実験は楽しいよね
コミックス一巻発売日に間に合いませんでしたっ!(ノД`)
エピソード【プロローグ 覇王様は幸せ、ショタはある意味地獄】の最初に数行追加しました。
儂は玉を得た。
これで魔法使いの頂に到達出来るだろう。
だがそれでいいのだろうか。
玉のせいで魔法の神髄を求める気持ちが腐敗していくのが今はわかる。
しかし宝は酒精のように危ぶむ心を麻痺させる。
そして宝は麻薬のように一度使えば止める気持ちが無くしていく。
…………。
あひゃっひゃっひゃっ! 儂がっ! 儂が大魔法使い炎獄のサルマーンじゃっ!
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ジジイ一人をローブパンツマンに仕立て上げた翌日、俺はチェルシーの魔法を見るための場を用意した。
「これからチェルシーさんの魔法実験を行いたいと思います。その前に疑問点があるなら今だけ質問を受け付けます」
言いだしっぺは俺なので取り仕切る。
チェルシーがジジイを見ると怯えてどうにもならないので、代わりにティーポットを持った変態執事アレハンドロが俺の傍に付いている。
そして目の前には当事者のチェルシーとその他が立っていた。その身体はおどおどと挙動不審で、僅かな物音に反応してビクッと反応している。
そんなパニックハムスター状態の彼女の服装に首を傾げる俺。
「ところでどうしてメイド服なのかな?」
俺の疑問にチェルシーの隣にいたカルナが手を上げた。
「今までは私たちの私服を着用してもらっていました。本日は貴き御方たちの前に立つのでドレスを用意したのですが、ご本人が断固拒否をされて」
「むむむ、無理ですぅぅぅっ!」
チェルシーは涙目で首を横に振る。
「時間もなかったので、お目を汚さぬのと彼女がギリギリ着用出来る服がメイド服しかありませんでした」
「うーん、まあいいでしょう。元地方の農民で奴隷だったのにドレスは難易度高いでしょうし」
今もメイド姿のチェルシーは猫背で目が泳ぎ、隣のカルナより後ろに隠れようとじりじりと動いていてはメイド服もあまり似合っていない。
「あ、あのっ! 本当にここでするんですか!?」
チェルシーが思い切って聞いてきた。
「そうですよ」
「ほほほ、他の場所では」
「本人たっての希望なら変更しますよ。でも自分で僕の背後にいる使用許可を出してくれた御方にお断りを入れてくださいね」
チェルシーは視線だけで俺の後ろを見ようとして見れなかった。
秘匿しながら魔法の試し打ち出来る場所で最初に思いついたのはハイブルク邸なんだけど、絶対に侍女長に怒られるので即却下。なので第二王子やら第一王女の助命でほとんど残っていない恩を使い、城の中でも許されなければ貴族でも入れない、王族の私生活の領域にある庭園の使用許可をもらったのである。
その許可を出してくれたのが……。
「わらわが許可を出したのじゃっ!」
「違います。渡す手紙を持って行くのを頼んだだけです。はい、喋ったら罰ゲームと言ってましたよね。文字を十回書き取りするまで戻ってきてはダメです」
「うわーんなのじゃっ!」
俺の邪魔をしないのを約束させて、隣でお口を両の掌で塞いでたのじゃ姫。ちょっと自己主張できそうなタイミングを逃すことが出来なかった。ふっまだ子供だね。
泣き真似しながら彼女が走っていた場所は俺の後方で、そこには優雅にティータイムを楽しむ熟じ……心のオッサンが殺気で頭部埋め直立土下座にっ!? それは逆トーテムポールでは!? ゴホン、優雅にティータイムを楽しむ貴婦人が二人がいた。
ジョデリア王妃。愚王の幽閉、第二王子のおかげでやりたい放題の貴族が大幅に減って、ほぼ唯一の王位継承者の母となった現在の国のトップ。
ヘルミーナ前ハイブルク公爵夫人。前ハイブルク公爵が謎の急病? で退いた後、長兄が継ぐまでの間の公爵家を現状維持どころか発展させて俺にヘルママと呼ばせる女傑。
高位の貴族でも逃げ出しそうなお二人に元農民チェルシーが緊張しないはずがない。
「むむむ、無理ですぅ」
「なら諦めるんですね」
チェルシーは全力で首を横に振った。
俺もあの二人に物申すなんて無理だもの。でも、のじゃ姫は全力疾走で駆け寄って書き取りをし始めたけど。
「一つ教えましょう。考えるだけ無駄です。相手は貴女が思っているほど注目していません。ほら、王女の書き取りを教えることに夢中で、こちらを見向きもしてないです」
「……」
あれ? 私自意識過剰なの? とチェルシーは小首を傾げる。
「ではチェルシーさん。貴女の魔法を見せてもらいますね」
「あ、はいっ」
また二大巨頭を思い出すとパニックになるから、彼女が落ち着いたところに目的を思い出せる。
「その前に軽く質問します。自己申告では貴女の魔法は魔法の威力を増幅させるものでしたね」
「はい」
「う~ん、それはおかしいと僕は考えているんですよ。貴女はどうやって増幅させる魔法だと知ったのですか?」
「それは奴隷だった時に……」
「貴女の所有者だった魔法使いですね」
「はい……」
「今の魔法使いの常識的な知識は教えてもらいましたか?」
「いいえ何も」
「字ぐらいは?」
「その……奴隷でしたので……」
チェルシーは予想していた答えを返してきた。
奴隷に学ばせるなんて余程奇特な奴か、転生して地球の常識かライトノベル感覚の連中ぐらいだ。知識を得て知恵をつけて寝首をかかれてはシャレにならない。奴隷は無知だからこそ奴隷なのだ。
「ふむふむ、魔法使いチェルシーさんは初心者として扱ったようがいいですね。それでは威力……、あー増幅魔法という体なら最初から人の魔法にかけた方がいいのかな? じゃあカルナ頼みましたよ」
「はい!」
カルナが元気に返事を返した。そして俺の背後に鼻高々な顔を送る。
彼女の視線の先には、アリーとセイトが王妃様とヘルママたちの給仕をしていた。その彼女たちにカルナは俺にお仕事を任されたとマウントを送っているのだ。振り向かなくてもアリーとセイトが優雅に仕事をこなしながら殺気をガンガンに飛ばしていて、間にいる俺の後頭部がハゲそうである。
うん、だってねぇ。セイトは伝心魔法で電波みたいなものだから見えないので観測しようがない。アリーの回復魔法は対象者がいないとどうにもならない。それに魔法の何を増幅するのかもわからないから、情報量の増加で脳が破壊されるかもしれないし、回復したら指が一本増えましたとか恐ろしいことになる。
まあ増幅でなく俺の予想通りのものならもっと凄惨なものになると思うので、二人は落選させたのであった。
「ん~確認ですが、貴女の魔法は魔法にかけて増幅するでしょうか、それとも魔法使いの魔力を増幅する感じなのでしょうか」
聞いておかないと大事なメイドが死んじゃうのです。
「あ、それはたぶん魔法にです。あいつは自分の火の魔法に力を注げと言ってましたので火球が出来たらこんなふうに」
こんな風にとチェルシーはセイトの上に両手を向ける。
そういえばグリエダさんの槍エルセレウム号にボヒュッと胸を貫通された炎獄の魔法使い(笑)が火球を掲げるように使っていたな。
「では土が盛り上がり始めたらかけてみてください。その前にアレハンドロ」
「はっ!」
俺に呼ばれたアレハンドロはチェルシーたちから離れた場所に移動した。そこで事前に持っていたティーポットから水を出しながら華麗に弧を描いていく。
チェルシーがその動きに見惚れているけれど、その執事は俺に見せているのだよ。視線が見て見てとこちらをチラチラと見ているし。
無視すると、アレハンドロはしょぼんとしながら残りの水を描かれた円の中に撒いていく。
出来たのは水たまりにもならない、ただ色が濃くなった地面だ。
「カルナは濡れた箇所を中心にお願いします。アレハンドロはそのままで」
泣きそうな顔で戻ってきた変態執事。
まずカルナが濡れた土に手を向けて集中すると、ほどなくして濡れた土部分だけ円柱状に盛り上がってくる。
「なるべく弱めであの水を含んだ箇所を狙って発動してください」
「はい」
俺の言葉にチェルシーは頷くとカルナと同じように手を突き出し、円柱の上部に狙いをつける。
「っ!?」
その瞬間、何かが破裂した音がして、アレハンドロが俺に覆いかぶさってきた。
視界の端に土の円柱の方から白い靄のようなものが流れてくる。
変態執事越しに覗くと、全身が土にまみれて呆然としているチェルシーに、その背中に身を隠して被害を被らなかったカルナがいた。
「あー、やっぱり予想通りというか、予想の斜め上の結果ですね」
土の円柱は上部を爆発したように破壊されていた。
「さてチェルシーさん」
「へ、ひゃひゃいっ!」
いまだに俺を庇う構えを崩さないアレハンドロが彼女に近寄ろうとするのを止めるので、その場で告げる。
「貴女の魔法は魔法の増幅をするような魔法ではありませんね」
「え、でも、だって」
「白い蒸気を出しながら爆発したのでしょう? それのどこに増幅されているんです」
「ま、魔力を込め過ぎたのかも」
「僕は軽くと言いましたよ。嘘を吐いてまで貴方は全力で魔法を行使したんですか?」
「いいえそんなことはっ!」
必死に否定するチェルシー。
「それにもし増幅魔法が爆発を起こすとしてもですね。こんな規模で水を撒いたぐらいで水蒸気を発生させるなんて条件的に厳しいんですよ」
「?」
チェルシーは首を傾げる。
元農民奴隷の彼女に俺の言っていることは一かけらも理解出来ない。いや、超常現象を起こす魔法使いや、平均でも現代地球のトップアスリートを統合したような魔力使いの騎士がいるせいで発展が恐ろしく停滞しているなんちゃって中世では、長兄や極少数のその道を邁進する奇人変人でなんとかわかるぐらいなのだ。
水を撒いたのは彼女の本当の魔法が予測していたものなのか調べるためのものだった。
「チェルシーさん。原理はこれから調べますが、貴女の本当の魔法は熱に関するものです。それも極めて強力である可能性が高いです」
いやティーポット分の水を一瞬で気化させて水蒸気爆発を起こすってどんだけチートなんだよ。
チェルシー「あ、あわわっ」
研究者ショタ「うーむ、面白い実験だ……。ゴホン、さあ!今から24時間観測実験をしましょうか!」
暑さとエアコンで体力が日に日に削られる~(;´Д`)
注意点なんですが、ショタはこの世界の人より圧倒的な知識を持っていますけれど、所詮素人生兵法で間違えも多数あります。筆者も調べてはいますが、間違っていることも書きます。そこはショタの知識不足部分と流して下さい。
てか、完璧な知識を持って異世界転生するってどんだけ転生したいの?と聞きたい(・ω・)
ところで奥さんっ!買いましたっ!?アレよアレ!【ハイブルク家三男は小悪魔ショタですコミックス一巻】!(ΦωΦ)
原作者は発売日当日に、車で往復一時間越えで書店にいって無くて、失意のうちに軽く熱中症になりました。流石辺境の地に格差社会がぁーっ!(ノД`)
体調すぐれぬままAmazonでポチッとしましたよ四冊!あと一冊は書店で買うんだ!(フラグ立て)
皆様もどうかご購入の検討を!感想欄で教えていただけたら、筆者謹製具視マッチョ赤フンが御神輿担いで貴方の夢に出るように、熱々マンホールの上で雨乞い踊りをいたします。え?続きを書けと?(´・ω・`)
ハハハハ、昼間に踊り真夜中に書くのですよ(*´∀`*)ノ
ちなみに筆者好きな一コマは、一番最後の怒髪天の侍女長です(*´ω`*)









