何もできない奴には席はない
どうしてこんな微妙な回に…(-_-;)
その部屋には三人がいた。
一人は窓際に置かれた執務机に座り、一人はその前にあるソファーの背もたれに寄り掛かるようにして座っていた。最後の一人は扉の前でその二人に身体を向けて立っている。
「それではマロッド王子様、ランドリク伯爵様、私達は如何様な物でも取り揃えますので」
「ああ」
「お疲れさま~」
室内に頭を下げた男がドアをくぐり廊下に出ていくのに、しかめ面のランドリク伯爵の視線と、軽いねぎらいの言葉を掛ける第二王子のマロッド。
僅かに部屋に響く足音が小さくなるまで二人は無言で、しかしその雰囲気は正反対であった。
ガンッ!
「くそっくそっくそっ!」
ランドリク伯爵が自分の座るいかにも執務机の脚元を蹴るとミシミシと側面の板が音を立てる。
「どうしてっ!このっ!私がっ!こんな目にっ!」
だが長年の贅沢に溺れた体では破壊するまではいかなかった。
なぜ彼がイラついているのか、それは先ほど出ていった男、伯爵家が贔屓にしていた商人がもたらした情報にある。
敵対する王妃派を支える二つの公爵ハイブルクとセイレムの二つの公爵軍を先王の弟カシウスが率いて王都に向けて出兵するのが判明したのだ。
その情報は何日も前にランドリク伯爵の元に届いてはいた。
「あっはっはっは、やられているね伯爵様」
「うるさいっ!」
王子の言葉に怒声で返す伯爵。
まがりなりにも王子にする対応ではないが、それぐらいランドリク伯爵には余裕が無い。
ついこの間まで王都で王家の次に豪奢な暮らしをしていた伯爵だ。配下の者や派閥の貴族を使っての自分達に害になりそうな旨味がありそうなことへの諜報活動はしていた。
だが伯爵が最も知りたい情報がある王城は、現在は徹底的に愚王についた者達は排除され、僅かに残った者も身分の低い連中ばかりで王妃とその周囲には近づくことさえも出来なくなっている。
落ち目の伯爵に媚びて近づく者もいなくなり、貴族の情報収集の場である夜会も茶会も開催しても自派閥の者ばかりの寂しいもので、その派閥も櫛の歯が折れて消えていくように何人もの貴族がランドリク伯爵の元から去っていった。
弱味のある敵対派閥の貴族を脅してもみた。
だが殆どが愚王が開いた夜会の惨劇を覚えていて口を閉ざしてしまう。
つまり貴族からの重要な情報は殆ど伯爵の手元には入ってこなくなっているのである。
出来ることは配下を使い相手側の周辺の動きを探ることだけだった。
王妃は守りの固い王城から出てくることはない。大物のセイレム、ハイブルク公爵も護衛が厳し過ぎてどうしようもなかった。
ハイブルク公爵の母である前公爵夫人もいるが、王都に来てすぐに城に入城してから一度も出て来ていないので無理だ。
では誰に重点的に監視を付けるか。
それはランドリク伯爵を現状の恥辱に貶めた人物、セルフィル=ハイブルクだ。
伯爵に更なる権力をもたらしてくれるはずだった孫の第一王子ジェイムズを失墜させた諸悪の根源。
その時はジェイムズの婚約破棄のせいで自分の名誉に傷がつくと心配していた伯爵だった。
だがすぐにもっと上の地位に就けるチャンスと考えた。
王派で娘が別の派閥の宰相の息子と婚姻を結ぶはずだったアガタ公爵を誘い。
王に、これを機に王を支持する者達に上位の官職を与えてみてはどうかと、伯爵とアガタ公爵は進言した。
ここまでは上手くいった。
伯爵は国家騎士団長に就任し、アガタ公爵は宰相の地位に娘を王子のジェイムズに嫁がせるように上手くことは運ぶ。
いつか王の祖父として国を牛耳るという伯爵の野望が一気に縮まった。
後は邪魔者達を潰すだけだった。
なのにセルフィル=ハイブルクという悪魔はグリエダ=アレストという化け物を従えて全てをひっくり返した。
王にヘレナ側妃と、もう一度王子から全てを引き剥がした。
国の頂点たる権力地位、そして子孫さえも。
そしてランドリク伯爵の野望さえ蟻を踏み潰すかの様にプチリと。
だから余った諜報の配下をセルフィルに全てつけた。
必ずあの悪魔は自分達の全てを潰しにかかってくると信じて。
ずばり伯爵の勘は当たる。
第二王女を囲い、挑発するように伯爵の屋敷までやって来たのだ。
兵で屋敷を囲み、いつでもお前達を消すことが出来るぞと脅しをかけるようにして。
アガタ公爵の方にいたっては公爵邸だけ災害にあったかのような大損害を受けている。
そしてその時はやって来た。
ハイブルク邸から幾人もの使用人が同時に手紙を携えて出てきたのだ。
その幾つかは王城に向かいどうしようもなかったものはあったが、その内の一通が王都に繰り出していたハイブルク公爵とセイレム公爵令嬢の元に届けられた。
カフェに入った二人を追いかけた間諜が、手紙を持ってきた使用人が屋敷に戻るときに落とした紙を手に入れることができた。
そこには公爵軍の派遣、セイレム公爵令嬢まで父親に要請するという話で、さらに先王の弟まで王都に来させることが書いてあった。
そのメモはランドリク伯爵を混乱させた。
重要な事をただの紙に書くか?いや、急ぎならありうる。だが使用人が紙を落とした。これは自分を騙すために落としたのか。
伯爵にはわからない。だから疑う心がどんどん大きくなっていく。
それは伯爵の精神を蝕んでいった。
「私が何をしたというのだっ!そんなにも奴等は人を蹴落としたいのか」
そこから他の手紙の行き先も調べると、王妃に近しい貴族でも力を持つ者、軍事行動に強い者達に送られていることがわかる。
そして先ほどランドリク伯爵が数日かけても手に入れることが出来なかった情報を商人が持ってきたのである。
ハイブルク、セイレムの他にも幾つかの貴族に国家騎士団から、長期の軍事物資の大量購入の打診があったと。
他にも王城内が慌ただしくなっていて、騎士団が訓練場に宿泊用のテントを建てているらしい。王都の郊外の平野部に騎士や兵士が観測に向かっているのも見たなど、大量の資料をお得意様の危機ではないかと店の主人自ら何度もやって来て、伯爵に密告してくれたのである。
何かと便宜を図っていた商人の話を伯爵は信じた。
しかし信じるということは、己の状況が袋小路にどのくらいで着くのがわかり始めたということ。
不確かな悪い情報が形を帯びてくると不安が恐怖が湧き上がってくる。
「これは俺ちゃんでもわかっちゃうね。サッサと伯爵領に逃げ込まない?」
「お前は王都で築いた私の全てを捨てろと言うのかっ」
そして湧き上がってパンパンに膨らんだ疑心暗鬼と被害者意識は、ちょっとした外部からの刺激で破裂する。
ランドリク伯爵は机の天板に拳を振り下ろす。
「この屋敷も財産も何もかも私の物だっ!私が苦労して手に入れた物をどうして手放さなければならんのだっ!?」
何度も何度も机を叩く伯爵。
ランドリク伯爵が苦労したことは娘のヘレナが愚王の側妃になってから一度もない。
いや領民から搾り取る貴族らしい貴族の伯爵は、生まれた時から一度も努力をしたことは無いのだ。
「だってこのまま何もしないと死んじゃうよ?」
「そのくらいわかっているわっ!」
王子であるマロッドの言葉に伯爵は再び机を叩いた。
「どうすればいい。どうすればいいのだ…」
ランドリク伯爵に事態を解決出来るような頭脳は無い。
たまたま貴族は優遇されるのが当然という伯爵家の長男に産まれただけの男だ。領地で好き勝手に横暴に成長する。
寄子で一番の美女だった子女を強引に妻にし子供が産まれ、たまたまその子供の一人が王の寵愛を得た。
そして伯爵は何の要職に就かず何の功績も残していないのに、たまたま王国で頂点の庇護下に入ってしまったのである。
何もせずに与えられた幸運。
「私は王の祖父になる男なのだぞ。それがどうして…」
自分は何をしてもいいと、たまたまの幸運が続いた伯爵は思っていたのに。
実は何も乗り越えることができない男だった。
そんな人物が目の前に障害あるときどうするか。
「おい。お前は王子教育を受けているはずだな。何か案を出してみろ」
目の前にいる自分より弱者と思っている人物に押し付けるのだ。
「え、俺ちゃん?」
悩む中年の男なんて興味もないと数多の恋人達に送る手紙を書いていたマロッド王子は、いきなり声を掛けられて驚いた。
「え~、俺ちゃん王子教育よりも女の子とばかり遊んでたしな」
「いいから言ってみろっ!」
マロッドは何通目かの手紙を書くのを止めてニヤニヤしながら伯爵を見る。
そんな目で見られたことが無い伯爵はイラつきながらも言葉を引き出そうと促す。
「はいはい、お爺様に養ってもらっている身ですから、頭を捻って絞り出してみますよっと」
マロッドが自分達が血縁関係であることを告げても、祖父であるランドリク伯爵は無言だった。
それを見て溜息を一つついてマロッドは居ずまいを正して座りなおした。
「政治面で負けて軍事の方なんか今の時点でも圧倒的に負けているんだよね?アガタ公爵をぶっ壊した女辺境伯いるだけで」
「ああ…」
伯爵は苦虫を嚙み潰したような表情になり、体を震わせる。
あの夜会でグリエダに槍を向けられた恐怖が蘇ったのだ。
「負け負け尽くしなのに、お爺様はまだ王都で欲に塗れたいと。まだまだ女の子とイチャイチャしたい俺ちゃんと同じだ。さすがは同じ血だね」
「…」
冗談に伯爵が反応もしなくなったのにマロッドは肩をすくめた。
「逃げないのなら僕ちゃん達のやることは一つしかないじゃん。先王の弟が来る前に、まだ王である父上を救い出して僕ちゃんに王位を譲って貰おうよ」
ランドリク伯爵は気づかなかった。
たった今、伯爵家の主導権を第二王子マロッドに握られてしまったことを。
大事な局面で選択したことが無く、疑心暗鬼に陥りただただ責任を人に押し付け逃げた伯爵に席はないのだ。
陰謀マロッド「さ~てチャンスがやって来たね」
その頃のショタ
能天気ショタ「あ、グリエダさんお茶しましょうお茶。ここがさる公爵とある婚約者の公爵令嬢が、お茶と胃薬水で寛いだお店です」
微頭痛覇王様「…情報が少し処理できないね」
ラッキー伯爵だったランドリク伯爵は、ショタと接触したことでヘルロードを爆進中です\(^o^)/
後は最後をどう飾るかぐらいでしょうか?自分では選べませんが(;´д`)
チャラ王子マロッド君が台頭してきますよ!
ショタとの知謀の戦いが始まるっ!
まあ覇王様でボンッですが(´・ω・`)
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…(゜ロ゜)
夢かな?(´・ω・`)
ショタ「白王キーック!」
筆者「グボッゲリヤハッ!?」
ショタ「夢じゃないよ。筆者の寿命が五十年消費されて受賞したのです」
筆者「死んでる死んでる」
というわけで本当です\(^o^)/
拙作を読んで下さった読者様がいてくださったからでございます。まことにありがとうございますm(__)m
足を向けて寝られないな(-_-;)よし今後逆立ちで寝よう(@゜▽゜@)
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今日は豪華に納豆飯だー\(^o^)/桜の真下で。
あ、ガトーショコラ作ろヽ(*´▽)ノ♪









