追い詰められる魔法使い
はいおかわり一丁!(´▽`)ノ
チェルシーは泣いたあと、糸が切れたように放心状態になった。
長期間抑圧されていた感情が爆発して魂が抜けたのだろう。
俺はまだまだお仕事があるので副会長に任せる。
「この子は才能があるのですか」
「あー、僕が知っている有名な魔法使いを遥かに超える才を持っていると思いますよ」
こらこら淑女がジュルリと涎を垂らすな。強制は才を潰すから駄目です。
まったく魔法狂いはどいつも同じ反応をするから困る。
「お待たせしました。デコル会長」
「……ふん、早く解放しろ。これ以上魔法協会を怒らせるつもりか」
手を痛めつけられ、刀の切っ先を喉元に突きつけられているのにデコルは自分が上だという態度を取った。
「怒らせるとは?」
「ふざけるなっ! まさかこの惨状を作っておいて報復されないと思っているのか。まずはお前の家に派遣している魔法使いを引き上げさせてやる。魔法使いを雇えなくなった者がどれだけ爪弾きされるか知っているか? 関わって同類と私に思われて同じように派遣されなくなったら困ると、お前の家との交流に物流全てを断つのだ」
「うわぁ、そんなことされたら生きていけませんね」
「そうだろうが」
人が人の中で生きている限り他人との交流は必須だ。領地持ちの貴族なんか近隣の貴族に物流を止められるだけで、様々な支障が領地運営に出てくる。
デコルは魔法使いというわかりやすい力を、貸す貸さないでそれを出来ると言っている。
まるで店からみかじめ料を取ってバックには自分たちが付いているんだぞ言っているヤクザのようだ。みかじめ料を払えなかったら、不快にされたら脅しを掛けてくるところまでそっくり。
「いいですよ。引き上げさせてください」
「は?」
でもそれは借りる相手が貸す自分より弱者だった場合だ。
「物流ですか。ハイブルク公爵領の近隣の貴族たちは止めたら困るでしょうね。ほとんどが公爵領からの物資に頼って領地を維持できてますから、魔法協会の言いなりになるのか公爵家との縁を保つのか。どっちを取るのか楽しみですね」
デコルは言われている意味が理解不能な顔をしている
甘い甘すぎるぞデコルよ。
お前が今相手にしているのは俺と家族が作り上げたハイブルク公爵家だぞ。とうの昔に周辺近隣の物流なぞ全て握っておるわ!
「なので遠慮せずにハイブルク家に派遣されている魔法使いを引き上げてください。あ、でも困ったな」
「は、はは、そうだろう魔法使いを引き上げるのは困るだろう」
俺が困った感を出したから、ちょっと息を吹き返すデコル。いや引き上げろと言っただろ話をちゃんと聞けよ。
「いえいえ、もういない彼らを引き上げさせるのは無理かなって」
「もういない?」
「ええ、領内で横暴の限りを尽くされていたので、公爵領の法に従って僕が処罰を下しました」
かつてハイブルク公爵領にも協会産の魔法使いはいた。
そしてチェルシーの人生を壊した炎獄の魔法使いサルマーンのように、領民、村の略奪を当然のように行っていたのである。
だから、民の上に立つ貴族の一員として討伐させてもらった。
大半は異世界チートの一つ硝石を作るための実験の為に土の中に埋まってもらった。失敗したけど。
「……ハイブルク公爵領の支部からは協会に金は振り込まれていたはずだ」
「貴方のようなひとが騒ぎ立てると考えまして、公爵家が振り込んでいただけです」
すぐにバレると思ってたけど、金さえ手に入れば現場のことは知りませんとばかりに放置されて、当時長兄たちと終わってるな魔法協会と話したものだ。
「そんなことをしてただで済むと思っているのかっ!」
デコルが吠える。
「まあまあ落ち着いてください。僕を責めても起きたことは変わりませんし、それよりもこれからの自分たちの心配をなされた方がいいと思いますよ」
「? 何を言っている」
組織の会長にまで上り詰めたのにデコルは察しが良くない。権力欲に取り憑かれると傲慢になって周囲がどんな状況になっているのか把握できなくなるのだろうか。
「ここに来る前に聞いたのですがデコル会長、貴方は国家への反逆罪に問われてます」
「…………はぁ?」
今までで一番溜めを作ってのはぁ? だった。
俺もよくわかんないの。
長兄が
「いえ、王妃様付きのメイドの部屋からチェルシーさんを拉致しただけでも十分エルセレウム王家に対しての反逆の意思があると思われて当然なのですが、何か変な契約書に署名しました?」
俺のデコルへの対策はこれだった。
なのに城を出発する前に長兄からデコルを国家反逆罪に問うから好きにしていいと言われたのだ。
長兄は長兄で動いていたらしい。
「マルティナあああぁぁああっ!」
何かに気づいたらしいデコルは俺の背後にいる副会長の名を叫んだ。
振り向くとニッコリ蛇のような笑顔の副会長さん。
「安心してください。署名はデコル様の名だけ、魔法協会は最小限の傷で残りますわ」
ヤバいです副会長。どうして俺の周囲にはヤバい女性が多いのだろう。
「殺す殺してやるっ!」
刃を突きつけられているのにデコルは副会長を襲おうと動くから少し切れて血が流れた。
危ないのでロンブル翁に弾をデコルの脚に打ち込んでもらって止める。
「というわけで、僕は魔法協会会長の貴方に、国が犯罪者と決定したのを伝える為にここにやって来たんです」
お馬鹿なデコルは何でも思い通りになると信じていた。今までもかなりの回数魔法使いの引き上げをチラつかせて要求を飲ませてきたと王妃様に教えてもらった。
「今は国の立て直しの最中ですから見逃してはくれなかったみたいですよ」
仏の顔も三度までと言うが、仏も機嫌が悪い時に嫌いな奴なら二度目で殴るだろう。俺なら一度目でマウントを取ってボコボコだ。
「ふ、ふははははっ!」
視線で副会長を殺そうとしていたデコルがいきなり笑い始めた。
「このデコルを魔法協会会長の自分を国如きが犯罪者扱いだとっ! ふざけるな!」
「ふざけてないんですけどね」
普通はありえない国さえも己より下とみなす無知の傲慢、デコルにはお似合いの言葉だ。
だからわからせるために俺が適任だった。
さて、揺り籠の中で厨二病をこじらせた魔法使いに現実を見せつけようか。
悪魔ショタ「愚か者が坂を転がっていくのは楽しいなぁ」
ダッシュ「ヤバい近寄らないようにしよ」
転げ落ちるデコル、残るっている手札は魔法協会と魔法使いだけ。
武器の貯蔵は十分か、え?二つだけ?(´・ω・`)









