大事な卵はゆで卵?
地味だけど、いないと話が進まない重要人物長兄だよ\(^o^)/
「ふ~む、なるほどなるほど」
「読んだら出ていけ」
「酷いっ!」
「王妃様と母上のギスギスした会話を聞きながらの仕事は私の胃に完全に穴を開けた、もう寝たい。三日ぐらい寝かせてくれ」
「…それは無理なのでは?」
なーんやかんやあって夜のハイブルク邸、長兄の執務室で密談中だ。
胃痛持ちの長兄に片栗粉でとろみをつけて保温時間をあげたお湯を入れた小さめの陶器を渡していた。
少しでもお兄ちゃんに胃を癒してほしい末っ子の優しさだ。味付けをしてあるので明日の朝のスープにもなるのは秘密である。
「王女はどうした?」
「侍女長に任せました。グリエダさんと離れるときだけ嫌がられましたが、その後はメイド三人が構い倒したので楽しそうにしておられましたね。着せ替え人形にされて喜んでいるのは女の子だからでしょう」
「着せ替え?…ああ、お前のか」
ハイブルク邸にはある身長までのドレスが色とりどり、大量にある。
ええ、ショタ用ですよ。
ママンズと姉におもちゃにされる美貌ですからね。
最初の頃に心のオッサンがパタリと倒れていたのが懐かしい。
今では下着一式女性用でも全然平気。
興奮はしないがべた褒めされると優越感はあるね。
今は変態メイド、アリー、セイト、カルナが作っているが、当時は公爵家の縫製係が縫ってくれていた。
…あれ?のじゃ姫が着ていたドレスは俺の六歳の頃の物じゃなくて、もっと上の歳の頃…忘れよう。
まあそれは横に置いておく。
「生意気そうな態度を取っていましたが、人をちゃんと見ている賢い子ではありましたね。護衛は最悪でしたけど、王女を守ろうとする意気込みはありました。意気込みだけで行動は最低以下ですが。名前を呼んで助けようとしていたぐらいですから、王女の方もある程度情があるくらいに仲は良いんでしょう」
「お前の判断は?」
「才が無かろうと女王にならないと、政治の道具にされる末路しかないでしょう」
俺の言葉に腹部に当てている湯の入った陶器を指で叩きながら、溜息を吐く長兄。
「もう少し早く私達の前に出してくれていれば…」
「味方が殆どいなかった王妃様には無理でしょう。むしろ今までよく害されないで生きていたものです」
リリアーヌ第二王女、王妃様の実子である彼女は生まれた時、いや産まれる前からその命を狙われている。
政略よりも愛を取った愚王は確かに愛に生きていた。
調査により明らかになった情報によれば、愚王が側妃以外で関係を持った女性はたった一人。
それすらも周囲に言われて嫌々ながらだったと記録されている。
ともあれ、十数年も放置され、道具として扱われたが、それでも王妃様は大切な卵を手に入れた。
だけど大事な大事な卵は産まれる前から狙われていて、孵るまで傍にいることさえできなかった。王妃様の力が及ぶ数少ない場所である安全な鳥籠に入れることしかできなかったのだ。
それが王女を護衛していた兜半裸のジェロイがいるヒラリス子爵家だ。
子爵の母親が王妃との縁で匿ったらしい。
高位貴族の公爵二家でさえも知らない場所に王女を隠した手腕は見事と言う他ない。
そのような経緯をグリエダさんは超大雑把に、ミートソーススパゲッティを食べながら教えてくれた。
実際に言ったのは第二王女が護衛の家で暮らしている、ぐらいだったけど。
ヘルママも王妃様もそうだけど、人を預けるのなら履歴書ぐらい書いて見せてほしい。
報連相を密にしないと下は苦労するんですよ!
そりゃあある程度の察しは付いた。王女のはずなのに中級貴族が着るようなシンプルなドレスを着ているし、一人しか護衛がいないし。その護衛の装備は軽装の鎧で、護るより攻めるに適したものだった。従者の役にもなっていない。
のじゃのじゃ上からマウントを取ろうとしていたけど、すぐにヘタレて、とてもじゃないが人を下に見ることができるようなタイプでもないと判断した。
からかっていたのはそういうのを見るためだった。
だいたいは予想できた範疇で、逆に少し驚いたのは否めない。
決して途中から面白くなっていたとかはない。王妃様からの全権委任状がなかったらしなかったし。
「女王にするのは無理か…」
「周囲が適切に動けば大丈夫でしょう。セイレム公爵が当主の座を跡取りに譲って国政に本腰を入れて、宰相、騎士団長、内政と外交の大臣がそれなりに働いて、長兄があと二十年ぐらい頑張れば?」
「なぜ私だけ負担が多いんだ?」
「後継者が出来て成長するまで余裕を見るとそんなものでしょう」
公爵になんかなるんじゃなかったと唸る長兄。
あなたは嫌々ながらも人の為に動こうとする人ですから、ならない方が無理だと思いますよ。
長兄が最終的には仕方ないで決着する無駄な自問自答している間に少しこれまでの経緯をまとめようと思う。
まず愚王をヒャッハーした。
…なんだろう変な電波でも受信したかな?
まあ、愚王が国を崩壊させる三秒前に止めて、ついでに国の膿を絞り出そうしているのが今の状況である。
愚王と側妃を再起不能にしても、その下についていた派閥の貴族たちはまだまだ元気だ。
貴族の権限を表すピアスを王妃様が握っているけど、ピアスは所詮はピアスでしかない。物理的な抑止力になるわけではないのだから、追い詰められたら反乱ぐらいは起こすだろう。
俺が愚王を追い詰めるときに大人しかったのは、単純に覇王であらせられるグリエダさんがその場にいてくれたからだ。
だが、喉元過ぎれば熱さを忘れ、命の危機がすぐ近くに無ければ動き出すのが人である。
そして王妃様は敢えてそれを早くに起こさせるように行動していた。
その身を犠牲にして。
手にした代行のピアスを使って少し譲歩してやれば王妃派派閥の出来上がりなのに、ガッツリ不正を暴いて断罪した。
今ならわかるよ。
たぶん、自分に全ての恨みを向けさせて反乱を起こさせ、ハイブルク家、セイレム家、そしてグリエダさんのアレスト家にでも鎮圧させるつもりだったのだろう。
そして愚王寄りの貴族、愚王と側妃、そして王家の血筋である第二王子と第一王女に責任を取らせて、自分も強引な断罪をした責任を取って処罰されるつもりだったのだろう。
残る王家の血を自分の娘だけにして。
ハイブルクには前王弟殿下がいるが、あの人は他の王家の血が滅びない限り担がれるつもりはないと宣言しているし。なにせ伴侶になるのが我が姉ルデガルド=ハイブルグ、自分の旦那が王になった日には世界征服に乗り出しかねない人なので、王弟が担ぎ出されることはハイブルクが全力拒否します。
ここまでは俺や長兄を含め、今の国の上層部は気づいていたことだ。
そして誰も止めなかった。
前王が愚王の為に残した楽園の呪いは俺が愚王のアレごと潰したので、自由になった宰相達は貴族として動く。
ハイブルクは自分達に不利益にならなければ善性に近い貴族だし、セイレム公爵なんて王妃様にメンツを保たせてもらった恩がある。
娘がお飾りの女王になっても、王家の女としては幸せを得られる可能性が出来たのだ。
それをハイブルクの女帝、ヘルミーナ様がぶっ壊した。
大事に大事に鳥籠に入れて守り育て、少し大きめの新しい鳥籠を作って移そうとしていたら、容赦なくどちらの鳥籠も破壊された。
そして、リリアーヌ第二王女と本人が宣言してしまったせいで学園まで安全な場所ではなくなった。絶賛愚王派の貴族に殺害対象ロックオンされまくりな、のじゃ姫だ。
愚王派からすれば第二王子、第一王女が王位につけば返り咲く可能性は無きにしも非ずだが、のじゃ姫がつけばゼロになる。今はその瀬戸際なのだ。
まとめ終わり。
「母上はいったい何をしたいのやら」
「言っておきますが、今回は僕が一番の被害者ですからね」
長兄と二人でため息を吐いた。
ハイブルクに益をもたらすのなら王妃様を放置していた方がよかったのだ。そうすれば俺が断罪に手を貸していた事実も影に隠れたのに。俺の手もとにのじゃ姫がやって来たことで、俺の動きも愚王派に調べられ、愚王派内に知れ渡ることになるだろう。
危険に晒されるというほどではないが、面倒くさいことになることは間違いない。
ヘルママの手はいくつも裏がありすぎて予想がつかない。
いくつもの手の中のいくつかが潰されたとしても、一つでも残り、成功すれば益を上げるのが彼女なのである。
「まあ、母上が来てくれたおかげで城の方の大部分を任せられることになったことには感謝しているが」
治世の能臣タイプの長兄には今の混乱した状況はかなりの負担だった。
いくら優秀でもまだ若い。本来ならばまだまだ経験を積んでいる途上と言える年齢なのだ。国政に関与し、同時に公爵家を運営するのは無理があり過ぎる。
だから俺が王城に出向いたのだが、決定権が殆ど無い公爵家の末っ子なので負担をあまり減らすことは出来なかった。(宰相弄りは暇つぶし)
だが、前公爵代行をしていたヘルママであれば、現公爵である長兄の代わりになれるのだ。
まあ、宰相やセイレム公爵にはご愁傷様と言っておこう。容赦の無さは俺の2倍(当家比)だ。
「で、ハイブルク家の方針はどうするんですか?」
「…現時点では第二王子だな。女遊びはあるがそれだけだ。第一王女は芸術かぶれで何をしでかすかわからん」
俺の言葉に少し考えて、長兄はハイブルク家当主として冷静な判断を下した。
「あらら、リリアーヌ王女は見捨てられましたか」
「母上の考えはわからん。わからないから当主として判断する」
神輿にするのは軽いものが楽だが、風が吹けば飛んでいく程の軽さのものはいらないということだ。
愚王派閥という汚泥を取り込んででも国の安定化を図る道を長兄は選んだ。
長兄は決して非情な人ではない。
クソ真面目で、兄弟想いで、家臣想いの普通の人だ。
のじゃ姫にも同情している。王妃にも、貴族に振り回される国民にも同情している情が深い人だ。
だがハイブルク公爵という立場を間違える人ではない。
全の為に一を見捨てることができ、心中で悔やむことができる戴くに値する人なのだ。
「お前はどうする?」
「ん~、まあヘルママに頼まれましたから、しばらくは子守りをしてみますよ」
ほら、眉根を寄せたらダメですって。心配しているのが丸わかりですよ。
そうですよね。のじゃ姫と一緒にいる俺は暗殺されるかもしれないですもんね。
ふ、末っ子は愛されていて嬉しいですよっ!
「頼むから私の胃に穴を開けるような大事にはしないでくれ。ようやくセイレム公爵から離れられる機会ができて治りそうなんだ」
「いやいや、弟の心配よりも胃痛の心配が上ですかっ!?」
「何を言っている。他にもあるぞ」
「ええそうですよね。ちょっとしたお茶目な冗句で」
「ようやくアリシアと二人きりですごすことができる。ひと月は問題事は起こすな」
「酷いっ!国の大問題に弟が命の危機なのに自分は婚約者とイチャイチャですか!」
え、さっき長兄のことを格好良く思っていたのよっ!
シリアス思考を返してっ!ショタのシリアスは笑いを蓄積して発揮されるの。だから暫くシリアスさんはご休憩だ。
「お前は二十五で相手の父親が常時同伴する地獄を味わったことがあるか…」
「…ユックリタノシンデクダサイ」
なんだその地獄は。
しょうがないな、長兄の為に大人しくしておこう。
でも長兄の良心を痛めないように、卵ののじゃ姫育成でもしてみようか。
ヘルママのお願いもあるし、何もしなかったら数日は夢見が悪くなりそうだしね。
こう見えて前世の幼少期に卵を孵そうとしたことがあるのだ。
翌朝には行方不明になり、数年後の引っ越しの際に押し入れからもの凄い色になった卵が見つかったけど。
だから身をもって温めるのは駄目。
お湯にでも浸けとけばいいのかな?
あ~、ゆで卵が食べたくなってきたよ。
グリエダさんは覇王様だから固ゆでかな。
ショタ「ふむふむ、長兄の為に頑張りましょうかっ!」
長兄「頑張るな頑張るな。見捨てていいから」
長兄がいると話をまとめられるから筆者には必須キャラです( ´∀`)
でも、そろそろ彼には癒しをあげないと静かに涙を流しながら土下座されそうなので、お城から脱出させました。
寂しがる義父、妬む宰相達。長兄は人気者だなぁ、ショタは嫌がられるのに(;・ω・)
ヘルママのせいでのじゃ姫は幸せになれるのか(;´∀`)
運命はショタの手に!\(^o^)/
だ・れ・をざまぁしようかな~♪
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