いまだ来ず
ふっ!
筆者は予約投稿を思い出したのだ!(*´∀`*)ノ
投稿欲は抑えられないので我慢は一日が限度てすが(-ω-;)
王城には美しい庭園と奇抜な庭園がある。
美しい方は以前からあるもので、奇抜な方は成り上がった王の側妃が成金まる出しのセンスの無さで造園したものだ。
その奇抜なセンスの庭園も、現在まともなセンスのものにたった一人の手によって少しずつ戻されている。
その一人、ジェロイは生まれた時から側妃に命を狙われる可能性があったのじゃ姫を保護した乳母の孫である。
紆余曲折あって庭師の才能があることが判明して、準男爵の爵位を与えられて王城の庭園の修復維持を任されていた。
セルフィル謹製ツナギに輪はさみ、剪定はさみ、刈込はさみ、鋸、脚立など現代日本の庭師並みの道具を使用してコツコツとこなしていた。
そしてジェロイが剪定をしていると、どこからともなくのじゃ姫がやってきた時には遊んでやったりもしていた。
そんなある日、いきなりのじゃ姫がメイドを連れてやって来た。
メイド服に着られ、腰は引け、ブルブル震えて四方を涙目でキョロキョロ見る人物を、可愛い妹分が連れて来たら不審人物だと話を聞くだろう。
「はぁぁぁ、リリィの面倒を見てくれて礼を言う」
「いえ……」
チェルシーは自分の過去とのじゃ姫に何故か連れまわされているむねを答えた。それに深いため息をついてジェロイはチェルシーに頭を下げる。
だって可愛い妹分が振り回している被害者と知ったらお兄ちゃんは謝るしかない。
王城の庭園を任されるジェロイの謝罪に精神余裕がゼロになったチェルシーは緊張も慌てることもせず。気力を使い果たして膝から崩れ落ちた。
ジェロイは慌てて彼女を芝生の上に座らせて、安否を尋ねると彼女は泣き顔で。
「畑を……畑を耕したいんです」
セルフィルが聞いたら●●先生か―っ! とシリアスシーンを崩壊させただろう。
だが聞いた相手はジェロイという青年。妹分の為にちょっと張り切り過ぎたら脱着不可能ベコベコ兜にされパンイチのゼンーラにされた貴重な経験を持つ。それにハイブルク邸で使用人たちに自尊心をポキポキと丁寧に折られて常識人になってしまった彼は素直にチェルシーの要望を受け取って、自分に出来る範囲で叶えようとした結果。
「……本当にこれでいいのか」
「はいっ!」
二人で草取りを黙々と取っていた。
妹分の犠牲者に労働をさせることに困惑しているジェロイを横に、チェルシーは嬉々として雑草を取っていく。
「子供の頃は草むしりをやらされるのが嫌で、逃げて遊んで捕まって怒られてました。でもこんなにも草むしりって楽しいんですね」
「……そうか」
彼女の過去の惨状を知って昔を懐かしむ姿に、ジェロイは気の利いたことを返せる男ではなかった。
「速いな」
「手は覚えているんですね」
チェルシーは丁寧に丁寧に雑草を根から引き抜いていく。
それは彼女が長年してこなかった感覚を思い出していく。雑草の上を掴んだり斜めに雑に抜こうとすれば途中で引きちぎれて根が残ってしまう。根本からしっかり掴んで垂直に絶妙な力加減で抜くのがコツだ。
少しずつ思い出したチェルシーの雑草を抜く手の速度は速くなっていく。
「リリィも草むしりが得意でな」
「え?」
ジェロイは沈黙に耐えられなかった。
「自分で植えた苗が雑草が伸びてくると生育に悪影響が出ると知って、オーガの顔でむしっていた」
「え? 王女……様? え?」
チェルシーは王女が草取りする状況を想像して混乱した。
ジェロイはのじゃ姫リリアーヌのまだ短い人生を軽く説明する。みだりに王女の話をするなんて普通は大問題だ。
『秘匿? 今更じゃないですか。逆に同情心を植え付けて少しでも味方側に傾けさせた方がいいと思いますよ。王族がとかと苦言を呈するなら様子見、足を引っ張ろうとするのなら敵対するとわかるじゃないですか』
『あら、山猿が成長して様変わりした時の嘲っていた者たちが驚くのを見るは面白いわよ』
『人の娘をっ……!』
小悪魔とその義母と王妃が一人は納得していないようだが許可を出したので問題にはならない。というか広めろ広めろと推奨されている。
「王女様が草むしりですか?」
「あの頃は畑も作ったが、それさえも無くなったら雑草も食べられると知ってからは丁寧に根っこまで抜いていたんだ」
リリィとその乳母だった祖母とジェロイで食べた雑草スープは最高に不味くて、そして美味しかった。
畑のものが無くなっても、森で採取すればどうにかなったチェルシーは軽く引いていた。
草むしりがきっかけでジェロイはのじゃ姫リリィのまだ短く太く何度も切れかかった半生を語る。そして自分のことも。
「その中で自分はあせって空回りして人質になって守ろうとしたリリィに逆に助けられてしまってな」
全てがハッピーエンドで終わった時、ジェロイは自分がいない方がもっと早くにリリアーヌは幸せになれたのかもしれないと思った。
そして拉致られセルフィルの前に連れて行かれた。
『はぁ、リリィの傍にいるのに貴方は不適格自分は死んだことにしてくれと、馬鹿です? ああ馬鹿だから人質になりに行ったんですよね。僕が全裸で兜の貴方をどうして屋敷に連れて帰ったと思います? 大人でも身内が急にいなくなったら酷く落ち込むのに、幼いリリィの心が壊れるからですよ。自己犠牲は何一つ選択肢が無くなった時にしてください。というわけで妹分の為に自己犠牲を発揮した兄貴分さん、妹分の為に長生きして犠牲になってもらいましょうか。え? 今の家名を変えたいの? じゃあゼンーラで』
「そして何だかわからないうちに王城の庭師にならされた」
「……運が良かったんですね」
「まあ運が良かったと思った。まあ、セルフィル様にはそれだけじゃないと言われたが」
「?」
ジェロイはセルフィルに言われたことを言わなかった。
人は夢や愛、欲など縋るものが無ければ言葉で心を殺される弱い生物なのだ。
草むしりを楽しそうにしながら目が死んでいる彼女に、愚行でも尽力したからこそ奇跡が手繰り寄せられたのです、と言えばその心を更に追いこむことになるぐらい彼にも理解できていた。
助言も慰めも追い詰められている人に染み込む事は無い。
それにジェロイは他人を助けられるほど余裕のある人物ではない。日本人がテレビで戦争や貧困の国を見て可哀想と同情するだけと同じ、所詮他人事なのだ。
「リリィはどこまで食事を取りに行ったんだろうな」
話を変えるジェロイ。
チェルシーが崩れ落ちた時に、慌てたのじゃ姫はチェルシーがお腹が減ったせいだと勘違いして『ご飯を食べたら元気になるのじゃっ! 取って来るのじゃぁーっ!』と叫びながらどこかに走りさったのだ。
家族に恵まれず腐っていた時期もあって、祖母と妹分ぐらいしか普通に接したことがない兄貴分に重い過去を背負った女性を任せてである。
「ご飯なのじゃっ!」
「リリィ!」
兄貴分、妹分の帰還の声にホッとした顔で振り向いた。
そしてピタリと動きが止まった。
「それはなんだ?」
「のじゃ?」
ジェロイはいつも自分の所に脱走して来る時のように食堂辺りから貰ってくると思っていた。
なのにのじゃ姫は緑の渦巻き柄の大きな布に何かくるんで首前で結んで背中に担いでいた。更に肩に紐を斜め掛けで円柱状の何かを掛けていた。
「セルフィーがお料理をしてたから取ってきたオニギリなのじゃ」
のじゃ姫は近所の家から袋ごと食パンを獲ってきて自慢する飼い猫のように胸を張る。
ジェロイは頭を抱えて呻く。
どうして公爵家の三男が調理していたのかは知らないが、あとで謝罪に行こうと決めた。
のじゃ姫は沈痛な面持ちの兄貴分を放置して、背負った風呂敷を広げる。
中には黒い何かを張り付けた三角形の……まあおにぎりに、黄色い長方形……卵焼きに、茶色いごつごつした……唐揚げと、急ぎでお父さんが作った家族のピクニックのお弁当に見える。
肩掛けに持っていたのは陶器の水筒だ。ねじ込み式の蓋になっていてその上に二つ小さめのカップが被せられていた。
「みんなで食べるのじゃ! 一緒にご飯を食べればチェルシーも元気になるのじゃ!」
「え、こ、ここで一緒にですか?」
チェルシーは顔を引きつらせる。
王女に文字を習うのになんとか慣れた感じになっても、貴族子女の愚痴に疲れて聞き慣れた風になっても、元公爵夫人の迫力に目を合わせないで慣れなくて。
まあ王族と王城の庭師するような人物と同じものを一緒に食べるなんて、彼女には慣れないのであった。
これからチェルシーは恐れ多くて、ジェロイは小悪魔への謝罪と不慣れな女性相手との、のじゃ姫だけ楽しい緊迫感のある芝生の上のお食事会が始まろうとしていた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「セルフィル様」
「なんですかダッシュ君」
「お昼は楽しみにしてとセルフィル様が言ったのに、いつもの料理がパンに挟まれたものなんですが」
「自分はこれも美味しいです」
「スナオ君は良い子ですね。そしてダッシュ君はドラゴンの尾を踏む調子に乗るタイプですか。それはたまには和食を食べたくなった僕が本気で料理していたら、出たんです調理台の端からヌゥーと」
「「ゴクリ」」
「『美味しそうなのじゃぁ~頂戴なのじゃぁ~』と炊けたご飯を丸めている手を妬むようにじぃーと眺める幼女が」
「「王女様じゃないですかっ!」」
「その幼女と交渉して、多忙で帰宅出来ない宰相と大臣たちの分のおにぎりを握らせた分の報酬として僕たちの分を渡しました」
おかげで子供や孫を思い出してすすり泣く声が【統合中枢詰め込み部屋】から聞こえたそうな。
「……待ってください。宰相様たちの分、そんな多く用意したのなら余剰分を用意しないセルフィル様ではないですっ!」
「うーん、文官として成長しているの喜んでいいのか、僕を常に疑うの精神をがっかりすればいいのか迷いますね。まあ余分には用意してましたよ。でも手伝ってくれた城の料理人と」
セルフィルは室内のある場所を指さす。そこにはおにぎりとハイブルク製湯呑で緑茶を飲みながら将棋を指すロンブル翁とエイプ子爵がいた。
「そこのお年寄りを優先に差し上げました」
「人を指さしてジジイ扱いするんじゃねえよ」
「それでも僕たちの分はギリギリあったのですが」
ロンブル翁の異議申し立てを無視して続けるセルフィル。
「なぜかメイド姿のアリシアさんもやって来て手伝ってくれたので、僕たちの分の食べる分を渡しました。今頃は長兄と一緒に食べているでしょうね」
「「……」」
それを聞いたダッシュとスナオはチベットスナギツネのような虚無の顔で、砂を噛むようにセルフィル特製サンドイッチを食べる。
「僕、生まれて初めて人を呪ったかもしれません」
「僕を恨めしい顔で見ているのは恨んでなかったんですね」
「セルフィル様、GSをバルト公爵様のお部屋に飾りませんか」
「長兄は公爵家を存続しないといけませんから、断絶させる危険物は傍に置けませんよ」
セルフィルと爺たちは二人はまだまだ若いなと生暖かい目で見た。
ちなみにGSとは数多の男の弱き部分を粉砕し、過去に王族のせいで死んだ反射率ゼロの幽霊を取り込み、男性が近づくとヒュンッと寒気がする聖なる? 槍である。
これから結婚する公爵の手元に置いておくものではない。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
チェルシーはベッドの上に倒れこむようにダイブしたまま動けずにいた。
「疲れた……」
白いシーツに柔らかく沈む感触は彼女には気持ち良過ぎた。
助けられてからしばらくは身体の回復を優先にと休まさせられていたのが、公爵家の子供に王女、王妃、本能が一番上だと感じた前公爵夫人と会い、振り回されて心身ともに疲れ果ててしまった。
同部屋のマトモハリーは疲れ切った彼女の為に、夕食を取りに部屋から出て行っていっていた。
自分の為に貴族にそんなことをさせるわけにはいかないとチェルシーは動こうとするも精神的に疲労した身体は動かず、マトモハリーは彼女の断りの言葉を受け流して取りに行ったのである。
「……」
チェルシーはぼぉっとどこに焦点を合わせず室内を見る。
疲れたし緊張もした。
「でも楽しかったなぁ」
悲劇も地獄も考える暇が無くて、何年振りかの厭世的な気持ちが無かった。
それは彼女にとって久しぶりの人間として扱われた時間であった。
だからこそ、一人になると過去の記憶が襲い掛かってくる。
どうして村は襲われたの? どうして家族は殺されたの? どうしてあの子は……。炎獄の魔法使いサルマーンの奴隷になってからずっと考えなくても思ってしまう。寝ているときにも悪夢で見てきた。
気が狂いそうな怒りと嘆きは最初の頃だけだった。いや、今でもチェルシーの心の中にはある。
しかし、長期的にその状態が続くことが当たり前になってしまい表面に現れることが無くなってしまった。
失った過去は戻らないし、傷ついたことは今を蝕む。
そしてチェルシーの魔法使いとしての才は、先を磨り潰す。
物音一つしなかった室内に廊下の方からバタバタと複数人が歩く音が響いてきた。
チェルシーには誰かはわからないけれど、わざと靴音を鳴らす人物がどんな性格のタイプかわかっていた。横柄で己を尊大に見せる、自分の元主人であった炎獄の魔法使いサルマーンと同じなのだ。
その足音は彼女が部屋の前で止まった。
「ここか?」
「はいそうです。卑しい癖に王妃付きになったメイドと同じ部屋に出入りするのを見ました」
男が尋ねて、女が答えるのが聞こえてきた。
チェルシーはシーツを強く握りしめる。奴隷時代から理不尽が起こる前に擦り切れた毛布を握り集めたように。
そしてドアが乱暴に開かれ、複数の人がどかどかと室内に入ってきてベッドを取り囲むように陣取った。
騎士が二人に侍女が一人の三人で、上から虫を覗き込むような視線にチェルシーは身体を震わせる。
彼らは魔法協会と手を組もうとしている貴族たちの手の者だ。侍女はマトモハリーたちが自分より優遇されていると嫉妬から居場所まで誘導していた。
「お前がチェルシーか」
「……」
「チェルシーかと聞いているんだっ!」
「っ! そそそ、そうですっ!」
騎士が怒鳴りながらベッドを強く蹴った。
チェルシーの心が動かないのは独りの時だけだ。威圧するような物言いに怖くて辛くて悲しくて、暴力的な行為には植え付けられた恐怖で屈服してしまう。
チェルシーは立てと促されて、のろのろと起きあがった。
逃亡しないようにロープで両手を拘束されたのが、さらに惨めな存在なんだと彼女に思わせる。
ロープを強く引っ張られ廊下に出た。
「そこで何をしているのですか」
悩むショタ「男性特攻最強武器GS…宰相の部屋かな?」
宰相「そんなものを置こうとするなっ!」
今回の三部はいろんなものを詰め込んだけれど、ストーリー上は必要のないものとなっています。
よく奴隷から解放して、これからは幸せになれるさとか言う主人公がいますが、言葉に責任を持ってないなと感じる捻くれた筆者です(´・ω・`)
ですからチェルシーにそんなことを言う人はこの物語にはいません。
マトモハリーもゼンーラも自分が無力だと理解してますし、ヘルママはチート(ショタ)があっても助けません。
無条件で助けるチートヒーローはこの物語にはいないのです。
初めて後書きが真面目かも(´・ω・`)
読者様に推測して楽しんでもらいたいのと、全部バラしたいのとの狭間で全身ゲーミングカラータイツで悶える筆者です(゜∀゜ゞ)









