魔法の神様
なぜか前の回に続けみたいなサブタイになっていますが偶然です(^_^;)
チェルシーが攫われた。
その報告を受けて、俺はすぐに動く。
といっても予想より数日早かったので準備が整わず、トップの王妃様から宰相たちからの許可を取るのに時間がかかった。
いや事前にこちらがどう行動するかは伝えてあったんだけど、どっかの貴族が先走りしたせいで今後の予定がズレまくりで、全員から愚痴を頂くはめになる。
宰相に潰せるなら潰してくれと初めて爽やかな笑顔を向けられて鳥肌ものだった。
あとはある物を取りにハイブルク邸に寄ったので更に遅くなってしまった。
「う~ん、魔法協会を潰したらその後の処理も責任を持ってしろっていうのは酷いと思いませんか?」
「儂からすればセルフィル様にそれが出来ると思っている国の上層部に引くわ~」
ロンブル翁がうわぁと嫌そうな顔をする。
普通そうだよねー。僕十四歳、心にオッサンを飼う外見ショタに、国を脅迫するような組織の解体後の後始末までさせようなんてなんて酷い国なんだろうか。長兄とヘルママに面倒だからするなと言われてなければ、百八(嘘)ある国盗り方法を実行しようと考えたほどだ。
「アレストとしてもこれ以上セルフィル様が多忙になるのは困りますな」
「ですよね!」
「ウチの姫様の機嫌がもの凄く悪くなりそうなので」
「ですよね……」
もう一人の爺、エイプ子爵がエルセレウム王国魔法協会を解体する一番のデメリットを教えてくれた。
「では解体は無しで国に都合が良い人物をトップに据えるぐらいにしましょう」
うん、婚約者とのラブコメ学園生活と機嫌が最優先である。
俺たち三人がどこにいるかというと、魔法協会に向かう馬車の中だ。
ロンブル翁は腰に付けた革製のポーチの中に手を入れジャラジャラ音を鳴らし、エイプ子爵は俺がプレゼントした刀の柄の握り具合を試していて。
俺はロンブル翁と同じようなポーチを付け、ちょっとしたブツをしっかりと握って落下させて破損しないようにしていた。
なるべく使いたくない対魔法使い専用兵器は、知っているロンブル翁だけでなく教えたエイプ子爵も持つのは拒否された。
「育毛剤で魔法協会を裏切ったトーチョーを会長に就けましょうか」
「いつも思うがセルフィル様は人の弱みを見つけるのが上手いよな」
「人の嫌がる事を進んでしなさいと親友に教わったのです」
「最悪なご友人ですな」
そんな軽い雑談をしているうちに魔法協会施設の前に到着する。
「……扉の前に人がいるそうです」
御者に呼ばれ話したエイプ子爵が教えてくれた。
「さすがに時間がなかったので何も工作行為はしていませんよ」
ロンブル翁が視線で何かした? と聞いてきたので否定した。時間が無さ過ぎて魔法協会側に工作を働きかける暇も出来なかった。
おでこの草原が年々広がっているトーチョーに育毛剤で寝返らせて協会の建物に侵入しようとしてたのも無理になったぐらいである。
御者にその人物が敵対姿勢でいるか聞いてもらうと、そうではないらしい。こちらの馬車に気づいてから蹲ったらしい。
よくわからないので降車する。
刀を腰に佩いたエイプ子爵が確認の為に先に降りる。安全なら次はロンブル翁、そして俺。
「えぇー」
「え、どうしたんです?」
「おそらく大丈夫ですが、一応気を付けて降りてきてください」
エイプ子爵が困惑の声を上げて安全だと言ってきた。
意味がわからないので、ロンブル翁を降車させると。
「うわマジィ?」
二人目のジジイも降車の途中でドン引きの声を上げた。
「ちょ、僕にも見せてください」
気ーにーなーるぅー。
ロンブル翁の背を押して外に出る。
「うわぁ」
そして見えた光景に俺も声が出てしまった。
魔法協会の建物の扉の前に一人の女性がいた。
土下座の姿勢で。
「えーと何をしているのですか副会長さん」
女性は魔法協会副会長やけにスリット深め蜘蛛柄白タイツ装備さんだった。
名前? とっくの昔に忘れたわっ! 特徴的でもない限り一度くらいでカタカナ名前を心が日本のオッサンが覚えられると思うなよっ!
「魔法の神たる方の歓迎を身体で表しております」
「「「うわぁ」」」
一同ドン引き。
そしてもう一台連れてきた馬車から降りて来たスナオ君が状況がわからず困惑して、ダッシュ君は『あ、セルフィル様案件ですね』と言って馬車に戻ろうとしていた。
「その(中二病な)名で僕を呼ぶということは味方と信じて構わないのですね」
「その通りでございます魔法の神。先日はデコルと無知な魔法使いの前で傲慢な態度を取らざるをえず、誠に申し訳ございませんでした」
「ああぁ、額を地面に擦り付けないでっ! 信じる信じますからっ!」
大の大人の女性がゴリゴリ地面でおでこを削られたら信じるしかない。
「……よく理解できないのですが。説明していただいても?」
エイプ子爵が恐る恐る聞いてきた。ショタに土下座をする成人女性、ドン引くよね。
スナオ君にダッシュ君の引きずり下ろすのを指示して説明する。
ロンブル翁は理解できたので、落ち着いてスリットの奥を覗き込もうとしてやがる。後で侍女長にチクるからなっ!
「そのですね。エイプ子爵はご存じでしょうが、僕の下にいる三人メイドが無詠唱で魔法を使用出来ます」
「ええ」
「それを出来るようにしたのは僕なんですが、その当時は少し調子に乗りやすく浅はかでして、他の成果とまとめて論文にして魔法協会や著名な魔法使いに送ってしまったんです」
「……」
おでこに指を当てて悩むエイプ子爵。
今ならわかる。あれは異世界お約束奥義【僕何かやっちゃいました】だった。
「その殆どは悪ふざけ、根拠がない、魔法という至高のものを貶める悪魔の文書とか返事が返ってきたので止めたのですが。いくつかは素直に受け取って実力を伸ばして人生バラ色になった人たちもいたんです。で、その人たちが僕の事を」
「魔法の神と崇めたと」
「そうです」
「何も進展しなかった魔法を数段飛ばしで引き上げた御方が神でなくて何だと言うのですかっ!」
頭を上げて会話に入ってきた蜘蛛柄白タイツ副……、長いから副会長の目は瞳孔が開いてまさに狂信者。引くなD&S。胸元を覗くな石投げ爺。
「まあその話は置いといて、これからデコルをちょっと折檻しに行くのですが案内してもらえますか」
「はいっ! わかりました魔法の神っ!」
「……できればその呼び方は止めてもらえないでしょうか」
「無理ですっ!」
無理? ならいちいち語尾みたいに付けなくていいから。自称魔眼や左手疼くよりダメージがあるの。
しかし、デコルを倒したら出てくる二流のボスだと想像してたのに、まさかのこちら側に付く狂信者とは……。
副会長の後を俺たちはついて行く。
ツラい。成人した女性のスカートのスリットを全開まで広げてスキップする姿がツラすぎる。
ダッシュ君とスナオ君は見てはいけないけど見たいお年頃だからしょうがないけど、俺やエイプ子爵のようなオッサンより上の精神にはツラすぎる。そして覗こうと頭を下げるな石爺。
歩いている間に副会長のことを聞いたら、どうやらハイブルク公爵家の寄子の家の者だった。兄の子爵にチェルシーの生存確認をお願いしたら今回の流れが出来てしまったらしい。
「そのお兄さんの計画に貴女は乗ったのですね」
「そうです」
「エルセレウム王国魔法協会が破滅に向かうのにですか」
「魔法使いは魔法を追究し続ける存在と私は信じております。醜い権力争いに明け暮れる者など一度滅んだ方がいいのです」
どうやら副会長さんは魔法一筋バカだったようだ。
「そういえば奴隷のチェルシーが先に来たはずですがどうなっています?」
「ああ、あの奴隷ですか。着いたのを確認して、人に任せてデコルのもとに連れて行かせました」
魔法の神をお迎えするのにデコルから離れる理由を作ってくれたので感謝はしてます、と付け加えられる。
副会長は増幅魔法には興味が無いらしい。
所詮世の中他人事、同情ぐらいの感情は動いても殆どの人は助けに動いてはくれないのだ。
そうしているうちに他よりサイズが大きい扉の前に着く。
「ここにデコルがいます。十名のデコルの側近の魔法使いも控えています」
「案内ありがとうございます。ここからは僕たち三人で対処しますので後ろにいてください」
自分も手伝いましょうかという視線を貰ったけれど、ショタとジジイ二人で十分過ぎるし、現状の魔法使いに自分たちがどれだけ守られた惨めな存在なのかを、その身で受けてもらうつもりだ。
「ダッシュ君とスナオ君、傲慢で見下す相手を間違えた者の末路をちゃんと見ていてくださいね」
「地獄の事務処理から連れ出されて地獄を見るのかぁ……」
「俺はヘルミーナ様の傍で仕えて、お茶会で女性陣に品定めされるよりマシかも」
【統合中枢詰め込み部屋】で仕事をしていたダッシュ君と、何故かヘルママのおもちゃになっていたスナオ君を連れ出したのは、聞いたり文字で読んだりするよりも直接見た方が人生経験になると考えてだ。決してどんな反応をするのワクワクしたからではない。
ジジイ二人が扉を開けていく。
さて催し物はなんだろうな。
トラウマショタ「痛たたたっ!厨二病二つ名は痛すぎる!」
石爺「とくに人に付けられるとなぁ」
エルフジジイ「狐みたいと言われるのも地味にトゲが刺さりますね」
過去は消えない。とくに今見ると痛すぎるのは!(>_<)
どうも心のオッサンと同じ死に方を大学生の頃に経験した筆者です(≧∀≦)
いやぁその頃の友達が気づかなかったら、今この物語を書いていませんね。感謝~(-人-)
さてクライマックスまで来ました(^^)
デコルは最強のショタに勝てるのか。
次々回デコル(の毛根)死すっ!蹂躙戦ファイッ!(o゜▽゜)o









