貴女はヒロインではない
本日二投稿目。
ルビ付けるのを止めたら執筆速度が上がりました(・ω・)
「……っ! これは私のものだっ!」
チェルシーを取られると思ったのか、復活するデコル。
でも今はお前のターンではない。
「ロンブル翁、エイプ子爵、邪魔だから黙らせてください」
「ぎゃっ!」
俺の命令に即座に行動するジジイたち。
ロンブル翁はチェルシーの手枷に繋がった鎖を持つデコルの手に弾丸を打ち込む。貫通まではしてないようだが、痛みでデコルは鎖から手を離した。
痛む手を庇うデコルの喉元にエイプ子爵の白銀の刃がスッと添えられた。
うむ。出来るジジイは格好いいな。
これで邪魔者は動けないのでゆっくり話し合える。
グレイショタから解放されて元の美ショタに戻り、話し合う相手チェルシーの近くに寄った。
「やあチェルシーさん」
「……」
声を掛けるとのろのろと俺の方を見るチェルシー。
今の彼女はボロボロとしか表せなかった。
服はボロボロ、足跡が付いているから蹴られたのだろう。髪はボサボサ、頬は赤く腫れていて口の端から血が流れた跡があった。
「奴隷として扱われたとしても酷いですね。鉄枷なんて罪人にするものなんですよ」
何も返事はない。
それはそうだ。
おそらく彼女にちゃんと尋ねても返事は返ってこないだろう。それくらい精神を追い込まれている絶望した目をしているからだ。
でもおそらく彼女の心に響く言葉を俺は知っている。
前世で周囲も自分もなった状態だからだ。
「ところでお聞きしたいのですが、どうして自殺をしようとしたんですか」
チェルシーは現代日本で年々多くなっているうつ病にかかっている。それも重度のだ。
心のオッサンも鬱になったことはあるのである程度わかってやれるが、自分の傍にいた人たちを殺され、その殺した奴の奴隷になるなんて仕事と人間関係で追い詰められるよりキツい人生を送っていると思う。
だから言ってはいけない言葉を、聞いてはいけない言葉をあえて聞いた。
それぐらいしかこの世界に殆ど絶望した人に響くことはないのだ。
少しだけチェルシーの目の焦点が定まる。
ようやく俺を認識してくれたようだ。
「……死にたかったんです」
チェルシーはぽつりと抑揚のない声を出した
「そうなんですね。僕は貴方の魔法を前みたいに使用するとドカーンとなって巻き込まれて死んじゃうと言ったのを覚えてたんですね」
ドアが開いた時にデコルがチェルシーの魔法を試そうとしていて驚いたよ。
熱魔法と仮で名付けたチェルシーの魔法は、何度試しても爆発していた。たいていの事はこなせるウチのメイドのカルナが匙を投げたぐらいだ。
「はい……。会長がアレと同じ火の魔法を使うと知ってましたので、あの時みたいになれば死ねると思ったんです」
「確かに、熱では貴方は死なないですけどドカーンでは死にますからね」
あの時とは第二王子の反乱の最後の大爆発のことだろう。熱魔法で火傷は防げても爆破の威力は防げず死ぬつもりなのだ。
……セェェエエフッ! あんな馬火力を広いといっても室内で発動されたら俺たちも消し炭爆散していたところだった。お楽しみで浮かれてしまって、危うく死ぬところだったよ。
「それに……」
「それに?」
チェルシーが口淀んだ。
「もうここを道連れにしたら魔法も無くなって、皆に会えるかなと考えたんです」
「……」
皆とは家族や住んでいた村の人たちのことだろう。
予想以上にチェルシーさんの心は砕けていたみたい。
「チェルシーさん」
「はい」
「はっきり言うと僕は貴女に絶対に生きていてほしいとは思っていません」
「はい」
大半の人は彼女に生きていてほしいと思うだろう。俺にもある。けれど住んでいる村も家族もおらず、天が与えたもうた魔法の才能は地獄の中で生きさせてきた。もう手遅れなのである。
前向きに生きていれば良い事があるさ! と無責任主人公みたいに言えない。
俺も大半の人と同じように彼女の未来に責任は持たずに同情して終わりだ。
「だけど君には恩が出来たから少しだけ生きる希望を与えたのです」
「?」
うつ病はなってみないとわからない。たぶんここまでの会話も彼女はろくに記憶もしていない。常に死に関係することが脳内をよぎり、自分が今何をしているのかもよくわかっていないのだ。
「貴女は城から連れて行かれる時に、マトモハリー嬢を懇願して助けてくれましたね。その恩返しをしたい僕の我が儘を聞いてもらえますか」
チェルシーは王城から連行された時に、食事を持ち帰ってきたマトモハリーと出くわしてしまった。
俺はある付加価値を彼女に付ける為にマトモハリーと同室にした。だけど、チェルシーは攫われるからマトモハリーには手を出さずにおけと命令していた。
しかし、マトモハリーはチェルシーが連れ去られるのを阻止しようと動いた。
トレイを投げつけ怯んだ隙に手を掴み逃げようしたらしい。
だが相手は騎士、腕を振り回して阻止した。腕が当たって壁まで吹き飛ばされたマトモハリーは身動きが取れなくなり、激怒した騎士は剣を抜いてしまった。
切られると覚悟したマトモハリー。しかし、剣は振り下ろされなかった。
チェルシーが平伏してマトモハリーの助命を求めたのだ。
その言葉は支離滅裂でただマトモハリーを助けて欲しい、それだけはわかったらしい。
『私はチェルシーさんに助けられました。任された仕事を遂行しなかった自覚もあります。自分が身勝手なことを言っているのもわかっています。それでも出来るなら彼女を救っていただけませんでしょうか』
痛む身体を引き摺ってマトモハリーは俺に報告と懇願をしてきたのである。
マトモハリーが任務放棄したのは任せた俺の責任だ。だから彼女を助けてくれたチェルシーに恩を返さないといけない。
チェルシーは首を傾げる。
「私は御貴族様に恩返しをされるようなことはしていません」
拒否ではない。彼女は本当にそう思っている目をしていた。
「貴女がわかっていなくても別にいいんです。御貴族様の気まぐれです」
どうにか生きていけるいくつかの解決案を持っていたけれど、チェルシーと会ってほぼ廃案になった。生きる糧がない人にはどれも通用しなさそうだからだ。
「……もう放っておいてくれませんでしょうか」
クシャリとチェルシーの顔が歪んだ。
「私は疲れました。もう死にたいんです。助けて欲しくないんです」
「いやです」
死こそが救いのチェルシーの望みを拒否する。
「貴女は自殺に失敗しました。王城で保護されます。迷惑のかからないところでなら死んでもいいですよ」
王城にいた時はマトモハリーと喋れるぐらいにはなった。のじゃ姫の我が儘に付き合うぐらいはした。自分もいっぱいいっぱいなのに人を助けようとした。
どれだけ壊されようとも人に八つ当たりも出来ないほど彼女の根は優しい子だったのだ。
だからそれを利用する。
「だから僕が出す一つの案です。貴女の故郷のことを教えてください。絶対に見つけ出してあげます」
「故……郷?」
チェルシーは呆然と、初めて聞いたように言葉を紡ぐ。
「そうです。チェルシーさん、貴女を貴女の故郷だった村に送り出してあげます。それが僕の恩返しです」
誰かがいれば彼女の心の支えになっただろう。でも彼女には誰もいないのだ。そして新しく誰も支えにはなれなかった。
「御両親をお兄さんを妹さんを友達を村の人たちを弔うことが出来るのは、彼らを知っている貴女だけです」
「あ……」
現世に未練になるものが無いのなら死者を使い延命する。
「そして弔ったら一緒に死んであげてください」
でもそれだけだ。
「あああああああーっ!」
チェルシーは鉄枷が嵌った腕を伸ばしてくる。
俺は抵抗せず服を掴ませた。
感情が発露するときは何かに縋りつきたいのだ。
「ああああーっ!」
感情の無い顔でもない、請い願うツラいクシャッとした顔でもない。
「ああああああああーっ!」
魔法の才能も無い、奴隷でも無い、ただの村娘のチェルシーに戻って彼女は泣いた。
疲労困憊ショタ「疲れた~」
ダッシュ「でも解決するのはもう一つあります」
ショタ「ダッシュ君に任せようかな」
ダッシュ「っ!?」
チェルシーのこの結末は、この章を書くときから決めてました。いくら魔法の才があろうとも、奴隷になったとしても、彼女は村娘であって主人公に助けられて幸せになるヒロインではないのです。
だから物語の都合のいいキャラクターではなく一人の人として書きました。彼女の意思を変えれる人はいません。それこそ神でもなければ…(´・ω・`)ニヤリ
さあ、魔緑色の筆者の脳はノリノリです!このまま執筆続行だっ!(o゜▽゜)o









