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愚か者は踊らされ

ようやくシリアスが戻ってきはじめたぜ!(*´∀`*)ノ

そして次回にはコメディーがターンバックしてくるんだよな~(´・ω・`)

 

 王城の一室。


「確かに連れて行ったのだな?」

「はい。騎士である我が息子が成し遂げました!」


 ある男爵が報告すると、おおっ! と周囲が歓声を上がる。


「これで魔法協会は我らに付くのだな」

「やはり国の為を想って(いと)われても忠言を言い続けてきた我らに正しき道は合現れるのだ!」

「確かにこの国難を(ただ)せるのは正道を歩み、これからも進む我らしかいない!」

「そうだこれから正道派と名乗らぬか」

「それはいいな! これから我らは正道派だっ!」


 彼らは追い込まれたと不安になった時から今の部屋から殆ど出ていなかった。

 表向きは奴隷の確保に自分が動く必要はないとしていたが、先陣を切って動き出すのに怯えていたのが実状であった。

 チェルシーを捕獲した貴族は周囲より考えなしで、功績を得ようと先走っただけである。


 だが、その捕獲の成功で彼らは沸き立った。

 全てが上手くいっていると思っているので調子のいい事を言いまくる。


「迅速な手際、お見事でございます」


 その中の一人、ケクラン子爵が手を叩きながら結果を出した男爵を褒め称える。


「ふん。貴公が手をこまねいているようだったのでな。優秀な我が息子を動かしたのだ」


 チェルシーを確保したと報告した男爵はケクラン子爵を下に見るように言った。

 彼らは同類であって仲間ではない。寄り集まって貴族の粗を探したり、不平不満を言い合うだけの烏合の衆でしかなくて、隙あらばお互いの足も引っ張り合った。

 すべての準備を整えたケクラン子爵を他の貴族たちは妬んでいたのだ。


「いえいえ、おかげで計画を早めることが出来たので助かりました」


 だがケクラン子爵はあっさりとスルーする。


「待て。早めるとはどういうことだ」


 嘲笑されたとカッとなる男爵を止めたのは集まった貴族の中で一番上の伯爵だ。


「言葉の通りですよ。数日経って気が緩んだのを見計らって穏便に攫おうとしていたのに、現場で揉め事も起こしたそうじゃないですか。明日には捜索が始まり我らにまで手が及びますよ」


 全員の非難の視線が男爵に集まる。

 先陣の功績は僅かな時で地に落ちた。


「し、しかし、こちらには魔法協会が後ろに付くのですぞ。そうなれば手を出すことは」

「それは我らが王を擁立したあとでしょう。何の力も無いと判断されたらあっさりと手を退かれますよ」

「「「……」」」


 貴族たちはぐうの音も出ない。

 平然と貴族に楯突く魔法協会の傲慢を知っているからだ。


「今夜のうちに王も確保しなければ我らは破滅するしかないというのか」

「ええ、何もせずにいれば」


 伯爵の言葉に貴族たちもゴクリと息をのんだ。まだ自分たちの栄光の日々には道半ばで、さらに後が無いと自覚した。


「しかし、すぐには配下を集められない」

「さすがに兵を登城できないぞ」


 真面目に意見を出し始めても全てが計画前に蹴躓(けつまづ)いていた。


「何を言っているのですか」


 そこにケクラン子爵は不思議そうな顔で入ってくる。


私たち(・・)が王を救いに行くのですよ」


 言われている意味がわからず貴族たちは動きが停止した。


「何を言っている?」

「時間も無い配下も呼べない、ならば我らが行くしかないでしょう」


 ケクラン子爵は今彼らがしなければならない行動なのだが。


「い、いや、どうにかして配下の者を……」

「騎士団の大半は賊を討伐に出払っていますが、さすがに王城の出入りは厳しいですよ」

「では城にいる使用人たちにさせては……」

「曲がりなりにも王の救出に使用人を使うと? それこそ他の家の使用人たちにすぐに密告されて私たちは何も出来ずに終わりますよ」

「今宵でなくても、しっかりと騎士も兵も魔法使いも用意して……」

「ですからそんな時間は無いと言っているのですよ」



 回避する言葉を重ねていこうとするが、ケクラン子爵によって一つ一つ潰されていく。

 彼らは自分で責任とリスクのある行動をしたくないのだ。


「……王の居場所はわかっているのだろうな」


 その中で纏め役だった伯爵がケクラン子爵に沿う質問をしてきた。

 ケクラン子爵はニィと笑う。


「ええ、王が幽閉された区画までの道順、封鎖されている箇所の兵士も金銭でこちら側に取り込んでおります」

「武器が無ければ何かあった時の対処ができないぞ」

「それも向かう途中で騎士団の武具庫に寄るようにしております。こちらも武具庫の見張りを買収してしていますのでご安心を」

「身元は確かなのだろうな」

「前にも言いましたが現政権、王妃を(こころよ)く思わない者は多いのです。逆に手伝いを申し出られて困ったぐらいです」

「……わかった。貴公ら王を救出する準備をするぞ」

「「「っ!」」」


 伯爵の決意した発言に驚愕する貴族たち。


「なんだ私が何だかんだと言って取り止めようとすると思ったのか」


 そんな彼らを見て伯爵は鼻で笑う。


「どう考えても我らに後は無いのだ。早く動かなければ破滅が近づいてくるのならば、早く動けば我らの勝利が確実になるのならば、自ら動くしかなかろう」


 伯爵は決意した顔で立ち上がった。

 纏め役の彼が最初に動いたことで場が動き出した。


「そ、そうだっ! 我らは国政を王の元に戻すという大義で動いているのだ!」

「正道派の旗揚げの初の偉業としていいのではないか」

「私はやるぞっ!」

「私もだっ!」


 今まで口だけ出して、分が悪くなったら逃げてきた彼らが生まれて初めて決断して動き始めた。

 それは自分たちの中で一番危機を察知してうまく対処してきた伯爵を信用したのだ。

 ただ、その伯爵が人生の勝利か敗北かの二択しか思いつかなかったことには気づかなかった。


 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


 日和見主義の貴族たちが決起を決断した同じ頃。

 魔法協会で一番大きい部屋にエルセレウム王国魔法協会会長デコルはいた。

 その隣は副会長のマルティナが待機している。周囲にはデコル子飼いの優秀な魔法使いもいた。


「おいまだなのか」

「もう少しですわ」


 先触れがやって来てからデコルはこの部屋で待っていた。

 そして何度もマルティナに到着したのか聞いているのである。それくらい奴隷のチェルシーをデコルは欲していた。


 デコルは高位の火魔法を使える大魔法使いだと自負していた。

 全てを燃やし尽くす偉大なる火を使いこなし、会長の席まで上り詰めた、とデコルは思い込んでいる。

 なのに数年前に、彼を超える魔法使いが現れた。

 長年、魔法協会の底辺を彷徨(さまよ)っていた人物が、デコルでも出来ない人を一瞬で灰も残さない火力の火の魔法を使えるという。

 デコルはその魔法使いサルマーンを調べた。

 ある奴隷の女を手に入れてからサルマーンの魔法の火力が急激に伸びたのが判明した。女に酒を使って前後不覚にして聞き出したのは、奴隷の女チェルシーが火の魔法を増幅出来るということだった。

 有り得ないとデコルは最初は決めつけた。

 しかし、サルマーンは魔法使いとしての実力を異常な速度で伸ばし続け、認めなければならなかった。

 認めてチェルシーを奪い取ってやろうとデコルは画策したのであった。


 寄こせと言っても己の力の重要な部品を渡すような愚か者はいない。成り上がりの不審死のあとに、その奴隷が手元にいたら会長の横暴の噂が蔓延(はびこ)ってしまう。

 なのでどうしてか情緒が不安定になり始めていたサルマーンに、酒と女と薬が渡るようにした。悪化が進行したところで、雑な奴隷契約書を協会が責任を持つという名目で新しく作り直させる。

 死亡時の奴隷の譲渡を魔法協会にと細かい文字で追加しても気づかれない。

 後はしばらくしてから泥酔させて寒い夜に路上に転がせておこうと季節を待っていた。そうしたら政変が起きてサルマーンは巻き込まれ死亡した。奴隷のチェルシーを道連れに。


「あの時は本当に落胆した。そして死んだ者が生きていると知らされた時ほど嬉しいものは無いと感じたわ」

「それはデコル様がわたくしを信頼して増幅魔法を持つ人物の事を教えてくださっていたおかげです」

「お前に知らせておかなければ国に横取りされるところだったわ」


 チェルシーは生きていた。

 それをデコルに伝えたのはマルティナである。


「これで私は魔法使いの頂点に立つことになる……」


 デコルは己の才が今の地位に相応しいと思っていない。もっと上を! 自分がいていいのは(いただき)なのだと本気で思っていた。


「私が上に上がった時にはマルティナお前にはいい席を用意してやろう」


 デコルは良いながらマルティナのスカートに開いたスリットに手を伸ばして蜘蛛柄白タイツの上から足を撫でる。


「遅いですね。少し見ていきます」

「副会長のお前が行くことはないだろう」

「いえ、手引きをしたのは私なので今回の締めくくりまでは責任を持ちたいのです」


 そう言ってデコルの手から抜け出しマルティナは部屋を出て行った。


「お前らもあのくらい従順(じゅうじゅん)で私の意図を察知出来るようになるのだぞ」


 手持ち無沙汰になったデコルは残っていた子飼いの魔法使いに教育と称したパワハラをし始めた。


 少しも隠さない苛立ちの顔をしてマルティナはハンカチでデコルに触れられた箇所を拭きながら速足で歩いていく。


「ああ、本当に気持ち悪いっ!」


 ケクラン子爵は血気盛んに気合を入れ始めた貴族たちを見て、笑いを(こら)えていた。


「ああ、本当に面白い」


 さて、日和見の貴族たちは誰のせいで追い込まれて動くことになったのか。

 さて、デコルは誰に唆されて暴挙を行ったのか。


 マルティナは人目が無いことをいい事に大声で。

 ケクラン子爵は誰にも聞こえないように小声で。


「それでもあのバカ(・・)をこれから見ないですむからいいわね」

「これでこのバカ(・・)共を見れなくなるのは寂しいなあ」


 ケクラン子爵とその妹、マルティナ=ケクランは別の場所で同じ蛇の様な笑みを顔に浮かべた。


ショタ「なんの実績も無いのに社長になった二、三世がよく会社を潰しますよね」

長兄「なんだ私に言っているのか?」

ショタ「ハイブルク家の理不尽をさばいてきた長兄が盆暗なはすないじゃないですか」


踊らされてます(^_^;)


今さらなのですが、この物語は恋愛を主軸にしてません。ショタのドタバタ劇なのです。

ですから初期の頃に異世界恋愛からコメディーを経て、ハイファンタジーに移行しました。

いやコミックのレビューで恋愛があっさりしてるなみたいなことを書かれていたので、ここで宣言をばしようかなと思いましたm(_ _)m

…またコメディーに戻そうかな(。・ω・。)

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― 新着の感想 ―
ジャンル迷走したのなら、最終的に「人類」が出ていたらとりあえずOKな「ヒューマンドラマ」がありますよ。 ご一考下さい。
恋愛小説だと思っている人のほうが少ないのでは...?まぁ私は恋愛小説だと思ってますよ。これからもショタのドタバタ劇を書いていってください。応援してます。 (恋愛パートもあると嬉しいかも)
登場人物が全員楽しそうで何よりですね。見ているこちらも楽しくなってしまう。数時間後にはほとんどの人物から笑顔が消えるのでしょうけど、今回出てきていない別の人が大笑いするでしょうから問題ないですね
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