくない。
「そーですねー。出来ないこともないですけど、後でめんどくさくなりそうですし」
「出来るのかい?」
それは予定にないから困る。
私の活躍を魅せることが出来なくなってしまうじゃないか。
「しません。グリエダさんがいてくれるなら僕はお願いするだけですよ」
白王に二人乗りで私の前にセルフィルが騎乗しているからその表情は見えない。
けど口調は普段の彼に戻った。
いたずらっ子で何を言いだすのかわからない楽し気な雰囲気に。
「どうして欲しいんだい私に」
「僕は死にたくもないしグリエダさんが傷つくのも嫌なので襲撃者達を殺してもらえませんか」
「してあげよう」
おっと調子が戻るどころか容赦も無くなったようだ。
襲撃された時にこれは頼られるチャンスと考えてその場から逃走した。
「伯爵か公爵のどちらの手の者かわかりませんけど、実力は高そうですから今のうちに始末しときたいんです」
あ~すまない襲撃者達よ。
セルフィルが私を頼ってくれるのが成功したら命だけは助けてやろうと考えていたが、どうも無理のようだ。
仕方ない。君達のおかげでセルフィルとの仲が少し縮まったから、苦痛の少ない死を与えてやろう。
「そうだね彼らの実力は中々のものだったよ。騎士にしては気配の隠し方も上手かったし」
「?どうかしました。もしかして殺害はさすがに…」
「いやいや大丈夫大丈夫」
危なかったっ!
気配が丸わかりで計画を建てていたらセルフィルの目前まで矢が来るのをほっといたのがバレるところだ。
「ん、それじゃあさっさと片付けてくるよ」
「は?いえこの先にいい広場があるので待ち構えれば」
その広場は知っているけど、そこまではセルフィルの体力は持たない。私が支えて着いても、動けなくなったセルフィルをかばいながらでは、万が一だけどセルフィルに傷ができる可能性がある。
なら今から倒したほうがいい。
頭をさらに前に倒してセルフィルの頬に顎横を擦りつけ匂いを付ける。
男の子なのにきめ細やかな肌はいつまでも触れていたい。
「私が離れたら速度を下げてくれるからしっかり白王にしがみついているように。それじゃ行ってくるよ」
鐙から足を外して、名残惜しいがセルフィルから身体を離し鞍を掴み腕の力と体の動きで足を持ち上げる。
「は?え?ほえ?」
後ろを向けないセルフィルは後ろで私がしていることに疑問の声を上げまくっている。可愛いな。
「すぐ戻ってくるから」
「ブルルッ!」
白王が臀部を蹴られたのに怒りのいななきを上げた。
これはあとで果物でもやらないとな。
さて、どこか掴みやすいところは…。
お、窓が開いていて枠が掴めそうだ。
嬉し覇王様「よしっ!」
困惑ショタ「え?」
ヘルママ「女は獣なのよ」
ショタ達がピンチだったのは覇王様のせいだったー!?(゜ロ゜;
襲撃者達は一流の魔力使いでした。
ただ覇王様からすれば十分に対応できる相手でした(;・ω・)
そして覇王様の恋愛進展のための犠牲者に…(--;)
覇王様は覇王様過ぎて常識の一部が覇王様感覚で覇王様します(・ω・)
…、何書いている筆者?(-∀-;)
ヘルママに煽られて獲物を取り返そうとした覇王様です(^^;
ほら!一応、異世界恋愛だから恋愛を入れたのよ!
覇王様風味だけど(;´д`)
ちょっと5星物語の新刊読んだせいで、覇王様の思考が常人とは少し違うことになりました。
覇王様には必要なものはとずっと悩んでいたんですが、強者の気持ちは常人にはわからない部分があるで筆者の中でカチリと何かがはまりました。
覇王様からすれば襲撃は襲撃でない。ショタの体調だけ気を付けて、二人の間を縮める為のシチュでしかなかったと。
ショタでも説明してもらわないとわからないです。
バカップルの連中でも理解できません。あちらは恋人を危険な目にあわせることをしないので。
ショタは余裕綽々で遊んでいると、本人もそう思っていましたが、のじゃ姫女王様育成計画はその余裕を奪っていたようです。そして予想外のことが起きたとたん崩れました。
ブラックな心のオッサン寄りになっていたショタです(^^;
覇王様が復活の呪文を唱えてくれたおかげで即元気なりましたが( ´∀`)
さて、覇王様の暴力がようやく出てきます。
どんな闘いになるのかっ!?
次回、襲撃者達死すっ!Σ(´□`;)
死なないで襲撃者!伯爵の戦力がた落ちよっ!
後書きはどうしてこんな簡単に書けるの?(´;ω;`)
もう少し減らそう…。
暇な時は感想欄をお読みください。
真面目に答えたり、ボケたり、たまに死亡したりと忙しい筆者が見れます。
ぶっちゃけ後書きとご感想への返信が本番と思い始めている筆者です(;・ω・)
あ、第一王女ヘレンはオーレッタに名前が変更されました。
まさか母親がヘレナで一文字違いだったとは、今まで気づきませんでした(;´д`)









