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私の嘘つき(少し変な)婚約者

ストーリーがあると考えるから書くのが難しいです(´・ω・`)

 ハイブルクの客室で、私達は同じテーブルに珍しく対面で座っている


「う~んう~ん」


 細く綺麗な金髪を右に左に傾けているのは私の婚約者のセルフィル=ハイブルク。

 彼の目の前にあるテーブルには何枚もの紙が置かれ、ペンを下唇に押し付けて悩んでいる。


「あ~、子供は何に興味を持つんだ?もっとわかりやすくしないと話に興味を持ってくれなかったし」


 椅子に座って、床に届かない足をパタパタ動かす姿が可愛い。

 私しかいないことに気が緩んでいるのか、口調が悪くなっているところもいい。

 人前で触れ合うのはいいのに、二人っきりになると節度を持ちましょうよと離れたがるところも、私を大切にしてくれているようで、そこもまた可愛いのである。

 つまり何をしても可愛いのが私のセルフィルだ。

 こんな愛おしい生物はこの世界に一人しかいないだろう。


「あの…そんなにジッと見つめられるとゾクゾクします」


 私の視線に気づいたのか、こちらを見る彼。

 中指を眉間に当て眼鏡を上げる仕草をしている。だが、セルフィルのメイド達に聞いたけど彼は目がいいので、眼鏡は一度もかけたことがないらしい。

 セルフィルは大人の真似をしたがっているのだろうというのが彼女達の説だ。


「ん~、いいじゃないか」

「僕に魅了されて見るやからは多いので平気と思っていたのですが、その物騒な物を持たれたままは流石に恐怖があるのですが」


 彼の視線が私の手元に移る。

 そこにあるのはセルフィルの背の高さぐらいの剣。いや彼の呼び方ではカタナと言うらしい。


「大丈夫、君には向けることはしないよ」

「それを屋内で抜くのを止めて欲しいんですが。それ、ロンブル翁でも両手で持っていたんですよ?」

「そうなのかい?」


 軽く振ってみると確かに重いが、今まで使用していた剣よりも馴染む。

 今まで剣は木の枝と変わらない重さだったので、かなり使いやすい。

 天井に当てないように振りかぶって、自分の正面でピタリと止める。

 うん、振りが流れるほどの重さは無い。


「うおお、風圧が凄いっ。グリエダさん待って!怖いっ怖すぎますっ!何かがヒュンッてなりますのっ」

「おっと、さすがにやり過ぎたね」


 何度か振り心地を試していると、セルフィルが太ももの間に手を入れて怯えている声を出したので止める。

 しかし、その表情は驚いてはいるが、目は怯えていなかったので大丈夫。

 彼は出会ってから一度も私に恐怖の目を向けたことは無い。

 カタナを振るのを止めて、特注の鞘に収めた。


「実はそれとエルセレウム号には結構なお金がかかっています。次兄に格好良くて強いのを作れっ!と理不尽なことを言われて、当時暇をしていたロンブル翁を女性に喜ばれる贈り物と高級葉巻で釣って鍛冶師に仕立て上げて、人件費は最低賃金なのに剣と槍の最上級セットのだいたい21.4倍かかってしまい。なのに、次兄は重いやら趣味に合わないやら言って受け取り拒否するし、母達と侍女長に使いこみ過ぎと連続耐久お説教されるし、ひと月ずっと豆の塩スープが出されたんです。あ、作っていたら私のも作れと脅してきた姉のナイフは12.3倍と小さいくせに凝り過ぎた装飾でなかなかのお値段になりました。そして物だけ獲って、責任を僕にだけ押し付けたんですよ。おかげでレアノ様の本の案を自分出演で考えるはめになって、ほかにも…」

「うんうん、セルフィルは頑張ったんだね」


 途中から兄姉への愚痴になっているけど、セルフィルの言葉に嫌悪はない。どちらかというと自分を振り回す二人に、やれやれと思いつつも付き合ってあげている兄の様に見える。

 その姿は義兄殿と同じようにも見えるが、あちらは会うたびにセルフィルが何かする前に止めてくれと、腹を押さえながら真剣な表情で言ってくるので…。まあ、同じか。


「…なんですか?」

「いや、苦労している君を労っているんだよ」


 テーブル越しに腕を伸ばして彼の頭を撫でる。

 金の糸が指の間から零れていく。その感触は絹の糸よりもサラサラでずっと撫でまわしていたいぐらい。

 くすぐったそうに、そして頬を桃色にして恥ずかしそうにする姿が可愛らしい。


「はぁ、そのままでいいですから少し助言を貰えますか」


 しばらく撫でられていたが、いつまでも私があきないことに気づいたセルフィルは溜息を一つついて、テーブルに置いてある紙の一枚を私に見せてくる。

 どれどれ。


「…どうして僕の横に椅子をズラしてくるんです」

「同じ方向から読まないと読みにくいじゃないか」

「いや僕は上下横からでも読め…いえ、もういいです」


 察しが良くて諦めるのが早い。


「何に助言が必要なのかな」

「六歳の幼女が小走りで城から王都外までちょっと息切れするくらいで脱出できるぐらいの体力をつける方法ですね」

「?普通にそのくらいできるだろう」

「…ふむ、グリエダさんに聞くのは無駄だったと」

「どうしてっ!?」


 セルフィルがのじゃ姫リリィ改造計画書と書かれた紙にグリエダさん案却下と書き込む。


「おかしいよっ。私が六歳ぐらいの時には馬と競争して勝ててようやく体力がついたなと思ったんだよ」

「それはグリエダさんだけです。優秀な成人の魔力使いでも馬には勝てませんから。周囲の友人は出来ていなかったでしょう?」

「…」


 言えない。

 幼少期から辺境伯軍の兵士か騎士しか周囲に遊び相手がいなかったことは。

 小さい頃は魔力の扱い方が上手くなかったから同年代とは遊ばせてもらえなかったのだ。

 おかげで同級生との付き合い方が年上目線になってしまった。


「ま、アレハンドロやメイド達に鬼ごっこでもさせておきますか」

「王女が事前に小さな落とし穴や、目潰し用の小麦粉をポケットに隠し持つのはどうかと思うがね」

「それはそれで頭を使うことになるのでいいんですよ。あー、子供が集中して覚えやすい方法って他にあったっけ」


 テーブルの上にある紙の殆どは第二王女リリアーヌの教育方針、成長過程などが書かれたものだ。

 セルフィルは王女リリィの教育を配下の者達に任せて遊んでいたわけではない。いや、からかってはいただろうが、彼女をハイブルクに迎え入れた瞬間から彼は全力でリリィを女王に仕立て上げようとしていたのである。


「いっその事、洗脳してこちらのやること全てに感謝するように…。いやいや、そんなことしたらあのやる気が無くなるし、自発的行動力が無くなりそうで将来面倒臭くなりそうなんだよなぁ。魔王様みたいに元の人格残してなんてできないし、あれ、俺なんかやっちゃいました?でハーレム作りたくないしなぁ」


 愚王を国政の表舞台から亡き者にした時でも楽しんでいたセルフィルが素の性格で悩むほど、人一人を王に据えるのは困難なことらしい。

 というか洗脳ができるのかい?いや、おかしい使用人達やホリー嬢を見る限りできるのかと納得しそうだが。

 それに魔王様とはなんだろうか。

 何百年か前に魔王が世界を征服しようとしたのは知っているが、そんな昔の人物に彼が会うなんて無理だろう。

 あとハーレムは許さない。


 セルフィルはリリィにこういった彼女のことで悩んでいる姿は見せていない。

 他の姿、ヘルミーナ様や宰相から手紙が届いた時は騒いだり暗い笑みを浮かべているところを見せているけど。


 王になるための才覚に必要な『味方を騙す』それを実行する姿を、女王を目指すリリィの前で実行しているのである。

 明日気づくかもしれない。成人してから気づくかもしれない。そして一生気づかないかもしれない。

 そんな嘘を六歳の子供に真剣に仕掛けている。

 私だって敵になる輩の屋敷をミスで半壊させた日の風呂上り、ハイブルクの侍女長に、自室で大量の資料に囲まれているセルフィルを見せられて初めて知った。


「第二王子と第一王女はいいのかい」

「そちらはヘルママを通して王妃と宰相に伝えましたから、どうするかを決めてもらわないと。はぁ、一応お伺いしておかないと後が面倒になりそうだから困るんですよね」


 セルフィルから聞いたが、彼が気づかなければ二人の目論見通りに事は動いた。


「まあ、いい教材になってくれそうなのでありがたい…とは別に思いませんね。僕の手間が増えた分地獄を見てもらいましょう。アガタ公爵とランドリク伯爵達には地獄に行ってもらいますが」


 彼が視線を向けた二枚の紙を摘まんで持ち上げる。

 それはヘレナ側妃の父、ランドリク伯爵家と王家派だったアガタ公爵家が、何時幾ら何を購入したかが詳細に書かれている書類だった。

 商人から購入した物品の数を確認したサイン入りのもので、購入した者と売った者しか持っていない書類だ。

 貴族当主の私の元には購入、搬入しか上がってこなくなる情報である。


「貴族は自分達の中で情報を探ろうとする人が多いですが、それは自分の領地内だけで物資の調達が出来ていた時代の話です。武具が良くなり自分達だけで調達出来なくなった今、流通は誰が握っているのか、その辺りの情報をしっかり把握して上手く使えば味方の死傷者を減らすことが出来ます」


 言いながらセルフィルは書類のある一部を指す。


「ここなんですが、食料は通常の量とかき集めた兵士たち分の日持ちしないものしか購入されていません。自分達が負けて王都から逃げ出すことや、最初から自領に籠って抵抗勢力となることは考えていないんです」

「つまり彼らは短期決戦を挑んでくると?」

「それどころか酒量と高級食品の量は増えていますから、勝ったつもりでいたんでしょうね。あ、王女はアレハンドロの上半身裸で蝶ネクタイの絵を買っています」


 ありがたや~と何故か手を合わせる彼には、たった一枚の書類から何が見えているのだろうか。

 そしてどうやって敵対する家の支出の書類を手に入れたのだろう。

 そのことを尋ねるとセルフィルの目が横に泳いだ。


「これが俺何かやっちゃいました?か。いえ別にグリエダさんに秘密にしたわけではなくてですね」

「セルフィルが私に隠し事をしていたなんて思わないよ。ただただ忘れていたんだよね」

「そうっ!そうなんですよ。流石グリエダさんは僕の事をわかっていますね。実はですね王都の商人がしたいのは」

「いや素直に話さなくていい」

「え、別にヘルママや長兄から秘匿しろと言われてないので全然喋りますよ」


 貴族としての私は知りたいが、私自身はさほどでもない。どちらかというと面倒そうだと思うぐらいだ。

 それに小難しそうな話を寝る前に聞きたくはない。


 今の私達の姿は就寝前の寝間着姿だ。

 アガタ公爵の屋敷を少し半壊させてからだが、私はハイブルク家に週に一、二回ほど宿泊している。

 どうして婚約者ではあるが他家の邸宅に頻繁に泊まりに来ているのか。

 それはセルフィルの睡眠時間が第二王女リリアーヌがやって来てから極端に短くなっているからである。

 今現在の時刻は不夜城と化している王城は別として、王都の殆どが眠っている時間帯だ。なのにセルフィルは私達がいる客室に多くの資料を持ちこんでいて、その目は爛々としており眠る気配は一切なく。むしろこれからが本番という気配を漂わせていた。

 上が休まなければ、下も休めないようで、ハイブルク家の使用人達が軽い睡眠不足になり、たまたまおつかいを失敗(屋敷半壊トラウマ増産)した私がハイブルク邸にやって来たので、注意兼見張り役を押し付けられたのである。

 使用人は主が問題ないと言えば従うしかない。

 だから婚約者の私に頼んだのだろう。

 完全に止めさせようとすると隠れて作業し始めるから、時々でいいから強制的に眠らせてほしいとのことだった。

 ちょうどアレスト領もハイブルクやセイレムといった大きなところとの交易が動き出し、そのおかげで他の領地ともそれなりに取り引きが始まっている。

 おかげで辺境伯の仕事が増大して、疲れていた自分にも渡りに船だった。侍女にもこれをきっかけに手籠めにしろと応援されているし。(注:殆どはアレスト家の事務官かエイブ子爵、ランドン男爵などのお爺ちゃん達が処理しています。十六歳のひよっこ当主はまだまだお荷物で、事務能力がチートのセルフィルを欲しがっているのはアレスト家の中間管理職の人達だったりします。ぶっちゃけ今のグリエダはサインをするぐらいがお仕事、あと武力)


「悲しいなぁ。私は婚約者なのに忘れていましたで片付けられるなんて」

「いや、だから話すと言っているじゃない、どうして書類を片付け始めるんです?」

「ん?邪魔だからさ」

「いえいえ、この時間からが頭が何考えているんだろう状態になって作業効率が上がるんですよ。ですから片付けないで、それは宰相と騎士団長に出す手紙の草案です。あれ?もしかするとコイツ裏切るんじゃね?と疑心暗鬼を乗り越えろっ!友情より利益の信用が重要だよ。と思い知らせる暇つぶしなんですよ」

「国の中枢に不和をもたらしてどうするつもりなんだい?」


 手に取った紙を見たらランドリク伯爵とアガタ公爵のサインの練習をした紙だった。

 あとで宰相と騎士団長とヘルミーナ様と王妃にセルフィルが危険な悪戯を仕掛けてくるから注意と手紙を出そう。


 書類を部屋の隅に追いやって、代わりにテーブルの上に乗せたのはショーギだ。


「これで勝ったら忘れていたことを聞こうか」

「いえですから、何もしなくても教えますよ」

「君が勝ったら教えてくれて、私が勝ったらそうだね。私と一緒に湯浴みでもしようか」

「えっ?」


 キョトンとするセルフィルは可愛いなぁ。

 何度かショーギで勝っているが、それがまだ手を抜かれているのはわかっている。

 敵である私に彼は弱いと嘘を吐いているのだ。


「はぁ、それでは僕になんの得もないですよ」

「私と一緒のお風呂は嫌なのかい?」

「そういうことは僕が成人してから言ってください」


 そう言いながらもセルフィルは駒を並べていく。

 止めるつもりも負けるつもりもないらしい。本気になってくれるのはいいが、そんなに嫌なのかなと少し寂しい気持ちになる。


「そうですね。今のままだとグリエダさんが勝ったら、僕はアレハンドロに下着を渡してでも全力で逃げますので、少し落として今晩寝るときに抱き枕に加えて腕枕を加えるということにしませんか?その代わりに」


 セルフィルはパチリと予備の王将を私の陣地に置いた。


「グリエダさんに玉をもう一つ献上します。良かったですねこれで負けにくくなりましたよ」

「へぇ…」


 私は遊びの勝ち負けにはこだわらないが、舐められるのにはイラっとする。

 その挑発に乗ってあげようじゃないか。


 ………

 ……

 …


 どうしてか今までで一番の惨敗になった。


「グリエダさんに嘘吐き(だまし)はまだまだですね。さて、教える間にいろんなところに送る手紙を書くので膝の上から下ろしてください。はぁ~、みんな王都のことは考えていても周辺へ出る悪影響は考えていないんだもんな。のじゃ姫がのじゃ女王に進化した時に困らないようにしないと」


 手のひらを上に向け目を伏せ息を吐くセルフィルにイラっとしたので、セルフィルを抱きかかえてベッドに潜り込み、抱き枕にして眠る。

 仕事が明日の自分に残る~、と声を上げる抱き枕の悲鳴は無視だ。

 寝不足になる自分の体に嘘を吐いてはいけないよ。




「もうすぐ十四歳の可憐な美少年に幼女預けてんじゃないっ!敵は誰だっ!?チャラ王子?芸術王女!?おバカな公爵伯爵っ!?いやっ!打ち倒すべきは王妃にヘルママっ!でも二人は超怖いので、宰相と騎士団長に王子王女に宰相をちょっとGS(ゴールデンスマッシュ)とゲイ・棒で軽めスマッフニュッ」


 翌朝、よく眠れたせいかセルフィルが少しおかしくなっていた。

 なので挟んで二度寝に誘う。

 そろそろ限界そうなのでヘルミーナ様辺りに相談でもしてみようか。

 一応、王都での母代わりをしてくれると言っていたし。

 モゴモゴしていたのが収まったので、徐々に思考を落としていった。


三徹ショタ「人ってやる気があると眠らなくてもいいように慣れるんですよ」

ドン引きダッシュ「は?」

解脱ショタ「そのうちダッシュ君もしますか、長兄達は五徹はいけますよ」


今回はショタが裏では頑張ってましたを書いていたんですが…、リア充死すべしっ!( ̄皿 ̄)


おかしいんです、字数的に二章はエピローグに入っている筈なのに、まだ半分くらいなんです(T_T)

後半になったら一気に終わらせる…、出来るかなぁ(;´д`)


ちょっとしたショタ解説

魔王様?

ショタ「前世でリアルハーレムを作っていた知人変人です。グリエダさんぐらいしか勝てません。メンバー増えたのかなぁ。正式名は報復の魔王様です。報復されたら人生詰みます」


次兄と姉は?

ショタ「弟の物は自分の物と考えている悪魔ですね。長兄?胃痛土下座でかばってくれる素晴らしい偉人です」


将棋どうして勝った?

ショタ「船頭が複数いたら山登りますから」


朝は?

ショタ「マシュマロ天国ってあるんですね~」


ご感想にはこんな感じでショタは答えてます。ダッシュ、長兄、宰相の被害は酷いですね(^^;そろそろロンブル翁も犠牲者にいれましょうか(^_^)


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【コミカライズ一巻も発売するよ!】 【ハイブルク家三男は小悪魔ショタです1~3巻、コミックス1巻絶賛発売中!】 表紙絵 表紙絵 表紙絵 表紙絵 表紙絵
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔王様…会社買収して雨乞いフィーバー2.14作らせてそうですね [一言] うぽつです!
[気になる点] >書いているとき、読み直してもわからないのはなんでしょうね?(;・ω・) お気持ち分かります。それは人間の脳が超絶素晴らしすぎるせい、だと聞いたことがあります。 電脳ならば二度目以降…
[一言] 覇王様ならドラゴン殺しくらい余裕で操れそうだな
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