世の中思い通りにはいかない。人間なんだもの
情報というものは貴重だ。
流動的な情報は時が経てば経つほどその希少性は薄れていく。
そして儚いものである。
「ギブ、死ぬ、ヘルプミー」
同じ様に俺の体力も、ショタという職業である以上儚いものである。
スタミナゲージの上限値が極端に低いし、常人の倍の勢いで減少するの。
つい英語が弱音に出るほど弱りかけています。
「もう少しだけ我慢してくれ」
ギュッと身体を包み込むように覆い被さるのは我が婚約者のグリエダさん。
普段は余裕を持った年上のお姉さんな彼女が、今は真剣な表情で手綱を握って愛馬を操り王都の中を疾走していた。
石畳で舗装してある道は現代日本の道路のように道幅が広くはない。
王都の主要な道は日中は人も多いし、馬車も頻繁に行き交うので馬で全力疾走なんて自殺行為をしているようなものだ。
その無謀な事をしているのが俺達二人と馬一頭である。
いつも俺の相手をしてくれる白い巨馬白王は、全身を躍動させてその身を前へ前へと運んでいく。
それを操るのは我が婚約者のグリエダさん。
前を行く馬車と壁の間を抜け、人混みを縫うように白王の行き先を手綱で伝える技術は素人目から見ても凄いと思う。
まさに人馬一体。
ただし人馬一体からあぶれた俺は車酔いどころじゃない酔いに死にかけておりまする。
前世の心のオッサンの頃も車の左右の慣性に酔いやすかったのに、さらに追加の激しいお馬さんの上下運動がプラスされると、もうダメ。
「グ、グリエダさんっ。そろそろ口から何か出ます。具体的に言えば僕の中で昼食が混ぜ混ぜされたモノがっ」
「新しく出ていた麺類も頼んだのが致命的かい?」
「それを食べなくても華奢な僕にはこの振動は大きな被害を与えますぅ」
新作料理がメニューに書かれていたらつい頼まない?
自分が広めたパスタ料理に飽きたわけじゃない。
ただメニューの半分がパスタに侵食されると嫌になってくるというか、他のものを食べたくなるの。
それで新作料理を頼んだらミートソースにチーズこれでもかと掛けられたパスタだった。
しかもサイズは他の二倍。
意味のない響きだけの名詞を創り出して料理名にするんじゃないと叫びたかったよ。
せめて料理の内容を書けと。
全部食べたよ。苦手な食べ物でもお残しはしないのが前世からの自慢できるものの一つだ。
その後にジェットコースターも真っ青のホースアクションがあると知っていたら、逃げるように王城に行ったダッシュ君とスナオ君を捕まえて食べさせていただろうに。
「次右に曲がるよ」
「ぐえっ」
手綱を引かれた白王が道が右にカーブしているのに合わせて忠実にその命令を実行してスピードを落とさずに曲がっていく。
外に膨らまないように馬体が傾き、ショタの身体にかかる外向きの慣性が白王の馬体に押さえつけられ始めた。
怖っ!
四十五度ではないだろうが、脳が絶対に倒れると認識するような角度の視界はかなりの恐怖だ。
あと馬の走る振動が体力を凄い勢いで消耗させて、馬具を必死に掴む手の握力を少しずつ弱くさせていっているのがシャレになっていない。
グリエダさんが身体で俺を固定してくれていなかったら、もっと早くにショタは吹っ飛んで地面か壁に大きな染みを赤色でつけていただろう。
どうして俺達は王都内を走っているのか。
それは襲撃されて逃げているから。
自分の体勢の維持で必死の俺は見ることが出来ないが、後方からドドドドと何頭かの馬が追いかけているのが聞こえている。
その馬上にはフルプレートアーマーの騎士と軽装備の弓騎兵が騎乗しており。
「おっと」
グリエダさんが姿勢を横にずらすと、彼女の胸の高さを腕に掠るようにして矢が前に飛んでいった。つまり当たればグリエダさんと、上手く貫通すれば俺の後頭部も貫いていただろう。
殺意ありまくりの攻撃である。
つい先ほどだ、学園からの帰り道、ここ最近の話題になっているランドリク伯爵の焦りと、アガタ公爵の芸術王女散財にやつれていっている話をしていた。
グリエダさんは自分の領地に荷止めをした伯爵の話にかなり嬉しそうだった。
やはり安易に人の恨みを買うようなことはしてはいけないと考えたね。
そしてすでに彼女には俺の商人流通情報網は教えていた。
ついでに次兄の婚約者のベラ嬢と、王城に逃げ遅れたダッシュ君にもグリエダさんと同じ様に情報の重要性の講義を軽く受けてもらう。
グリエダさんにはアレスト辺境伯領への流通の動線が大まかに出来たことを、ベラ嬢には地方貴族の中でランドリク伯爵から金を借りてスパイ活動をしていた裏切り者がいるのを、ダッシュ君には御家の経済状況が、次期当主の兄が怪しい投資に金を出したことで。自分達では逃れることが出来ない危機的状況に陥っていることを教えてあげた。
これらの情報は商人達が勝手に俺の元に届けてくれるのだ。
青い血を持っていると叫んでいる貴族も三大欲求や物欲、屋敷領地の維持繁栄などのためには商人から買うしかない。
そこら辺の数字と、金の為ならどんなことでも仕入れる商人の情報を纏めれば、よほどの秘匿偽装、突発的な行動でもない限り、中世ファンタジーのこの世界では情報はザルを通る水のようなものだ。
ちなみに俺は商人さん達に流通経済の神と呼ばれ、商いで世界を獲りましょうと誘われたりしたことがある。
情報から読み解く方法、流通の効率化、グループでの情報共有化の有用性などを、米、新鮮な野菜、魚の為に教えただけなんだが、思わぬ副産物でエルセレウム王国内なら最も情報を得られる権利を所持することになった。
あまり必要が無かったのでヘルママに任せていたんだけど、グリエダさんの婚約者として貴族社会で生きていくことになったので現在再構築中である。
それでも知りたい情報は入ってきていたんだが。
まさか学園からの帰宅中に矢を射かけられて暗殺されるとは思わなかった。
会話に夢中になって、気付いたら目の前にグリエダさんの手に掴まれた矢が二本。
俺の可愛い碧眼の両目にジャストミートな射線だったらしい。
相手は馬に騎乗した五人に、そこまで広くない道幅の道路、周囲には帰宅途中の学生や、王都の市民達。
さすがのグリエダさんも誰一人怪我を負わせることなく襲撃者達を殲滅することはできなかった。
それから俺達の逃亡劇が始まったのである。
問題はショタの本人がグリエダさんの予想を超えるほど貧弱過ぎたことだ。
覇王様のグリエダさんと覇王様の愛馬の白王だけなら襲撃者をあっさりと引き離してアレストかハイブルクの屋敷に逃げ込むことができた。
それが重武装の騎士が騎乗する馬を引き離せないほどの速度でしか走れていないのである。
昼食を吐くのは悪いがまあいい。
だが逃げ切る程の速度を白王が出すとショタはあっさりと吹っ飛ぶのである。
そうならないようにグリエダさんは俺を全身を使い固定しながら手綱を操り、俺が耐えきるギリギリの速度で白王を操って逃げているのだ。
変態執事になる前の暗殺者アレハンドロに暗殺されかけた時よりもヤバい状況かもしれない。
なにせ最強の矛であるグリエダさんが封殺されている。
王都の日中、貴族の子息子女も帰宅している時に完全武装して襲撃してくるなんて想像もしなかった。
ランドリク伯爵、アガタ公爵を追い詰める工作はした。
権力があれば横柄に我欲を表すタイプは実は小心者が多い。なにせ権力が無ければ何も出来ないことをわかっていなくても心は理解しているのだ。
そして小心者は疑心暗鬼に陥ると自分から動こうとしなくなる。
こちらの準備ができたら、いいタイミングで周囲から焚き付かせて自滅させようと考えていたのだ。
小心者なので貴族の子供が多くいる場所で襲うなんてしないはず。
万が一傷でもつければ今の王都ではランドリク伯爵達がやったと情報が流れるのだ。
こういうことは、商人や商人が袖の下を渡した伯爵達の使用人達が伯爵の耳に聞こえるように囁くのである。
疑心暗鬼に自縄自縛のデバフをかけてやれば、あとは思い通りに動くと思ったのに、まさかの想いっきりのよさを出してきた。
ん?引っかかったぞ。
思い切りのよさ? …ああ、そうか。
そりゃあ予想外の事が起きるはずだ。
いくつか謎な部分もあるがそこら辺は後々だ。
「グリエダさんっ!この襲撃はランドリク伯爵またはアガタ公爵の手の者ですっ!」
「それぐらいは現状を知っていればわかるよっと」
俺の叫びに応えながらも再び飛んできた矢を白王の進路を少しずらしてギリギリで躱すグリエダさん。
この人どうやって後方から飛んでくる矢の進路を把握しているのだろう。
「違いますっ!伯爵達の手の者ですが、頭が変わりましたっ。今は第二王子マロッドと第一王女オーレッタが両家を動かしているんですっ!」
頭が変われば今まで俺がしていたことは全部とはいかないが大半がパーになった。
ははは、商人の情報網に引っかからずに襲撃計画を建てるなんてボンクラでは出来ないよ。あれだな伯爵と公爵を表に出して隠れてやっていたな。
「これから両家の全てを使ってこちらに挑んできますよっ!」
窮鼠猫を嚙むどころか、鼠の大軍を使い捨てにして猫の全身を噛みに来やがった。
瀕死ショタ「うぷ、吐く…」
宰相&ダッシュ「吐ーけ♪吐ーけ♪」
遅くなりました。
そして次回に続きます(´・ω・`)
ほぼ第二章は最後までのアイデアは出来ているのに、文章するのが難しいです…。
さてショタがピンチになっております。
余裕ぶったら負けフラグが立ちそうになるのがあってもいいでしょうこのショタには(*´∀`)
まさかの覇王様の弱体化(゜ロ゜;
原因はショタというのがなんとも覇王様らしい(^_^)
次回!ショタは死なず!の巻
あー、バカップルで使ったなこれ(;・∀・)









