うつつは在っても掴めない
筆者我慢したよ!
半日!
「これはりぃーなのじゃ」
「りー」
のじゃ姫リリアーヌが線がブレた文字を読みながら書く。
それに隣に座るチェルシーが机に指で同じ文字を書きながら続いて言う。
今の時間はのじゃ姫のお勉強であった。
マトモハリーから簡単なメイドの仕事を教えてもらっていたチェルシー。そこに勉強を嫌がりのじゃ姫が逃亡してきたのである。
すぐに講師をしていた貴族夫人が追いかけてきたが、チェルシーにしがみついて離れなくなり、例外でチェルシーはのじゃ姫のお勉強に参加することになった。
そして彼女は必死にのじゃ姫の書きとる文字に集中していた。テーブルを挟んだ正面の人物と視線を合わせないために。
「ねえ、私これでも多忙なのよ。それなのに子供の相手をさせられるのはおかしいと思わない?」
チェルシーは答えない。
誰かが反応するのを声の主は待っているのだ。
最初『あら、どうしてメイドが王女様の隣に座っているの?』と言われたのでチェルシーは謝罪すると『私は貴女に聞いてないわ』と返された。
もうチェルシーは怖くて顔を向けるのも無理になったのだ。
「王女を制御出来る人物が少ないからでは。あと義理も合わせて子供を四人育てたからでしょう」
「あの子たちは勝手に成長したのよ。それに躾は侍女長が施したの」
「知っています」
「貴方も躾られたものね」
「侍女長にはお世話になりました」
代わりに対応したのは褐色の肌の美青年、執事アレハンドロ。
普段は変態行為で主のショタを悩ませる彼が、ヘルミーナの背後に立っていた。
そう、ハイブルク前公爵夫人がのじゃ姫の講師をしているのである。
元の講師だった貴族夫人は王妃に暇乞いを出した。彼女は優秀な講師であったが、今まで学ぶ子供たちはあくまで親の権力や口答え程度で、全力疾走する足止めに虫を投げつける二階の窓から飛び降りるプチアマゾネスに対応出来なかったのだ。
愚王のせいで政務は出来ても貴族の夫人たちとの交流は疎かだった王妃。信用できる夫人に辞められ、苦渋の決断で王妃は友人のヘルミーナに臨時の講師を任せたのだ。
「まあある程度は目途は立てたからいいけれど、これからはジョデリアも女性の社交に連れて行かないといかないわね」
「その時は私を連れて行かないでください」
「ダメよ。貴方は夫人にも子女にも人気なの熱に浮かれた時に色々と聞き出せるの」
ヘルミーナは嫌そうな顔を隠しもしないアレハンドロの視線を受け流す。
「嫌でもしないといけないのじゃ?」
のじゃ姫が顔を上げヘルミーナに聞いてきた。
どうせ王城でマナーとか教えてもらうのだからと、ある小悪魔が生き残るための技と体力増強を主体に教えたら相性が良かったのかプチアマゾネス化してしまったのじゃ姫。
少し本能のままに行動するようになってしまった。
「そうねぇ。誰だって嫌な事はしなたくないわ。でも逃げていたらいつか役に立つものも学べないのよ。お勉強から逃げ出す貴女みたいにね」
「ふぐぅ」
のじゃ姫は決して勉強が嫌いではない。
しかし、疑問に思ったことを質問しても、それでいいのです覚えてくださいと言われるだけで納得できないのだ。まだ中世の教育は教えるだけの詰め込み方式が主流で、ハイブルク家で疑問は答えは出ずとも一緒に考えた弊害である。
ちなみにそのことでヘルミーナはセルフィルにプチアマゾネス化したのじゃ姫の責任を取らせて、セルフィルに書き取り用に、薄墨で書いたものをなぞる子供用ドリルを絶賛生産させ中である。
のじゃ姫を凹ませているが、何も教えてはいないヘルミーナは講師でありながら教えるのから逃げている。
一応、人生に役に立ちそうなことは言っているけれど、子供ののじゃ姫がどこまで理解できるかは未知数だ。
「逃げてもいい時はあるわ。でも逃げ続けてもいいことは一つも無いのよ」
ヘルミーナの視線がチェルシーに向けられる。
チェルシーはのじゃ姫の書き取りの文字を見てテーブルに指で書いていた。直接自分に声を掛けられるまで気付かないフリをして。
「……そうね、今している文字の書き取りも人の上に立つ王女様は逃げ続けてはいけないものね。いままで逃げてた分もしましょうか」
「のじゃっ!? そそそそれはよーじょぎゃくたいなのじゃっ!」
反応しないチェルシーに興味を失ったように見えたヘルミーナは、すぐにのじゃ姫に標的を向ける。
のじゃ姫は逃亡しようにも物理的に全てで敗北するアレハンドロがヘルミーナの背後に立っていて不可能であった。
「セルフィル様っ!」
王城で一番無駄に豪華な執務室の扉を開けて入ってきたのは、セルフィルに現在進行形でこっそりと肉体改造されているスナオであった。
「どうしました。僕は子供用の書き取り用紙の制作で忙しいんです」
室内にいたセルフィルは顔を上げずに執務机にかじりついていた。
「ヘルミーナ様から」
「聞きたくありません。どうせ理不尽なお願いなんです」
スナオの言葉を遮り耳を塞いで必死の抵抗をみせるセルフィル。
前世から字を書くのが不器用な彼にとって毛筆で奇麗に書くというのは地獄の作業であったのだ。
しかし、ヘルミーナがセルフィルが絶叫しても無視してスナオは無慈悲に告げる。だってハイブルク家ランキング最上位と最下位では話にならないのだ。
「文字の書き取り以外の他のものを作りなさいとのご命令です」
「いやーっ! これ以上は無理ですぅーっ! ……ん、他のもの?」
セルフィルはスナオの言葉を聞いてうーんと考える。
「例えば穴あき計算ドリルとかでしょうか」
「はいっ! 僕がそちらを担当しますっ!」
「子供向けの教育方法がダッシュ君、君にわかるのかな?」
「くっ! うぅぅ。この毛で出来たペンを使って見本になる字を書けって、事務処理よりキツいんですぅぅ」
書く要員として集められ、わざわざ机を用意され手伝わされていたダッシュが手を上げて業務変更を願い出たが即却下された。
ちなみにスナオは別件で呼ばれたのだが、そのままのじゃ姫の教材を持って行く係として使われていた。
「手が足りなくなったので、スナオ君も手伝いましょうか」
「え、いや、自分は字が下手なので」
「騎士も報告書を書くんだからここで練習もかねてしようよ」
「ダッシュ!?」
「王女様が使うものだから緊張感があってすぐに上達するよ」
「巻き込むなよっ!」
「道連れにするよっ!」
「うーん、殺伐とした感じが懐かしいですね」
護衛の爺たちは三人コントの横でセルフィルが作った将棋をしていた。
セルフィルが手伝わせようとしたが、気を遣う書き物などしたら眼精疲労で護衛の役目が出来なくなるとお断りしていた。
後に三人が書いたものは、のじゃ姫が花丸が書かれたのを王妃に自慢して、子供向け教材として世に広まっていくことになるのだが、銅貨一枚も彼らに渡ることはなかった。
相談ショタ「ねえねえ、文字ドリルと数字ドリルの執筆依頼がきてるけどします?」
D&S「「嫌ですつ!」」
ショタ「報酬は結構いいのに」
D&S「「ちょっと確認させてもらえませんか」」
ぶっちゃけ今の王城で暇をしているのは無能な人です。
ヘルママは今まで孤立していた王妃様の代わりに貴族の女性を取りまとめているので超多忙です。なのにのじゃ姫の監視を請け負ったのは…(ΦωΦ)
さて、これから筆者は押すなよ押すなよ投稿ボタンを押すなよの苦行に入ります(・_・)
ご感想、いいね、評価に喜んでも調子にのるなよ筆者(自分)よっ!
そういえば『このライトノベルがすごい!2026』が始まっており、来週火曜締め切りだそうです。
すみっこにでも載らないかな~(・ω・)チラッ









